なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……わからん」
「集められた資料には、統一性というものがありませんね……」
それから数十分後。
何故琥珀さんが、鬼気迫るような表情で仕事に没頭していたのか?……ということを推測するため。
それから、彼女が半ば気絶するように落ちていった睡眠から、復帰する時間を待つ間の手慰みとして、私達は客間に溢れた資料達を、手分けして検分していたわけなのだけれど……。
そうした書類達を改めれば改めるだけ、その関連性のなさ・あるいはその見えなさに、振り回される形となっていたのだった。
これには一同、脳の使いすぎでぼんやり状態。こうなってしまうと、最早まともに文章を読むのも一苦労である。*1
……なので、ちょっと休憩にしようということになったのだった。
「……流石に、ジェレミアさんとかと比べられると困るけど……」
「いやいや十分!うまい!うまい!うまい!」
「いやなんで煉獄さん!?」*2
「すげーなこの人、テンション乱高下してるよ……」
「なるほど、それがこの土地での流儀とみた」
「いやそんなこと覚えなくていいからね?!」
いつの間にやら、天然不思議系なアスナちゃんの御守り役になっている上条君に、この人どこ行っても変わんねーなー*3みたいな感想を抱きつつ、うまいうまいと紅茶を飲む私。
これを淹れたのはご覧の通り、クリスだったわけなのだけど……そりゃまぁジェレミアさんのやつと比べたら、大抵の紅茶は二流品になるのは致し方なし。普通に美味しいので問題ないと答えを返せば、彼女はどこか安心したように、ほっと息を吐いていたのだった。
……たかだか紅茶如きでなんと大袈裟な、と思われそうな話だが、こと彼女にとっては別。
クリスはいわゆる料理音痴に区分される存在であり、しかも本人がそれに気付いていないという筋金入りである。*4『逆憑依』として成立することにより、原作知識という形で『自身は料理音痴だ』と認識し、それを直そうと思い至ったようだけど……思い至ったからといって、それがうまく行く保証などどこにもなく。
ゆえに、淹れた紅茶に問題がなかった、というのは彼女にとって、わりと大きめな成功体験になっているのであった。
……やっぱり話が大袈裟すぎる?キャラクターとしての
まぁそうしてうまく行った理由は、使われている食器が普通のやつではなく、
飲食用に別で用意してある、ってのは本当だったんだなぁ……なんてことを口に出さずにぼやきつつ、そのままビーカーの中身の茶色い液体を嚥下する私である。
……こうやって言うと、謎の液体飲み干したように聞こえるね、ビーカーのせいで。
「……いい加減、ちゃんとした食器を揃えるように……って、もっと真剣に嘆願しとくべきかしら……」
「暖簾に腕押し糠に釘、琥珀さんには常識を……ってなもんで、多分無理なんじゃないかな?」
「ぬぐぅ」
なぉ、クリスはクリスで、あくまで及第点・かつ
「……変な空気になっているようだが。一応、伝えておくぞ。彼女が目を覚ました」
どことなくお通夜ムードになってしまった私達に、若干呆れたように声を掛けてくるのはブラックジャック先生。
琥珀さんが目を覚ましたとの彼の言葉に、私達は頭を振りながら立ち上がり、直ちに彼女の眠っていた部屋まで急行するのだった。
「いやはや面目ない……皆さんには、どうにもご迷惑をお掛けしたようで……」
「そうですよ。反省してくださいね、先生」
ベッドから半身を起こした琥珀さんは、さっきに比べれば顔色が良くなっており、束の間とはいえ休息を取らせたことが、間違いではなかったのだとこちらに伝えてくる。
その姿に、一同安堵の息を吐きつつ……改めて、彼女がなにを焦っていたのかを問い掛ければ。
その問いに対して返ってきたのは、わりと意外な言葉なのであった。
「……怖かった、ですか?」
聞き返したこちらの言葉に、たははと苦笑を浮かべながら後頭部を掻いている琥珀さん。
なんでも、先日目の当たりにしたビーストⅣi、それからそれに臆することなく──いや寧ろ柳に風の如く対峙して見せたキリアの姿に、言葉にならないような恐怖を抱いたのだと彼女は言うのである。
「……お恥ずかしながら、私はこの『逆憑依』という案件において、どこか部外者のような認識でことに当たっていました。【継ぎ接ぎ】という形で、皆さんの輪に入ることとなりましたが……結局のところは当事者意識、というものに欠けていたのです」
琥珀さんがなりきり郷に留まるようになった理由。
それは、彼女が以前人工的な『逆憑依』について研究していた人間だったから、という立場によるところが大きい。
彼女の持つ知識や技術というのは、迂闊に外に出してしまえばそれ自体が新たな騒動の火種になりうるもの。……善良な科学者として、それは良くないということは理解していた彼女は、特に反対意見を述べることもなくこちらの指示に従い──そして今まで、
けれどそれは、言ってしまえば雇い主が変わっただけのこと。
雇用条件に『逆憑依に関わる者』という文面が書き加えられただけのことであって、雑に言ってしまえば
……まぁ、仕事だと認識しつつ、あれこれと結構好き勝手にモノを作ったりしていたわけでもあるのだけれど……その辺りはそう、予算があるならやりたいことやったもん勝ち、ってやりたくなる科学者の性……的なものなのだそうで。*5
「実際、仕事にまっったく関係無いようなモノは作っていませんからね、私」
「まぁ変身アイテムとかも、言ってしまえば【継ぎ接ぎ】の性質解明のためのツールだしねぇ」
なので、プレミアムバ○ダイで発売するような、超リッチかつ実際に変身できるライダーベルト*6……なんてモノを作ったとしても、それはあくまで仕事で必要だから作っただけなのである。たぶん。
……ともかく。
彼女は好き勝手やっているように見えて、実は一歩引いた位置からこの『逆憑依』という仕事に関わっていた、というわけなのである。
──ゆえに、彼女の認識にはどこか甘えがあった。
仕事で関わっているだけなのだから、そんなに重要なことには巻き込まれないだろう……みたいな、どこか楽観的な思考が。
「……いやー、ほんとビビりましたよね、あの人。……イッスンさんはまぁ、『逆憑依』としてはおかしいところもない、童話からのストレンジャーということで説明は付きますが。──その大本である『少彦名命』。あれに関しては、単なる『逆憑依』……創作世界からの侵食として見るには、異質が過ぎます」
だから、
実在の証明ができない存在であったはずの、
無論、その顕現原理には『逆憑依』を応用しているのではあるのだろうが……だとしても、あの場にいた『少彦名命』は、紛れもなく
「神話も無論、人の創作物であるとすることはできます。……されど、その人格とでも言うべきモノは、余り子細には語られない──ないし、語るには資料が少なすぎる。ゆえに、あの場に現れた彼の神の思考というのは、真実どこにも無いもの──言うなれば
まぁ、桃香さんのようなパターン……平行世界のどこかにある創作物を原典としている、という可能性はありますが。
そう述べる彼女は、されどそれを信じてはいない様子。
つまりは、あの場にいた神は──その実態がどうあれ、琥珀さんにとっては真実
科学者は神を信奉する者が多いと言うが、いわばそういうことだろう。
……科学で解明できないモノはある。なれば、その未知を神と呼ぶことは、そうおかしなことではない……と。*7
「あ、別に神に申し立てるー、とか、そういう話ではないんですよ?……どちらかと言えば、認識が甘かった……みたいな感じと言いましょうか」
とはいえ、これは彼女が神を信じるようになった、という話ではない。
ここで彼女が至ったのは、『逆憑依』という現象は、ともすれば命に関わるものである……という気付きである。
「特定の人のデータなどから、『逆憑依』とはなにかを守るためのゆりかご、なのだと考えていましたが……それと同じくらい、
研究者として関わるからこそ、見えてくるもの。
なにか──憑依された誰かを、守るための殻なのだと彼女は考えていたが。
それと同じくらい、その殻はどこかへと至るための船のようなモノなのではないか?
……と認識した彼女は、改めて『逆憑依』というものに関わる決意を決めた、ということなのだそうで。
「……その結果、ぶっ倒れるまで仕事してた、と?」
「いやはや、本当に面目ありません!私としたことが、視野狭量に陥っていたみたいです……」
トホホ、と項垂れる琥珀さんに、鬼気迫る様子はない。……少なくとも、今焦っても仕方がないと確信できるなにかを掴んだ、ということなのだろうか?
わからないが、とりあえず落ち着いたというのなら、それはそれでいい。……『逆憑依』の本質、というものにも興味はあるが……今は目先の危険の解消が最優先、である。
「じゃあ琥珀さん。気分転換に、ちょっと実験しませんか?」
「……はい?実験?」
首を傾げる彼女に、指差す先は上条君。
お、お手柔らかに……?と苦笑いをする彼を見て、琥珀さんはあー……と小さく声を漏らすのでした。……それ、どういう感情なんです?