なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……これ、結局のところ『逆憑依』ってことでいいんだよね?」
「まぁ、姿がナルトのそれに変わっていやがるし、知識や口調についてもそっちがベースになっているみてぇだし……さっきのタイミングで『逆憑依』された、ってことでいいんじゃねぇのか?」
相変わらずガツガツと、スパゲッティやらハンバーグやらを胃の中に納めていくナルト君に、半ば唖然としたような視線を向けつつ。
私達は彼の正体について、あれこれと考察を重ねている最中なのであった。
その姿形が『
先ほどまでは『ちょっと違うんじゃね?』みたいな結論を出そうとしていたにも関わらず、随分と二転三転する話だが……まぁ、最終的には結果が全てと言うやつである。
だかしかし、彼の正体が『逆憑依』なのだとしても、それで解決しない点というのは幾つか存在する。
まず、彼の中に入った狐の幽霊と、彼が聞いたという謎の声について。
前者についてはそれが【兆し】だったと解釈するのであれば、一応の筋は通るのだが……後者については意味がわからない。『逆憑依』は基本的に
私が彼をナルト君だと思ったのも、積み重ねられた情報がフラグとなったがため。
そうでなければ、私の認識はいつまで経っても『単なる狐憑きの少年』で止まっていたことだろう。
周囲から忌避される、その体に狐を宿した少年……という事実だけでは、それをイコールナルト君だとする論拠には至らない。
そう、そこで私が彼とナルト君を結び付けたことにすら、かの声の影響があるのだ。……すなわち、この事態そのものが
仮にこの推論に問題があるとすれば──それは誰が仕組んだのか、ということだろうか?
それから、ナルト君の元となった少年についても、幾つか不明点が残る。
ここにいるナルト君は、確かにあの少年
それどころか、少年としての記憶も断片的にしか思い出せない、と言い出す始末。
一応、自身が肝試しに行った帰り、狐に憑かれたのだというようなことは覚えていたようだが……思い出せてもそのくらいのもの。
自身の家族や、名前や年齢。それから、自身がどこに住んでいたのかだとか。……そういった少年に紐付くパーソナリティというものは、そのほとんどが思い出せなくなっているとのことであった。
それを述べた時の彼の様子は、とてもあっけらかんとしたものであったが……こうなってしまうと、最早ここにいるナルト君は『ナルト君に転生した少年』くらいに思っていた方が良いような気がする、というか?
だってここまでの彼の言動、ほぼほぼ憑依転生とか異世界転生とか、あの辺りの作品の冒頭で『あれ、前世の自分のことが思い出せない……?』ってやってるのと同じなんだもの。*1
原理こそ『逆憑依』だけど、別口のなにかだと解釈した方が通りがいいものに見えてしまうというか。
「……うーん。そもそもの話、『逆憑依』が発生するところに立会うってのが初めてなわけだし、『人の目があったから正常に処理が完了しなかった』みたいに、原因が私達の方にある可能性も少なからず存在するわけで……」
「ええと……本人に覚えがないと言っている以上、こちらがあれこれと考察しても結論にたどり着けるとは思えないわけですし、その辺りついては一先ず脇に置いておく……ということにしませんか?」
「むぅ、そうするしかないか……」
これが特殊なパターンなのか、はたまた正常な処理なのか。
例が少なすぎるために思わず唸るも、はるかさんの言葉を受けてとりあえず後回しにすることにした私である。
実際、考えなければならないことはまだあるわけで、一つのことに
なので、「なにか難しいこと話してるなー」みたいな顔でこちらを見ているナルト君に苦笑を返しつつ、次の議題に移っていくことにする。
「ナルト君はナルト君なんだけど……これ、いつ頃のナルト君?」
「……原作より前、くらい?」
「なんでまたそんな微妙な年齢に……」
その議題と言うのは、変化したナルト君の容姿について。
……榊君が首を傾げながら答えた通り、目の前のナルト君の見た目は疾風伝よりも前……どころか、連載初期のそれよりも前のものだと思われる。
言うなれば、元々の少年の年齢をそのまま反映したような姿、ということになるだろうか。
アニメのエンディングとかで見掛けるくらいの背丈と言えば、わかる人にはわかると思われる。*3
なにが言いたいのかと言えば、要するに
ともあれ、彼がこちらの保護対象になった、ということはほぼ間違いないだろう。……断言しきれないのは、彼がまだ『狐憑き』である可能性が残っているから、だったりする。
「あー、
「保護して貰うことで郷とか互助会とかに潜り込もうとしてる、って風な予測も立てられなくはないからね。……まぁ、多分そういうんじゃないとは思うけど」
「その心は?」
「勘!」
「勘かー」
仮に彼が『逆憑依』とは関係ない単なる怪異であった場合、これまでの言動は全てこちらを欺くもの、ということになる。
その場合、こちらを欺く理由は組織に潜り込むため、ということになるわけだが……いやー、正直そこまでする必要性ある?っていうか、そこまでするなら普通に【顕象】とかその辺りでしょう、っていうか?
……まぁ、そんな感じに考慮からは早々に外しているため、実際はそこまで警戒してなかったりする。
そもそもの話、仮に潜り込んでなにするんだ……って話だし。
なのでまぁ、彼の処遇に関してはそのまま保護、という形で進めても構わないだろう。一応、周辺地域で子供の捜索願が出ていないかの確認はしておくが。
「ああなるほど、本人が覚えていなくても家族が覚えてりゃぁ、そこから探れるか」
「でしょう?だからまぁ、気になることはあるけど扱いに関しては普通でいいんじゃない?……って感じと言うか、ね?」
こちらの言いたいことを察したサイトが、得心したように小さく頷いている。
そんな彼に声を返しつつ、そろそろ出ようと皆に合図する私なのであった。
……なお、話が難しかったのか、はたまた
会話に入ってこないなー、と思っていたココアちゃんは、いつの間にかナルト君と意気投合し、何故か二人でデッキを弄っていたのであった。……忍者デッキでも使わせる気なんですかね。
「…………んんんん?」
「キーアちゃん、どうしたの?唸り声なんてあげちゃって」
ナルト君を引き連れ、最寄りの警察署にまでやってきた私達。
そこで私は、外に備え付けられている掲示板に貼り付けられた、探し人の情報を確認していたのだが……。
「いやね……ないんだよね、子供の捜索依頼」
「へ?……えっと、まだ貼られてないとかじゃないの?」
「ナルトになる前のあの子の言い方的に、結構時間は経ってると思うんだけど……もしかして、『狐憑き』になったから気味悪がって両親が警察に届けてない、とか……?」
「うーん、どうだろ。変な目で見られたとは言ってたよね、確か」
そうして貼り付けられた張り紙達の中に、子供の捜索願は存在していない。……いや、正確にはなくもないのだが、明らかに古いもの──張り替えるのを忘れているかのような、日を浴びて印刷が薄くなっているものしか見当たらないのである。*4
彼の言動的に、森の中で隠れていたのはそう長い期間ではないはず。で、あるならば、これらの古い捜索願が彼のもの、という可能性は限りなく低いだろう。
ならば彼の両親が、突然獣の耳を生やした子供を気味悪がって、家から追いやった……という可能性が脳裏に浮かぶが、それに関しては是とも非とも言い辛い。
少年の言動的に、周囲から奇異の視線を向けられたことは確かなのだろうが……それが彼の両親からも向けられていたモノなのか、というのは現状確認のしようがない。
つまり、端的に言って彼の素性についての追跡は、暗礁に乗り上げてしまったと言わざるを得ないのだった。
「……うーん、一応中に入って聞いてみる?この掲示板が有名無実化していて、今は使ってない……って可能性もあるわけだし」
「そうですね。でしたら私が聞いてきますね、警察署も動物と一緒に……というのは、あまり良い顔をしないでしょうから」
「おっと、それもそうか。じゃあまぁ、はるかさんお願いしますね」
「はい、任されました」
そこで唸る私達に、榊君が『この掲示板、古いポスターばっかりだし今は使ってないのかも?』と、中で聞いてみた方が良いのではないかと提案してくる。
他に手掛かりもないし、そうするしかないか……と頷いた私を手で制して、代わりにはるかさんが建物の中へと進んでいった。……言われてみれば、動物同伴で建物に入るということ自体が、わりと目立つ行為だったなと反省。
頼りになる大人が同行者だと、色々と楽だなぁと彼女の提案を了承し、その背中を見送る私達である。……見りゃわかるけど、ここの面々はるかさん以外みんなティーンエイジャーだからね。
警察の方も子供の話より大人の話の方が、真面目に取り合ってくれるだろう。はるかさんは基本的にはできる社会人、という見た目なので、その方面でも安心だ(?)
そんなこんなで、強い日差しを避けるように建物の影に避難しながら、彼女の帰りを待つこと暫し。
やがて戻ってきたはるかさんは、されどどこか浮かない表情をしていて。
「……ええと、悪いニュースがあるのですが」
「はるかさんからそんな言葉が出てくるだと……!?」
こちらを発見して、そのまま近付いてきた彼女は。深刻そうな面持ちで、そんな不安になることをこちらに告げてくるのだった……。