なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……いや、いやいやいや!?なにこれ!?マジでナニコレ!?」
「我輩珍百景っ!?*1とは言え疑問も当然のこと。気になることはエブリシング、貴方のトキメキハウマッチ。しかして我輩こう答えよう。──だがここに例外が存在する」*2
「いやわかんねーよなにもかも」
社長室の中に居たのは、緑の髪と白衣、それから服の上からでもわかるマッシヴなボディをしたヤベー奴、ドクター・ウエストだった。*3
……はずなんだけど。
渡された名刺には『茅場』と『黎斗』の文字が。……いや、なんか凄まじく嫌な予感がするんですけどナニコレ!?
「んーそなたの不安、よーくわかるのであーる。しかして安心召されよ、この世界一、いや宇宙一の頭脳には些かの曇りもなし。……なんて言うと思ったかバカめ!我輩の頭脳、ズタボロのロンロンロンギヌス!三位一体によって補給はしたが、正直原作のような軽妙な会話は不可能!なので、安心してそこのソファに座るがよい」
「何一つとして安心できないんですけどそれは」
原作と違うだと、嘘付け!仮に違ったとしてもウザさは変わってねーじゃねーか!
なんて風に
……緊急脱出装置*4とか付いてたらぶん殴るからな貴様、みたいな気持ちで座ったが、とりあえずそういうものは無さそうだった。
とはいえ安心できない。
ただでさえ名前からして、三人ほど問題児が纏まっている可能性があるのだ。警戒のし過ぎ、なんてことはぜっっっったい無い!
「安心するがよいお客人。キャットの飼い主を僭称するこの輝くオヤジ、三つが合わさり超パワー!……とはならず、ニンジンも萎びて今日は鉄鍋である。蛆が沸いたのなら素直に捨てるのだな」
「ああそう、大丈夫なのね……何一つ安心できない!!」
なんて風にちょっと気を張ってたら、横合いから紅茶を差し出してきた人物の手がもふっ、としているのに気付いてしまってSANチェック。
はい、その手の持ち主が
……なんでタマモキャット*5がいんの!?
「きゃ、キャットさん!?何故ここに!?」
「キャットはキャットゆえ。決してどこぞのタマモナインを亡き者にせんと、密かに暗躍しているわけではないのであしからず」
「いやそれが答えじゃねーか」
「なんと!報酬は大根とな!?」
「いやそっちはわかんねーよ!?」
どうにも彼女はここの秘書らしい。
どんどん収拾が付かなくなって来てることない!?この会社ヤベー奴じゃない?!
誰かー!通訳か何か持ってきてー!?
「あいや、失礼。ちょっと待つとよい、今変わるのでな」
「は?」
なんて風に混乱していたら、この混乱を巻き起こした張本人から待ったが掛かる。
思わず聞き返して──彼の様子に目を見張った。
いや、いやいやいや?!なんか顔めくってるんですけど!?下の顔からめっちゃ閃光が漏れだしてるんですけど!?*6
なにこれキャパオーバー!すっごい気を失いたい!!
『ダメですよせんぱい、流石にマシュさん達にこの方の相手は辛いものがありますからねー』
「ああ分かったよ!連れてってやるよ!お前を……お前らを……私が連れてってやるよ!」*7
『せんぱいいつピギュ*8ったんです?』
「うるせー!こうなりゃやけじゃー!」
もうこうなったら毒を食らわば皿までじゃー!的なやけくそ気分で相手の動きを待つ私。
その前で、輝きが次第に収まっていって……。
「改めて、始めましてかな。茅場晶彦・
「……はい?」
現れた普通の男性とその言葉に、思わず思考が停止する私なのだった。
「なりきりにおける
「……え、ってことはやっぱり居るんです社長?」
「居るんだな社長。……演者には悪いが、マッド気味だからと一纏めにするのはよろしくないと言わせて貰いたい。……まぁそもそもの話、
「そりゃまたなんともご苦労なこってで……」
現れた茅場晶彦……もとい、茅場晶彦・
彼が主体となって話す事にしたのは、結局のところ単に話すだけなら三人の中で一番マシだから、ということらしい。
……それならずっとカヤバーンでええやんけ、なんて思っていたのだが、何やら事情がお有りの様子。「いずれわかるよ、いずれね」なんて決闘者風味に返されてはどうしようもないので、とりあえず脇に置いて、当初の予定通りあのゲームについて聞いてみる。
「そもそもの話、私達に関しては順序が逆なんだよ」
「逆……と言いますと?」
「『
彼は語る。
単純なVRMMOに見える『tri-qualia』は、その実凄まじいまでの拡張性や圧縮技術・表現力や処理能力などを持ち合わせた次世代ゲームなのだと。
そして、それを生み出すには──本来であれば、
だがそれは叶わない。
なりきりというルールに縛られている以上、再現度の壁が立ちはだかる。
……ゆかりんのように裏道に逸れるのも許されない、正真正銘マシュやシャナと同じレベルの演者が必要になる。
「まぁ、そんなものありえないだろう。──我々は皆、紛うことなく天才と呼ばれうる科学者だ。そして、皆一様に
「けれど、彼等がなりきりをしているかどうかはまた別問題、と?」
その通り、と彼は頷いた。
『誰か』はなりきりという扉を通さなければならない。が、その扉を利用する限り、本来望むものには近付けない。
……そこまで考えて、だったらもっとなりきりやすい、常識人な天才科学者とかになりきりしている人を見繕えばいいのでは?と私は思い至る。
阿笠博士*10とか則巻博士*11とか、あとは個人的には止めて欲しいけどトニー・スターク*12なんかもまぁ、求められるモノには見合っているのではないだろうか?
なんてことを口にしたら、彼からは苦笑を返されてしまった。
──曰く、『誰か』は端から茅場晶彦と檀黎斗を求めていたのだと。
「より正確に言えば、私達二人
「って事は、やっぱり」
あのゲームの本質が、現実ではなく、それでいて発展していく永遠の世界──
そんな風に察した私に、彼は首肯を返してくる。
「その通り。アレは、
「……うわぁ」
返ってきた言葉に、思わず顔を覆う。
……これ、侑子を外に出すの多分無理だ。
アグモンの方はまだどうにかなるだろうけど、侑子に関しては現状維持以外の対処が思い付かない。
「とはいえ、その真価に至るにはまだ時間がある。少なくとも、
「……アンタ、まさか──」
「勘違いしないで欲しい。アレの開発にはもう私達の手は加わっていないよ」
「またデス……なんて?」
そんな風に頭を痛めていると、彼がまた不穏な事を言い出したのでとりあえずとっちめるか……って寸前で、もっとヤバい事を口にした。……えーと、なんて?
「根本的に反りの合わない私達を、協力させる事が一番の目的だったらしくてね。雛形を作った後は、ゲーム側が勝手に自身を拡張している始末さ」
「……ツッコみたいところがいっぱいあるんだけど、とりあえず一つ。……拡張すんのお前らじゃないんかい?!」
「ははは。いや、ゲームを止めようとかしなければ、こっちのアップデートも受け付けるんだよ。コラボとかその最たるものだ」
朗らかに笑っていやがるが、なんにも大丈夫じゃない台詞である。
……つまりここ、ほぼお飾りの運営じゃんか!?ついでに言うとあのゲーム自体もヤバい匂いがプンプンしてきたんだけど!?
「
「はぁっ!?……ってちょっと待ちなさい、なんでアンタ帰ろうとしてんのよ!?」
「ははは、離してくれないかな?実はわりとギリギリなんだ……ってああ、来てしまったか」
「はぁ?……いや待って、なにこの音……声?」
「!お、おい、外だっ!!」
「……へ?」
滅茶苦茶気になる事を言った彼は、そそくさと立ち上がって部屋から退出しようとしている。
……いやいやいや!?なに逃げようとしてんの!?言うだけ言ってはいさよならとかそんなん許されるかいっ!!
そんな思いで彼に詰め寄ったのだけど。……え、なにこの音。風切り音?それと声?
困惑する私に、何かに気付いたハセヲ君が窓の外を指差して。
「………ぉぉぉぉぉぉぉおおおおおこおおおおうさまぁああああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあっっっっっ!!!!!!!」
「わぎゃぁぁあああああぁっ!!!?」
「き、キーアッ」
「せ、せんぱーいっ!?」
突如窓ガラスを粉砕しながら突っ込んできた謎の赤い竜巻に吹っ飛ばされ、壁にめり込む私。……これ私じゃなかったら死んでるのでは?
壁の中ってこうなってるんだなー、なんて現実逃避をしつつ、マシュ達に手伝って貰って壁から頭を引っこ抜く。
頭に付いてたコンクリ片を払って、改めて茅場さんの方を見ると。
「項羽様、ようやっとお逢いできました!虞は、虞は、果報者にございます!!」
「……虞や虞や汝を如何せん……」
「はうっ、そこまで思って頂けているだなんて………虞は、虞は、爆ぜてしまいますっ!!」
「うっわ本当に爆ぜおった……」
茅場さんに
……いや、ナニコレ……。
「虞美人はキャットに勝るとも劣らぬ曇り目をしておってな。具体的に言うと、山寺ボイスは全て項羽に見える。ついでに言うとダメ絶対音感は虞美人イヤー、何者も逃しはせぬ。ボールは探せぬが」
「な、なんて悲しきモンスター……」
「社長が緑を選ぶのも、聞かぬ奴と、聞かぬ奴を引き寄せる奴が仲間ゆえ。……相対的に、ギターをかき鳴らせば一件落着というわけなのダナ」
「落着……?落着ってなんだっけ……?」
横合いからキャットに