なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……毎度毎度、報告書を端から端まで読んでみても、よく分からないことが起こりすぎじゃない?」
「まぁ、こればっかりはねぇ」
それから数日後の、お昼頃のこと。
今回やった実験やらなにやらの調書をまとめ、ゆかりんに提出しに来た私はというと、そのまま彼女と一緒に昼食を摂ることになっていた。
因みに今回は外に食べに行くのではなく、ジェレミアさんが用意してくれた昼食に舌鼓を打つ、という形になっていたわけなのだけれど……私の目の前では食後の紅茶を啜りつつ、いつも通りに難しい顔をしているゆかりんの姿があったのだった。
……まぁ、関わってこないと思っていた相手が、実はわりと積極的に介入してきてるかも?……ともなれば、それも仕方のない話ではあるのだけれど。
「……やっぱり例のノートを確
そうしてティーカップを置いた彼女は、難しい顔をしたままこちらに声を掛けて来たのだけれど……生憎と
なにが
「というかそもそもの話、例のノートの内容が全部正解……ってわけでもないし。作った本人から見ても、所々違うところがあるなーって気分になるんだから、貴方達に迂闊にも見せた結果、変な先入観を植え付けることになって、本当にヤバいことが起きた時に対応間違える……なんてこともあるかもしれないし……」
「……言ってることは決して間違いじゃないんだけど、根本的に『嫌』って言いたいだけなのが見え見えなのよねー……」
それと、実際にキリアに会ってから思ったことだけど……彼女に『他人をからかうような性質』を
……その辺りはまぁ、里帰りしたキリアが戻ってくれば確証が取れる話だろうが……ともあれ、情報の確度が高い、と例のノートをあてにされ過ぎても困る、というのは間違いなく。
なので、なんと言われようとも例のノートを提供するつもりはない……と答えれば、ゆかりんは呆れたような視線をこちらに向けてくるのだった。
……うっせー!ゆかりんだって例の
「……それを言い出したら戦争でしょうが!」
「うるせー!やったらー!はいだらー!」
「お二人とも、お静かに」
「「はーい」」
なお、そうして勃発しかけた大戦争は、ジェレミアさんの鶴の一声で即座に終息するのでした。料理人を怒らせたら死が見えるからね、仕方ないね。
「それで、話を戻すけど……結局彼の──」
「『幻想騙し』?」
「そうそう、それそれ。……それ、問題はないの?」
「んー……」
キャットファイト*2にすら突入しなかった私達は、改めて対面に座り直し、話を元に戻したのだけれど……。
ゆかりん的にはやはり、上条君の現在の右手が、郷に不利益をもたらすものではないのか?……と言うことが気になる様子。
検査の終わったあの日から、彼はとりあえずの自由を得たわけなのだけれど……結局は前と変わらず、ラットハウスでの住み込みを続けているらしい。
最近はウェイターの格好にも慣れて、それなりに仕事ができるようになったという話である。まぁ、
「なぁんでお姉様には出会えもしないどころか、その気配すら感じられませんというのに!
「どわぁっ!?ででで出会い頭にドロップキックなんぞやって来るのは、常盤台のお嬢様としてはしたないにもほどがある……ってやつなんじゃないんですかねぇ!?」
「
「のわーっ!!?」
「ぴかぴーか」*3
……ってな感じに、イライラMAXな黒子ちゃんに時々襲撃を受けたりしているみたいだけど。……『とある』組も今のところ二人目、中々後続が見えてこない辺り、黒子ちゃんも焦っているのかもしれない(なにを?)。
まぁ、そんな話はともかくとして。
彼がすっかり郷の一員として馴染んでいる、というのは喜ばしくもあるわけだが、同時にそんなに好きに行動させて大丈夫なのか?……という疑問もまぁ、決してわからないわけでもない。
本来の『幻想殺し』であったとしても、その影響力というのは計り知れないわけだが。……今の彼の
そんなものを野放しにして、なにか悪影響はないのか?……と疑問に思ってしまうのは、寧ろ当然のことだと言えるだろう。
「……ただねー、性格面云々は置いとくとしても、その能力……あり方?の原理は、私の
「……なるほど」
ただ一つ、問題があるとすれば。
私の
雑に言ってしまえば、互いの位階には、思っている以上に差があるかもしれない……という懸念だ。
便宜上、キリアがNo.2で彼女がNo.1、ということになっているが……その実力に大きな隔たりがあるのであれば、こちらの対処は全て無意味かもしれない、ということになる。
微細な粒子で網を作る、とでも思って貰えばよいか。
それが粒子──球体である以上、それらを平面にて組み合わせていく場合、その粒子の間には必ず隙間が出来上がる。
その隙間を網目と見立てる時、それよりも小さな粒子でなければ、その網を抜けることはできない。
世の中に存在する物質とは、おおよそその原理に従って形作られている。
鉄の鍋やビニール袋が水を貯めておくことができるのも、それらの粒子によって作られた網目が、水の粒子よりも小さいがため。
逆にいえば、それらの
これを、
彼女の小ささが、キリアの作る隙間よりも更に小さいのであれば、私達の行う対処は、網目が大きすぎてすり抜けられるモノでしかない……ということになる。
そしてそれは、恐らく真実であるため……こちらが気にしてあれこれ準備をしていたとしても、
これが、対処しようと考える方が間違い、という言葉の意味。
妨害しようにも小さすぎて叩けないので、結局は場当たり的に対処するしかない、というなんとも世知辛い結論というわけである。
「……めんどくさいわね、貴方達のそれ」
「根本的には、いわゆる『最強系』のキャラクターに対するマストカウンター、みたいな考え方から生まれたものだからねー……」
ゆかりんの口から漏れた、疲れたような言葉に同調してため息を吐く私。
机上で考えている分には『面白い』だけで済んだが、こうして当事者になってしまうと面倒臭いという感覚の方が勝ってしまう。
……なまじ万能とか全能とかに対する
語っていないことも含め、いい加減どうにかするべきだとは思うのだが……うん、無理かなーって。
「諦めるのはやっ!」
「いやうん、人間が台風を止められるか?……とか、そういう類いの話だからこれ」
もしくは、人間が目に見えない細菌を
風邪やインフルエンザについてなら、薬や換気、手洗いうがいなどで対処できているではないか?……みたいなツッコミが来そうだが、ここでの前提は
最初から
それでもし、感染やら症状やらが治まったのであれば。……奇特な人間でもない限り、
ミクロの世界は
──創作世界の『鑑定』のような便利なものが存在しない限り、見えないモノはわからないモノに近似するのである。
それを思えば──あってもおかしくはないが、事実上観測できない位置である極小の世界の住人達が、こちらでなにかをしていたとしても。
視点が大きすぎる私達では、そこで何が行われているのかも──それがなにをもたらすのかも、結局は事がミクロからマクロに波及するまでわからない。
それは事後処理しかできない、ということを肯定するものでもある。……ゆえに、難しく考えるだけ無駄なのである。後悔は、先には立たないのだから。
「……とりあえず、現状維持ってことでいいのかしら?」
「まぁ、うん。……『あの人』の思惑もわからないし、今のところは見に回るべきだと思うよ」
あれこれと話した私達は、結局議題が前に進まなかったことを嘆き、冷めかけた紅茶に手を伸ばすのだった──。
十七章終わりですの。次は幕間です。