なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……というわけで、私達の中から数名が配電室へと赴き、電源供給のカットを行うこととなったわけなのですが……」
そう宣言するのは、あの面々の中で一番防御力の高い人物であったマシュちゃん。
まぁ、今のところ管制室が危険に晒されている……ということもないので、彼女を前線に送り込むのはなにも間違いというわけではない。
ついでにキーアちゃんからのお願いを聞いている私が、彼女に付いていくことになるのもこれまた間違いではない。……いやまぁ、ちょっとだけ「えー」みたいな顔をされたけども。
「こちらの手伝いはしてくれない、とのことでしたが……最悪、ご自身の身はご自身の力で守って頂けるのですよね?」
……みたいな確認をされたので、最終的には折れたのだと見ていいのでしょう、多分。
その時の台詞はマシュちゃんらしからぬ感じだったけど、これはいわゆるツンデレというやつでいいのかしら……?
「ツンデレではありませんっ。……いえその、心構えとしてといいますか……こちらを手伝っては頂けない、と貴方自身が明言していた以上、こちらとしても一応明言しておかなければいけないといいますか……」
「真面目ねぇ。こんな口約束、その時の状況如何によっては、幾らでもねじ曲げるものなのに」
「キリアさんが不真面目なだけですよそれ……」
……まぁそんな感じで、ゆるーく私の同行が決まったわけなのだけれど。他の面子決めに関しては、わりと難航していたのだった。
その中でも特に議論が紛糾したのが紫ちゃんなんだけど……今の状況を『ジュラシックパーク』……パニック系の作品みたいなものと考えた時、管制室に残るのと前線に出るののどちらが
「別に紫を無能な指導者、なんて言うつもりはないわ。……けどだからこそ、管制室に残しておくと酷い目にあいかねないと思わない?」
……と主張したのはシャナちゃん。
確かに、偉い人が安全な後方でふんぞり返っている……というのは、こちらが追い詰められている・攻撃されている側である、というような状況下においては、真っ先に脱落するポジションのようにも思える。
頭を潰せば大抵の集団は烏合の衆*2と化す、というのは道理なのだから。
これに対して反論したのが、なんとタマモちゃんだった。
「言うても紫はんって、運動に関してはなんとも言えへん感じやろ?ウチ、イメージ的にはスキマに腰掛けて眠そうにしとる……くらいのもんなんやけど」
「紫お姉さん、今は大体歩いてるけど……でも確かに。運動が得意そうな感じはないよね」
「ぬぐ、貴方達二人にそう言われると、なんだか傷付くわね……」
「「なんで?!」」
すっかり仲良しさんな感じのタマモちゃんとかようちゃんに疑問を呈された紫ちゃんは、ぬぐぐ顔をしながらそれを肯定。……多分、
でも確かに。『八雲紫』というキャラクターが、走ったり跳び回ったりするようなイメージはない。
そしてイメージがないということは、所詮は
勉強が苦手、というアイデンティティを抱えているのび太君をなりきりしたとして、そんな彼が周囲に望まれたとしても──テストで百点を
なお、
話を戻して、紫ちゃんについてだけど。
本来の『八雲紫』は……最近は苦労人属性が付与されつつあるものの、基本的には黒幕系に分類されるキャラであり……すなわち頭脳を以て働くタイプであって、決して肉体労働をするようなタイプではない。
彼女の持つ能力の性質上、本当なら近接戦もできなくはないとは思われるけれど──それも彼女のイメージである、淑女めいたそれからすれば……
ゆえに、彼女が足を実際に動かして走る……なんてことはまずしないはず、ということになるわけで。
もし仮に足で移動する、ということになっても『靴底の摩擦力の境界』を弄ってスケートのように滑る、というくらいが妥当なものとなるでしょう。
さらに付け加えるのであれば、この紫ちゃんは背丈が少女──ともすれば幼女の域の存在である。……余計のこと、素の身体能力が高いとは思えない。
結果、前線に連れていくには体力とかが足りていない、というタマモちゃん達の主張に繋がる……というわけなのである。
これは、仮に走らずスキマに腰掛ける……という、本来の彼女のイメージを遵守したスタイルであったとしても、やっぱり止めといた方がいい、という発言が出てくる理由ともなる。
「あー、うん。そうね、その移動の仕方をするのであれば、
なんて風に彼女が言う通り、小さい紫ちゃんは常時スキマを出し続ける、ということはできない。
それは単純に、この姿の彼女はそれだけの時間、能力を使い続けられるだけの体力とか妖力とかが足りていない、ということ。……再現度以前の問題なので、それを補うのであれば彼女は変身するしかない、ということになるわけなのだけれど。
以前よりは負担などについて改善されたとはいえど、彼女の変身とは自身の心身に負担を強いるもの。
電源供給をカットすればこの異常は解決する、とは断言できない今の状況下において、早々に持ち出すには勿体なさすぎる切り札……ということになるのです。
「だったら余計のこと、戦力の揃っている前線に連れていくべきよ。仮に、適切な場所で紫の能力を使用すれば、この一件は片付く……というのが正解なのであれば、この事態を引き起こした相手が紫を放置する、なんてことはあり得ない。まず間違いなく、守護の手が薄くなった紫を行動不能にしてくるわよ」
「それは前線でも似たようなもんやろ。そもそもこれ、デュエリスト案件なんやろ?せやったら『硫酸のたまった落とし穴』とか『異次元の落とし穴』とか、こっちの対処が難しい罠とかわんさか仕掛けられてるかもしれへんで?」*4
とまぁ、お互いが主張を示しあったわけなのだけれど。
……ご覧の通り、互いの意見には相応の説得力があり、どちらが正しいとも言い辛い状況。
それにほんのりと互いにライバル視?してるような感じになっていて、余計のこと意見が纏まりそうにない感じと言うか……。
こうなってしまうと最早議論だけで時間が過ぎてしまう……とこちらが危惧する前に、結論を出したのは琥珀ちゃんなのでした。
「あー、議論の最中で大変恐縮なのですが……そもそもの話、マシュさんを前線に出すという時点で、こちらの守りが手薄になる、ということについては既に考慮済みでですね?」
「……そうなの?」
「そうですよー、じゃなきゃか弱い琥珀さんがマシュさんを前線にー、なんてするわけないじゃないですかー!」
「かよ、」
「わい……?」
「そこで困惑されても困るのですがー!?」
彼女が語った内容は、そもそもマシュちゃんという、一人いれば防御面全ての心配を投げ出せるような人員を前線に投入している時点で、ある程度管制室の防御に関しては考えている、というもの。
実験室がデュエリスト案件な感じの技術が使われているように、この管制室に関してはまた別の技術体系を採用しているようで。
「その名も守護兵装アヴァロン!……いやー、アルトリアさんの協力あってのものとはいえ、まさかこれほどのモノが出来上がるとは私も思ってなか……いやなんですか皆さん?信じられないようなものを見たような顔をして?あ、もしかして鞘そのものと勘違いしていらっしゃいます?流石に観測もできていないような六次元以降とか、再現とか利用とか不可能なので四次元までしかシャットアウトできませんよ?」*5
「それでも大概じゃないかしらねそれ!?」
その技術体系というのが、いわゆる型月系の技術。
鞘の破片の一部、という聖遺物級の物品をアルトリアから提供された結果完成したそれは、流石に本物ほどの効果はなく、あくまで短時間管制室内を外界と非接続状態にする、というものらしいのだけど……これ、キーアちゃんが聞いたらあれこれとツッコミを入れていたでしょうね。
とりあえずは『なんで鞘持ってるのよアルトリアー!?』とか、『四次元までシャットアウトとか、時間遡行とかは防げるじゃんかー!?』とか、その辺り?
ともあれ、起動中はそもそもどこにも繋がっていない、という環境を用意できるそれは、マシュちゃん級とは言わずともかなり信頼性のある防御手段、ということができるでしょう。
そんなものを持ち出されては、シャナちゃんもその主張を引っ込めざるを得ず。
結果、前線に赴くのは琥珀ちゃんと紫ちゃんを除いた他の面々、ということになるのでした。
「見た目的には、かようさんもお残りになるべきなのでは、と思わなくもないのですが……」
「私結構身軽だし、タマモお姉さんも言っていた通り罠とかもあるかもだし。なにが起きるかわからないんだから、人手は多い方がいいよね?」
「実際問題、かようちゃんもタマモちゃんみたく空を跳べるタイプの人だからねぇ。滅多なことでは罠とかには捕まらないでしょうし、別にいいんじゃないかしら?」
それになにより、本人が張り切っているみたいだし。
そんな紫ちゃんの宣言により、かようちゃんもまた前線組となっている。……なにがあれって、この子仮にも
今はついてきていないけれど、存在が捻れている以上は他の面々──れんげちゃんや蝶と猫、それらの人員の追加もあり得なくはなく。
そうなればもはや百人力、並大抵の相手には遅れを取らないだろう、というのはわざわざ確認するまでもないこと。
ゆえに彼女が付いてくるのは、半ば確定事項だったわけなのです。
とまぁ、そんな感じにメンバーが選定されて行き、私達は巨大な森へと足を踏み入れたわけなのだけれど。
「……たーすーけーてー」
「想像以上に罠が多いです!?」
周囲から響くそんな声に、私は思わず天を仰ぐ羽目になるのでしたとさ。……いきなり口約束を破るしかないみたーい。