なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
さて、やって来ました夏の海!
綺麗な海を眼下に臨む観光地、今回私達がやって来たのはそんな場所だった。
今の日本にこれほど自然豊かな場所が残っているとか、ちょっとびっくりだなー。
……みたいな感じに周囲の森を眺めつつ、みんなで今日泊まる予定の宿に向かっててくてく。
そうしてたどり着いたのは、ちょっと古ぼけてるけど立派な外観の旅館。
そのカウンターに代表のゆかりんが
それから、グループ毎に別れて、部屋に荷物を置きに行く。
──逆憑依なんて不可思議な現象を受けている私達。
そのせいで、見た目の性別と中身の性別、どちらを考慮してグループわけすればいいのか?
……みたいな話になった結果、『なりきりをしている身としては、その姿に恥じぬ行いをするのは当たり前』という原則に従って特に性別によるグループわけはしない、と言うことになっていた。
私とマシュは中身が男性だし、詳しく聞いてないけど男性組に中の人が女性、なんて人も居るかもしれない。
そこら辺を問題なくわけるのはほぼ不可能なので、こうして妥協案みたいになっていたのだった。
まぁ、男女混合でも別に変な事とかしないだろうし、そもそも元が男性や女性だからといって、ちょっと異性に対して物わかりが良くなる、くらいの変化しかないんだけども。
『なりきり板は健全な板ですので!えっちなのはいけないと思います!』*1
「その台詞は私が言うべき*2やつなのでは!?ええい、やはり彼女は危険分子でしたか!ならば私もフォーリナーのように*3……!!」
「いややらなくていいからねXちゃん?!」
スマホからBBちゃんが突然声を上げる。
……いやまぁ、うちら健全を心掛けてますんで、えっちぃのは良くないってのは正しいと思いますけど。
でもまぁ、声的にそのネタは自分がやりたかった、とXちゃんが主張するのもわからなくもない。
でも装備を
今回は外での活動だから、些細な諍いも御法度なんや、堪忍しておくれやす。
「お?綺麗なおねいさんにお声をかけるのはダメなの?」
「う、うーん?しんちゃんのキャラ的には、そこは押さえなきゃあれなのか?……うーん、今回は普通でお願いするね」
「ほっほーい」
「なるほど、原作の彼よりもちょっと素直?なのですね」
「中の人が居るからねー」
そしたら今度はしんちゃんから疑問の声。
……彼のキャラ的には、綺麗なお姉さんに話し掛けに行かねばならんから、そこら辺どうなのか?と言うことだろうか。
まぁ、別にそれをしなくてもしんちゃんとしては動けると思うので、今回はちょっと自重して貰うことにする。
……やるにしても、なりきり郷のメンバー相手だけにしなさいとも。
そう伝えると、彼はいつものように軽い返事をして、ジェレミアさんの方に駆けていった。
それを見たゆかりさんが、こちらに声を掛けてくる。
……代わる代わる人が近付いてくるな今回。
「中の人……それを言うのなら、私達にも中の人は存在する訳ですが。……正直、私みたいなのは、ほぼ中の人であると言った方が良いのではないでしょうか?」
「ゆかりさんは元々男の人ー?」
「へ?え、あ、そうですが……」
「おおぅ、私達と同じだったか、意外だなぁ。……完全に没個性なキャラでもない限り、微妙に本人でもキャラクターでもない──ってのが私らなりきり組でしょう?あんまり気にされてると胃とか痛みますよ、私みたいに」
「……なんだか前回お会いした時と、随分雰囲気がお変わりになられましたね?」
ゆかりさんが小さく首を傾げて苦笑している。
……前回私が彼女と顔を合わせたのは、確かなりきり郷に来たばかりの時だったか。
じゃあ、変化するのもある程度は仕方ない……かな?
実際、この数ヵ月はあれこれと悩まされる事や、あちこち走り回る事が多かったように思う。
そりゃまぁ、嫌でも変わるよねというか、ね?
「ふふっ。なるほど、それは仕方ありませんね」
「そうなのです。……で、近くに商店があるみたいなので、みんなそっちに移動らしいですよ?」
「なんと。では急がなくてはいけませんね」
そんな感じにふふふと笑みを交わして、旅館の入り口で待つ皆の元に駆ける私とゆかりさんなのだった。
「観光地の土産物屋と言えば、この『龍が剣に巻き付いたキーホルダー』*6だよねぇ」
「うっわ、こういうのまだ売ってるんだ。懐かしいなぁ」
「私共の学生時代も、ちょっとした話題集めにこういうものを買った覚えがありますね」
「そうかー?俺んところは、木刀買おうとして怒られてる奴ばっかだった気がするがなぁ」*7
五条さんとジェレミアさん。それから銀ちゃんを伴って土産物屋を見て回る私。
……このくるくる回る奴*8にいっぱい掛けてあるキーホルダー類、こういうのってやっぱり、売場の賑やかしの意味の方が強いのだろうか?なんて事を男衆と話す。
あとキーホルダーと言えば、大体どこにでも居る「全部選ぶ覇王」さん*9も結構主張が強いよね。
「ご当地ものだっけ。全部の都道府県にあるって話だし、なんか凄いよねぇ」
「凄くなんかないわ、だってよく考えて、その上で全部受けてるだけなんですもの」
「へー。……ところでよぉ、今の声誰?」
「覇王さんのお言葉だっ、心して聞けっ」
「いきなりどうしたキーアっ!!?」
まさかの天の声にちょっとビビりつつ、土産物屋の内部を移動。着いたのは定番の食べ物コーナーである。
「賞味期限とか気にすんなら、こういうのは帰る前に買うべきかねぇ」
「足が早いものを買うんならそうでしょうけど、基本的にこういうのって日持ちするもの選ばない?」
「モノによりますね。その土地の名産が生菓子とかであるのならば、それを選ぶのは間違いではないでしょう?」
「まぁ、最悪ゆかりんに全部サクッとスキマ郵送して貰えば済む話だけどね」
「ちょっとー!?聞こえてるわよー!!誰が便利な黒猫*10よー!!」
「おっと、聞こえてたか」
並んでいるクッキーやらプリンやらを眺めつつ、あれこれと話をしていたら、ちょっと離れた位置のゆかりんから、ツッコミが飛んできた。
まぁ、これに関しては五条さんが悪いので、私からフォローはしない。
……じゃれあってるようなものなので、別に目くじら立てるようなもんでもないし。
「……あれでじゃれてんのか?」
「じゃれてるじゃれてる。基本的にゆかりん、ああいうスキマの使い方、五条さん相手にしかしないし」
ほら、五条さんも笑ってるから大丈夫大丈夫()
しばらくして、飽きたのかスッとスキマの間から飛び出して来てたし、何も問題はないな!
「問題しかねーだろ……。ここ、一般人も居るんだろ?」
「だから玄関にスマホ置いてきたんじゃん」
「あ?……ってマジかよ」
至極もっともな疑問を呈するハセヲ君に、私は店の玄関口に備え付けられた椅子を指差す。
そこに立て掛けられているのは私のスマホで、スマホからは時々ピンク色の怪光線が乱れ飛んでいる。
無論、それらは全てニューラライズする為のものであり、ある意味今回の旅行の許可が出た一番の理由でもある。
「行く前に参加費払ったでしょ?あれ、基本的にBBちゃんへの報酬だから」
「マジかよ、金の心配はいらねぇみたいな事言ってたのに、一体何に使うんだって思ってたが……」
『BBちゃんは無償奉仕とかしませんので!ところでせんぱい?終わりが見えないんですけどぉー!?』
「ははは、頑張ってBBちゃん」
『せんぱいのおにちく*12ー!』
BBちゃんのお陰で、周囲への影響をある程度無視できるようになったのは大きい。
幻覚使いとかが居ればまた話は違ったのだろうが、今のところこういう事をできる人はBBちゃんしか居ない。
なので、彼女の参入がココアちゃんの要望を叶える為の、一番の要因となっているのも確かだったりする。
そのせいなのかなんなのか、ココアちゃんはなんとなーくBBちゃんを気にしているようだったり。
「BBちゃんBBちゃん!これとかどうかな?」
『花、ですかぁ?……うーん、悪くはないですね!』
「ホント!?よぉし、じゃあこれはBBちゃんの分ね♪」
みたいな感じで、お揃いのヘアピンとか選んでる辺り、よっぽど気に入ったようだ。
……ふーむ、ラットハウスに設置型のスクリーンでも常設しておくべきか……?
「その場合、うちは
「ぴっぴかちゅー」*13
おっとライネスからのお小言が飛んできた。
……でもまぁ、彼女の言うことも一理あるか。
現状でも三人+一匹の内訳は事件簿・fgo・ごちうさ・ポケモンで、半分が型月系である。
それにBBちゃんまで加えると、型月組が過半数を越えてしまう。
「月が多いってか?……それこそ元の名前にするとか、ライバル店*14だったかの名前にする方があってるだろうな」
「ウサギの街だもんね、あそこ」*15
銀ちゃんの言葉にうんうんと頷く。
月と言えばうさぎ、うさぎと言えばラビットハウス。……綺麗にスタート地点に戻ってきた感があるというか。
とはいえ、実際にラビットハウスにしてしまうと、看板鼠のトリムマウ(という名前なのだとこの前聞いた)が不憫なので、名前の変更はおそらくないだろうけども。
「そんな感じなんで、BBちゃん連れてたまに顔見せしにいくから、それで我慢してねー」
「えー?キーアちゃん、たまにしかうちに来ないじゃん……」
「はいはい、今度からもうちょっと行く頻度増やすから」
「ホントに?やったねマシュちゃん♪」
「ふぇぁっ!?ななななぜそこで私の名前がっ!?」
なので、常設ではなく私と一緒に店に遊びに行く、という方向で納得して貰おうとしたのだが、何故かマシュの方に話が飛び火していた。
突然巻き込まれたマシュは、なんだか大慌てである。……そんなに慌てる必要性ある?
「え?だってマシュちゃん、いっつも『せんぱい、来ないなぁ』って言ってもがもが」
「ココアさんそれは内緒にして下さいと言って……あわわわ違うんですせんぱいちがあのちが」
『……せんぱいも隅に置けませんねぇ』
「ノーコメントでーす」
「せんぱいっ!?」
そうして飛び出した言葉に、スッと視線を逸らす私なのでした。