なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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幕間・アバターとは、化身である。──偽りの体である

「……人類、悪……!?」

「おおっと、別に君達と争うつもりはないんだ。そこのところはわかって欲しい」

 

 

 宣言と同時、小柄な少年の姿へと変じた彼の姿を見て、シャナちゃんは驚愕しながらも刀を構えようとするが……いつの間にか彼が目の前にいて、刀の柄の頭を押さえられていることに気付き、更に驚愕を深めることとなる。

 

 

(見えなかった……!?いえ、それよりも……)

「抜かないでおくれよ?僕はそこまで強い神ではないからね」

「どの口が……っ」

「いやまぁ、『少彦名命』と言えばどちらかと言えば知謀の神。他の神々と比べたら弱い、ってのは間違いじゃないと思うわよ?」*1

 

 

 ()()()()()()()()()()()自分の体の異変に呻きつつ、それでも相手を睨み付けるシャナちゃんである。

 でもまぁ、無理もない。ここにいる彼は、恐らくはなりきりでもなんでもない正真正銘の神の()御霊(みたま)*2……文字通り格が違うので、その神威(しんい)によって動けなくなるのは仕方ないのである。

 

 それは、他の面々についても同じこと。

 赤き竜という神に触れていたことのある遊星君も、その経験はここにいる彼にはフィードバックされきってはおらず、苦々しく顔を歪めるだけに留まっているし。

 普段はおちゃらけている琥珀ちゃんにしても、流石に本物の神様相手は分が悪いのか、顔を青褪めさせて尻餅をついてしまっている。

 

 ……もしこれが、本格的な対ビースト戦闘であれば、為す術もなく全滅してしまっていたところだろう。そういう意味で、彼の発言はありがたいものだとも言えるのでした。

 

 

「び、ビーストということは……」

「ああ、そこは心配しなくていい。僕のそれも、所詮はイマジナリィ……虚構の獣でしかないからね」

「……なに一つとして安心できないんだけど?」

「おおっと、これは失礼。何分こちらに出てくるために、わりと無理をしている身でね。──この獣の体も、結局はそれくらいの強度でなければ器が持たなかったから、というところも多分にあるんだ」

 

 

 変わらずくつくつと笑いながら、彼はシャナちゃんから視線を外し、こちらに歩いてくる。……私?私は別になんとも。プレッシャーとかなんとか、そんなもの()()()()()()()()のだし。

 

 

「さすがは魔王、というべきなのかな?」

「さぁてねぇ。貴方が私のことを何処まで知っているのかわからないし、私になにをさせたいのかもわからないから、どう答えるべきかも曖昧なわけだけど」

 

 

 目の前まで歩いてきた彼は、私よりも更に小さな背丈の少年である。……服装に関してはいかにも昔の日本の人、という感じの和服であるので、威圧感というか偉そう感というかは相応にあるわけだけれども。

 ともあれ、彼はこちらを眩しそうに見上げながら、楽しげに話をしている。

 

 ──仮称、ビーストⅣi。

 比較の獣、キャスパリーグの姿を借りていた彼は、しかして彼の側面を持ち合わせているわけではない。『少彦名命(すくなひこなのみこと)』、もといスクナヒコナとは天津神の一柱であり、国津神の一柱・大国主神(おおくにぬしのかみ)と共に葦原中国(あしはらのなかつくに)──今の地上世界を造ったのだとされる。

 

 いわば、国造りの神の一柱。それがスクナヒコナという神であり。そしてもう一つ、かの神には特徴的な側面……というものがある。それは、

 

 

(……クソガキ感が凄い、って言ったら怒るのかしら)

「……君、なにか変なこと考えてないかい?」

「ソンナコトナイヨー」

「……うーん、君の考えは()()()()()()()から、それがホントかウソかまではわからないなぁ」

 

 

 いわゆる悪童、そのイメージの元に成ったのではないか?……という側面である。

 別天津神・造化三神の一柱、高御産巣日神(タカミムスビノカミ)曰く。かの神は自身の千五百いる子供のうちの一柱であるが、人の話を聞かず・悪戯者であり、ある日私の指の間からこぼれ落ちたのだ……とのこと。

 

 神話の中で彼の性格に言及した箇所は少ないものの、後の童話などに語られる悪童達、そのイメージの元となったとされると言えば……現代風に解釈するとクソガキ様になる、というのはなんとなくわからないでもない。

 まぁ困ったことに、その偉そうな態度が全く間違いではないくらいに、普通に偉い神様でもあるのだが。……大国主様も『お前がいなけりゃ国造りとか無理だよぉ!』と泣きついたくらいだし(※多少脚色を含みますが大体事実です)。

 

 では何故、そんな彼がフォウ君の姿を借りていたのか?……そこを語るには、かの神が最後は常世国に帰った、というところを語らねばなるまい。

 

 常世国、ないし常世の国とは、古い日本で信仰されていた『海の向こうにある』とされる異国であり、かつて海が死と分かち難いものであった*3ように、死者の国でもあるとされる場所である。

 古く死とは穢れであり、穢れとは悪である。……言うなれば、神聖な場所でありながら闇の要素を持つ、というのが常世国であり、それはいつかに語った『母なる闇』、その考え方に近しいものだともいえる。

 

 ゆえにこそ、暗黒の太陽──アバターがその身の器として選ばれたわけである。……悪童的なイメージも、それに寄与しているのかもしれない。

 そしてフォウ君に関しては──これまた単純、彼のもしも(if)の話である姿・プライミッツ・マーダーは、とある死祖の王に付き従うモノである。*4

 

 王に従う、王よりも優れたもの……その関係性こそが、彼がフォウ君を纏うことのできた一番の理由、というわけだ。

 あとはまぁ……顕現のための力を融通するにあたり、向こうの世界──ハルケギニアにおける『四』というものの重要性を補強に使った、というのが一番大きいのでしょうけど。

 

 ともあれ、偽りの獣冠が赦されたこの世界において、彼は端から獣であることを放棄した存在である。

 自身の力で世を変えるのではなく、自身の力添えで世界を変える。──人にとってのパートナー、連れ添うものとしての顕現。

 

 

「……ふむ」

 

 

 一つ、息を吐く。

 獣であることを捨てた、と述べたが。……とんでもない。

 そのあり方は、正しく獣である。

 虎の威を借る狐……いや、虎に威を()()狐、とでも言うべきか。*5

 己は前に立たず、主を前に出し。されど願うは己の夢、己の願望。

 黒幕を気取って全てを動かす、世の全てを()()するかの如きその所業。……それが、獣のそれでなかったとすれば、なんなのだと言うのか。

 

 

(……まぁそれが、誰かに与えられた歪みなのか、はたまた彼本人が持ち合わせていた歪みなのかは、私にはわからないけれど)

 

 

 とはいえ、それがわかったところでなんと言うこともない。

 彼女本人としては()()()()()()、それを知っているのか彼もまた、その言葉には熱がない。──互いに興味が無くても、目的は達せられるとでも思っているのか、はたまたそういう関係の方がうまく行くと知っているのか。

 

 ただ一つ、誤算があるとすれば──、

 

 

「……とりあえず、一つ言っておくのだけれど」

「ん?なんだい?」

「──私、神様って無条件で嫌いなのよね。とりあえず出直して貰える?」

「……ちょっ」

 

 

 どうでもいいのは、あくまでも彼の事情であって。

 彼という存在そのものは、私にとって目障り以外の何物でもない、ということでしょう。

 

 そんな私の発言を聞いて、彼は眉根をピクリと動かすのでした。

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。()()()()()情報からするに、君が神を嫌うのは仕方がない話、か」

「あら、そこまで知ってるんなら話は早いわねー。とりあえず、私が自発的に神の手伝いを赦すことなんてないから、わかったらさっさと神界でも常世国でも、好きなところに戻ってちょうだいね~」

「ちょちょちょちょっ!?なに喧嘩売ってるんですかキリアさん?!」

 

 

 私の拒絶の言葉に彼は苦笑いを溢し、琥珀ちゃんは慌てたように捲し立てている。……意外と根は一般人だったと言うべきなのかしら、この場合のこの反応。

 

 なんて胡乱なことを思いながら周囲を見渡せば、他の面々も似たような表情。

 シャナちゃんは余計なことを言うな、みたいな感じだし、遊星君の方は『なるほど、これが(騒動の)先頭の景色か』みたいな諦観の混じった表情を浮かべている。

 

 ……いやまぁ、なんとなく考えてることはわかるけど。

 

 

「言っておくけど、向こう(キーアちゃん)に聞いても同じことを言うわよ?……普通にただ過ごしているだけならいざ知らず、わざわざ過干渉してくるのなら『いい加減にしろー!』……くらいのことは言う、みたいな?」

「……それはつまり、僕に諦めろと言っている、ということかな?」

「その通りよ。……出来の良し悪しで話し掛ける相手を選んだ、みたいなことを宣った時点であれだし、大人しく向こうに居なかったのもあれ。……無理矢理追い返そうとしないだけ、随分譲歩しているのだと理解して欲しいものだわ」

「……なるほど」

 

 

 この問答に関しては、別に当事者がキーアちゃんに変わっても関係ない。……基本的には()()()()な私達ですもの、例えそれが完全な善意からのモノであれ、結構ですとお断りするのが筋ってモノなのです。

 ……まぁ、私よりもキーアちゃんの方が、時と場合によるって感じでまだ協力を取り付けやすい方でしょうけど。

 

 ともあれ、わざわざ獣冠まで装備してやって来た彼には悪いのだけれど、早々にお帰り願いたいと思う私なのでありました。……いやまぁ、勝負して決めよう、ってなったら()()()()()()()()()()()()()から、できればやめて欲しいところだけれど。

 

 

「はぁ?!」

「何度も言ってるでしょ、シャナちゃん。私達は負けてなんぼの【星の欠片】、勝負事に持ち込まれるのは願い下げ、ってわけよ」

 

 

 そんな私の言葉に焦るのはシャナちゃん。

 そりゃまぁそうでしょうね。だって相手は現状ここにいる誰よりも強い相手、なのだから。……それはつまり、手に入れるのが勝利だというのなら、彼は必ず希望のものを手にできる場所にいる、ということになるのですもの。

 

 

「……いいや、お生憎様だけれど、流石にそれは()()だ、焔の娘。この者に勝負事を仕掛けるのは、その存在の意味を理解できぬ愚か者だけだよ」

「はぁ?!」

「さっきからシャナちゃんが『はぁ?!』しか言ってない件について」

「まぁ仕方ないね。この領域(レベル)の話がわからないのは」*6

「……いやなにちょっと仲良さそうに会話してるのよ!?」

 

 

 けれど、そんなこちらの言葉に彼は首を振る。

 それは愚かな選択だ、と彼女を諭すようなその台詞に、シャナちゃんは更に困惑していたわけだけれど……そのあとの会話にも更に困惑していた。……神様だってトレンドには敏感だからね、仕方ないね。

 

 まぁともかく、彼にはこちらとの交戦意識はない、というのは最初に述べていた通り。

 ……そう、最初から彼は、こちらに協力()()()()()()と下手に出ていただけなのである。

 なので、こちらもそれをにべもなく断った、というだけのことなのだ。

 

 

「うーん、できれば君が協力してくれるのが一番楽だったんだけどなー」

「よく言うわよ。──その器、端から()()()()()だったんでしょうに」

「おや目敏い。──その割には、止めないんだね?」

「お二方だけで納得するの止めませんかー!?」

 

 

 こちらの意思を確かめた彼は、苦笑いをしながら頭を掻いている。……とはいえそこに悲壮さはなく、あくまでも()()()()()()()()()()、程度の感情しか込められてはいなかったのだけれど。

 

 それもそのはず。そもそもの話として、彼はここにこうして顕現した時点で、大体の準備は終えてしまっていたのだから。

 

 

「……と、言うと?」

「そもそも彼女は魔王──世界に対しての敵対者だ。こちらの言うことに素直に頷いてくれる、とは端から思ってないよ。──まぁ、言うなればこれからすることに対する礼儀、みたいなものだよね」

 

 

 遊星君の探るような言葉に、にこにこと笑いながら声を返すスクナヒコナ。

 それは、彼がこれから()()()()()()()()()()()()と如実に告げる言葉だが。……未だ体の動かない彼らに、それを止める術はなく。

 

 次に彼が語った言葉に、彼らは驚愕の表情を浮かべながらも、それを止められずに歯噛みすることになるのだった。

 

 

「だからまぁ──()()()()()、借りることにしよう」

 

 

*1
造化三神の一柱・高御産巣日神の息子。大国主と対になる神であり、今の地上世界である『葦原中国』を造ったこのコンビは、ある意味では『大きく力持ちの者と小さく賢い者』というコンビのテンプレートの大本である、という風に言えなくもないかもしれない

*2
神道・道教における用語の一つ。本社の祭神を別所で祀る際、その神霊を分けたもの。神は無数に分けられるとされ、本社と分社の間には本質的には上下はない、と言えなくもない(基本的には本社の方が格が高い、とされることがほとんどの用だが)

*3
船や食べ物の保存技術などが未熟な頃、海の向こうとは渡ることのできない未知の世界であったことから

*4
アルトルージュ・ブリュンスタッドのこと。姿を明かされてはいないものの、設定だけはしっかりと存在している。最近設定がアップデートされたことが判明し、昔よりも強くなってね?……と話題になったりもした。……いや、昔の設定が弱い、ってわけではないと思うが(フリーザ様みたいな二段変身ができるとかだったので)。なお、当時は死徒二十七祖の第一位であった、プライミッツ・マーダー……別の世界でのフォウ君を従えていたが、とある人物からはそっちの方を脅威に思われていた、なんて話があったりする

*5
ことわざの一つ。偉い人物・強い人物の威を借りて偉ぶる者のこと。この場合は逆であり、小さい方が大きい方を上手く動かしている、という風に見えなくもない

*6
岩明均氏の漫画作品『ヒストリエ』のキャラクター、バトの台詞『まあ……お前じゃわからないか、この領域(レベル)の話は』から。なお、この台詞を漫画版の『魔法科高校の劣等生』のお兄様に言わせたものが、コラとして広まっている

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