なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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レディース、エーンド、ジェントルメーン!

「うーん、ここでうだうだしていても仕方ないし、とりあえず森の方に戻らない?結局、今のところ手掛かりになりそうなのって、あの足の速い誰かくらいしかないわけだし」

「あー、榊の言う通りか。ここにいても涼しい、ってことくらいしかメリットはねぇしな」

「そだねぇー……じゃあ、また『雪女』ちゃん召喚する?」

「いや、俺にちょっと考えがあるから、召喚については置いとこう。代わりに、キーアさん」

「ん?……ああ、腕クーラーね。森の前まで行ったらでいい?」

「ああ、それで大丈夫」

 

 

 結局、特に良い案も思い浮かばないまま、店を出ることになった私達。

 なお、これには『そろそろ周囲からの視線が気になり始めたから』という面もあったりする。……いやまぁ、容姿がごまかせても奇妙な行動まではごまかせない……みたいなこと、ずっと言ってきてるからわかるとは思うのだが。

 

 まぁうん、私達ってば()()()()()()()()()()()()()、にしか見えないわけでね?

 例えペット同伴可の場所と言えど、絶えず話し掛けてれば流石に『なんだこいつら』的な視線は避けられないわけでね?しかも真面目な顔で、だし。*1

 

 ──琥珀さん謹製の『ごまかしバッジ』は、主に()()()()()()効果を持つもの。

 対象からの興味を失せさせ、目の前にあるモノに注視させないようにすることで、そこにある違和感に()()()()()()()()()()()道具である。

 なにが言いたいかというと、要するに見詰め合うと素直に*2……もとい、見詰められ過ぎると効果が薄れるのである。

 

 これが意外な盲点、というやつで。

 基本的に私達は目的地にすぐに向かうなり、個室で話をするなりなど、()()()()()()()()()()()()ということはほとんどしてこなかった。

 精々が去年の夏、浜辺で無邪気に遊んでいた時が該当するくらいのものであり、それにしたってごまかし担当はBBちゃんである。

 

 それ以外は──喫茶店で駄弁るというのも、郷内部の店の中で……ということが基本だったし、電車の中でであれこれとする羽目になったバレンタインの時も、場所そのものが特別なパターンなので注視云々の話ではなかった……という感じに、人の目のあるところでなにか奇妙な行動を取った、という機会自体がとても少なかったのである。

 

 琥珀さんの道具は、今まで得られた観測結果などを元にして作られたもの。すなわち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その結果、BBちゃんのごまかし力が()()()()()()()()()()ということに気付かず、周囲の視線を散らすだけでごまかしとしては十分だろう、と結論付けてしまったというわけなのである。……いやまぁ、姿のごまかしについても効果に含まれている以上、普通に使う分にはそれで十分だったから、問題点に気付く機会がなかった……ってところもあるんだろうけど。

 

 ちょっと長くなったけど、姿()()()なのはごまかせても()()()()なのはごまかせないため、そこから芋づる式に他の違和感に言及される可能性がある……という問題点については、なんとなく理解して貰えたと思う。

 その結果、私達は半ば追われるようにして店から出ていく必要があった……というわけなのでありました。

 

 

「まぁ、これに関しては次回のアップデートで解消されているでしょうが」

「うーん研究者の鑑。それと敵とかじゃなくて良かったなー、って感じですかね?」

「元々は敵みたいなものだったんだよなー……」

 

 

 サイトの言葉に、遠い目をしながら返す私。

 どこか遠くからくしゃみが聞こえたような気がしたが、そのまま森へと向かうことを優先してスルーするのだった……。

 

 

 

 

 

 

「で、どうするの榊君?森に着いちゃったけど」

「まぁまぁ。とりあえず、腕クーラーを装備して中に入ろう。話はそれからだ」

 

 

 特に支障もなく、森の入り口にたどり着いた私達。

 こちらの質問を彼は身振り手振りで留め、そのまま森の中に入るように促してくる。

 具体的な方策が出てこないことに、他の面々が微妙な顔をしているが……中に入ること自体には特に否定意見があるわけでもなく、渋々ながら腕クーラーを受け取って、中に進んでいく。

 榊君はそれらの一番最後尾に陣取り*3、こちらを奥へ奥へと急かしてくるのだった。

 

 そうしてたどり着いたのは、森の中の少し開けた場所。

 木々達が作る緑の天井が、くり貫かれたようにそこだけぽっかりと空いており、空からは太陽の日差しが燦々と降ってきている。

 立ち止まっていると汗だくになりそうな環境に、思わずげんなりとしていると。

 

 

「まぁ、ここがいいかな」

 

 

 最後尾に居たはずの榊君がそう呟きながら、広場の中心へと歩いていく。……なにをする気なのだろう?とこちらが小さく首を捻っていると。

 

 

「レディース・エーンド・ジェントルメーン!!!」

「ぬおっ!?」

 

 

 中心に立った彼は、周囲へ向けて恭しく礼をしたかと思うと、そのまま辺りに響く声で()()()()()()()()()()()()のである。

 

 これにはみんなが驚愕し、思わず彼に視線を集めてしまう。

 さっき散々目立つの良くない、みたいな話をしたというのに、なにしてんのこの人!?……といった感じの視線だ。

 が、それを受けても榊君の勢いは止まらない。

 寧ろ加速していくかのように、彼のテンションは跳ね上がっていく。

 

 

「本日は私のショーをご覧頂き、まことにありがとうございます!さて、これからお見せ致しますのは、世にも不思議な光のカーニバル!」

「え、ちょっ、人!人居るってばー!」

 

 

 大仰な仕草で衆目を引く彼は、森の中に居た他の一般人達からも視線を向けられ始めている。

 つまり、『ごまかしバッジ』の効果が切れ掛かっているわけなのだが……その顔には焦りもなければ、恐れすらない。

 ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()とでも言わんばかりの笑みを見せ……、

 

 

「──ああ、なるほど。確かに、それなら止める必要はないかな」

「ああん?いきなりなに言ってんだキーア?暑さで頭がやられたかぁ?」

「そんなわけないでしょ。……彼のやり方なら、()()()()()()()()()()()()って言ってんのよ」

「あん?……ってああっ、もしかして!?」

 

 

 そこで彼がなにをしようとしていたのかに気付いた私は、確かにその方法なら衆目を気にする必要はない……どころか、寧ろ集めることにこそ意味があるのだと納得する。

 なんのこっちゃ、とでも言いたげな様子だったサイトは、彼の言動が()()()()()()()()()を理解して、得心したとばかりに声をあげた。

 

 ──そう、榊君は生粋のエンターテイナーであり、そのスタイルは魔術師……すなわちマジシャンのそれである。

 

 マジックという言葉が魔術と奇術、二つの訳語を持つように、マジシャンの行うそれ(マジック)()()()()()()()()()()()()()()()()()()*4

 すなわち、彼があのスタイルを──魔術師としてのあり方を続ける限り、例え見た目がどこかで目にしたことのある(榊遊矢の)ものであったとしても、そういう格好のマジシャンである……という形で受け入れられてしまうのである。

 

 そもそもに榊遊矢が魔術師(マジシャン)型のエンターテイナーである以上、言動や姿を正確に認識されたところで、それを本物であると思われることはない。()()姿()()()()()()()()()()()()()()()という認識が優先されるのだ。

 ゆえに、周囲からの視線は違和感に対しての疑念ではなく、コスプレ少年のマジックショーを見ようというモノにしかなりえない。ちょっとした噂は立つかもしれないが、それで終わり。

 ──つまり、この状況でなら()()()()()()()()()()のである。

 

 

「それではまず、優秀なアシスタント達を呼ぶことに致しましょう!──手札から速攻魔法、『カバカーニバル』を発動!これにより、私のフィールド上にはカバトークンが三体、煙の向こうより忽然と姿を現します!」*5

 

 

 榊君は悠然と手札からカードを一枚抜き出し、それをディスクにセットする。

 同時に彼の周囲に現れるのは、サンバの衣装を身に纏った三体のカバ達。華麗に躍りながら彼の周囲を回っている彼女達の姿に、一般人達は何事かと驚きながらも、それを恐れたり気味悪がったりすることはしなかった。

 

 マジシャンはオカルトめいたことをしでかしながら、それでいて周囲から排斥されない存在である。

 それは、全てのマジックには種があるから、という前提があるからだが……ゆえにこそ、突然現れたカバ達も、周囲からは()()()()()()()()()()()()()()程度の認識で流される。

 なにを起こしても、()()()()()()()で言い逃れできるこの状況……足りない手数を補うには、持ってこいの状況だと言うわけだ。

 

 

「では、そこの可愛らしいお嬢さん。こちらを」

「え?……あ、なるほど。えっと、マジック(マジック)カード『超カバカーニバル』を、発動!」*6

 

 

 そうして巻き込まれたココアちゃんは、彼がなにをしたいのかを遅蒔きに理解。手渡されたカードを彼のディスクに差し込み、その効果を発動させる。

 

 

「このカードは、私の手札・デッキ・墓地から、相棒たるあのカードを呼び寄せるもの!それでは皆さん、ご一緒に!──来い、『EMディスカバー・ヒッポ』!」

 

 

 更に呼び出されたのは、アニメにて榊君が乗り回していたカバ、『ディスカバー・ヒッポ』。これにより素早い足を用意した、というわけだが……それだけでは終わらない。

 

 

「更に、ヒッポの特殊召喚に成功したあと!私は自身のフィールド上に、()()()()()カバトークンを特殊召喚することができる!──さて問題です、この場合の可能な限り、とはどれくらいの量になるでしょうか?」

 

 

 続く効果は、更なるカバトークンの召喚。

 しかし、それは実際のデュエルならほぼ意味のない行為。なにせ先に『カバカーニバル』によって、自身のフィールド上にはカバトークンが三体特殊召喚されている。

 

 そこにヒッポが加わっている以上、フィールドの空きは一ヶ所しかない。ゆえに召喚できるのは残り一体。しかもこのカバトークン、フィールドにある限りエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない縛りまで付いている。

 つまり、リンク素材にして場所を空ける、ということもできないはずなのだ。

 

 だがしかし、これはデュエルではなくステージ、それもマジックのステージである。──ならば、()()()()()とは。

 

 

「正解は、視界を埋め尽くすほど!さぁ、カバ達の躍りをどうぞご笑覧下さい!──カバトークンを、可能な限り特殊召喚!!」

 

 

 ──それこそ、無数に。

 デュエルディスクの効果により、実体を持って発生するカバ達。

 

 されど観客はこれをマジックだと思っているから、実体があることに疑問を抱かず。ただ、歓声をあげてそれを眺めている。

 あとは、森を埋め尽くすほどにカバ達を特殊召喚するだけ。……まぁ実は、本当に無尽蔵なわけではなく、他のデュエリスト達のフィールドも自分フィールド扱いしている、というだけなのだが。

 それでも無数のカバ達が飛び出してくる姿は壮観の一言、そして観客(一般人)達がそれに夢中になっている間に……。

 

 

「──見つけた!みんな、あっちだ!」

 

 

 カバ達は混乱し飛び出してきた影を見付け、こちらに知らせてくれるのだった。

 

 

*1
動物達は意外と人の言葉を理解している、という話があるが、それにしたって『真面目な顔で話し続ける』姿が肯定される理由になるとは言えないだろう。まぁ、猫なで声で話し続けていても肯定はされないだろうが

*2
サザンオールスターズの楽曲『TSUNAMI』の歌詞から。素直にできないのはおしゃべり

*3
元々は『陣地として場所を取る』の意。そこから、特定の位置に居座る、という意味としても使われるようになった

*4
かつて魔術と呼ばれた奇術は、されど種がある──なんら不思議なものではない技術である。できることを組み合わせて()()()()()()()()()()()()()()()()()()技術なので、見た目はオカルトめいていても原理にはオカルトはないのである。少なくとも、現代でマジシャンを名乗る以上は基本的に『凄まじいまでの技量の持ち主』という評価が正確なのは確か、という話

*5
遊☆戯☆王OCGのカードの一枚。自身のフィールド上に『攻撃を自身に限定する』カバトークンを三体特殊召喚する。カバトークンは共通して『リリースできない』効果、『このトークンが場にある限り、自身のEXデッキからの特殊召喚を封じる』効果を持つ。詳しい説明はwikiに譲るが、見た目がかなり特徴的

*6
こちらは『EMディスカバー・ヒッポ』を呼び込みつつ、カバトークンを可能な限り特殊召喚する効果。カバトークンの制限は共通なので、基本的には壁運用となる

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