なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……なんか増えてる!?」
「ぴかぴかぴー」
「どうにも大変そうだからな。俺も、喜んで手伝わせて貰おう」
管制室に戻った私達を迎えた紫ちゃんは、まず外の様子を見て事態が解決していないことを知って、少し肩を落とし。
その次に、何故か行きの時よりもメンバーが増えていることに気が付き、なんで!?とばかりに驚愕の声をあげるのだった。……まぁ、人が増えれば増えるだけ、色々と問題が起こる可能性も増えるのだからさもありなん。
とはいえ、今現在の状態で人手が足りていたか?……と言われるとノーと答えるしかなく、結局は二人の合流を喜ぶことになるのだけれど。……なお、ピカチュウちゃんの処遇。
「……ライネスちゃんのところの子とは、別の子なのよね?」
「みたいだねぇ。ほぼ野生、というべきかなー」
「ぴか、ぴかぴーか、ぴっぴかちゅー」
「……なに言うとるかわからんけど、多分ちょっと喜んどるんやろな」
「他のお仲間が居るのが知れて嬉しい、みたいな感じかなー?」
ピカチュウちゃんを囲んで、あれこれと会話する私達。
……なりきり郷におけるピカチュウ、と言うと既にライネスちゃんのところのピカチュウ──もといトリムマウが居るけれど……あっちの方は中身が『逆憑依』であり、こっちの方はどこからかやってきた野生ポケモンなので、結構違うといえるだろう。
「……そもそもの話、この子の出身ってどこなの……?」
「……さあ?」
ピカチュウちゃんの頭を撫でながら、むぅと唸る紫ちゃん。
一応この森、扱いとしてはフィールド魔法によって変化したもの、ということになっているはずなのだけれど。
さっき他のピカチュウ達が、森の中へと消えていったように。……どうにも独自の生態系が構築されているというか、こちらとは
……そこら辺どうなんだろなー、という空気がみんなの間に漂い始めているのであります。
だって、ねぇ?
もし仮に、この森があくまでもソリッドビジョンでしかない、というのであれば……今ここにいるこの子もまた、虚実──作り物であるということになる。
実はこのピカチュウちゃん、まさかまさかの精霊界の住人だったりして。ここにいるのはあくまでも、フィールド魔法の効果によって呼び出されているだけのことであって。そのフィールド魔法が効力を失えば、連鎖するように元の世界に戻っていくのだ……なんていう予想も立てられなくはないけれども。
「……それにしては、なんというかこうこっちの世界に馴染みすぎ、なのよねぇ」
「ぴかー?」
「馴染みすぎ……と、言いますと?」
「破綻がない、というべきなのかしら。……ぶっちゃけると
いつの間にか、ナチュラルにピカチュウちゃんを抱き抱えた紫ちゃんが、その後頭部に顔を埋めながら声をあげる。*1
当のピカチュウちゃんは、擽ったそうに体を捩らせ喜んでいるけれど……周囲で見ている面々はどこか羨ましそうな感じ、というか。
そんな状況で真面目な話をしているものだから、話を切り出したマシュちゃんもなんとも微妙な表情を浮かべているけれど、それに気付いた様子もなく紫ちゃんは話を続けていく。
「それって貴方の能力的な見地からの発言、ってこと?」
「んー……そんな感じ、かな。『逆憑依』達はどことなく揺らぎがあるし、【顕象】達だって似たようなもの。──そうねぇ、そこらの犬猫達に近いような、そんな感じの空気……って感じかしら」
彼女が語るところによれば、このピカチュウちゃんには他所から来たもの特有の空気、というものが感じられないのだという。
その空気感は寧ろ、そこらで普通に生きている野生動物達のそれに近い、とも。
言うなれば、当たり前にそこにいて、当たり前に生きている者達の空気感。どこからかやってきた外来種ではなく、そこにずっといた在来種の空気。
言うなれば、このピカチュウちゃんはそこらの原っぱで普通に遭遇してもおかしくない空気感を纏っている、ということである。
「……つまり、この世界はポケモン世界だったと言うことですか……!?」
「いや、それは流石に論理が飛躍しすぎよ……」
「あれー?」
そんな紫ちゃんの言葉に、はっとした表情で声をあげる琥珀ちゃん。……その論理が罷り通ると、この世界にどこぞの
ともあれ、纏う空気が普通すぎて逆に普通じゃない……という、お前どこの似非一般人だよ、みたいなことになっているのが、このピカチュウちゃんだとのこと。*3
ただそれが、あくまでもこのピカチュウちゃんだけが特別なのか、はたまた他のピカチュウちゃん達も特別だったのかは、直接見ていないのでわからない……という風に、彼女は言葉を締めるのでありました。
「……ふむ、となると……もう一度会いに行くしかない、ということになるんじゃないのか?」
「そうね。今のところ、こちらにこの事態を解決する手掛かりはなし。……となれば、紫の直感を信じるくらいしか、私達にできることは無いとも言えるわね」
「……あ、あれ?なんか私を外に連れていく、みたいな話になり始めてないかしら……?」
その話を聞いて、次の行動を模索するのは遊星君とシャナちゃんである。
確かに、行きも帰りも罠カードによる妨害はあったものの、逆に言えばめぼしい妨害というのは、それくらいのものでしかなかった。
当初危惧していたような、管制室で待っていた紫ちゃんが危険な目に遭う……というようなこともなく、この事態を引き起こしたと思われる相手からのアプローチは、もはや無きに等しい。
となれば、手掛かりの一つも見付かっていない現状、それを打破する鍵となりそうなのは紫ちゃんの直感──それによる違和感くらいしかない、ということになる。
……とまぁ、そこまでお膳立てされてしまえば、管制室から紫ちゃんを連れ出す、という選択肢が出てくるのは必然のこと。
少し青い顔で『あれ?もしかして私余計なこと言った?』みたいなことを思っていそうな彼女は、ふるふると顔を左右に振りながら、じりじりと後退していくのでありました。
──無論、そんな風に逃げようとする彼女を、みすみす*4見逃がしてしまうような彼ら彼女らではなく。
「わ、私は地上に向かったコナン君からの連絡とかも、ほら、待ってなきゃいけないし、ね……?」
「あ、それなら私が残ります
今ここに居ないコナン君は、
なので、そんな彼からの連絡を受ける人が残ってなければいけない……という、かなり苦しい言い訳を彼女はしていたのだけれど。
どちらにせよここは地下千階。彼が連絡を寄越すには、こちらに直接赴く他無く。
それならば、ここに書き置きの一つでも残して置けば、特に問題はないでしょう……というシャナちゃんの言葉によって、あっさりと却下されるのであった。
……ついでに、ちゃっかり自分だけ残ろうとしていた琥珀ちゃんの方も、マシュちゃんからの却下宣言を受け、肩を竦めて大笑いしていたり。もはやどうにでもなーれ、的な?
ともあれ、会話についてはそんな感じ。
コナン君が救援を連れて戻ってくるには、相応の時間が掛かるだろう。
彼本人は、その身軽さと琥珀ちゃんからの道具貸し出しにより、普通に地上に向かえただろうけど……帰りは他に人が増えるということになれば、もはや行きのように簡単にはいかず、罠に引っ掛かる可能性も高くなってくることだろう。
琥珀ちゃんの貸し出した道具は、あくまで対象が個人限定な『よくないことに出会わない』道具。……人が増えれば勿論無用の長物*5であるので、行きには気付かなかった罠達には、帰り際に改めて気が付く……ということになるはず。
それはつまり、彼は早々戻ってこないということ。
地下千階では転移も使えないようになっているのだから、地道に足で稼いで帰ってくるしかないとなれば、合流できるのは大分先の話となるだろう。
そこまで考えれば、この管制室で無為に待ち続けるのは時間の無駄遣い、ということにもたどり着くわけで。
「き、強制労働はんたーい!!」
「喧しいわよ、素直に着いてきなさい」
「シャナちゃんが辛辣なんだけど、私なにかした!?」
……あわれ紫ちゃんは、過酷な肉体労働を強制されることとなるのでしたとさ。……恨まれてる云々の話?そりゃまぁ組織のトップなんだから、しがらみなんて持ってて当然なんじゃない?としか。
「そんな理不尽なー!?」
「はいはい。愚痴とかはキーアちゃんにどうぞー」
「なるほどお酒ね!ならいいわ!」
「……あれー?」
なお、その流れ弾により、彼女の愚痴酒に付き合うことになった人が一名居たりするのだけれど……まぁ、些細なことよね!
……なんて、どこからか聞こえた気のするくしゃみを聞き流しながら、私達は再び森の中へと進み始めるのでした。