なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「な、なんとか勝利することができました……」
「すごいな、キリエライトは。……俺も、もう少し自分を見つめ直す必要があるな」
最初から全力全開でぐるぐるとデッキを回していた遊星君に対し、なんとかして勝利をもぎ取ったマシュちゃん。……いやまぁ、途中で遊星君の手札が事故っていたみたいなので、その隙を付いた結果どうにか勝利した……ということであって、もう一度やったら勝てるかどうかはわからない、とも言っていたけれど。実際、遊星君の再現度がもっと高かったら、恐らくは事故とかしなかっただろうし。*1
ともあれ、恐らくは話数にして二・三話くらい掛かってそうな勝負は、こうして幕を閉じたのでありました。……え?デュエルの詳しい描写?
冗談はさておき、このデュエルによって『スターダスト・ドラゴン』は、勝敗はどうあれ遊星君を己の主と認めたようで、その結果として彼……彼女?を制御装置としていたモーメントは、静かにその動作を止めたのでございます。*3
勝った!第三部完!*4……まぁ当初の予想通り、発電施設を止めても特に事態は解決しなかったんですけどね!!
「……戻りませんね」
「ウチは戻ったで!」
「いえ、それは見ればわかります」
「……
動きを止めたモーメントをあとにして、建物から外に出た時の二人の会話である。
……そもそもタマモちゃんに関しては、デュエルの終了時には元に戻っていたので、これに関しては単に場を和ませようとした、というだけの言葉なのだろうけど……なんというか微妙に滑ったみたいな感じになってしまったため、ショボーンと落ち込んでしまっていたのでした。
なおこのタマモちゃん、さっきのデュエルでは大活躍。『なんや、ウチの中に知らん光景が溢れてくる……これは……見えた!水の一滴!』*5とかなんとか言いながら赤く輝く流星となった彼女は、遥か手前を先行する遊星君に追い付いて見せたどころか、マシュちゃんに逆転の札を引かせたりもしていたのだから。
そういう活躍を見るに、恐らくは一時的に『赤き竜』の力を授かっていた、とかが真実だと思うのだけれど……みんなはクロス・フィールだの
……最初の時点でクリアマインドじゃなくて明鏡止水扱いしてる辺り、半ば自業自得のような気がしないでもないけど、まぁそれはそれとして。
モーメントがその動きを止めたことにより、周囲を練り歩いていたピカチュウ達も行動を停止。……なんで?って問い掛けたところ、リーダー格のピカチュウ(さっきタマモちゃん達に付いていってた子)からは、『電気がいっぱいあるところではくるくる回りたくなるんだ』みたいな、なんとも言えない答えを返されることとなったのでした。……要するに、『お祭りだー!ワッショイ!』みたいな感じだったらしい。
その祭りも、主役である
現地解散、とばかりにぞろぞろと森の中へと消えていくピカチュウ達を見送りつつ、なんだったんだろうと首を捻ることになる私達なのでありましたとさ。
「ぴーか、ぴかぴーか」
「……いや、なんで残っとんねん自分?」
「面白そうだから付いてく、って言ってるわよ?」
「マジでか」
「うん、マジもマジ。……っていうか、さっきまで会話できてたじゃないの、貴方」
なお、リーダー格のピカチュウだけは、面白そうとの理由でこちらへの同行を決めたようで、他のピカチュウ達を見送った後にタマモちゃんの頭の上へと駆け上がって行ったのでした。
ついでに言うと、タマモちゃんが動物会話を獲得するのは馬モードの時のみ、という事実も明らかになったり。本人は『その姿でしかできへんことがある、言うんはそのうちまたその姿になる必要がある、言う意味やんか!』と絶望していたけど……まぁ、仕方ないね。
ともあれ、とりあえず当初の目的は達成したため、紫ちゃん達の待つ管制室へと戻ることにする私達。
道中の罠に関しては、どうにも仕掛けられているのが『罠カード』である、ということにタマモちゃんの頭の上のピカチュウちゃんが気付いたため、デュエリスト二人がカウンター罠で逐次破壊していく、という手段を取ることとなった。……カウンター罠限定なのは、こちらからは相手が見えないので、勝手に発動タイミングが来たら教えてくれる&スペルスピードの問題で安全に相手を無力化できるのがカウンター罠だったから……というところが大きかったり。
「場所がわかっているのなら、別にサイクロンでも破壊できるみたいなのですが……」
「こちらが相手の存在に気付けるのは、基本
ここの罠達は、引っ掛かるまでその存在に気が付くことができない。ピカチュウちゃんは、静電気かなにかでそれの存在に気が付いたみたいだけど……それを人間が真似をする、というのは無理がある。
そういう意味で、こちらができるのは基本的に事が起きたあとの対処、ということになる。……その考え方からすると、後に発動したモノが優先される、という逆順処理により、発動したという事実を無効にして破壊できるカードが望ましい。
そしてこれは相手が罠カードである、ということがわかったからこその情報なのだが……仕掛けられている罠は、全てスペルスピードが『3』……すなわちカウンター罠カードなのだ。*8
幸いにして、発動条件は全て『こちらが罠に触れた時』となっており、マシュちゃんの言う通り
結果として、彼女達はデッキにカウンター罠を投入しまくって、とりあえずフィールドに伏せる……という行為を繰り返していたのだった。……まぁ、進めるだけマシだけど、行きと比べると牛歩と呼ばざるをえまい。
「まぁ、私の手伝いはあくまでも行きだけ、だから仕方ないんだけどね」
「行きはよいよい帰りは怖い……ってこと?」
なお、こんな面倒な進み方をしているのは、基本的に私が手伝うのは行きだけ、と予め伝えていたからだったり。
帰りも手伝って欲しい場合は別口になります……と伝えてあったので、結局事態が解決しなかった今の状況でその手札を切るのは時期尚早……と判断した皆が、別の解法を探した結果がこれ、というわけなのでした。
……え?ピカチュウちゃんの言葉をみんなに伝え、仕掛けられているのが罠カードである、と知らせたのは手伝いじゃないのか、ですって?私はたまたま、ピカチュウちゃんの言葉を反芻しただけですので。そもそも手伝う気概があったのはピカチュウちゃん側であって、私は単に見守っているだけなのであしからず。
なお、そんな私の言葉を聞いたシャナちゃんは、『詭弁過ぎるんじゃ?』と溢していたけれど……それにはこう答えて起きましょう。『父の愛からは、巣立ちするべき』だと。
「……父の愛?」
「大地を母とするのなら、神は父になる……ってこと。
「……いきなりまともなこと言うの止めない?」
「あれー!?私今いいこと言ったはずなのに、なにその反応ー!?」
要するに、復興支援などで『単にお金を撒くのはよくない』と言われるのと同じようなことである。
物を与える、というのはすなわち相手を庇護すること。そして庇護とは、裏を返せば相手の成長の芽を断つ……ということにも繋がるものだ。
本来、衣食住の確保や身の安全の確保というのは、その人自身が汗水を垂らして獲得すべきものである。
それを与えてくれる相手──すなわち父長というのは、すなわち与えられる相手からしてみれば神のようなもの、と判断することもできるわけで。
ゆえにこそ、人はいつか父の庇護から離れ、自分一人で生きていくことを求められる。──いずれ次代の子の
……みたいな、結構ためになるというか含蓄に溢れているというか、そんな感じのことを言ったはずなのにも関わらず。シャナちゃんから返ってくるのは、気味が悪いとでも言うかのような態度。『それはキリアお姉さんの積み重ねた業、ってやつじゃないかなー』とかようちゃんに告げられ、思わず膝から崩れ落ちることになる私なのでした……。