なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……よくわからないけど、その『あの人』って、凄いの?」
「んー、凄いっていうか……ヤバい?まぁともかく、一般的な尺度で測れるような相手ではないね」
遅めの昼食*1をもぐもぐと食べているアスナちゃんからの質問に、なんとも曖昧な答えを返しつつ、はてさてどうしたものかと腕を組む私。
先ほどの私の考えが間違いでないのならば……今まで現れていた【兆し】というのは、それそのものの区分は異能の類いに属するモノだったのだろう。
ゆえにこそ、それを利用して呼び出せる──『逆憑依』させられる相手というのは、
ところが、今ここにいる面々はどうだろうか。
アスナちゃんはまぁ、根本的には『魔法無効化能力者』なので、そこから外れたモノを使うことで対処できるかも知れないが……もう一人の人物である上条君の方は、そもそも神の奇跡だろうがなんだろうが、それが異能であれば無効化・かつ破壊するタイプの無効化能力者である。*2
つまり、どのような奇跡が起ころうとも、本来であれば彼はここには来ることはない・来られるはずがない存在、ということになるわけなのだが……。
「いるわねぇ、彼」
「いるねぇ、彼」
「……そういえば、なにかを消しているような感覚も、一切しないな?」
ご覧の通り、私達の目の前にいるのは怪奇・能力無効ウニ男……もとい、上条当麻君である。
そして彼が述べたように、今現在彼は、その右手──『幻想殺し』にて
で、あるのならば考えられることは二つ。
彼の持つ『幻想殺し』は、例えそれが神の一撃であれ、構成要素が単一であれば無効化できる。……それは裏返せば、
すなわち、単純な量ではなく、織物の如く多重にして多彩に編まれた術式であれば、彼に某かの影響を与えられるかもしれない……というのが一つ目。
そして二つ目は、『幻想殺し』の本質に絡むもの。
言ってしまえば強制リセット先、スマホで言うところの工場出荷状態に初期化……みたいな感じか。*5
ゆえに、もし仮にその
「……まぁ、余所とコラボした時に、
個人的には二つ目が正解だろうと思うのだが、同時に二つ目はあり得なくないか?……とも思わなくもない私である。
世界の基準点とは、言ってしまえば
ある意味では抑止力の一種でもあるということになるが、法則の違う世界でも使えてしまっている時点で、些細ながら矛盾を孕んでいると言えなくもない。……世界の基準なぞ、
まぁ、特に作者を飛び越えて行われるコラボにおいては、設定のすりあわせはあまり考えない……なんてことも多いので、反論として弱いのも確かなのだけれど。*7
ともあれ、本来であれば出現しただけで、なりきり郷壊滅の危機であるはずの上条君が、こうして何事もなく存在していられるのは。……恐らくは、打ち消すべき不自然なモノなんて、ここにはない……という風に、能力の根幹を書き換えられたがため。
言ってしまえば、今の彼はほぼほぼ単なる青少年、ということになる。
「……はっ!?ということはもしかして、上条さんの不幸体質も、この世界でなら治っている……?!」
「本当にそう思っているのなら、数分前の自分の言動を思い返してみなさいな」
「……不幸だ」
なお、『幻想殺し』にとっての異端が存在しないのだから、その右手は無用の長物と化している……みたいな説明だったため、彼は勘違いをしていたけれど。
あくまでも『逆憑依』関連のモノが対象外、というだけであって、『逆憑依』関連の人が使った異能や、はたまた彼自身に纏わる運とかは以前と同じく打ち消しているだろう……と伝えれば、彼はがくりと肩を落とすこととなるのだった。仕方ないね。
……え?それだとやっぱりなりきり郷崩壊しないか、ですって?……いやその、所詮は単なる憶測なので……。
「つまり……どういうこった?」
「『逆憑依』そのものをひっぺがして元の人に戻す、ってことはできないけど。例えばシャナちゃんが『自在法』を使った場合、それを『存在の力』として散らすことはできるだろう……みたいな感じ?……例としてあげたあとから気付いたけど、『存在の力』は例としてあげるには不適切だね」
主に、『存在の力』自体がわりと異端のモノに見える……という点で。『存在の力』自体は、全てのモノに存在するもの。──すなわち
龍脈などに『幻想殺し』を使っても、一時的に流れを削れるだけでそのうち流れは元に戻る……という話がある辺り、恐らくはそれが正解だと思われる。
……なーんて話を、いつの間にやらやって来ていた銀ちゃんに聞かせつつ、チラリと店内を見る私。
「キリキリ働きたまえ?労働せぬもの食うべからず、だ」
「……上条さんは、ここでの労働は趣味みたいなもの……という話を聞いたわけなんですが?」
「ならばこう返そうか?……
「……誠心誠意勤めさせて頂きますよこんちくしょー!不幸だーっ!!」
なんの因果か、何故かラットハウスのバイトの一員になってしまった上条君。
そんな彼は、現在は執事っぽい感じの服に身を包み、料理を運ぶ手伝いをしていたのだった。
男手、という意味ではウッドロウさんしかいなかったラットハウス。
それが、なんということでしょう。働き盛りの青少年が一人加わることにより、重労働は全て彼の受け持ちにすることができたではありませんか。
そうやって真面目な姿を見せることで、一時は地の底まで落ちていた彼の尊厳も、マシュに普通に話し掛けられる程度には回復しつつあるのです。
……うん、変なナレーションはこれくらいにして。
ともあれ、特に行き場のない上条君が、ラットハウスの居候に決まるまでそう長い時間は必要とせず。
職場に寝泊まりする、という形での就職が決まった彼は、現在はるかさんの指導の元、仕事を覚えていくことになったというわけなのである。
……え?なんでそこではるかさんが出てくるのか、ですって?
「キーアさんの言う通り、恐らくは問題ないと思いますが……万が一もあります。でしたら、完全にただの人間である私が指導をする、というのが最善なのではないかと思いまして」
「……俺としちゃあ、いつの間にかアンタまでここのバイトになっていた、ってことの方が驚きなんだが?」
「
「あ?……あー、なるほど。意外と生真面目、ってことか」
理由に関しては、そんな感じ。
性格的に相性が良いのと、この付近では唯一単なる──『逆憑依』などと関係のない人間である、という点が大きいのは、彼の──上条当麻の右手が、異能に対しての
簡単に言ってしまえば、もしもを思っての人選、ということだ。……いやまぁ、ここで働いている時点であんまり意味がないかもしれないけれども。
「ぴーか?」
「……まぁ確かに、こいつに触れても戻ったりする様子はないからなぁ」
「ただまぁ、そっちの
「単に警戒されている、ってだけかもしれないけどね」
足下に近付いてきていたトリムマウを撫でながら、小さくため息を付く上条君。
自身がわりと微妙な立場にある、ということは理解したらしいが、だからと言って彼になにができるというわけでもなく。
一先ずは経過観察、という結論を告げられた彼は、しかして迂闊に出歩くこともできず。
結果、こうして出現場所であるラットハウスに縛られることとなっているのだから、ため息も吐きたくなるのは道理、ということなのだろう。……まぁそこで止まらず、なにか自分にできることはないか、とか聞いてしまう辺りは『あー主人公』って感じなのだが。
閑話休題。
頭を撫でられているトリムマウは、別に元の人間に戻る……なんてこともなく、普通にいつものピカチュウライフを満喫している。
つい最近仲間に加わった、ハルケギニア原産の方のピカチュウは、なにやら警戒しているのか近付いて来ないが……まぁ、概ね変なことは起きていない、というのは確かだろう。
でもまぁ、ハルケギニア産って時点で、上条さんが触って良いモノなのか判然としないので、仮に近寄ってきても触れないとは思うのだが。……え、左手で撫でろ?野生動物の急な動きに左手だけで対応するの、普通に辛くない?
まぁともかく。
暫くは慣らしの意味も兼ねて、ラットハウスでの暮らしを強要される上条君と違い。
「……マシュは料理上手?」
「ええと、それなりには……」
「そう、楽しみ」
「は、はい。お口に合うように頑張らせて頂きましゅ……」
「……地味に我が家に王族が集まり始めた件」
アスナちゃんの方は、無効化範囲がわかりきっているために自由行動を許されている……ということに、彼が「不幸だ」と言いたくなるのを堪えている姿を見て、思わず涙ちょちょぎれそうになる私なのでありましたとさ。……お労しや、上条君。