なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……ふーむ」
「おやキーアさん、今度はどちらに?」
通話口の向こうから聞こえ続ける呼び出し音。
いつまで経っても鳴りやまないそれに、若干の違和感を抱きつつ。この様子ではどれだけ待っても繋がらないだろうな、と電話を切る私。
そんな姿を見て、お風呂上がりのはるかさんがてくてくとこちらに近付いて来るのであった。
時刻は大体九時くらい、あれから食事を済ませた私達は、それぞれ就寝までの時間を思い思いに過ごしていたのだった。
で、はるかさんはココアちゃんと交代して、風呂場から戻ってきたところ……というわけなのである。
現在私達が泊まっているホテルは、風呂に関しては部屋に備え付けられているモノを利用するようになっているタイプで、かつ湯船もそこまで大きなモノではない。……必然的に一人でしか入れないため、こうして代わる代わる風呂を利用しているというわけだ。
いやまぁ、大きい風呂だとしても一緒に入るか?……と言われると微妙な気もするが。大浴場とか露天風呂とかならともかく。
特に今は夏場、ただでさえ暑いのに人が集まったら余計に暑いだろうというか?
なお、ナルト君は一人で風呂に入れないタイプの子だったため、榊君がお風呂に入れてあげたらしいということを、待機していたサイトから聞いていたりもする。
閑話休題。
お風呂から戻ってきたはるかさんはと言えば、ゆったりとした浴衣に着替えていた。
浴衣は色々と扱いが簡単なので、一枚常備して置くと良い……みたいな話を聞いたことがあるが、彼女のそれもその類い……なのだろうか?*1
このホテルには寝巻きの貸し出しはなかったように思うので、持ち運んでいた荷物に入れておいたと見るのが正解だろうか。……売店には寄っていないはずだし。
とまぁ、そんな感じで見詰めていたところ、なにかを勘違いしたらしいはるかさんは、自身の体を隠すように両手で抱きながら、
「視線からなにやら不穏なモノを感じますが?」
「気のせいではないでしょうか?捥ぎ取ってやりたいとか考えてませんよ私?」
「不穏の意味が違った!?」
こちらを批難するような声を掛けてくるのだった。……ふぅむ、キーアん心外。不埒な考えなんてこれっぽっちも考えて
……おおっと失礼、ちょっと黒いものが漏れ出したかもしれない、失敬失敬。
いやー、ココアちゃんもそうだけどこの姉妹、意外とスタイルが良いからサー。*2なんというか見てると全部もぎ取ってやろうかって気持ちがふつふつと湧いてきて困るというか?
いやー、湯上がり美人的なモノを見せ付けられても、なんというか喧嘩売ってんのか?的なことしか思い付かないの、どうにかした方が良いとは思うんだけどねーあははは(目の笑っていない笑み)
「……だから言ったのにお姉ちゃん。キーアちゃん、元は男の人って言っても普通に趣味嗜好は女の人だよ?」
「い、いえ。マシュさんと懇意にしているみたいだから、嗜好については男性的なのかなーって……」
「お生憎ですが
「「え?」」
「え?……じゃありませんわー!?」
なお、そんな暗黒微笑的なモノは、颯爽と別の話題によって掻き消されるのだった。……マシュとはそういうんじゃねーから!
「うーん、どうしようかなー」
「ん、どしたのココアちゃん?」
「うーんとね、今作ってるデッキにこれを入れるかどうか、迷っちゃって」
「ふーん、今なんのデッキ作ってるの?」
しばらく経ってからのこと。
当初の約束通り、ココアちゃんのデッキ作成の手伝いを始めた私であるが、これがまた意外と楽しい。
最近復帰していた私だが、これまで使っていた某儀式機械君達が大幅……?なパワーダウンを受けたため、どうしようかなーとちょっと停滞していたのだ。
……まぁ、封殺の原動力になっていたのは確かだから、規制されるのは分からんでもないんだけどね。ただまぁ、デジタルの方ならいざ知らず、実物の方で制限されるのはちょっと意味わから……いや愚痴っても仕方ないか。*3
まぁともかく、いわゆるマンネリ期に入っていた私的にも、人のデッキを一緒に弄るというのは、意外と刺激になっているわけなのだった。
で、今はココアちゃんが一枚のカードとにらめっこしている最中というわけで。はてさて、一体なにを迷っているのか……?
今のところ、彼女のデッキの内容は不明。
現在デッキに入れてあるのは汎用札ばかりで、ここからどんなデッキが完成するのか、ということを予想するのは難しいと言えるだろう。
なので、彼女が迷っているカードを確認すれば、このデッキの方向性というのも見えてくると思われる。
「えっとね、ほら?これからなにが出てくるかわかんないってことは、こっちも色々できた方が良いってことだよね?」
「うむ、そうなるねぇ」
「じゃあねじゃあね、やっぱりほら、出てくるところをバシーッと捕縛ッ!とか、かかったなッ、って感じに捕まえるとか、やってみたいと思わない?」
「ん、んん?ええと……?」
「だから私はこう思うのです。──時代はやっぱり
「十万!?」
そんなわけで、彼女の話を聞いていた私なのだけれど。……なんというかこう、聞いている内に方向性がおかしなところに向かっているような気が……?
そんな私の不安などお構い無し、とばかりに彼女がバン☆とこちらに見せて来たのは、なんとまぁ『アルメロスの蟲惑魔』(ver.20thシークレット)。……店買いすると十万とかするやつじゃないですか!*5
「うわぁ、うわぁ……デュエリストって意外とお金持ちって聞くけど、うわぁ……まさか他のカードも高レアリティで固めてたり……!?」
「あはは、流石にこの子だけだよー。しかもたまたまパックから当たった、ってだけだし。ほら、デッキの子達も普通のでしょ?」
カード一枚に十万とか、庶民の感覚からすればひぇーっ、としか思えないわけだが、人によってはデッキのカードを可能な限り全て高レアリティで固めている、という場合もある。*6
なので思わず尋ねてしまったが……彼女の言う通り、デッキに既に投入されている汎用札達は普通のレアリティであった。……よかった、成金デッキが『キキィィィィィ』される心配は無かったんですね。*7
「いやいや、流石に私もそんな恐ろしいことしないよー。例えばうららちゃんとか、仮に一番高いのを使うとすると二十万円くらいするのが
「確かに。他のカードも全部高レアリティで固めるってなったら、デッキ一つにうん百万とかになっちゃうもんね……」
「そうそう。まぁ、閃刀姫デッキを全部高レアで、とかよりはマシだと思うけどね」
「それは確かに。レイちゃんとかうららちゃんと同じくらいだもんねー」
「みんなすごい値段だよねー。……ってあれ、お姉ちゃんどうしたの?」
そこから私達は、高額カードについての話を始めることに。
なにかしらの限定カードというわけでもない、単なる高レアリティのカード達がエグい値段となっている……その背景にはコレクターや転売屋達の思惑が絡んでいる、とか聞いた覚えがあるが。
なんにせよ、一般プレイヤー的には『箱買いした時に元手が帰ってくるかも』くらいの感覚でしかないのも確かな話。
なのでまぁ、基本的には笑い話なのだが……傍で聞いていたはるかさん、もとい一般人にはそういうわけにもいかないようで。
泡を食ったような状態で、「じゅっ、にじゅっ?!」みたいなことを呻く彼女の姿に、私達は慌てて彼女の介護に向かうのだった。
……エリアちゃんの20thシクだったら、店によっては八十万近くするって言ったら、きっとぶっ倒れるんだろうなぁ……とか思ってしまった私である。*8
しまいには呼吸困難に陥ったはるかさんをどうにか落ち着かせ、ココアちゃんの蟲惑魔デッキをどうにか完成に導き。……あ、一応補足しとくとここのデュエリスト達、カードになんか変なパワーを注入して、ワンピースの黒刀みたいなこと*9してるから、スリーブ無しでカードをディスクにセットしても、傷とか一切付かないので『高額カードに傷がぁっ!?』みたいな心配は無用です。*10
……まぁ、その辺りは余談として。とにかく、二人は現在ベッドで就寝中。
片や私はと言えば……。
「……うーむ」
「あれ、キーアさん。どうしたんですか、外に出て……電話?」
「おっと榊君。いやね、見た通りってわけなんだけど」
時間帯としては深夜に当たるため、人影のない自販機付近。
私はそこで、先と変わらず郷への連絡を取ろうとしていたのだった。
そこに現れたのは榊君。他の客が来ていたら、騒ぎになっていたかもしれないが……近付いて来ているのが誰なのかは把握していたため、問題はない。
ともあれ、喉の乾きを覚えたらしい彼が、自販機で飲み物を買っているのを横目に見つつ、私は変わらず電話を続けている。
まぁ、さっきから呼び出し音しか聞こえてないんだけども。
「……ふーむ、これは郷でなにかあった、かな?」
「え?ってことはまだ電話には……」
「うん、誰も出ないでやんの。マシュとかジェレミアさんとか、郷に居るはずの人で私が連絡先を知っている人、全員に掛けて見たんだけど全滅でねー」
「……それって不味いんじゃ?」
この時間帯になってまで、誰も電話に出られないのだとすると……郷の方でもなにかトラブルがあった、ということなのかもしれない。
そんなことを口にすれば、榊君からは少し焦ったような言葉が。……が、私としてはそこまで心配しているわけでもなかったりする。
「……そうなんですか?」
「うむ。
「……あー、なるほど」
こちらの言葉に、納得したように頷く榊君。
私が大きくなれないまま、ということはだ。……最低でも
彼女が居る状況下で、まさか郷が壊滅……なんてことにはなるまい。無論彼女が黒幕、という場合にはその限りではないが……少なくとも彼女が今行動を起こす理由もないので、恐らくは別件でなにか問題が起きた、ということになるのだろう。
「まぁ、キリアも電話に出ない辺り、しっかり巻き込まれてるんだろうなー、とは思うんだけどねー」
「うーん、どういう問題が起きてるのかは知らないけど……御愁傷様、って言っとくべきなのかなぁ……」
なお、キリアにも連絡を取ったが繋がらなかった、と言葉を返したところ。榊君は、居るかもしれない犯人への同情に満ちた言葉を、天を仰ぎながら溢していたのだった。