なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……不幸だ」*1
「おやおや、うら若き女性の胸に触れておいて不幸だ、なぁんて。……そんな台詞を吐けるということは、つまりはもっと
「ぶふっ!!?ちちちちちがいますー!!上条さんはそんな変態染みた考えなんて、一切抱いていませんのことよー?!」
「……語るに落ちたとはこの事ですね、落とします」
「ひぃっ!?違う違う言葉の綾!言葉の綾だって!!」
「あーはいはい、なんでもいいけどマシュは迂闊に近付かないでねー、どうなるかわかんないし。……まぁ多分大丈夫だとは思うけど」
「そうですね、触れたくもないです」
「恐らくですけど言葉の意味が行き違ってますよねそれぇ!?」
Gの除去作業中、突然厨房内に現れたツンツン髪の謎の少年。
とはいえその身体的特徴から、謎とは言いつつもそれが誰なのか、なんとなーくわかっていたわけなのだけれど……
こうなってくるともう仕方ないので、判別できる人間としておやすみ中のゆかりんと、琥珀さんの両名を呼びつけたのですが……琥珀さんに関しては
そうなってくると、今ここに居る面々で拷問……違った尋問をしていかなければならない、ということになるんだけど……。
……うん、私は別に気にしていないからいいんだけどさ?
さっきの状況って『見知らぬ男が、敬愛する先輩の胸を触っていた』……という、もはや絶許案件以外の何物でもない状況だったことも相まってか、マシュの彼への視線が絶対零度級に冷えきってしまっているわけでして。
その隣のライネスは、この状況を面白がって二人を煽ってばかりだし……なんというかこう、誰かどうにかしてください()って感じに、弱音を吐きたくなってくるキーアさんなのでした。
──そんな私の嘆きが天に届いた、ということなのか。
「なりきり郷存亡の危機と聞いて!!」
「貴方が管理者か、歩いてお帰り」
「お決まりの台詞どうも!で、件の人物は!?」
「ここです八雲さん。──現状では極刑が妥当かと思われますが、如何いたしましょう?」
「え、ええ……?……ちょっと、どうしたのよマシュちゃん?すっごい
「それはですね、私が彼にラッキースケベされたので……」
「……なるほど。滅びるのは滅びるのでも、
「いや納得しないで欲しいんだが!?哀れな上条さんと致しましては、弁解の余地を与えて頂きたい次第なのですがー?!」
「わかりました。それでは弁護人として、そちら側には白井さんをお呼びしますね?」
「それ弁護させる気がないっていうか、下手すると白井のやつにそのまま上条さんが
「なにっ、
「ちげぇよなんでだよ、というか上条さんにもちゃんとした味方をくださいっ!!」
琥珀さんの小脇に抱えられながら、ババーンと扉を開いて現れたゆかりんに、思わずいつもの構文を返してしまいつつ。
そのまま流れるように彼──
──そう、上条当麻。
以前どこかで話したように、もしも仮にこのなりきり郷に現れることがあれば、その右手に宿る力によってこの施設は崩壊し、私達は生きたまま生き埋め……ならばまだマシな方で、下手をすると無秩序に破壊された、次元の狭間に放逐されることになるかもしれない……なんていう話が持ち上がるような、この場所限定の次元爆弾みたいな存在である人物。
それが、この世界においての上条当麻である。
……まぁ見ればわかる通り、今のところなりきり郷が崩落することもなく、私達は普通に生活できてしまっているわけなのですが。
以前考察した話──『逆憑依』によって優先される再現とは、その人物を
いやまぁ、間違っててくれてありがとう、って感じなんだけどね、今の状況。
「あー、なるほど。今回の騒動は、つまりは
「おおっと琥珀さん、その口ぶりだとなにか知っていらっしゃるので?」
「知っているというかですねキーアさん。話せば長くなるんですけどー……」
そんなこちらの疑問を知ってか知らずか、目の前で『お助け~っ!?』なんて悲鳴をあげる上条君を眺めながら、琥珀さんが一つため息を吐いていた。
その口ぶりは、どうやら今現在なにが起こっているのか?……ということを少なからず理解している・もしくは取っ掛かりを知っているように思えて。
なので、それとなく尋ねてみたところ、彼女は何事かを思い出すように天を仰ぎながら、ぽつぽつと言葉を紡ぎ始めるのでした……。
それは、わりと意味不明な珍事に巻き込まれてから、それなりに日の過ぎたある日のこと。
基本的に私の仕事はデスクワーク中心であるため、同じ姿勢を知らず知らずの内に取りっぱなしになっていることも、多々あるわけでして。
その日もそんな感じでデスクにかじりついていたところ、助手であるクリスちゃんから、
「琥珀さん、いい加減体を動かした方がいいんじゃないですか?」
なんて風に、注意を受けたことが始まりなのでした。
「……さっきの休憩から、そんなに時間は経っていませんよ?」
「いいえ、結構経過してます。……ただでさえ、貴方はオーバーワーク気味なんですから、休憩は早め早めに取ってください……って、何度も言ってるじゃないですか」
「おおぅ、まるで私のお母さんのような甲斐甲斐しい台詞……つまり私は娘だった……?」
「トチ狂ったようなこと言ってなくていいから。はよ散歩にでもいけっ、
「
誰が
……まぁはい、地下千階であるこの場所には、基本的には木々くらいしかないわけでして。
文字通り散歩するくらいしか楽しみがない、と言い換えられなくもないわけででしてね?……あ、はい。スポーツ施設なら隔離塔まで出向けばあるでしょう、ですか?
……まぁそれは置いとくとして。
ともかく私は、凝り固まった体を解す意味も兼ねて、木々の間を歩き始めたわけなのです。
私の家は、中心部からすれば辺境と言っても過言ではない位置にありますので、適当に出歩いていても誰かとすれ違う、なんてことはほとんどないのですが……。
「……ふむ?」
その日は、森の奥の方から金属音?的なモノが聞こえて来たのです。
最初はまぁ、誰かが戦闘訓練でもしているのかな?……なんて思っていたのですが、よくよく考えればわざわざ地下千階まで降りてきて戦闘訓練、なんてことをする人が居るわけがない、ということに思い至りましてですね?
……はい?隔離塔内の人達は、たまにストレス発散のために戦闘訓練をしたりしている?……それ、塔の中での話じゃないですか。いやそうじゃなくてですね?
おほん。……まぁともかく、普段は聞こえないような物音に、興味を惹かれた私はつい、その物音の方に足を向けてしまってですね?
その結果として──見てしまったのです。
「……やっぱり、
「…………」
──鳴り響いていたのは、武器を打ち付け合う音。
大きな剣と、大きな刀。その姿に見合わぬ大物を振り回す二人の少女は、されど舞を踊るかの如く可憐にして流麗。
片方は、赤く染まった長い髪から、火の粉のようなものを溢している少女──炎髪灼眼の討ち手、シャナ。
そしてもう片方は──起伏のない表情で、虚ろな顔で。目の前の相手を見つめ続けている少女──黄昏の姫御子、『アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア』。
互いに持つのは、
束の間の休息を終え、再び得物を構え直した二人に、私は──。
「いや戦ってる場合じゃないでしょ!!?なりきり郷がー!この建物そのものがーっ!!?」
「「っ!!?」」
思わず、地雷原でタップダンスしてんじゃねー!!
……とばかりに、二人の間に割り込むことになったのでした。
「いやー、あの時ばかりは私も肝を冷やしましたよー。幸いにして、単にそこにあるだけではこのなりきり郷は壊れないみたいでしたけど……いやはや。こうまで立て続けに無効系の力を持つ人が現れると、なにかあったのかと心配し……あの、皆さん?何故私のことを凝視していらっしゃるのでしょうか……?」
「……それ、報告されてないんですけど?」
「あるぇ?してませんでしたっけ?」
「一切聞いてないわー!!!」
「のわーっ!?」
彼女の言葉を聞いて、思わず天を仰ぐ私。
……問題解決の糸口どころか、寧ろ問題増やしやがったんですけどこの人。いやまぁ、厳密には彼女が増やしたわけではなく、勝手に増えたみたいだけど。
「あのー……俺、帰っていいですか?」
「うふふ、DA☆ME」
「……不幸だ……っ」
……そんな私に声を掛けてくる上条くんは、わりと怖いもの知らずだと思います。