なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「この状況で、ゲームと言うと……」
「まさか、闇のゲーム……!?」
「そうそう、私が貴方達をガンギマリな顔で見つめながら、『走れ走れー、迷路の出口に向かってよー!』とか言って……って、そこまで非道じゃないわよ私も!」*1
「誰もそこまで言うてへんわっ!?」
私の口から飛び出したゲームという言葉に、一様に不安げな顔を見せるみんな。
その態度に思わずノリノリになっちゃったけど……そういう危ないのじゃないですーと溢せば、何人かはあからさまにほっとしたような表情を浮かべていたのでした。
……いやまぁ、私の存在的な区分って、人類の敵対者・すなわち魔王なんだから、そういう警戒は間違いじゃないとは思うんだけどね?
「むぅー、こういう時はどっちかといえば、手伝ってくれるってところに注目して『やったー!お母さん大好きー!』とか言って貰えれば嬉しかったんだけど……」
「……ヤッターオカアサンダイスキー」
「なにその清々しいまでの棒読み!?」
「棒読みと言うよりは、トラウマを思い出して片言になった、って感じの台詞ね……」
ここは、手伝ってくれるという優しいお母さん(二回行動とか全体攻撃とかしてくれそうなやつ)に感謝するところじゃないのかなー、と思った私なのですが。
……母、というワードによって、なにかトラウマスイッチ的なモノが入ったらしいタマモちゃんの様子に、そんなことを言っている場合ではなくなってしまうのでした。
「ウチは……ウチは……赤ちゃんやない……?」
「そうです、しっかりしてくださいタマモさん!!」
ゲームをするような状況でもなく、タマモちゃんを全員で介抱すること暫し。
虚ろな目から光を取り戻したタマモちゃんは、小さく頭を振りながら元に戻ったことをこちらに知らせてくるのでした。
……なお私は正座で反省させられています。なんでー?
「なんでもなにも、貴方がタマモのトラウマを刺激したからでしょ?」
「ええ……母親にトラウマとかどういうことなの……?」
母と言えば全てを包む大地、それに恐怖を抱くとかワケわかんないのだけれど……?
ともあれ、タマモちゃんも元に戻ったので、正座を解いてちゃんと立つ私である。……いやまぁ、浮いてたから痛かったり痺れたりとかはないんだけどね?
「むぅ、ずるいと言うべきか、そのおかげで時短できそうだからありがとうって言うべきなのか……どっちなのかなー、これ?」
「笑えばいいんじゃない?」
「え?」
「え」
(ジェネレーションギャップ、というやつですね……)
そんな私の様子を見て、かようちゃんがむむむと唸っていたのは、偏に『私が協力した時に得られるモノ』を、端的に示していたからだろう。
……と、言うのも。さっきから罠にはまっているのは、
それもそのはず、今の私は当たり判定を消しているため、罠の起動条件を満たしていないのだ。
……まぁ、地面との接触判定ごと消しているため、常に空を飛び続ける必要もあるのだけど。
重力の判定も無視しているから、実際には無重力・星の引力に引かれることはないけれど……代わりに、どこにも接触できないってことは、推力とか自分で生み出さなきゃいけない……ってことでもあるわけだし。*2
まぁともかく、独特の操作感に慣れて貰う必要こそあれど、確実に罠を無視できる今の私の状態……と言うのは、今の彼女達に取っては喉から手が出るほど欲しいモノ……かどうかはまぁ微妙だけど、ともあれあって困るものではないというのは確かなわけで。
「ゆえに、私に挑んできなさい娘達!私は戦闘ではすぐ負けるし頭脳勝負でもポンコツだぞー!」
「えー……」
「……そこで嫌そうな顔をされると、キリアんちょっとへこむなー……」
「あ、母モードではなくなりました。今こそ畳み掛けましょう!」
「おー!」
「えぇ……?」
だからこそ、心を鬼にして
思春期の娘に嫌われるってこんな感じかなー、みたいな感想もでないではないけど、それ以上になんかしらけた*3というかなんと言うか……。
そうして
「ふふふ、私を倒してもいずれ第二・第三の魔王がうんぬんかんぬん……」*4
「ほ、本当に弱い……」
「単に勝つだけならなんとでもなる、ってのは本当だったのね……」
カードをばらまきながら地に伏せる私を前に、かようちゃんとシャナちゃんの二人が唖然としたような表情で言葉を交わしている。
それもそのはず、時間的余裕がそこまであるわけでもない……ということで選ばれたトランプゲーム・ブラックジャックでの勝負は、全て私がバーストする……という形で決着が付いていたのだから。*5
四人のうち三人が勝てばそちらの勝利、という形で始まったゲームは、最初の一・二戦こそ慎重に、カードを見極めて引いていく……という基本を守っていた彼女達だけど。
その二戦とも勝手にバーストしていった私の姿に、以前キーアちゃんが言っていたことを思い出したのか。
三戦目のタマモちゃんが「まさかなー」みたいな顔で初手スタンド*6をしたところ、親側のルールに則った私は綺麗にバーストしたのでありました。……もはや不戦勝みたいなモノですね(白目)
まぁ、私が『協力しようかな?』って言った時点で、ある意味確定していた結末なので、こちら側に特に思うことはないわけなのですが。
「……こちらのルールとは別のルールで生きているんだ、って改めて実感させられるわね……」
「そりゃまぁ、本来ならここには居ないはずの人ですので。負けとか別に全然悔しくないいえ悔しいけどそれを呑み込むのが私達なのよ!お分かり!?」
「突然逆上しないでください!?」
でも別に悔しくないわけじゃないから、そのうちまたリベンジしてやるからなー!覚えとけよー!!……なんて捨て台詞を吐く私なのでした。
「ではお一つお立ち会い。浮きまーす」
「ああなるほど、『空を飛ぶ程度の能力』……」
みんなの手を繋いで、能力起動。
それがなにを元にした能力なのか気が付いたシャナちゃんが、嗚呼と声を溢していたけれど……まさしくその通り。
私一人だけを対象とするのなら、他の方法もなくはないのだけれど。
複数人を一度に対象として、効果を発揮させようと思うのであれば……既存の能力を使った方が
特に、私とかキーアちゃんが使う『虚無』は
なので、既存のモノで似たようなことができる技能──霊夢ちゃんが持つ『空を飛ぶ程度の能力』を間借りしている、というわけなのでありました。*8
本人が居たらどういう反応をするか、みたいな問題はあるけれど……今のところこの世界には居ないみたいだし、大丈夫よねたぶん!
「まぁ、紫ちゃんの前で使うのは止めた方がいい……ってのは確かなんだけどねー」
「まぁ、喧嘩売ってるみたいなもんやしなー」
みんなで空を飛びながら、ぐだぐだと管を巻く。
今回のメンバーに、もし紫ちゃんが混じっていたのであれば、私もまた別の方法を考えたでしょう。
……今の彼女は本来の八雲紫とはずれているけれど、それでも大切な相手である霊夢ちゃんの能力を勝手に使った、となれば愚痴の一つや二つ、飛んできてもおかしくはないわけなのだし。
まぁ本人度が高かったら、問答無用で殺しに掛かってこられてもおかしくはないのだけれど。……コピー能力系って、そういうところで恨みを買うから大変よねー。
なお、後々報告の時に、仮に向かってくるなら全力でおもてなしするわよ……と言ったら、『ぜっっっったいにやんないわよっ!!?』と返されてしまった、ということもここに合わせて記しておきます。……敵対するのって難しいわねー。