なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「いやちょっ、色々待ってください!?」
「因みに元々このなりきり郷に居た人よ、タイミングとかいい感じだから呼んどきました☆」
「いきなり謎のゲートに吸い込まれた時には、一体どうなることかと思ったが……俺の力が求められているのなら、喜んで手助けしよう」
「いや意味わからへんのやけど!?」
突如現れたデュエルチャンプ、もとい蟹……もとい不動遊星に、絶賛混乱中となる面々。
……そんなに驚くことかしらね?『スターダスト・ドラゴン』がそこにあるのだから、彼が出てくるのはとても自然なことだと思うのだけれど。
そんなこちらの言葉に反論を述べるのは、タマモちゃんである。曰く、状況の繋がりが意味不明なのでちゃんと説明せい、とのこと。
「いや、意味不明もなにも、このモーメントと『スターダスト・ドラゴン』に関係があるのなら、もっと関係性の強い人を間に入れることで、こちらの望む方向に軌道修正を図る……っていうのは、いつもの対処法ってやつになるんじゃないの……?」
「大雑把に言ってしまえば、ここで『スターダスト・ドラゴン』を打ち負かすことで、暴走の危険を抑えよう……ということらしい」
「え、ええー……」
「まさにデュエル脳、ってやつね」*1
この『スターダスト・ドラゴン』はこの遊星君が持っているモノではなく、どちらかと言えば
とはいえ、『スターダスト・ドラゴン』と聞いて他人が思い浮かべることと言えば、
……要するに、関係性の強度が『彼が使う』方が強いので、それによって制御システムをこっちの思う通りにしてしまおう、というのが今回の対処法である。
「ただねー、この方法には一つ問題があってねー」
「は?問題?」
とはいえ、それだと
こちらがなにを言おうとしているのか、薄々ながら察したマシュちゃんがカタカタと震えているけれど、それに対して遊星君は苦笑を浮かべながら、デュエルディスクの様子を確認するばかり。
「──スターダストも、俺に本気を求めている。お前が己にとっての主であると認めさせろと、俺に訴えかけて来ている。──意味は、わかるよな?」
「え、えーと。それってつまり……」
「半端な態度は許さない。例え俺とスターダストの繋がりが強固だとしても、ここにいるスターダストは
「意訳すると、私と本気でデュエルしませんか、だねー」
「え、ええー!?」
不敵に笑う遊星君は、この状況すらも楽しんでいるかのような様子なのであった。……巻き込まれた方は堪ったもんじゃない?せやねー!
「……わりと真面目に意味がわからへん」
「す、すいませんタマモさん!!もしかして、お、重かったでしょうか……?!」
「いやマシュは軽い軽い。マシュマロみたいなもんやから気にせんでええ。……いや、ウチがツッコミたいのはそこちゃうくてな?」
周囲に響き渡るのは、バイクのエンジン音ともう一つ。
その音を聞きながら、両者は試合開始の宣言を今か今かと待ち続けている。
そのうちの片方──マシュちゃんは、響くタマモちゃんの言葉に、恐縮そうな様子を保ち続けているのだった。
突然発生した、デュエル・チャンプである遊星君との勝負。……ここで問題となったのが、今回のメンバーの中にデュエリストがほとんど居なかったこと、なのであった。
「いや、ウチはよーわからんし……」
「私も、触りとかは知ってるけど、詳しい遊び方はなんとも」
「でゅえる?かーど?……なにそれ?」
上から順に、タマモちゃん・シャナちゃん・かようちゃんの反応だが……うん、こんなこと言ってる相手が戦う相手ではない、というのは流石に猿でもわかる。*3
……そういうわけで、栄えあるデュエル・チャンプとの対戦相手に選ばれたのが……。
「え、ええ!?わわわ私ですかっ!?」
「キリエライト、聞いた話ではジャックとも、一戦と言わず交えているらしいな。話では、中々のデュエルタクティクスを持つとも聞く」
「き、恐縮です……」
以前、遊星君のライバルでもあるデュエリスト、ジャック・アトラスともデュエルをしたことがあるというマシュ・キリエライト、その人だったのだ。
……まぁご覧の通り、超恐縮していたわけなのだけれど。
だってそりゃそうでしょう。
遊星君と言えば、『遊☆戯☆王5D's』の主人公であり、チーム5D'sのリーダーであり、絆の力で破滅の未来に打ち勝った人物であり、そして作中のデュエル・チャンプにしてモーメントの暴走を抑制する装置を開発した技術者である。
基本的には真面目でありながら、直接戦闘も昇竜拳の空中キャンセルから蹴り落とし、そこから着地してのジャブ→ストレート→ハイキックのコンボを決める、などの戦闘力を誇り。*4
作中においてはデュエルディスクであり移動の足でもある、Dホイールを一から自作する、なんて風にメカ方面にも強い。*5
それでいて驕り高ぶるわけでもなく、絆を大事にする好青年だというのだから、どこのチート主人公だよとツッコミたくなることうけあいというか。
……そもそも遊戯王と言えば『闇落ち』なんて言われるほど、メンタル面にもあれこれダメージを与えてくる作品なのにも関わらず、少なくとも本編中には闇落ちしなかった唯一の主人公、だというのだからなおのことである。……いやまぁ、別に心の闇がなかったわけではないみたいだけども。*6
ともあれ、そんな人物なのが遊星君なのである。
アニメ放送が既に何年も前のものだというのに、未だに根強い人気を持っていることからも、彼の人望などについては疑う余地もない、というのは明らかな話だ。
なので、そんな人物とデュエルをする……というのは、普通の一般デュエリストからしてみれば、そりゃあもう下手をすると卒倒するレベルのモノ、ということになるのであります。
……いやまぁ、感動で卒倒しそう、というのは他の主人公達でもそう変わらないとは思うけど。
でもまぁ、初期三作の主人公達が、なんとなく別格扱いになっている……というのはたしかな話。
そういう意味では、キーアちゃんの方の榊君なんかは、幾分気の抜ける相手である感もなくはないのかもしれないわねー。……彼自身、遊戯君辺りとのデュエルは緊張感で舌が回らなくなる、とか言ってたらしいし。
……そんな面々に後方師匠面で成長を見守られている人がいる?一体どのハーミーズなんだ……?
冗談はともかく、彼らがマシュちゃんにとって雲の上のような人、というのは確かな話。……恐れ多い、と提案を辞退したくなる気分もまぁ、わからないでもない。
──が、ここでその退路を阻むのが、彼らが所詮は
遊星君も「俺もまだ志半ばの身。お互いに学ぶことも多いはずだ」とかいつもの彼の調子で告げるように、そこまで恐縮する必要はない、というのは確かな話なのだ。確かに彼は不動遊星だが、しかして不動遊星である前になりきり、なのである。……え?その言い方だと
まぁともかく、緊張する必要はない……と彼が告げることは変わりない。なんなら、先程話題にあげていた話から膨らませて、
「……ジャックとはデュエルしたのに、俺とはデュエルしてくれないのか……」
なんて風に言われてしまえば、思わずマシュちゃんが「う゛」と呻いてしまうのも致し方なし。……ちょっとしゅん、としているのだから破壊力は二倍、という寸法である。
結果、そうして追い詰められたマシュちゃんは、根気負けして折れることとなったのでした。……どっちにしろ、彼女以外に対戦相手になりうる人間もいないので、半ば規定事項でもあったわけだし。
ともあれ、晴れて二人のデュエルが決まったわけなのだけれど……ここで問題となるのが、どういうデュエルにするか、という部分。
「どうって……デュエルっちゅーのは、普通に座ってやるもんとちゃうんか?」
「それは初代も初代、それも最初の方だけの話よタマモちゃん。デュエリストはイメージで補う必要はないのよ?」*8
「……なんか、別の話しとらへんか?」
「おおっと」
あまり遊戯王に詳しくないタマモちゃんからは、そんな疑問が提示されたわけなのだけれど……。
いわゆるカードゲームとは、基本的には座ってやるものと相場が決まっている。
それは、カードゲームは元々テーブルゲームであったがため。トレーディングカードゲームの元祖であるマジック・ザ・ギャザリングがそうであるように、基本的には卓上の遊戯なのである。
その壁を打ち壊したのが、なにを隠そう遊戯王……ひいてはデュエルディスクなのだ。*9
「考え方としては、カードを固定してくれる小さな机を持ち運ぶ、って感じよね。だけどだからこそ、立ったまま遊ぶこと、絵面的には地味なカードゲームに、人の動きなどの華を持たせることができるようになった、ってわけ」
「へー……」
日本におけるカードゲームとは、基本的に子供向けのモノである。*10最近でこそ一枚が万を越えるような高額カードも現れて来たが、基本的には
それゆえに、座ってあれこれとやるカードゲームというのは、子供にとっては精々絵柄のカッコよさが目を引く、くらいのものでしかなかった。基本的に座ってジッとできない子供達にとって、カードゲームとは楽しい遊びではなかったのである。
それを遊戯王は、立って遊ぶということで子供の目を惹くものとした。
実際にカードで遊ぶ時は座ってやるとしても、キャラクター達のなりきりアイテムとしての性質を獲得したのである。
この『立って遊ぶ』というのはとかく画期的で、後年のカードゲーム達もその影響を如実に受けていることは確実。……敢えて座って遊ぶということが特徴になるくらい、カードゲームのアニメにおいては『立って遊ぶ』ということがスタンダード化したくらいなのだから、その影響力は推して測るべし……というやつでしょう。
……まぁ、その辺りは長くなるので置いとくとして。
ともかく、遊戯王において座って遊ぶ、というのはナンセンス。
そうなれば、立って遊ぶのが道理、ということになるのだけれど……。
「それもまぁ、三作目となればプレイヤーが
「一応攻撃を受けた時に吹っ飛ぶとか、リアクションは色々あったんだけどねー」
「はぁ、なるほど。つまりはマンネリ化した、っちゅーことか」
「そうそう。それでね、都合三作目──『遊☆戯☆王5D's』にて導入されたモノがね……?」
そうして、時間は今へ戻る。
立ったままでは見映えが悪いと言うのであれば、動かすのが一番。……そんな感じの会議があったのかは定かではないけど、ともあれ三作目になって導入されたのが、さっきから何度か話題に出ている『乗れるデュエルディスク』、すなわち、
これは単純なデュエルに加え、バイクによるレース要素も取り入れたモノであり、発表当初は『バイクに乗ってデュエルだと?ふざけやがって!』とばかりに非難を浴びたのだけれど……。
「最終的には『どうしてDホイールと合体しないんだ……』と言われるくらいに浸透したのよ、マジで」
「なぁ、何個か間飛ばしてへんかその説明?!」
「ソンナコトナイヨー」
「嘘つけぇ!!」
最終的には順応力の化身であるデュエリスト達、普通に受け入れることとなったのだった。
……なのでまぁ、遊星君相手にデュエルを行うのであれば、Dホイールに乗ったデュエル・通称ライディングデュエルで行うのが筋、というやつだろう。
ただまぁ、ここでも問題が一つ。
マシュちゃんはデュエルディスクこそ持っているけれど、流石にDホイールまでは所持していない。これではライディングデュエルなんて夢のまた夢、なんて風に思っていたのだけれど……。
「なるほどな。確かに、
「ああはい、どうぞどうぞ」
目の前に広がる光景。それを見た遊星君は、得心したように頷いたあと、一つの台詞を口に出した。それは、
「……馬に乗ってライディングデュエルだと、ふざけやがって!!」*11
「わぁ、闇落ちしそうな台詞」*12
「だな。……ところで、大丈夫かタマ?」
「……これが大丈夫に見えるんなら眼科行けぇー!!」
思わず、とばかりに吠える声。
馬の嘶きと共にあがったそれは、なにを隠そう