なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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幕間・一方その頃、盾の少女

 せんぱいが郷を出て、五条さん達のお手伝いを始めた初日のこと。

 私、マシュ・キリエライトは、郷の訓練施設の一画にて、シャナさんと模擬戦を行っていたのでした。

 

 

「……今日のマシュ、少しぴりぴりしてる?」

「え゛。……い、いえ。そんなことは、ありま()んよ……?」

「……言葉に動揺がでてるわよ、貴方」

 

 

 打ち合いを一時止め、話し掛けて来たシャナさんが述べたのはそんな言葉。……思わず即座に否定してしまいましたが……少しストレスを感じている、というのは決して間違いではないのです。

 

 

「ストレス?……というと、キーアのこと?」

「……今回の一件が、殊更に広範囲で騒動が起きていること。それを理由に、最高戦力としてピックアップされた私達は、郷の中での待機を命じられました」

 

 

 命じたと言いましたが、その実『お願い』という方が正しかったその辞令。……もしも八雲さんが、自身の赴いたことのある場所にしかスキマを開けないという制限がなければ、そういった要請をする必要もなかったのに……と自分自身で仰っていらっしゃった以上、私達がそれを無視するのは道理に合わず。

 結果、『お願い』でありながら相応の強制力を持ってしまったその辞令を、私達は守らざるを得ず。

 

 ……逆に言えば、私達を除く『動くことができる』人員、そのほとんどを動員して行われている今回の対処達は、なりきり郷始まって以来の大規模作戦、と言い換えてもよいものでもあったわけで。

 

 

「……で、現状最高戦力からは外れているキーアは、普通に外行き組に割り振られていた……と」

「より正確に言えば、はるかさん経由での協力要請、ですね。せんぱい自身には要請はなく、そもそもそんなものがあったこと自体をご存じではないはずですから」

「まぁ、あの小ささと、()()じゃあねぇ」

 

 

 こちらの言葉に、はぁとため息を吐くシャナさん。

 その視線を追った先にいらっしゃるのは、この模擬戦を見学したいと申し出た──、

 

 

「……おや、美少女二人が私に視線を送ってくる。これはあれかな、混ざってきゃいきゃいしろってことかな?」

「誰もそんなことは言ってません」

「わぉ、辛辣。……いや冗談だから、そんな睨まないで頂戴な」

 

 

 せんぱいと同じ顔をしているけれど、せんぱいとは別の存在。……そう、せんぱいが小さくなってしまわれた最大の理由、キリアさんの姿があったのでした。

 

 

 

 

 

 

 ふぅむ、と顎に手を置きながら、考えること数瞬。

 ……考えるまでもなく威嚇されてるなと思い至りながら、笑みを浮かべる私ことキリアなのです。

 

 思考を読んだりはしていないけれど、むっとした彼女の表情から、彼女が愛しのせんぱい(私の娘)について思いを馳せていた、というのはなんとなく察せられるわけで。

 ……果報者と呼ぶべきか、はたまた優柔不断と言うべきか。ともあれ、こうやって相手をやきもきさせるだけの時間を生み出してしまう彼女と、その理由に()()()()使()()()()()()自身の境遇に、小さく涙すること暫し。……いやまぁ、別に哀しみからの涙ではなく、『大きくなっちゃってまぁ、母ちゃん嬉しいっ』的な喜びの涙なのだけれど。

 

 ──雑に言えば面白いのでオールオッケー、ってことね。

 

 

「……なにか酷いこと考えてない?貴方」

「おや目敏い。実はエスパー?それともゲスパー?」*1

「わかったから、ゲスパーはやめて。……なりきり相手には最悪の侮辱よ、それ」

「おおっと」

 

 

 なお、そうやってニコニコしていたら、横の炎髪さん──シャナちゃんに呆れたような視線を向けられたのだけれど。

 にしても……下衆の勘繰り*2はなりきり相手にはご法度、ねぇ?

 

 

「探られたくもないのか、はたまた痛くもないのか。どっちにせよ、人格(キャラ)を纏う貴方達にとってはイヤなもの、というのはわからないでもないわねぇ」

「……貴方って、基本煙に巻こうとするわよね」

「親子揃って?」

「そうそう親子揃って……って、別に親子でもないでしょ、貴方達」

「…………?」

「そこで不思議そうな顔を返されても困るのだけれど」

 

 

 はぁ、ともう一つため息を吐くシャナちゃんである。……マシュちゃんの気分転換に付き合わされているうえ、私みたいなのにまで絡まれているのでうんざりしてる、みたいな感じなのかしら?

 

 

「なるほど、じゃあ幼年期の終わりを迎え」*3

「ないわよ、やらないわよ。……それ、要するにこの世界の終わりなんでしょ?キーアから聞いてるわよ」

「むぅ、わがままな娘達ー」

「ナチュラルに私まで娘にしようとしないでくれる?」

「…………?」

「このくだりさっきもやったんだけど!?」

 

 

 なるほど、これぞ天丼。*4

 そんなにうんざりしてるなら、私の屍を越えてくれてもいいのに*5、というこちらの主張は、あまりにすげなくシャナちゃんには断られてしまうのでしたとさ。どっとはらい。*6

 

 

 

 

 

 

「あ、シャナちゃんちょうどよかった。マシュちゃん居る……って、げっ」

「げっ、はちょっとご挨拶じゃないかしら、八雲紫さん?」

「そりゃ言うでしょ、なにが悲しくてビーストの同類に友好的にできるってのよ!」

「じゃあやっぱり私を倒すしか……」

「それも後免だって言ってるでしょうが!!」

「えー、この娘達我が儘しか言わなーい」

「……もうやだこの偽母親(バカ)……!」

 

 

 そうしてぐだぐだと話している最中に、スキマを開いて現れたのは、ここの責任者である紫ちゃん。

 こちらもこちらで、他の娘達同様にこちらへはつんけんとした*7態度を取っているけど……そこまで嫌がるのなら私の屍を云々、という話はやっぱり断られる。……おのれ我が娘一号(キーア)

 

 まぁ、今の世界を崩したくないのであれば、それもまあ已む無しでしょうけど。

 ……とけろっとした顔を見せれば、彼女達は一様に困ったような顔をするのでした。楽しみ。

 

 

「無敵なのかしらこの人……」

「負けたくて仕方がない、とのことでしたので……」

「性質が凶悪過ぎるわよ、まともに取り合うだけ損でしかないわ」

「……仲が良くて宜しいことだけれど、紫ちゃんはなにか用事があったんじゃないのかしら?」

「え?……あ、ああそうだった。ちょっとお手伝いして貰っても構わないかしら、マシュちゃん?」

「は、はい?私に……ですか?」

 

 

 ……まぁ、こうして私が空気を乱すせいで、話が滞るのもいつものこと。

 仕方ないので軌道修正のために声をかければ、紫ちゃんははっとしたようにマシュちゃんへと声をかけていたのです。で、その内容というのが……。

 

 

「実験の際に起こるかもしれない、被害の最小化のための人員……まぁ確かに、盾兵(シールダー)としては最適な仕事、というわけかもしれないわねぇ」

「……あの、何故キリアさんまで同行していらっしゃるのでしょうか……?」

「なんでって、そんなのキーアちゃんに頼まれたからに決まってるでしょう?『私の代わりに、マシュを見てて』って。可愛い娘の頼みだし、断る理由もなし……ってこと。まぁ私からしてみれば、みんな娘と息子みたいなものなのだけれどね?」

せんぱい……っ!

 

 

 道すがら、彼女の背を追うように歩きながら呟く私。

 なんでも、例の科学者さん──琥珀ちゃんがとある実験を行うので、その後詰めを任せるために彼女を呼んだ、というのが紫ちゃんの要件。

 私はといえば、それを見るために同行している……という次第。

 

 ()()()()()()()()()()、というお願いだったら、私も断っていたでしょうけど。

 キーアちゃんが頼んでいたのは、あくまでもマシュちゃんを()()()こと。……私の行動原理的にも、特に抵触しないので快く了承した、ということなのであった。

 まぁ、娘らしく可愛らしくお願いしてきたキーアちゃんがかわい……おもしろ……真剣だったから聞いてあげた、というところも大きいのだけれど。

 

 なおそのことを()()()()(大嘘)口を滑らせてマシュちゃんに教えてあげたところ、彼女はキーアちゃんからのお願いであることへの喜びと、私が付いてくるという煩わしさの間に挟まれて、幸とも苦とも付かぬ表情で苦悶していたのでした。

 ……まぁすぐに立ち直って、「その時の画像とかあれば」とこちらに声をかけてきたのだけれど。

 無論娘のお願いには弱い私なので、動画入りのUSBを渡してあげたのでしたとさ。……でもガッツポーズで喜ぶのはどうかと思うわよ、私。

 

 キャラ崩壊気味というか、二次創作の彼女みたいというか。

 まぁともかく、自身の行動が随分と()()であることに気付いた彼女は、頬を赤らめながら咳払いを一つすると、こちらへの敵愾心を抑え、別の話を切り出してきたのでした。

 

 

「ところで……琥珀さんの実験、とのことでしたが。……キリアさんはどう思われます?」

「んー、そうねぇ。……もたらされる結果は人類……は言い過ぎかどうかちょっと迷うけど、ともあれここの人達に確かな福音を与えてくれるとは思うけど。……その過程で起こることに関しては、流石の私も言葉を慎むわね」

「ですよね……」

 

 

 こちらの反応に、がくっと肩を落とすマシュちゃん。

 件の人物、琥珀ちゃんは、このなりきり郷とやらには今や無くてはならない人物となっている。……迂闊に放逐もできない、という意味も含む。

 

 そもそもの話、彼等が『逆憑依』と呼ぶそれは、ある意味で願いの結晶──いわゆる聖杯のようなものが引き起こした、一種の奇跡である。

 見た感じ、この世界の法則の一つとして、基盤の一つとして、すでに組み込まれてしまっているようだけど……それを人の身で解明しようとしている彼女は、ある意味では世界の解体者、と呼んでしまっても過言ではない域にたどり着きつつあるわけで。

 

 私はまぁ、他人事だからこうして冷静に語れるけれど。

 当事者である彼女達からしてみれば、彼女のすることが()()()()()()()()()()、気が気ではないことでしょう。

 ──迂闊に法則の基幹に触れて、世界を滅ぼしかねないと聞けばそうもなるってもの。

 

 まぁ、わりと教養とか理性とかを持っている方の人でもあるので、本当にヤバそうだったら引き返すでしょうけど……それを他人が察する、というのは難しいのも確かな話。

 ついでに言うと、『逆憑依』絡みの問題を解決しようとするのであれば、彼女の協力なしには時間がどれだけかかるのかわからない、ということも大きいでしょう。

 

 結果、彼女は飼い殺しのようにこの場所に縛られながら、それでいて誰よりも自由にこの場所で生きている、ということになるのでしたとさ。……うーん、まさに海賊王。

 

 

「そういえば、ワンピースのキャラってあんまり見ないわね、ここ」

「いきなりなにを仰っているのですか……?」

 

 

 少なくとも私はあったことないわね、とぼやいたところ、マシュちゃんからはその話題の飛びっぷりに困惑されることになるのでしたとさ。うーんいつも通り。

 

 

*1
平たく言えば『下衆の勘繰り』。言葉としての成り立ちは『下衆』と『エスパー』であり、相手の言葉を信じられず、その裏を探ってしまうことを示す言葉。なりきりにおいては、基本的にキャラクターを演じているキャラハン達の現実の姿を揶揄すること、その行為についてを指すこともある。『嘘を嘘と~』という言葉があるが、言うなればなりきりとは『嘘を楽しむ』遊び。疑うことは最初から必要性が薄く、嫌われる行為の一つとなるというわけである

*2
心の卑しい者は、相手の行動をとかく邪推すること、その行為。人の好意を受け入れるには、ある程度心の余裕が必要である、ということでもある。無論、相手の行為が本当に善意からのモノではない、ということもあるので、時と場合によるというやつなのだが

*3
アーサー・C・クラーク氏の長編小説、『幼年期の終り』のこと

*4
ご飯の上に天ぷらを乗せた、いわゆる『どんぶりもの』の一種。また、お笑い用語として『同じ話題やネタ・ボケを繰り返す』ことを意味する言葉としても使われる。天丼に乗っている海老天は基本二本だったから、という説と、浅草フランス座演芸場東洋館にて行われた舞台にて、『天丼の出前が来ない』という台詞が忘れた頃に繰り返されるネタが存在したのでそれが由来、と主張する説があるが、基本的には海老天の説の方が有名である

*5
1999年に発売されたPlayStation用RPGソフト『俺の屍を越えてゆけ』のタイトルから。内容としては朱点童子(酒呑ではない)に呪いをかけられ、わずか二年しか生きられなくなった一族が、神々の力を借りながら鬼の打倒を目指すというもの。『俺の屍』とは、すなわち短命な父のことである

*6
物語の終わりや、モノの数え終わりに述べる言葉。めでたしめでたし。元々は東北地方の方言で、『ありがたい・貴重だ』という意味の『尊かれ』という言葉が変化したものだとされる。要するに、『素晴らしい物語だった』と締める為の言葉だった、ということになるらしい

*7
不機嫌・不親切でとげとげとした態度を表す言葉

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