なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「わぁ、ホントに涼し~い、極楽だよ~う……」
「……涼しいのはいいんですがぁ~……なぁんで現在の設定温度とか見れねぇんだよ、こいつ。舐めてんのかぁ~?」
「まぁまぁ。一応補足しとくと、結構古い時期のひみつ道具だからね、これ。*1『なりきりアイテム』である以上は、追加機能とか増やせないだろうし」
「そういう意味でも使い方には注意、ってわけなんだね……」
外に再び飛び出した私達は、『腕クーラー』の力によって暑さに打ち勝つことに成功していた。……いや、正確には打ち勝ったとは言い辛いかもしれないが。涼しさを持ち歩いているようなものなのだし。
ともあれ、これでようやく目的地に向かうことができる。
新秩序互助会から技術提供を受けて作られた『ごまかしバッジ』(命名・琥珀さん)の効果によって、周囲から
ゆえに悠々と歩き始めた私達なのであったが……それでもまぁ、さっきから言っている通りに『腕クーラー』には要注意、なのであった。
そもそもの話、『腕クーラー』はアニメにもなっていない、かなりマイナーかつ古いひみつ道具である。
使っているのがのび太ではない、という辺りも珍しい道具であるし……詳しい設定が不明、という点でも珍しい道具だと言えるだろう。
それは裏を返せば、使い方はかなり探り探りになるということでもある。
道具の使い方をミスって凍るというのは、ドラえもんにおける『涼しさ』関連のひみつ道具のお決まりのオチの一つだが。*2
それにしたって、段階的に涼しく・もしくは寒くなっていく道具で凍ってしまう、ということ自体がわりと異常だと言えるだろう。*3
なので、細心の注意を払いつつ、高度な柔軟性をうんたらかんたら。
「はいはい、キーアさんも心配するのはそれくらいにしましょう。今回の外出は長丁場、変に根を詰めていると早々にバテてしまいますよ?」*4
「ぬぅ、それもそうか……ところではるかさん」
「はい?なんでしょうか」
「ある程度の違和感はごまかせているとはいえ、流石に猫相手に話し掛けていれば目立ちますよ?」
「……そういえばそうでしたね……」
なんて風に注意喚起を繰り返し呟いていると、はるかさんから逆に注意されてしまったのだった。……古巣からの依頼だからなのか、はるかさんもどことなく張り切っている気がするような?
とはいえ、どこか抜けている感があるのもまた彼女の特徴。
他の面々が、あくまでも前を向いたままにこちらへ声を掛けていたのに対し、彼女は現在
件の『ごまかしバッジ』はあくまでも『創作のキャラであることを意識させない』ことに重きを置いた道具であるため、単純に変な行動をしていれば目立つのだ。
……というようなことを注意し返したところ、彼女はほんのりと頬を染め、いそいそと元の位置に戻っていく。
若干とぼとぼ、といった感じの歩き方になった彼女の肩を、ココアちゃんがぽんぽんと慰めるように叩いているのが、やけに目に染みる正午の一時なのであった……。
「にしても……なんというか、みんな暑そうですね」
「まぁ、実際暑いわけだしぃ~?」
人の波……というには少し疎らなそれの間を縫うように進みながら、榊君が周囲を見回しつつそうぼやく。
ここいらの現在気温は三十七度、まずまともに立っていられないような熱気となっている。
そのため、街を行き交う人々も帽子やフードを目深に被り、日光に直接当たらないようにしながら先を急いでいるのだった。……まぁ、あまりに急ぎすぎると、それはそれで熱風に当たって暑くなるからか、速すぎず遅すぎずという、なんとも微妙な速度を維持している人もそれなりに見えたが。
「……もしこれで
「……マスク?なんでまた唐突にマスク?」
そんな中、ポツリとサイトが呟いたのは『こんな炎天下だと、マスクなんてしてたらそれだけで死にそうだよな』という話。
あまりにも唐突な話題に、思わずみんなが首を傾げている。
だってマスクと言えば、日本では
この夏真っ盛りの環境で、マスクをしなければならないという状況がイメージできないのである。
そんな風に皆が首を捻っていると、サイトはハッとした表情を浮かべたあと、小さく頭を振った。
「……悪ぃ、暑さで頭が茹だってたみてぇだ」
「はぁ、じゃあちょっと休憩する?クーラー使ってても熱中症にはなる……って話聞いたことあるし」*6
「いや、その必要はねぇよ。ちょっと立ちくらみがしたようなもんだ、途中でスポドリでも買えばそれで済むだろうよ」
「……まぁ、問題ないならいいけど」
不自然な形で話題を切り上げるサイトの姿に、皆が顔を見合わせるが。
その後、彼が『真夏のマスク』という話題を口にすることは無かったのだった。
「おおっと、駅の中は冷房効いてるだろうし、一回『腕クーラー』は外した方がいいかも?」
「外気を調整してるってよりは、体感温度をマイナスするって感じの道具だから、外が冷えると俺達はもっと冷えるかも……ってことだよね?」
「そうそう、そういうこと」
駅にたどり着いた私達は、『腕クーラー』の原理が『体感気温を下げる』モノ──周囲を特定の温度にするものではなく、外気との相対気温を下げるモノだと仮定し、一度その使用を取り止めることに。
私は使ってない(猫スーツに空調機能が付いているため)が、だからこそ
……いやまぁ、本当の『腕クーラー』なら、持ち主に接触している人も温度調整の対象である、という可能性もなくはないが。*7
ともあれ、効果を切るには腕から取り外すのが手っ取り早い……ということで、駅の玄関口で腕クーラーを外していく榊君達。
外したそれらは、各々で管理して貰おうかとも思ったのだが……。
「高いんだろ、これ。じゃあキーアが保管しといてくれよ」
「私が?……いやまぁ、これくらいなら虚空に保管しとけばどうにかなるけど」
ん、とばかりにサイトから差し出された腕クーラーを、虚空にゲートを開いて別空間に保管する私。……最初に腕クーラーを取り出した時の空間に、図らずしも再びしまい込む形となる。
それを見た他の面々も、次々に私に腕クーラーを差し出してくる。……うぬぅ、迂闊に高いとか口を滑らせた弊害か……。
ともあれ、特に労力がいるわけでもない。
現在の私は確かに妖精サイズだが、キリアからは離れた場所に居るため、能力を使うことには然したる支障はないのだ。
……まぁ、一番安定している
そんな感じにぶつくさ言いつつ、みんなの腕クーラーをしまい込んだ私と、それを確認して再び歩き始めるみんな。
目的地に行くための電車は到着までにもう少し掛かるようだったので、そのまま駅構内のコンビニにぞろぞろと突入していくのだが……。
「……いやまぁ、そりゃそうだよな。ペットは禁止だよな……」
「ううー!キーアちゃんは大人しいんだよー!」
「幾ら大人しかったとしても、キャリーに入ってもいないのはそりゃ断られるよね、っていうか」
「我はペットではないわ!」
駅に入るまでは良かったのだが、流石に食べ物も扱うような場所に入るには、私達ペットに見える組は許可が下りないようで。
仕方ないので、私達を乗せていたココアちゃんと榊君は外で待機である。
……なんかすっかり私達のことを、ペット扱いしているような気がしないでもないココアちゃんに苦笑しつつ、周囲に視線を巡らせれば。
ココアちゃんの麦わら帽子の上に私が乗っかっているからなのか、周りの人がひそひそとこちらを見ながら会話をしているのが見えた。……まぁ、ごまかしフィルターオンで見るのであれば、『美少女が頭に猫を乗っけている』となるわけなので、仕方ないと言えば仕方ないのだけど。
それだけならまだ、周囲から声を掛けられたりもしたのだろうが。その隣には『肩に猫を乗せた美少年』、もとい肩にズァーク君を乗せた榊君が居るわけである。
ともすれば美男美女カップルなわけで、周囲は畏れ多く話し掛けるも困難……みたいなことになっているようだった。
「ええっと、確か……創作物としての違和感は消せるけど、顔の美醜までとなると労力が掛かりすぎるんだっけ?」
「うむ、そこまでどうにかしようとすると、少なくともこのバッジ大の大きさにするのは無理って感じ。実現しようとすると成人男性くらいの大きさの装置になるとか」
「そ、それは現実的じゃないね……」
周囲のひそひそ話を聞きながら、こちらもひそひそ話をする私達。
そんな異様な光景は、他の面々がコンビニから出てくるまで続くのだった……。