なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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意外と思い詰める質

「はいはーい、先日ぶりですね皆さーん……」

「ど、どうも琥珀さん……その、大丈夫です……?」

「はい?……いやー、なにを言ってるんですかキーアさん。私ならほら、この通り元気元気、ですよ~?

 

 

 エレベーター区画からオートウォークに乗って、はるばる琥珀さんの居住地にまでやって来た私達。

 そこで顔を見た琥珀さんはと言うと……その、先日の彼女と比べると、かなり窶れた顔になってしまっていた(目の下の隈とか凄い)のだった。……何故に!?

 

 

「ああ、ちょうどよかった!皆からも言ってあげて!いい加減休めって!」

「い、いえいえ。琥珀さんは全然大丈夫です。まだまだ行けますよ~……コフッ!?」

「それ別キャラの台詞ぅっ!?」*1

 

 

 そんな風に困惑する私達の前で、家から慌てて飛び出してきたのはクリス。

 どうにも実験の手伝いのため、いつも通りに彼女の家に顔を出していた、ということになるようだが……なんというかこう、聞き分けのない相手になんとか言い聞かせようとするようなその言葉に、思わず顔を見合わせてしまう私達なのであった。

 

 とまぁ、そんな短いやり取りを終えて、改めて家の中に入った私達。

 あの様子ではこちらの頼み事を聞いて貰う、というのも無理があるだろうとのことから、クリスの頼み通り無理矢理琥珀さんには休んでいて貰う(縛って眠らせてベッドにIN)、ということになったのだが……。

 

 

「……これは予想外」

「す、凄いデータの山です……!」

 

 

 琥珀さんをベッドに放り込んだのち、案内された客間には……何かしらの数値やらコメントやらがびっしりと書き込まれた書類が、それこそ山のように転がっていたのだった。足の踏み場も手の置き場もない!*2

 

 その異様な光景に、冒険者一行はSANチェック……はしなかったものの、これは何事かとクリスの方に視線を集中させてしまうのは仕方のない話で。

 そうしてこちらの視線を一身に受けた彼女はと言えば、はぁ……と大きくため息を吐いたのち、私達にこの家がこんなことになっている理由、とでも言うべきものを伝えてくるのだった。それによれば──。

 

 

「……事態解決のための、データの洗い直しぃ?」

「そ。……それも一年分、自分が関わっていない案件まで含めて、全部ね」

「な、なるほど。でしたら、この量も納得です」

 

 

 こちらがあげたすっとんきょうな声に、クリスはこくりと頷きを返してくる。

 

 なんでも、ここ数日の琥珀さんはというと、まるでなにかに取り憑かれたかのように、前にも増して仕事──研究へとのめり込んでいったのだと言う。

 それは、まさに鬼気迫る*3とでもいうような、あまりにも迫真にして渾身の姿であり、当初はクリスの方も、迂闊に声も手も出せない有り様だったのだとか。

 そしてそのまま三日三晩*4、彼女は研究データの洗い出しを続けていたのである。

 

 ……とはいえ、彼女も人の子。

 後天的な『逆憑依』……もとい【継ぎ接ぎ】であるのだとしても、それによって付随された部分は、あくまでも能力・技能面のもの。……他の面々のように、身体能力が向上しているというわけではない。

 

 これが例えば、『メルブラ』の琥珀さんが『逆憑依』している、というのであれば話は違ったのだろうが……彼女のそれは『プリヤ』におけるマジカルルビー、その人格・性能が幾らか加算されている、というものが近い。

 思考・知識の面で一般人より優れているのだとしても、身体的な付加要素はほぼない。……その辺り、魔術でも使えれば話は違ったのだろうが……。

 

 

「ご存じの通り、彼女の使えるそれ(魔術)は、あくまでも他者に対して付与していくもの。……自分自身に強化を施す、っていうのは制約上難しいみたいで、そういう意味では彼女のスタミナって、一般人と大差ないって感じなのよね」*5

「あー、なるほど。……見たまんま過労ってわけね、あれ」

 

 

 彼女の場合、【継ぎ接ぎ】であることを除くとしても、そもそも憑依対象が()()()()……というと凄まじく語弊があるが、まぁ要するに本来()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ということに違いはなく。

 自身の肉体を休眠状態にして、ステッキの方を動かす……みたいなことはできるけど、そのステッキを自身の肉体に持たせて、バフを重ねる……みたいな運用はできないのである。

 ……なに言ってるかわからない?

 あれだよ、元は一つだった存在が別たれたあと一つに戻ると、何故か元よりパワーアップする……みたいなやつ*6。分身とフュージョン(ドラゴンボールのやつ)する、みたいなのでも可。

 

 まぁ要するに、彼女は『逆憑依』の端くれに名を連ねるわりに、基礎的な部分はほぼ一般人と大差ない存在だ、ということ。

 通常の人と比べて、大きく上回るプラス要素がほとんど存在しない……という風に言い換えてもよい。

 

 なので、創作キャラには付き物・かつ慣れっこなオーバーワーク(過剰労働)も、彼女にとっては普通に過労として噴出してしまうもの、だったというわけで。

 ……ゆかりんとか見てると麻痺しちゃうけど、普通あんなに働いてたら労働基準法とかに引っ掛かるし、なんなら疲労が抜けきらなくて最悪お陀仏するからね、マジで。

 

 そんなわけで、文章にしてみればとても単純な話。

 いつもよりも遥かに多い仕事量を、無理をして短時間でこなしていたため、そのまま順当に体を壊した・もしくは壊す寸前だった……というのが、さっきの琥珀さんの状態だったということである。

 これにはブラックジャック先生も、思わず大爆笑である(無論、悪い意味で)

 

 

「ああそうだな。この施設の中では、一番頭のキレる人物だと思っていたんだが……いかんせん、こうまで愚かなことをされるとなると、思わず笑みも漏れると言うもの……ということだな」

「う~……面目ありませぇ~ん……」

 

 

 ……なんてやり取りが、急に呼ばれてやって来たブラックジャック先生との間に発生していたわけだが……まぁ、やらかしたのは琥珀さんなので、諦めて思う存分絞られてほしい。

 

 とはいえ、それはあくまでもブラックジャック先生が主導でやることであって、こっちがすべきこととは別の話。

 ここで重要なのは、何故琥珀さんが無理をしてまで、過去のデータの洗い直しを進めていたのか?……ということ。

 その理由がわからなければ、彼女を止めることは勿論、こちらの頼みをお願いする暇もない、ということになってしまう。

 

 なので、彼女が一体なにを焦っていたのか?……ということを探るために、近くの書類を一つ手にとって、中身を改めさせて貰ったのだけれど……。

 

 

「……読めぬ」

「まぁ、基本はカルテだから。ドイツ語とかフランス語とかラテン語とか、向こうの言葉に精通していないと、中々読み解くのは難しいでしょうね」

 

 

 手に掴んだのは、どうにも診断書だったようで。

 ……いつかのそれと同じく、内容が理解できなかったため早々に元の場所に戻すことになる私である。……大人しく尻尾ォ巻きつつ泣いて無様に元の居場所戻すしかねぇ……っ!!*7

 

 

「……なんか、変なフラグ立ててねぇか、アンタ?……いやまぁ、上条さんもこういうのはちょっと苦手なんですがっ」

「……?トーマ、おかしなこと言う。学園都市って、例え底辺でも外の世界なら天才の部類が集まってる、って聞いたけど」

「……一体どこの平行世界の話なんでせうかねそれ?少なくともここにいる上条さんは、こういうのは見てると頭が痛くなる……というのは間違いありませんのことよ!?」*8

「ま、まぁまぁお二人とも。私達があれこれ言い合っても仕方ありませんので……」

 

 

 なお、私の横ではちょっとしたトラブルが発生しかけていたが……マシュが両者を取りなすことで、なんとか回避していたようだった。

 いやまぁ、お互いにじゃれてるだけのような気も、しないでもなかったけれども。

 

 ……実際上条君って、戦闘面以外では頭がいいのか悪いのか、場所の特異性的にわかりにくいな……なんてことを思考の片隅に追いやりつつ、改めて別の書類に手を伸ばす私。

 こっちは日本語で書かれていたため、私も特に苦労することなく内容を理解することができたが……。

 

 

「……ふむ?全国の異変発生率調査……?」

「ああ、この間の幽霊事件とか、その前の過疎地での異形発見の報せとか。そういうの、お役所仕事だからまだデジタル化できてない……ってことで、こっちで纏めたりしてたから」

 

 

 クリスの説明を聞きつつ、資料を読み進めていく私。

 そこに書かれている内容は彼女の言う通り、各地で発生した異常現象についての様々なデータが、数字や所感として記されているのだった。

 続くお役所仕事の言葉通り、害獣駆除の報告書をテンプレートに、あれこれと得られた情報を盛り込んでいる……という、とても読みにくいタイプの書類である。

 

 ……こういうのを纏めてデータベースに入力したりするのも、彼女達の仕事だと言うのだから堪ったものではない。

 生データは確かに貴重だが、読むだけに一枚で四分以上掛かるようなものを、それこそ数えられないくらいに頼まれている……というのだから、そりゃまぁ過労にもなろうというものである。

 ただ、これに関しては『データベースに纏めても、有効活用できる人間が少ない』とのことで、半ば後回しになっているのだとも言っていたのだった。

 

 

「内容的に、うちの関係者以外使えないでしょ、これ。……スマホから確認できるようにするにしても、使うのは外に出てる人達ばっかり。……そこまでしても、基本的に『逆憑依』案件で必要なのは、今そこにいるのがなんなのか、っていう情報の方。……そっちはwikiでも見れば普通にヒットする、みたいなことの方が多いわけだし」

「ああうん、基本的には創作物関連だもんね……」

 

 

 クリスの嘆きに、思わず頷いてしまう私である。

 

 最近ここに加わったイッスン君なんかは、ちょっと毛色が違うけど……だとしても、彼もまた『一寸法師』という、()()()()()()()()()()()()()という点については、他の面々と大差ない。

 異質、という意味では世に出ていない作品が元である私も、色々と例外ではあるが……それでもやはり、出身が物語である、という点に違いはない。

 

 ……要するに、精々発見情報とか、見た目についての情報くらいしかないこのデータベースというのは、精々似たような事件が起きた時にその関連を疑える、くらいの利点しかないのである。

 そんなものを使うくらいならば、相手の見た目を文章化し、検索ボックスにでもぶち込んだ方が、よっぽど答えが得られるというもの。

 

 そういう意味で、件のデータベース作成に関しては、結構後回しになってしまっているのが現状、なのだそうだ。

 

 

(……まぁ、だとするとなんでここにあるのか、ってことが気になるんだけど)

 

 

 ただ、それが本当だとすると。

 琥珀さんが鬼気迫る表情で集めた資料の中に、一時見送りとなった書類が混じっている……ということにもなるため、少々首を捻らざるをえないところもあるのだが。……というのが、今の私の心境。

 

 

(……まぁ、琥珀さんが起きてから聞けばいいか)

 

 

 とはいえ、それがなんでなのか?……というのは、部外者である私達には理解できぬこと。

 それならば他の資料を漁った方がマシ、と私は他の資料に手を伸ばすのだった。

 

 

*1
『fate/grand_order』……もとい、『帝都聖杯奇譚』におけるセイバーのサーヴァント・沖田総司は、元々『琥珀さんがセイバーになったら』という設定で新キャラを作ろうとしたのが(社長(武内)の手で)ボツった結果、その原案を元に設定を膨らませたサーヴァントである、という裏話から。沖田さんの大きなリボンなどは、元々琥珀さんだった頃の名残なのだとか

*2
『足の踏み場もない』は、慣用句。床が見えないほどに物が散らかっていることを示すもので、要するに『床=足の踏み場』。なので、無理矢理進むことは可能ではある。……物の下に押しピンなどがなければ、だが

*3
恐ろしく不気味な気配・雰囲気。もしくは、見ている人を戦慄させるような表情のこと。この場合の『鬼』とは、幽霊などのおぞましいものの総称。それが近くにいる時のように、見ている側が思わず震え上がってしまうような状態、ということ

*4
三日間全て、の意味。この場合の『日』は一日中という意味ではなく、『昼』のこと。すなわち『三の昼と三の晩』の意味となる

*5
『魔法少女に使われる(もの)』としての性質が大きく、自分が魔法少女側になることはできない……の意味

*6
光と闇に別れたり、みたいな話。何故か大本の存在より遥かに弱くなっている、ということが多い(単純な分割ではない?)

*7
『とある』シリーズの一方通行(アクセラレータ)の台詞。わざわざ言い直したのは、『元に戻す』という言葉が引っ掛かった為

*8
上条当麻は作中において、高校のテストで赤点常連……と、いわゆるバカ扱いのような描写が存在するが、そのわりにアクロバイク(電動補助付き自転車。凄まじく高性能)の分厚いマニュアルを読み込んで使いこなすなど、地頭(じあたま)は普通によいと思われる部分もある。総じて、学園都市の学術レベルが、そもそも外よりも数段先のモノである為、その中の落ちこぼれも外の世界では結構な天才になるのでは?という話に繋がる、ということ

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