なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
はてさて、束の間の休息も過ぎ去って、そろそろ八月も終わりを迎えようという今日この頃。
私達一行はと言うと、アスナちゃんに郷の内部を案内する……という名目で、彼女の無効化能力がどの範囲・どの対象に対して効果を発揮するのか?……ということを確かめるために、少し遠出をしていたのだった。
無論、途中でラットハウスに寄って、洗い物をどこに干そうか?……と悩んでいた上条君を捕まえることも忘れない。
「いや、俺ってあんまり出歩かない方が良い……って話だったんじゃ?」
「実はねー、今の私ってばちょいとキリアに頼んで、能力補助して貰ってるんですわ。……要するに、今なら上条君の『幻想殺し』をごまかせるから、どうにかできる今のうちにあれこれ確認しとこう……って話になったのです」
「ええ……俺自身に通達もなく、色々と話が急すぎる……」
女の子と一つ同じ屋根の下、よもや洗った下着を見える位置に干すのもな……みたいに唸っていた上条君は、現在他の問題に直面させられたために、別種の唸り声をあげている。
上条君の右手、『
直接触れなければならない、という点においてはちょっと取り回しの悪さなども窺えるが……異能に頼りきり、みたいな相手にとってはこれほど脅威的な技能も早々ないと思えるような、いわゆる『
……まぁ、逆に言うとフィジカル面で強い相手、というのにはどうしようもなかったりするのだが。
ついでに言うのであれば、原作での『聖人』みたいな、どう考えても普通の人間ではないような存在であっても、その身体能力を無効にすることはできない……みたいな相手も居るし。
触れた先から消していくという仕様上、原作の『魔神』みたいな無限使いには相性が悪い、なんて話もある。
要するに、原作の最新話付近では今までほど『切り札』感もなくなって来ている、と言えなくもない状態になってしまっているのであった。
……まぁ、上条君本人に纏わる謎、というものがある以上、彼が主役から転げ落ちることはそうないとは思うのだが。『幻想殺し』の本当の役目は、そっちを封じるためのもの……なんて噂もあるわけなのだし。
ともあれ、ここでの彼のそれ──『幻想殺し』は、本来のそれとはどうにも性能が違っているらしい、というのは既に判明している事実。
その差異を
「はー、見た目は小さかったけど、滅茶苦茶まともな人だったんだな、あの人。……名前からして、胡散臭いの化身かと思ってたんだが」
「スゴイ・シツレイ!……いやまぁ、特によく知らん人からのゆかりんのイメージが、『黒幕』になるってのはわからんでもないんだけどね」
「……話は変わりますが、『小さい』と形容するのは止めておいた方が宜しいかと」
「?なんでまた。別に小さくても、小萌先生*1みたいに小さくても立派な人なんて、いっぱいい居ると上条さんは思インデックスに噛まれたみたいに頭がじくじくと痛いっ!?」*2
なお、当の上条君からは『小さいのに凄いなー』みたいな、わりと雑な感想が飛び出していたわけなのだが。
……まぁうん、『小さい』とか褒め言葉でもなんでもないのも、また事実。『滞空回線』もとい『八雲回線』により、郷の中での違法行為──他者への誹謗中傷など──は監視されており、即座に処罰が飛んでくるようになった今日この頃。*3……上条君がその制裁を受ける、というのは最早わかりきった結末だったようで。
ある意味ではお決まりの──インなんとかさん*4に頭を噛まれる上条君、みたいな光景を見ながら、私はやれやれと首を振ることになるのでした。……いやまぁ、実際に噛みついてるのはワンワンなんだけどね?*5……いやなんで?
「酷い目にあった……」
「八割くらい自業自得だと思われる件について」
「女性の身体的特徴について触れるのは、それが褒め言葉のつもりでも一つシンキングタイムを置いてからの方がよい、ということなのかもしれませんね……」
「私にはよくわからないけど……カミジョー、わかった?」
「よくよく考えたら、周囲が女性ばかりなので完全にアウェーな件……」
ガジガジと上条君に噛み付いていたワンワンには、どうにかお帰り願うこと暫し。
頭から血を流していた上条君が、体調を整えるまで待機していた私達は、改めて移動を再開していたのであった。
……その中で気付いたのだけど、上条君と言えば回復系の異能が効果がない、という話があるが……どうにもその制約、こちらの世界では
どういうことかというと、さっきの『ワンワンに噛み付かれる』という事態によってできあがった傷、瞬く間に治ってしまったのである。
それはまるで、ギャグ漫画などにおいて『二コマ目には傷が治っている』みたいな状況を思い起こさせるモノのような──。
「つまり、その場所・場面特有の変な現象に対して、ここの上条君は『幻想殺し』を発揮できていない、もしくはスルー対象になっている……ってことかな?」
「字面に反してわりと真面目な考察!?」
「確かに。
「……あ、あれ?これはもしかして、上条さんが付いていけていないだけであって、わりとシリアスなシーンだったりするのでせうか……?」
「なるほど、カミジョーはギャグキャラ。アスナ覚えた」
「……あ、なんだやっぱりおかしいのはこの場の空気……いやちげぇ、上条さんは罷り間違ってもギャグ漫画の住人などではありませんのことよ!?」
そこからわかるのは、ここの上条君は『場の空気を殺すことはできない』ということ。
それが話の流れとして自然であるのならば、本来は不自然な『突然の治癒』も受け入れる、ということである。
……いやまぁ、ギャグ描写が単に『幻想殺し』に勝った、というだけの話である可能性もなくはないのだけれど。
なお、上条君は抗議していたが……どちらにせよ『場に掛かった効果は無効化されない』というのは、このなりきり郷が崩落していないことから見ても間違いなく。
それによって彼の行動範囲が広がるのであれば、それは寧ろ彼にとって喜ばしいことなのではないか、と思う次第である。
「……と、言うと?」
「恐らくだけど、上条君を
「……俺を、活かす?」
疑念からか首を傾げる上条君に、詳しい説明を並べていく私。
上条当麻という存在に対して、周囲の人間や観測者達が望むことは──まず間違いなく、『幻想』を『殺す』姿だろう。
圧倒的な強さを誇る相手に対し、その強みを打ち砕くとっておきの
ともあれ、彼に求められるのが『驕り高ぶった相手の横っ面を殴り飛ばす』ことである以上、『幻想殺し』を完全に無くしてしまう……という対処は憚られるものである。
が、しかし。もし仮に『幻想殺し』がそのカタログスペックを完全に発揮していたのであれば──このなりきり郷に使用されている『空間拡張技術』、こちらが無効化され、広がっていた世界が爆縮し押し潰される……というのは目に見えている。
それでは困る、と調整された部分が、恐らくは『場の空気は殺せない』というものなのだろう。『あの人』の手が入ったのは、恐らくそこ、ということになるわけなのである。
「それと俺を活かすってのに、どういう関係が?」
「要するに、欲しいものは受けて要らないものは捨てられる……っていう、そこのアスナちゃんみたいな体質になった、ってことだよ。……いやまぁ、回復魔法とか受けられない辺り、利便性はその域には達していないみたいだけど」
「なるほど、ここで私」(ドヤッ)
「いや、なんでドヤ顔なんだよ……?」
正確には、場の空気という抜け道ができた……と言うべきか。
本来の上条君であれば、大怪我したら暫く入院だし、神秘の塊のような相手には容易には触れられない。
だがしかし、今ここにいる上条君に関しては、『幻想殺し』に例外処理が含まれるようになったため、その時々の空気感にもよるが……例えば
ともあれ、彼がこの世界に『殺せない』モノが増えた、ということだけは確かだろう。それでいながら、基本的な彼の活躍・それを為すための道筋には
また、その道筋を開くために参考にされたのが、横でふふんと胸を張っているアスナちゃん、ということになるのだろう。
彼女は『完全魔法無効化能力者』であるが、自身に益をもたらすもの──回復魔法や強化魔法などについては、しっかりと受け入れることのできる人物でもある。……まぁ、じゃなきゃ作中最高峰の強化技である『
ともあれ、この分であれば、そこまで警戒する必要もないのかもしれない。
そんなことを語りながら、私達の行動はスタートするのでありましたとさ。