なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「ここがハセヲ君の家、って事だけど……」
『これはまた、セキュリティの高そうな場所に住んでいらっしゃるんですねぇ』
「そうか?普通だろ、こんなの」
ハセヲ君がこちらを軽く見た後、オートロックの扉を開けて中へと進んでいく。
取り残されると不味いので、そのまま彼の背を追って私達も中へ。
……大したことないだろって彼は言うけれど。
そこに住まう人々の性質上*1、ほぼ田舎での防犯意識と変わらないなりきり郷で暫く暮らしてきた身からすると、なんというか凄く久しぶりに文明の利器を見せ付けられた感がしなくもないというか……。
というかそもそもの話、姿形が憑依によって変わってるはずなのに、生体認証*2がしっかり動いてるのは一体どういう事なんですかね?
「さてな。ありゃ虹彩認証だから、目の方は元と変わってねーって事なんじゃねーの?」
「いや雑ぅ」
「認証?あれ、単に人間が立った事を確認してるだけじゃないの?」
「いやパイセン、そんな虞美人本人だとしても言わないようなボケはどうかと……いやこの人、中身的にはド田舎の人なのか……?!」
「????」
惚けたことをパイセンが述べるので、生体認証とかカルデア*3にも多分あったでしょうに。
……なんて風に思いながら声を掛けるが、当のパイセンは疑問符まみれの表情。
ハセヲ君も言っていたが、結構な頻度でぼかすか破裂するのである、この人。
本家本元のパイセンと違うことと言えば、破裂しても大して威力がなく、呪い自体もほとんど撒き散らしていない……と言うことだろうか?
……いやまぁ、気軽に目の前でスプラッタし始める、というのはそもそも大問題なわけだが、それ以上に『
なにかしら保護とかはされてるんだろうとは思うんだけど、そんな気軽にぼかんぼかんして本当になんの影響もないのだろうか……?とちょっと心配になるのである。
「私に聞くんじゃないわよ、私は私としてここに居るだけなんだから。……まぁ?なんとなく誰か混じってるような感じはするけど」
「いや雑ぅ」
『……せんぱいそれ気に入ったんですかぁ?』
パイセンから返ってきた言葉に思わずツッコミを入れる私と、それに呆れたように声をあげるBBちゃん。いやね、雑にツッコミ入れるの楽だなってなんない?
あれこれ考えるのは好きだけど、なんにも考えないのも、それはそれで好きなのだ私は。
……みたいな事を主張すると、みんな決まって変なモノを見る目を返してくるのだが。
「いやそりゃそうだろ、一行で矛盾してるじゃねーか」
「そう?設定とか考えるの大好きだけど、小難しいこと考えるのはあんまり好きじゃない……とか、よくあると思うけど」
「設定を考えるというのも、十分小難しい考え事だと思いますせんぱい……」
二人からの反応にほらね?
……なんて思いつつ、ごまかすようにみんなでハセヲ君の部屋に突撃するのでした。
「さて、まずはベッドの下からだねマシュ」
「そのせんぱい?お気持ちはわからないでも無いですが、そういうのはハセヲさんに悪いかと……」
「いや待て、なんで真っ先にそこを探そうとする?なんもねーよんなところにはっ」
彼の部屋に入った私達が最初に向かったのは、彼が寝起きしている寝室。
男
……そもそも男鰥なのは小説版のオーヴァン*5だし、ハセヲ君に不潔なイメージがない、だって?
そんなん実際に確かめるまではシュレディンガー*6やろがい!!
みたいな感じで最初に寝室に突撃したのだけれど、うーむ期待外れ。見た目は思春期少年でも、中身は言うほど思春期でもなかったということか。
……そもそもベッド下はロボット掃除機君が我が物顔で徘徊していたので、物なんて置くに置けないのは見てりゃわかったんだけどさ。
でもまぁ、男性の部屋に入ったんなら、礼儀として漁っておかねばなるまいて。
「何の礼儀だよ……つーか、マシュも一緒になって悪ノリしてんじゃねーよ、ビックリしただろうが」
「いえその、私マシュですがマシュではありませんので……」
「いやそれ便利な言い訳じゃねーからな?」
「
「いやなんで今ディスられた俺っ!?」
ハセヲ君からの問い掛けに、とりあえず真顔で彼を軽蔑()するマシュ。
ははは、マシュはごまかすの下手だなぁ。
なんて風に笑いつつ、私は私でスマホを取り出してゆかりんに連絡。
目的地に着いた事を知らせて、物品移送用のスキマを開いて貰う。
そうして、荷物をスキマに放ること暫し。
「ねーマシュ見て見てー」
「はい?どうされましたかせんぱい?」
「夜のとばり、朝のひばり。腐るような──夢のおわり。黄昏を喰らえ!【
「……凄まじくネタバレですし、掃除機扱いは流石にどうかと思いますせんぱい……」
開いたスキマを見詰めていたら思いついた事をマシュに話してみたら、ものの見事に呆れられた。
いやでも、SNSとかだとわりと早い段階から、彼の宝具と掃除機を絡めた絵とかあった気がするよ?
……え?それとこれとは話が違う?むぅ、じゃあ他の吸引系能力に変えるか、風穴*8とか。
「いやそもそも私のスキマを掃除機扱いするの止めないキーアちゃん?」
「私は君が時々面倒くさくなった時に、酒瓶とか捨てるのにスキマを有効活用していたのを忘れていないぞゆかりん」
「オーケーわかりました、幾ら欲しい?」
『はいはーい、遊んでなくていいのでお仕事しましょうねー』
そんな事を言ってたら、ゆかりんがスキマの扱いについての抗議をしてきたので、過去の彼女の所業を元に反論してあげたら、なんというか汚い大人の手を使い始めた。おのれ、金銭で懐柔とは卑怯な……!
なのでむむう……と唸っていたら、今度はBBちゃんに遊ぶなと怒られてしまった。
「これは私が悪いのか……?どう思いますぱいせ……パイセン?」
うーむ、手は動かしてたから問題はないと思っていたのだが。
みたいな気分でさっきから気配の消えていたパイセンに話を振ったのだが……いや、なんでソファーでゆったりと寛ぎながら、黙々とジャンプ読んでるんですかねこの人?
「最初に言ったでしょ、
「いや何時の気分で聞いてるんですかそれ?HUNTER×HUNTERなら休載が始まってから開始したソシャゲが、休載開ける前にサービス終了したってのがネタにされるくらいに、ずっと休載してますよ?」*10
「!?」
いやそんなに驚かれても。
……ホントにこの人どうなってるんだろうか?
そんな事を感じつつ、ハセヲ君の荷造りは続いていく──。
「と、いうわけで」
あれから特に山もなく、ハセヲ君の部屋の引き払いは滞りなく終了し、そのまま新幹線に乗って帰ることになった私達。
道中ちょっとした食べ歩きなんかもしていた為、なりきり郷に戻れたのは日もすっかり沈んでしまってからのことだった。
なので、本来ならそのままみんな解散して部屋に直帰、という話のはずだったんだけど……。
「お出かけの!会議をします!」
『わーい!水着イベントという事ですねー、きゃっふーっ!!』
こっちに来たばかりのハセヲ君の案内もそこそこに、ラットハウスに招かれた私達は、なんかやけにテンションの高いココアちゃんに誘われるがまま、今度の休みの予定を話し合って居るのだった。
……ふむ、ここでタイトル回収とな?
「君が何を言っているのかはわからないが、ちょっと泳ぎに……みたいな事になるというのは確かだね」
「お友達とか知り合いとか色んな人を誘って、ひと夏のアバンチュールを楽しんじゃうよー!!」
(なんかドヤ顔でアバンチュール*11とか言ってるけど、多分意味知らずに使ってるなこの子)
ココアちゃんがハイテンションなのを横目で見つつ、ライネスに詳細説明を希求。
……なんでも、夏ももう終わりなのに遊びに行けてない!……と、ココアちゃんが突然
んー、確かになりきり郷の外には行き辛いから、ここにない施設の筆頭であるプールとかは楽しめない、というのも宜なるかな。
いやでも、いちいち外に出ずとも地下のどっかに湖とかあるんじゃないの?ここ、そこらへん無茶苦茶だし。
なんて聞いたらライネスが苦笑している。……その理由を聞いて、私も流石に納得した。
「そっか、郷の中の自然ってヤベーとこばっかなのか……」
「一応そこに住んでる人達も、みんななりきり組だけどね。……それでも、罷り間違って不興を買った時に、戦闘能力皆無な私やココアには荷が重い、というわけだ」
「なーんで綺麗な湖とかある層の人に限って気性が荒いのか……」
郷内部の自然達は、基本的に憑依者が望むものを作った結果生まれたものだ。
それは裏を返すと、その自然は彼等の縄張りである、という事でもある。……そりゃ、迂闊に近付けないわ。大人数で押しかけるとか以ての外だろう。
とはいえ、本来であれば私達が外に出る、というのも宜しくない話だろう。
元々姿形が変わって普通の人々の輪に入れなくなった、という面も持ち合わせているのが私達だ。
お偉いさん方達的にも、あんまり目立つ行動はとって欲しくないだろう。……パイセン?やだなぁ、パイセンがその辺り気にできるならパイセンじゃないって。
「そこはかとなくバカにされているような気がするけれど……それで?そこの電脳魔にでも頼む気?」
「いやー、流石にBBちゃんに頼り過ぎなのもどうかと……下手するとルルハワ*12顕現させかねないし」
『え?……あ、あはははー、いやですねぇせんぱい?貴方の可愛い後輩が、そんな酷いことすると思ってたんですかぁ?』
「思ってたよーすっごい思ってたー」
『えーせんぱいひどーい』
(……なんでお互いに棒読み?)
そんなパイセンから、今日のようにBBちゃんにまたニューラライズ(動詞)して貰うのか、みたいな指摘が飛んできたのだが。
……それはちょっと、って感じにBBちゃんとイチャイチャ()していたら、ハセヲ君に怪訝そうな視線を向けられてしまった。……まぁ、わざとらしかったのは認める。
──結局、微妙に話が纏まり切らずに日を跨ぎそうになったところで解散になった、とだけは伝えておこう。
そんな感じで三章終了。引き続き幕間にて水着イベントをお楽しみ下さい。
……幕間に行った理由?ホントにただ水着着て遊ぶだけの予定だからですよ()