なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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幕間・それは最初から決まっていた幕引き

「……んー、()()()()()?仮にも神様なんだし、もうちょっと頑張って欲しかったのだけれど」

 

 

 さっきまでの緊張は何処へやら。

 こちらで起こっていたこと、その一切に気が付いていなかったかのような紫ちゃんの様子に、金縛り*1から解放された他の面々が押し寄せる中。

 私はと言うと、突然小人になった()の元へと歩み寄っていたのだった。

 

 

「……?……!?」

「混乱しているところ悪いんだけど、()()()()()()()()?」

「君は……いや、というかなんだこれは?……()()()()()?」

 

 

 こちらの言葉に、混乱したような台詞を返してくる彼。

 その姿には、先ほどまでの傲慢混じりの余裕はどこにもなく。……まるで、見知らぬ土地に突然放り出されたような、とてと不安げな表情を浮かべているのだった。

 

 ──だから私は、彼を安心させるように笑みを浮かべて。

 

 

「落ち着いて、()()()()。それからようこそ、なりきり郷へ。私共一同、心より貴方の来訪をお喜び申し上げますわ」

「う、うむ?……う、うむ。なるほど、確かに()は一寸法師で間違いないようだ」*2

 

 

 彼の名前を、教えてあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

「……まっっっったく意味がわからないのだけれど」

「んー?具体的にはどの辺りが?」

「──全部!徹頭徹尾*3、頭から最後まで、全部よ全部!」

 

 

 紫ちゃんに詰め寄っていた面々は、逆に彼女から、

 

 

「え?私そんなに長く離れてないわよね?ね、マシュちゃん?」

「は、はい。私達がピカチュウさん達を探しに出て、まだ三分ほどのはずなのですが……はっ、もしやこれがスパルタ教育……!?」

「……ぴーか」*4

 

 

 というような反応を返され、まるで狐に化かされたような表情を浮かべていたのだった。

 ……とはいえまぁ、これに関してはとても簡単な話。

 

 

()は、時間を停滞させていたのよ。……完全な停止だと無茶が過ぎるけど、それが停滞であるならば──偽のモノとはいえ、獣冠を戴いていた彼なら十分こなせる範囲だったってこと」

「なる、ほど?」

 

 

 彼は他の誰かに邪魔をされないように、あの建物の中だけ()()()()()()()()()()……真実としては、そんな感じのとても単純な話であった。

 

 完全な停止を選ばなかったのは──流石にそれは紫ちゃんに気付かれるから、というのが大きかったのでしょう。

 別に彼の実力なら、彼女を軽くあしらうこともできたでしょうけど……それをするということは、つまりはこのなりきり郷全てを敵に回すのと同じ。

 仮にも獣を名乗ったモノである以上、仔細はどうあれ人類愛を抱いた者である彼は……必要でない犠牲を望まなかった、それだけの話だったのです。

 

 そんな私の言葉に、シャナちゃんは納得したような納得していないような、微妙な顔で首を捻りつつ、こちらに続きを促してくる。

 ……わからないのは全部、と言っていたわけだから、他の部分も順次解説していけ……ということなのだろうか?

 

 横暴だなぁなんて言葉を噛み殺しつつ、続きを話していく私はとてもお優しい人だと思います。……御託はいいからさっさと話せ?はいはい。

 

 

「で、具体的にはどこから話す?」

「……じゃあ、()()()。……一体なんなの、そいつ?」

「ぬ、私か?私は一寸法師、御伽噺(わらべうた)の一寸法師だ」

「……わ、わらべうた……?」

 

 

 次の話題となったのは、現在私の肩の上に座っている小人。

 すなわち、【顕象】である一寸法師のことについて。……彼はすなわち、()()()()()()である。

 

 

「……???」

「カーマちゃんが居るじゃない?ビーストⅢLの。彼女はカーマという存在から、その本質を辿ってマーラという獣性を発露して見せたけれど……彼の場合はその反対。スクナヒコナという獣性から、()()()()()()()()()()()()()()()ってわけ」

「ええと……スクナヒコナとは、オオクニヌシと共に日本国を作った、とされる神話の神の一柱……のことで、間違いないのですよね?」

 

 

 わかりやすい例を出して、説明してあげたつもりの私だったけど……どうにも理解できなかったのか、周囲の面々の顔にはハテナマークが張り付いている感じ。

 はてさて、どう説明したものか……と唸る私に対し、小さく手をあげながら声を出したのはマシュちゃんだった。

 

 始めに確認してきたのは、私の言う『スクナヒコナ』が自身の思っているそれと同じものか、というものだったわけなのだけれど……。

 

 

「ええ、それであってるわよ?」

「なるほど……シャナさん、一寸法師にはモデルがいる……ということをご存知ですか?」

「……ご存知じゃないわね」

「では、これを機に覚えてください。一寸法師のモデルとは、すなわちスクナヒコナ神なのです」

「……あれが?」

 

 

 それは、私の代わりに彼女が説明をする、という合図だったらしく。

 キーアちゃんも、こんな感じに彼女に説明を任せていたのか……みたいに得心しつつ、一歩下がってマシュちゃんに場所を譲る私である。

 

 

「一寸法師という物語には、元々二つのパターンが存在するのです。今の私達がよく知るもの──『御伽噺』の一寸法師と、それからもう一つ──スクナヒコナ神の神格を色濃く反映した、『御伽草子』の一寸法師というものが」

「御伽草子……?」

 

 

 では、シャナちゃん達へのわかりやすい説明は、マシュちゃんにこのまま任せるとして。

 こちらはこちらで説明をすることにしよう。

 

 スクナヒコナ神は悪童──ずる賢い人、のイメージを持つと述べたが、その性質を色濃く受け継いだとされるのが、『御伽草子』で語られるところの一寸法師である。

 

 この『御伽草子』、わかりやすく言えば初稿の『グリム童話』と現代の『グリム童話』くらいに中身が違うもので……具体的には、この一寸法師はとかくずる賢いのである。

 子宝を願った老夫婦には、いつまで経っても大きくならないので気味悪がられていたりとか。京まで士官しに行った先で宰相の娘に一目惚れしたので、一計を案じて彼女を()()させるとか。

 ……ともかく、『御伽噺』で語られる彼とは、些か趣を異にするのが『御伽草子』における一寸法師なのである。

 

 だが、最初に『初稿と現代の差』みたいなことを述べたように──『御伽噺』の一寸法師とは、『御伽草子』の彼を元にして子供向けに変化していったモノである。

 言うなれば、源流は同じ『スクナヒコナ』から派生したものだと言え……『スクナヒコナ』に近い『御伽草子』の彼から、『御伽噺』の彼に()()()()()()()()()みたいなもの……といえるのが、今ここにいる彼なのである。

 

 

「……ええと、つまりはさっきの神様と、同一人物ってこと……?」

「む、そこに関しては少し訂正を申し込みたいのだが、如何か!」

「え、あ、はい。……ど、どうぞ?」

 

 

 ゆえに、さっきの彼がこんなことになってしまった、という風に感じるのは決して間違いではないのだが……どうにもその辺りは譲れないモノがあるのか、当の一寸法師本人から「否!」の声があがることとなるのだった。

 

 

「私は子供達の憧れ(童話の英雄)としての一寸法師。さすれば、あのような卑怯な者と一緒にされるのは御免被る!」

「え、えー……?」

 

 

 それは、(一寸法師)(スクナヒコナ)と一緒にして欲しくない、というもの。*5

 ……いやまぁ、特に一目惚れした娘さんに対してのあれこれが擁護不可能だし、その気持ちはわからなくもないわけだけれど。

 なんだろう、大人ガメッシュを自分の成長した姿だと認めたくない子供ガメッシュみたいなもの……って感じなのかしら?いやまぁ、わかりやすさ重視だからまるっきり同じ、ってわけでもないでしょうけど。

 

 ともあれ、本人の主張を尊重する、という方向性で決まったその話は、あれこれと説明をするためにどんどんと長くなっていくのでした。

 

 

 

 

 

 

 ──それは狭間である。

 彼らは(過去)(未来)の狭間にて無限(永遠)を廻すもの。

 なればそれは、小指の先にすら満たぬ刹那の欠片であり。

 そのような、吹けば飛ぶような世界の中に、()はいた。

 

 

「──ここは?」

 

 

 彼──スクナヒコナは、自身がどうなったのか、それに思考を巡らせる。

 準備は整えた。万が一にも失敗はないと、その綺羅星の如し頭脳にて、それを導きだしてみせた。

 ゆえにこそこれは、()()()()からこその場所、ということになり──。

 

 

「──星の内海、か?」

 

 

 伴って、自身の目前に広がる景色──星を散りばめたようなそれが、()()の言う『試練の間』なのではないか?……と当たりを付けることに成功する。

 

 星の内海とは、あくまでもとある(型月)世界での呼び方だが。……しかして呼んでみれば、なるほどこの場所は『星の内海』と呼称する他あるまい。

 目前に広がるのは、真実光を通さぬ深淵の黒。されどその黒の中で、確かに輝く星達があちこちに見える。……さながら、深海にて仄かに光る、微生物達のように。

 

 

──あら、星だなんて大層なこと──

「──、誰だ?」

 

 

 そんなことを思っていた彼の耳朶を……否、脳を揺らす軽やかな声。

 それは今まで聞いた誰の声とも当てはまらず、されど懐かしい誰かの顔を思い起こさせるような、そんなちぐはぐな声。

 突然響いたその声に、彼は周囲を見渡すが──声の主らしき姿は、どこにも見当たらない。あるのは先ほどと変わらず、黒い海で静かに輝く星達だけだ。

 

 

──視座が広すぎるのね。だから、見落としてしまう──

「……その言い種、君が試練を与えるというものなのかい?」

 

 

 この場所がなんなのか、判然とはしないが……この状況で自身に声を掛けてくる相手、というものには事前に下調べがついている。

 彼女達曰く、『あの人』。いと低き場所におわすという、【星の欠片】全ての管理者であるという──。

 

 

──あら、わざわざ私に会いに来てくれたの?嬉しいわね──

「……ああそうだ、僕は君に会いに来た。哀れな衆生を救うため、そのための術を求めてやってきた」

 

 

 彼女達の持つそれは、この世界にはない未知の法則である。

 ()()()()()()()()()()()()()()ことでも、他の世界の法則であるのなら、もしや。

 彼女達の力を知り、それを頼りにやってきた彼は──最早、藁にもすがるような心境であり。

 

 

──じゃあ、余分なモノは捨てなくちゃね──

「──あ?」

 

 

 だからこそ、その藁を掴むには()()()()()()()()()という、当たり前のことを失念していた。

 ──曰く、大死の先に大活が見えるという。

 生きながらにして世俗を捨て去り・死を見ることにより、新たな視座を得ることができるとされる。

 

 ──なれば。

 それが■を以て■を塗り潰し、■を肯定するモノであるのならば。──その先に待つ視座とは、如何ほどのモノか。

 

 

「────────っ!!!!!!!!?!?!?!?!」

 

 

 声にならない悲鳴を──瞬く間に襲いくる波濤を、絶えず浴び続ける彼は、そのような戯れ言を思い。

 

 

──そうね。貴方は神様なのだから、それこそ那由多くらいは越えないとね?大丈夫よ、()()()達もやったのだから──

 

 

 それが、本当に()()()()()()()()()()()()ことを知り、自身がなにを間違えていたのか、そのことに漸くたどり着くのだった。

 

 

 

 

 

 

──残念ね、【始終(キリア)】。この子、億も持たなかったわ──

 

 

*1
『睡眠麻痺』とも。眠る時、ないし起きた時に体が動かなくなる現象のこと。雑に言えば頭が起きているのに、体が眠っている状態。正し、実際は頭の方も半分寝ていることがほとんどなのだが。……なお、完全に起きている場合の金縛りも、原理的にはそこまで変わらないが、医学的にはストレス起因のモノとされることが大半である。元々は仏教用語『金縛法(かなしばりほう)』が名前の由来だとされている

*2
童話の名前、および同名の主人公のこと。一寸とは約3cmであり、そのくらいの小ささの青年が、決して怯まず鬼に立ち向かう姿が印象的。最終的には大きくなって幸せに暮らす……わけだが、その時に使われる道具がかの有名な『打出の小槌』である

*3
古代中国・宋代に起源を持つ故事成語の一つ。朱子の記した書物『朱子語類』に記されており、意味としては『最初から最後まで、全て』という意味となる。また、先の意味に加えて『変化がない』という意味が付随することもある

*4
※特別意訳:絶対違うと思うなー

*5
鬼を明確に倒していない、というのはどちらのパターンでも共通するが、『御伽草子』側は鬼からも気味悪がられているので、一緒にされるのは嫌というのもまぁ、わからないでもない

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