なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……またもや居候が増えた件について」
「まぁ、上条さんとは違い、アスナさんの方は普通にあの家にも出入りできるでしょうから……あとは
「うちは駆け込み寺*1じゃないんだぞ、まったく……」
バイトの時間が終わったマシュと、物珍しげに周囲をキョロキョロと見渡すアスナちゃんを連れ、街を歩く私。
帰る前に見た上条君の方はと言えば、使っていない倉庫を居住用に転用する……とのことで、そのための掃除を忙しそうにしていた。
……他に部屋とかないの?みたいなツッコミについては、居住区である二階部分はライネスの部屋しかなく、現状空いていると言えたのがその倉庫部分しかなかったこと。
それから、一応男女の住む場所ははわけておいた方がいいだろう、という配慮からそうなった……みたいな感じのようで。
この辺りはまぁ、元々少女ばかりが働いている原作の、それに準拠した店という属性だから仕方ない……といった風に、彼も諦めていたのだった。*2
いやまぁ、掃除そのものが結構な重労働になりそうだったので、お決まりのように「不幸だ」とは叫んでいたけども。……うんまぁ、コーヒー豆の在庫とか置いてあったしね……。*3
因みにこちらの手伝おうか?という申し出は、そもそもウッドロウさんが既に手伝っていたこと・およびはるかさんもそちらの手伝いをしていたので、あの手狭な倉庫では人手が余るくらいだった、ということからやんわりと断られることになったのだった。
まぁ、女の子に力仕事を手伝わせるのも、みたいな意地もあったのかもしれないけれど。……彼の手伝いをする場合、私なんかは特にただの幼女みたいなものになるし、さもありなん。
「ふぅん?噂の『あの人』と同系列の技能なんだから、てっきり君も彼の無効化は効かないのかと思っていたんだけど?」
「あー、キリアくらいに能力の使い方に習熟してればあれだろうけど……私だとコントロール乱されちゃうから無理。そこら辺ブラックホールで穴ぼこまみれにしてもいいってんなら、手伝えるかもだけどさ?」
「いやサラッと恐ろしいこと言うのやめないかい?」
……なんてやり取りがあったように、私の使う『虚無』だと上条君の『幻想殺し』に
もうちょっと能力に習熟すれば、できなくもないかもしれないけれど……まぁ、その方面で鍛えると、待っているのは母親力の向上のための訓練である。
……欠片も笑えないので、今のところそっち方面の強化の予定は一切ないキーアさんなのであった。
「……なんで能力を鍛えようとすると、母親になるの?」
「私の『虚無』は、結局のところはキリアの
「……????この人、なに言ってるの?」
「すみませんアスナさん。……その、せんぱいはとても特殊な方ですので……」
「なるほど特殊。アスナ覚えた」*4
「ぜっっっったい変な覚え方してるよねそれ?」
まぁ、ブラックホールが発生しても、上条君に触って貰えれば消えるとは思うけど。……手伝うために余計なやり取りを増やすことになるのであれば、いっそ手伝わない方がマシ、というのも確かな話。
そういうわけで、私達はアスナちゃんを連れて行くことになったのでしたとさ。……え?なんでアスナちゃんは、向こうにお邪魔しなかったのかって?
「そもそもあそこ、居住区部分はほぼ一人用だからねぇ……」
「
「ん。私が入ると壊れる。それはよくない」
その理由は単純明快。そもそもの話、あそこにはライネスちゃん以外誰も住んでいないから、である。
ごちうさの方では一緒に暮らしているココアちゃんも、ここでは普通に家から通ってくるタイプのバイトさんなのだ。……ちょっと前までは彼女も独り暮らしだったけど、今は姉であるはるかさんと二人暮らしでもあったり。
で、彼女があの店の二階に一人で(正確には
……以前ちょっと触れたように、ここの彼女は魔術師としてはそこまで優秀な方ではない(主に再現度のせいで)が、それでもライネスを名乗る以上、魔術師としての工房が必要なのは確かな話。
そして魔術師とは、己の工房に身内以外を招くことはない……というわけで、端から居住区を増やそうという気持ちがないのであった。
まぁ、工房と言っても魔術用の道具がぽつぽつ置いてあるだけで、別に結界も設置されていない、文字通り形骸的なモノでしかないらしいのだが。
……じゃなきゃ一階と二階とは言え、同じ屋根の下に
なおアスナちゃんの場合、同性であることと部屋が一つしかないことから、ほぼ確実に同じ部屋で寝ることになるため却下された……といった理由になる。
「……まぁ、無防備な寝顔を見せたくない、みたいなのもあるのかもしれないけれど」
「起きている間は、私達の知るライネスさんですが……寝起きまでそうだとは限りませんものね」
「……ん、甘えん坊?」
「さぁ、ねぇ?」
基本的にはライネスであるけれど、彼女はあのラットハウスに居る限り、常にチノちゃんとしての属性も得ているわけで。
……意識のあるうちはまだしも、気の張っていない状況ではそうして抑えているチノちゃん分が溢れることも、もしかしたらあるのかもしれない。
そういった様々な理由から、『アスナは連れ帰って貰えるかい?』なんて言葉が彼女から飛び出し、私達はそれを了承することになった……というわけなのであった。
……当のアスナちゃん?徹頭徹尾ぽやっ、とした感じで流されてましたがなにか?
「ん。……ホントはどうか知らないけど。私は考えるの、あんまり得意じゃない」
「成立条件の問題、ってことなのかしらねぇ」
その理由についてだけど……恐らくは彼女が【顕象】だから、というのが大きいだろう。
てっきり普通に『逆憑依』かと思っていたのだが、なんとこのアスナちゃん、その中身は【顕象】なのだという。
──それはつまり、迂闊に上条君に触れさせるのは躊躇われる存在である、ということでもある。その辺りもまた、彼女をラットハウスに置いておけない理由に繋がっていた、というわけでして。
いやまぁ、多分大丈夫だろうと
「……しかしまぁ、また高貴な身分の人の【顕象】、かぁ……」
「これもマーリンさんの差し金、というやつなのでしょうか……?」
そんな愚痴は、一先ず置いとくとして。
会話が移った先は、またもや姫とかのような、身分的に高貴な人物を居候させることになったなぁ……というため息。
既にアルトリア……もといアンリエッタを住まわせている私であるが、このアスナちゃんも姫属性高めの存在であるため、ちょっと気後れする感じがなくもなく。
それ以外にも──高貴かどうかは別として、ハクさんも存在的には格の高い感じだし。『始まりの三匹』が衆合されているCP君も、格的には意外と高い方だろう。
ビワも
……改めてみると、色々ヤバイもの居すぎでは?みたいな気分になるというか。……え?銀ちゃんのとこもわりとアレ?それはそう。
「要するに、別にヤバイのはうちだけではないってことか……」
「まぁ、皆さんそもそも『逆憑依』やそれに類するモノですし……」
言外に『ここにまともなやつは居ない』みたいなことを述べてくるマシュに、ほんのり辟易しつつ。
てきぱきと、目的のブツを集めていく私達。……世間話をしながら、私達が向かっていた場所。それは、近くのスーパーであった。
まぁ要するに、新人さんのための歓迎会を催すのに、食材やら飲み物やらの買い出しに向かっていた……というわけである。
「時間帯的に、半額セールも始まっていますね。お惣菜売場には、近付かないようにしないとっ」
「……?お惣菜、なにか問題あるの?」
「ああいや、別に変なもの売ってるわけじゃなくてね?」
そんな中、バイト終わりの買い出しなので、時間帯がいつもと違うことを改めて認識したらしいマシュが、むんっと一つ気合いを入れている姿を見て、アスナちゃんが小さく首を傾げていた。
……まぁ確かに、この言い方だと惣菜に問題があるように聞こえなくもない。
が、問題があるのは惣菜の味や品質、というわけではなく。
「うおおお今日こそはこの半額の鮭弁をぬぉばらげぇっ!!?」
「油断大敵ぃっ!この鮭弁は頂いたぁっ!!」
「コロッケは渡しませんわよー!!!」
「おにぎりっ、おにぎりを確保だっ」
「───なにあれ」
「半額弁当を求める狼達ですね*5。……いえ、なりきり郷においては食事に金銭を掛ける必要がない以上、あれは原作ファン達のごっこ遊び……みたいなもののようですが」
「ええー……」
「たまにいるのよね、ああやって
惣菜売場で繰り広げられていたのは、半額のシールが貼られた弁当や惣菜達を片手に、時に拳や蹴りを繰り出し、時に能力で炎や氷が舞う……見た目だけならド派手な戦闘、その実単なる惣菜の奪い合い……という、なんとも言えないバトル。
なりきり郷において、基本的には『安さ』に意味は無いにも関わらず、それでも戦いを繰り広げる彼らは──言ってしまえばハリボテの狼。
されど、本気で弁当を追うその瞳に、決して曇りなどはなく。……ぶっちゃけてしまえば本気でバカをやっているその姿に、流石のアスナちゃんも唖然とした表情を見せていたのでした。
──なお私達は、特に関わりあいになる前に普通に食材を買って家に帰りました。巻き込まれたくないし、是非もないね☆