なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「わーん、もー!!見失っちゃったー!!」
「うーんなんとも素早い……あれ、でもこれって、物理的に走ってったってことは、幽霊ではない……?」
「幽霊じゃなくても、妖怪とかって線もあるし。……そこら辺、わりと分けずに語る人も多いよね」*1
慌てて謎の影を追い掛けた私達であったが、相手の逃げ足が予想以上に速く、その姿を見失ってしまう。
まぁ、森の中なので遮蔽物が多く、目標を視認し辛い状態だったこともマイナスに影響した……といった感じではあるだろうが。
生憎と相手の全貌を捉えられたわけでもないので、なにかしらの手段で追跡する、というのも難しい。
サイトからは『なんかこう、相手をダウジングー的なことできるんじゃないのー?』*2みたいな視線を向けられているが、生憎とこのスモールサイズボディーでは無理なものは無理なのです、はい。
「えー?ちょっとキーアちゅわぁ~ん、イケてないんじゃなーい?」*3
「……サイトは元に戻りたいのか戻りたくないのか、どっちなの?馴染みすぎでしょ色々と」
「おおっと失礼失礼。どうにもこの姿だと煽りグセが出てくるっていうか」
「原作のルイズさんと鉢合わせたら、凄いことになりそうだね、それ」
主に
……というようなことを榊君から言われ、小さく苦笑を浮かべるサイトである。まぁ、こっちでの
ともあれ、雑談を中断し、改めて周囲を見渡す私達。
森の中を慌てて駆け抜けて来たせいか、辺りに見えるのは代わり映えのしない、似たような形の木々ばかり。……一瞬迷ってしまったかな、と慌てそうになるものの、よくよく考えればここは
「え、スマホ?……いや、持ってないよ、俺。単純な連絡とかなら、デュエルディスクがあれば賄えるし」
「……そういえば俺も持ってねぇな。なんでかは知らないが、スマホを持ち出そうって気分にもならなかったっていうか……あれか、もしかしてこれがデュエリストになった弊害、ってやつなのか……?」
「え、ええー……えっと、ココアちゃんは?」
「え、私?えっと、私のはスマホじゃなくてガラケーだから……」*6
「あ、そうだホントだ!?ココアちゃんってばガラケーユーザーだった!?」
なんとまぁ、デュエリスト二人からはスマホを持ってない、との返答が。しかもその理由は『デュエルディスクである程度賄えるから』というもの。……下手に高性能なのが仇になったか!
そして厳密にはデュエリストではないココアちゃんはと言えば、そもそもスマホユーザーではないとの答えが。……そういえば『ごちうさ』本編でも、折り畳み式のガラケー使ってましたね!
思わず『0言0́*)<ヴェアアアアアアアア』と叫び合う羽目になってしまった私達。よもやこんなところで遭難か?と絶望し掛けていたところ。
「いやその、キーアさん?それからココアも。別にガラケーでも、現在地の確認はできますよ?」
「「……ゑ?」」
「ガラケーを昔の世代の遺物、とでも思っているのかも知れませんが*7……ココアのそれは恐らく二千十年製のもの。GPSの原理自体は千九百八十年代には生まれていますから、スマホであれガラケーであれ、搭載していない方が珍しいと思いますよ?」
「「……あー、その、えーと」」
「大方『GPS』機能は送受信──見守り機能などの存在から、その位置を
「「あ、あははは……面目ない……」」
息を切らしながら現れたはるかさんに、悉く自分達の勘違いを
「汗顔の至り*9って、こういうことを言うんだろうね……」
「うー、お姉ちゃんに情けないところ見せちゃった……」
はるかさんのツッコミにより、思わず顔を真っ赤に染めながら、逃げるように近場の喫茶店に突入する羽目になった私(とココアちゃん)。
なお、今の私とズァーク君は見た目が猫だから、なにかしら咎められるかと思っていたのだが……都合のよいことにそこはペット同伴可な店舗だったため、特に疑問に思われることもなく私達は席に着くことができたのだった。
で、その座席に腰を下ろしたあと、私とココアちゃんは揃って頭を抱えていた、というわけなのであります。……変な勘違いをしていたため、マジで恥ずかしいというか。
まぁ、そんな空気も注文した品が届く頃には、すっかりと霧散していたわけなのですが。いつまでもくよくよするの良くないって、ロケット団も言ってるしね!*10
「なんでロケット団?……ってああ、今キーアさん猫だからか……」
「それとココアちゃんの声繋がり(変則型)もあるね」
「あ?声繋がり……って、わかり辛ぇなその繋がり?!」
「えっと、私別に美少年好きじゃないよー?」
「美少女は?」
「……否定できないかも」
なお、なんでロケット団?……というツッコミには、
ついでにココアちゃんからちょっと抗議めいた言葉が飛んできたが、美少年はともかく美少女に関しては微妙では?……と返すとむむむ、という唸り声に変化したことをお伝えしておきます。……あくまでもそう解釈できる、ってだけで本当に美少女好き、ってわけではないだろうけどね。お姉ちゃんぶりたい、ってところの方が大きそうだし。
まぁ、ココアちゃんがチノちゃん大好き、という話は横に置いとくとして。
頼んでいたソーダフロートを、ココアちゃんがスプーンで掬って食べている姿を横目にしつつ、これからどうするかを思案する私である。
「実際どうする?もう一回森に戻って、しらみ潰しに探してみる?」
「うーん、人数的に取り零しが出そうだし、あんまり有効な手とは思えないかなぁ……」
「モンスターを召喚して戦力にする、っていうのは?」
「俺達に取れる手段としては最良だと思うけど……それ、周りに人が居ないこと前提だよね?」
「あー、基本的に人は居なさそうだったけど、まったく居ないってわけでもなさそうだったしねぇ……」
一先ずの議題としては、先ほどの森に戻るかどうか。
……なのだが、あそこは意外と広いため、ここに居る面々では探しきれない場所が出る……という点でメンバーからは渋い顔。
あの逃げ足の速さを見るに、出来ればしっかり囲んでおきたいわけだが、そうすると一度に探せる範囲が狭まってしまう。
そうなるとこちらの索敵範囲の外に潜み続ける、という手を取られる可能性もまた高まってしまうため、ほぼいたちごっこの様相を呈してしまうわけである。
相手の足がもう少し遅いのなら、狭い範囲に固まっていてもどうにかなるかもしれないが……森の中で相対するという前提から考えるに、こちらは面制圧を行う他ないわけで。
それは池の底をさらう時のようなもの。網目が細かい方が魚を逃がさないが、その細かさを
なので、網を広げるためにモンスターを使うのはどうか、という話になるのだが……そっちもそっちで微妙な反応。
と、言うのも、あの時の樹海と違い、ここは普通の──なんの変哲もない普通の森なのである。
市民に普通に解放されている場所であり、人の目を排除することは難しい。
幽霊が出た、という噂が流れているため、普段よりは人の往来も減ってはいるのだろうが……それでも、物好きな人間が近寄ってくる可能性については否定しきれない。
つまり、モンスターを召喚などしていれば、かつそれを
それは『そのモンスターこそが、幽霊やそれに準じる存在である』という誤解を生む可能性が非常に高くなる、ということでもあるわけで。
そりゃまぁ、どちらかと言えば否定的な反応が返ってくる、というのも仕方のない話なのでありましたとさ。
まぁ、そうなってくるとここは放置せざるをえない、なんて本末転倒な結論が持ち上がってくるため、ちょっと困ってしまうわけなのだが。……素直に郷とか互助会の方から、応援を送って貰うように要請すべきかとも思うのだが……。
「……現状あれが犯人、ないし参考人であるという確証もないのがねー……」
「ああなるほど、そもそも現状が網を広げた結果だから、その網目を細かくするには
「そーいうことー」
ここで引っ掛かってくるのが、そもそも私達自体が臨時の捜索者である、という点。……要するに、増員を期待する余地がないのである。というか、下手するとここと似たような状況になっている場所、他にもあるかもしれないわけで。
そうなれば、さっきの
で、そんなことはどこの責任者も把握済み。
……結果として、今の人員でどうにかしろ、というブラック企業みたいな要請が飛んでくることになるのだった。……世知辛ぇ……。
「むー、私が増えられたら一番……かと思ったけど、それはそれで他人に見付かったら変な噂になるしなぁ」
「姿をごまかすと言っても、別に他人の姿に見せているわけでもありませんしね」
無理をして私が手数を補う、という手もないではないが、『ごまかしバッジ』は姿の違和感をごまかすモノであって、
効果範囲が違うため、もし他人に見付かってしまった時には、自分でどうにかごまかさなければいけない……ということになる。
そもそも巨大化自体が無理をしているので、そこから更に記憶操作までとなると、手が回らない可能性が高い。
ならばはるかさんに、いつぞやかの『人避けの札』でも使って貰えば、と思うものの……あれは配備数が少ないモノらしく、現在正規の人員とは数えられていないはるかさんは持っていない、という返答が。
こうなると手詰まりとしか言い様がなく。
私達はむむむと唸りながら、無為に時間を過ごす羽目になるのだった……。