なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……ま、マジで殺されるかと思った……」
「いや、本当に申し訳ない。うちのものがとんだ失礼を……」
「あ、ああ、いや。こうして止めてくれたんだから、別に構いやしないよ」
あのあと、凄まじい形相で少女の周りをぐーるぐーるしていた*1ゴンさん達を落ち着かせ、どうにか一息吐いた私(とタバサ。他は草むらで待機中)。
ずっと彼らに追っかけられていたのか、はたまた単に周りをぐるぐるされるのが、余程の心労をもたらしたのか。
……私にはわからないしどっちをやられても嫌だが、ともあれ息を荒げる少女に平身低頭で謝罪を述べれば、彼女は気にしていないという風に右手をひらひらとさせていたのだった。
そうして、ようやく落ち着いて彼女の姿を確認したわけなのだけれど。……ふむ、ふーむ?
「──ところで、付かぬことをお伺いするのですが」
「……な、なんだよ?私にまだなにか用か?」
赤髪の少女は、
……下まできっちりボタンを閉めているため、その下に着ているだろう服装は一目見ただけではわからないが……
……いやっていうか、実際あれってどういう服装なんだろうね?
よもやシャツの上からブラを付けてる、なんて前衛的過ぎるスタイルってことはないだろうとは思うけども。……え?一時期そういうコーデが流行ってたことがある?──マジでか、ファッションは奥が深いな……。*3
ともあれ、このクソ暑い……とまではいかずとも、森の中ながらに結構暑いこの状況下で、ローブをきっちり着込んでいるのは……自身の服装からその出自を判断されないように、という考えからの行動だろう。
……まぁそもそもの話として
そんなことを考えつつ、口ではまったく別のことを述べる私である。
「貴方は、この近くに住んでいる人ですか?」
「……あ、ああ。そうだけど?」
「なるほど。それではついでにお伺いしたいのですが、この近くでサラマンダーを見かけませんでしたか?」
「さ、サラマンダー?……い、いや、見てないなぁ。この辺りは枯れ木もそれなりにあるし、もし仮にサラマンダーなんて出たとしたら、ボヤ騒ぎになると思うけど……」
「なるほど、それもそうですね。……ところで、暑くありませんか、それ?」
「え?い、いや。私は肌が弱くてな。こういうところだと花粉とかに反応してしまうんだ、ははは……」
「ほう、花粉。それは大変ですね」
「そ、そう。大変なんだ。ははは……あの、もう行ってもいいか?」
「おっと、これは失礼。変なことに巻き込んだ私が言うのもなんですが、どうかお気を付けて」
「あ、ああ。失礼させて貰うよ……」
……うーん挙動不審。
こちらが行ってもいいよ、と言った途端に口許が綻んだ辺り、本当に隠す気あるのか甚だ疑問である。
実質黒、犯人確定なのだが……一つ、疑問があった。
「と、言うと?」
「あのノリで、隠蔽工作とかできる気がしない」
「あー……」
相手に見付からぬよう、草むらに隠れていたミラちゃんから問いかけられた私は……あのしどろもどろしている姿と、精霊達に偽装を施せるほどの術者であるというギャップが、どうにも彼女の持つものがあれで終わりであると断言できなくさせている……と溢すのだった。
一応、想定されている彼女の正体は
……のだが、当の本人のあのぐだぐだっぷりを見ていると、仮にそれらの技能を持っていても、上手く使えるんだろうか?……と、ちょっと首を捻らざるをえなくなるわけで。
まぁ、そういう意味での『隠蔽とか得意じゃなさそう』という評価である。……こちらの想定に間違いがないのであれば、彼女が都合
それだけが、微細な違和感として喉に引っ掛かっているため、こうして泳がせている……と話を締める私である。
単に捕まえるだけなら、さっきのゴンさん包囲網の時点でどうにでもなっただろうしね。
……と、そこまで言えばミラちゃんも納得したように、小さく頷いていたのだった。
そんな感じで、こちらに見逃されていることを知らない、彼女はと言うと。
頻りに周囲を気にしながら、小走りに森を駆け抜けて行く姿が見えている。……意外と機敏ですね?
「さて、見失うというのも宜しくない。静粛に大胆に、後を追いかけるとしよう」
そんな彼女に対し、こちらもいよいよ動き始める。
決定的な──ごまかしきれない場面を押さえるため、尾行開始というわけだ。……どうでもいいけど、暗闇の中で『某細かいことが気になる刑事さん』が待ち構えている……って話があったと思うけど、あれって演出的にホラー以外の何物でもなかったですよね?*4
いや、なんの話をしておるのじゃ?……というミラちゃんからのツッコミを聞き流しつつ、早速行動を始める私なのであった。……あ、ゴンさん達はいつの間にか元に戻ってました。制限時間オーバーかな?
「……撒いた、か?撒いたな?」
森を離れ、一つの小屋の前で息を整えながら、少女はそうぼやく。
突然に自身の前に現れた、恐ろしい顔をした集団についても肝を冷やしたが……そのあとの、人好きのする笑顔を浮かべた騎士の方が、それらの何倍も恐ろしかった。
──とんでもない。彼女のあの目は、獲物を徹底的に追い詰める、狩人の目をしていた。あんな目をしている人物が、ただのモブのはずがない。
実際に真正面から対峙して、その目から感じられる恐ろしさというものを、まじまじと理解することになってしまい。こうして暑さで参るはずの空気の中、逆に肌寒さを覚えてしまっている彼女なのであった。
……いやまぁ、ローブの前を閉じているのはそれだけが理由、というわけではないが。
ともあれ、こうして素直に解放してくれた以上、恐らくはこちらを疑っていると言っても、単に
ゆえに暫く
そう自分を鼓舞しながら、小屋の入り口のノブを捻って。
「──おや、お早いお帰りですね?それにそんなに急いで。……これからどこかへ旅行、というわけですかな?」
「~~~~~ッッッッッ!!!!!?」
──中から出てきたその顔に、声にならない悲鳴をあげる羽目になるのだった。
……あらやだ効果覿面。
さっきの『細かいことが』云々の小話から、先回りして驚かせてやろう的なことを思い付いた私は。
こうして、この姿ならではの
結果についてはご覧の通り、さっきのゴンさん達に囲まれていた時の比ではないほどの
ともあれ、まるで死神かなにかでも見付けたかのような彼女の姿に、些か釈然としないものを感じつつ。
私はとりあえず、彼女に声をかけようとしたのだけれど……うん?なんかくすぐったいような?っていうかなんかパリンパリンいってないこれ?
「な、なんで効かねーんだよ!!?おかしいだろあんた!?」
「
恐怖に震える彼女が口走るのは、こちらになにかをしていたということを知らせる言葉。
……なるほど、恐らくは彼女、幻術とかそういう類いのものをこちらに対して使っていたらしい。
見た目的になにも変化がないので、なにをこちらに使用していたのかはわからないが……それが
……どうでもいいんだけど、なんか私が言ってないことがルビに付与されてない?向こうの恐怖心が反映されてない?
そんな胡乱なことを考えつつ、一歩一歩、彼女に近寄っていく私である。
先ほど、ちょっと彼女の構成要素について引っ掛かりを覚える、みたいなことを言ったと思うが……この幻術、術式の解明まではできずとも、それが遊戯王由来のものでも、ポケモン由来のものでもないことは流石にわかる。
つまり、こちらの予想は──一部外れているということ。
それゆえに、一切の油断なく、呵責なく、温情なく。
「──そして、命の価値に区別なく」*6
「ひぇ」
おっと間違えた。失敗失敗☆
……まぁともかく、相手がなにをしてきても対応できるように、じりじりと彼女に近付いていたわけなのだが。
それがどうにも、刻々と迫る死刑宣告にでも聞こえていたらしく。
「お、お命だけはお助けぇ~~……!!」
「へぁ!?」
という彼女の叫びを聞いて、思わず目をぱちくりさせてしまう私なのであった。