なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……まったく、何故私が貴方なんかと……」
夕暮れ時、肩を並べて歩く男女が一組。
その内の片方、ぶつぶつと文句を垂れているのは、口汚く言い募りながらも、どこか気品の見える少女──白井黒子。
「まぁまぁ。折角誘って貰ったんだし、見ていかないのも勿体ないだろ?」
「でしたら、貴方お一人で行けばよろしかったのではありませんこと?……わざわざ、私を誘う必要もなかったと思うのですけれど?」
その隣で頭を掻きながら歩いているのは、ぼさぼさな黒髪が目立つ少年──上条当麻。
黒子からは(色々な事情から)一方的にライバル扱いされている上条はと言えば、今回とある人物からの誘いを受け、こうして彼女に誘いのメールを出したのであった。
……とはいえそれは、別になにか下心*1があっての行動……というわけではなく。
「……いや、単純にこう、心細いというかだな?」
「……まぁ確かに。どうにも集まりが悪いですものね、私達」
思わずぼやかれた上条の言葉に、確かにと相槌を打ってしまう黒子。
この場合の
Type-Moon作品の人物達や、基本的に表に出てこないとはいえ一部で固まっているアークナイツ組など、同一作品群でもその数の大小、というものには結構な差がある。
それはまぁ、当初の予測通りの『なりきる時の人気』、みたいなモノが理由にあるのだろうが……。
「……アニメの評判、あまり良くなかったですものね」
「まぁ、そこだけが全てってわけでもないだろうけどな。
「……次が出るまで、時間が掛かりすぎていましたものねぇ」
「熱も冷めるよなぁ」*2
そもそもに、設定が複雑すぎるという点も、大きな問題となっているのだろう。
彼らの出身作である、『とある』シリーズ。
魔術や伝承、神話などの多岐に渡る情報を、うまく絡め作られていくその作品には、確かに熱狂的なファンが多い。
……が、同時に作品としての
なりきりとは、特定のキャラになりきって会話をする遊び。ゆえに、その人気度とはイコール再現度と言うこともできる。
この場合の人気度とは、キャラクターそのものに対するもの……
その辺りを考慮して、今ここにいる二人を分析してみると……。
まず、『そのキャラをやってみたい』という動機の面で、両者共に
アニメの評価が悪かったからなんだ、と文句を言いたくなる人も居るだろうが……なりきりをするような人というのは、主に二種。
最初からそのキャラが好きな人か、もしくは
その理由を踏まえると、いわゆる『新規層』に一番希求力のある、アニメの評判が良くない……というのは、まさに致命的なのだ。
無論、もう一つの層である『以前からのファン』であるならば、アニメなぞ気にせずになりきろうとする者も居るかもしれないが……そういうのは
なりきりとは、キャラになりきって
結果、そういう作品のなりきりは、いつの間にか人が居なくなって消えてしまうのである。……新規の入らない作品は廃れる、というのは何処へ行っても同じということか。
……話を戻して、新規への希求力の高いアニメが微妙だと、人は増えない……というのは確かな話だが、同時に『作品の設定』が複雑すぎるのも、なりきりとしては好まれないものである。
それは、
なりきりは、所詮は素人の遊びである。
舞台役者や声優達のように、そのキャラに命を吹き込むレベルで熱を入れている、という人は多くない。……いやまぁ、たまにはそういう人も居るわけだけれども。
ともあれ、その前提を踏まえてみると……名無し側からの要求が多く・頑なになりやすい『設定が複雑な作品』というのは、総じてなりきりをしている側にそれなりの負担を強いるもの、だということができる。
……まぁ要するに、めんどくさくなるのである、やっているうちに。
最初は好きでやっていたことが、次第にあれこれと要求が多くなって、苦しくなって……という、よくある『嫌になる流れ』によって、なりきりに嫌気が指して止めてしまうのだ。
酷い時には作品そのものが嫌いになる、なんてところまで行くケースもあるので、この辺りは中々根深い問題ということになるのだろう。
……Type-Moon作品も設定は複雑だろう、という意見が上がるかも知れないが……今現在Type-Moon作品で主流である『fate』シリーズは、そもそも『英霊』という、かつて実在した・ないし伝承に語られた存在達が主役となる作品である。
それゆえ、そこから
ルーンという技術一つ取ってみても、『fate』なら一部の人が使う『なにか凄い技術』程度の理解でも特に問題はないが、『とある』シリーズならばそのルーンの意味・使われた状況・そこから導き出される解まで、あらゆる面で入念に練り上げられた描写が存在するため、適当な理解度ではボロが出るのである。……で、ボロが出れば名無しに『間違っている』と指摘される、と。
これは言うなれば、『初心者歓迎の空気』と言い換えることもできるだろう。
相対評価的にはなるが、『とある』に比べると『fate』の方が、新規はまだ入ってきやすいのだ。……まぁ、詳しいところまで調べようとすれば、どちらも必要な知識量は変わらないような気もするが。
ともあれ、初心者に対する間口・その空気感が
その点において、『fate』関連のなりきりが多いのは、そう変なことでもないというのは確かだろう。*4……似たように設定が煩雑なアークナイツ組に関しては、単にその時旬だった、というだけのことのような気もするわけだが。*5
閑話休題。
関連作品のキャラが身近にいない、というのはそれなりに心細くなるものである。
一人でスレを回していた時のような、孤独にうちひしがれるのはいやだ……みたいな気分が上条にあったとして、誰がそれを責められようか。
なので、黒子の方も強く否定の言葉を告げられずにいるのだった。
「……お姉さまさえ、お姉さまさえいらっしゃればっ、黒子は他にはなにも要りませんと言うのに……っ!!」
「あー、ビリビリなー。……そういえば、なんか『騙された』とかなんとか聞いたけど?」
「よくぞ聞いてくださいました!!」
「ぬぉっ!?」
……まぁ、そうしてうちひしがれていても仕方ないので、二人は再び歩き始めたわけなのだが。
そうして歩き始めてすぐ、黒子は自身の敬愛する相手・御坂美琴が未だこの世界に居ないことを嘆き始める。
白井黒子というキャラクターにとって、御坂美琴という存在はあまりにも重要。それさえ絡まなければ普通に格好いい美少女なのに、なんて評判(?)も出てくるくらい、彼女にとっては無くてはならない存在、というわけなのだが……。
ご覧の通り、この世界に御坂美琴は居ない。気配がないというか、出てきそうにもないというか。
それが
そんな感じで適当に相槌を打った彼は、直ぐ様自身が話題選択をミスった、ということに気が付いて汗を流す。
小耳に挟んだ程度の話だが、彼女がとある口約束に騙された結果、余所の場所のお偉い様方まで巻き込んだ、大騒動を起こしたとかなんとかで、「いやー、失敗失敗☆」と笑う
……基本的には善性の存在である彼女が、そんな暴挙に及ぶ理由なんて、御坂関連以外の何物でもないだろうと当たりを付けていた彼は、ゆえに特に気を付けることもなく、その話題に触れてしまったというわけである。
見た目は美少女以外の何物でもない黒子に手を握られる、というのはわりとドキドキなシチュエーションだが、同時にその相手が血走った目をしている、という辺りに別の意味でドキドキしてしまう上条。
そんな哀れな