なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「ふー、堪能した堪能した。じゃあ次はどこ行こっか?」
「確か……予定の時間までは、まだ長いのですわよね?」
心行くまでケーキを楽しんだ私達は、そのままケーキ屋をあとにしたわけなのだけれど。
そこからは何故か付いてきたミラちゃんと一緒に、次に目指す場所を決めようと小会議をしていたのだった。
「……というか貴方、ケーキを食べに来ただけ……というわけではありませんでしたのね?」
「まぁ、有給の消化を兼ねているというのは、否定はせぬがのぅ。……今日はこのあと、別に重要な用事があるでな。その時間までの暇潰し、という意味も含まれておるのじゃよ」
「重要な用事、ねぇ?」
なお、ミラちゃんの方も暇潰しの真っ最中だったようで。
口では色々言いつつ、何処と無く浮わついた空気の漂う彼女は、端的にいって浮かれているとしか言い様がない状態なのだった。
……ふむ、ミラちゃんが幼女のようにうきうきワクワクするようなこと、ねぇ?
「幼女言うでないわ!……いやまぁ、気持ちが浮わついておることについては、特段否定はせぬが……」
「いやー、どっからどう見ても『遊園地に行くことが決まってテンションアゲアゲ状態』の小学生女子、とかにしか見えないし。今のミラちゃん」
「誰が小五ロリじゃ!!」
「なるほど賢者だけに?*1……って喧しいわっ」
……とまぁ、そんな感じの中身のない会話を投げ合いつつ、次の場所に向かう私達なのであった。
え?結局何処に向かうのか決まったのかって?それは勿論……。
「図書館です」
「えー!!?」
お金を掛けずに時間を潰す……となれば、図書館以外のモノは無かろうよ!……ということで、郷内部にある図書館にまでやって来た私達。
なお、黒子ちゃんは色んな意味で驚いたのか、はしたない叫び声をあげ。ミラちゃんの方は「これが噂の……」みたいな感じで、腕組みをしながら図書館を見上げている。
「いや、としょか、えー!!?」
「なにを驚くことがあると言うのです。我らは全てなりきりなれば、そのキャラが一番輝く場所を用意するのは当然、というやつではありませんかな?」
「……あ、あー。言われてみれば確かに、ですわ……」
どうにも黒子ちゃんは、目の前に突如現れた、国立レベルの図書館の威容に度肝を抜かれていたらしい。
……とはいえ、これは仕方のないこと。
なりきりにおける図書館とは、すなわち『図書館を根城にするキャラクター達のホームグラウンド』である。
それを考慮するとどうなるのか?……雑に言ってしまうと、それぞれのキャラクター達の分だけ、図書館そのものの広さを確保する必要が出てくるのである。
図書館と銘打ってはいるものの、この施設は『書物に関わるキャラクター』達のための舞台でもある。
なので、例えば『ビブリア古書堂の事件手帖』の主人公である篠川栞子さんだとか*2、はたまた『図書館戦争』の図書特殊部隊とかがひしめき合っているのである*3。……え?『図書館戦争』を平和な図書館に混ぜていいのかって?寧ろここ以外の何処に行かせるのかって話だから、別にいいのよ細かいことは。
……まぁ、『R.O.D -READ OR DIE-』の読子さんしかり*4、戦闘能力のある読書家、なんてものは世の中に掃いて捨てるほど居るわけだけども。*5
総じて彼らは『本が好き』なのであって、『戦闘は二の次』という者も多い。
ゆえに、結果として彼らが『なりきり』の次に求めるのは『本』しかないのである。
……要するに、どいつもこいつもこっちが注意しなければ、平気で本の山に埋もれているのである、マジで。
それはアカンやろ、ということで出来上がったのが、この郷立図書館、というわけである。
蔵書数はなんと世界最高峰の約三億!
空間制御による本の劣化を防ぐ機能満載!
読みたい本は端末検索ですぐにお手元に!
シャワールームも完備、冷暖房も完璧!
宿泊設備も充実、更には朝から夜までの食事もご用意!
長時間の読書による健康への影響を考え、施設内部にスポーツ設備も用意!
……とまぁ、まさに至れり尽くせりな造りとなっております。……どこのネカフェかな?*6
まぁ、過剰サービスめいてはいるものの、単に本を読む人・本に関わる仕事をする人などの需要に応えようとしたらこうなった、みたいな感じなので、特に不満が出ることもなく、今日まで営業を続けられているのだとかなんだとか。
あとまぁ、前述の読子さんとか栞子さんとかみたいな美人さんと御近づきになりたい、みたいな人の需要もあるとかないとかげふんげふん。*7
「ふぅむ、蔵書数約三億とな?……その分じゃと、もしやいわゆる『想本』の類いもあるのではないか?」
「そ、そうほん?なんですのそれは?」
「おや黒子ちゃん、ご存じない?『空想の本』『想像の本』、略して『想本』。雑に言うと、創作の中にしか存在しない本のことだね」*8
ところで、ミラちゃんはこの図書館を『初めて知った』という感じではなかったけど……それもそのはず、彼女は何処からか、この図書館の噂を既に聞き付けていたらしい。
そうなれば、新しい知識に対して貪欲な彼女のこと。
この図書館に納められている本が、ともすれば
何故かって?日本で一番の蔵書数を誇る国会図書館でも、その蔵書数はおよそ一千万。世界で一番の蔵書数を誇るアメリカ議会図書館でも、その蔵書数は三千万ほど。
無論、国ごとに納めている本は、言語や文化などの違いからして同じものではないだろうが……それらの違いの内『言語』に関しては、この『なりきり郷』において翻訳のためのあらゆる手段が整えられていることから、然程の障害とならないことは言うまでもなく。
……要するに、ここに納められている本は全てオリジナル、翻訳などされていない
そうなれば蔵書数約三億、という数字がどれほど凄いことなのか、ということにもなんとなく想像が付くようになることだろう。
なにせ、言語違いによる蔵書の水増しができない。
更に、同じ本を複数入れる……というのも、原書を複製して貸し出す、という方式の取られているこの図書館には当てはまらない。
純粋に、三億にも及ぶ本があるとするのであれば。
──それが例えば『霧間誠一』の『人が人を殺すとき』だとか、『岸辺露伴』の『ピンクダークの少年』だとかのような、いわゆる作中作の類いが実際に本として収蔵されている、と考えてもおかしくはないのだ。*10
そうなれば、ビブリオマニア・ないしビブリオフィリア*11な人達のこと、挙って集まってくるのも宜なるかな、というわけで。
……ミラちゃんはまぁ、マニアでもフィリアでもないとは思うが、知識に対して貪欲なのはそう変わらず。
機会があれば行ってみたい、くらいは思っていてもおかしくはない話なのであった。
……ここまで言えばなんとなくわかるかと思うが、この図書館、実は会員制である。
要するに、許可のないモノは近付くことさえできないのである。理由は勿論、並みの稀覯本とは比べ物にならない貴重さを持つ想本達。
確かに、それらの本達は、本来であれば読むことどころか目にすることすら叶わぬ、希少本の中の希少本と呼べる存在である。
……が、ここに私達が『なりきり』である、という問題が関係してくる。
例えば『ピンクダークの少年』がここにあるとして、それを描いているのが『
無論、私達『逆憑依』は本人を神降ろしのように引っ張ってきているものだとされる。……だがそれは、再現度によって容易く形を変えるものでもある。
そんな人物が描いたものを、はたして真作として世に出せるだろうか?……答えはノー、岸辺露伴なら更にノー、というやつだろう。
確かにそれは、自分が心血を注いで作り上げた作品である。
されどそこにノイズがあるのであれば、それを堂々と世に送り出すのは、多少なりとも抵抗が出てくるのが普通である。
なので、あくまでも身内の中で回し読みする、くらいの公開範囲にするため、この図書館より外に本を持ち出すことは禁止されているのだった。
まぁ勿論、単純に外の世界に『ピンクダークの少年』を出すわけには行かないだろう、みたいな部分も含まれてはいるわけだけど。……もし仮にそれが作品化するのであれば、描く権利があるのは元々の作者、ということになるのだろうし。
なお、描いている本人がこっちにいる、というパターンならそんな感じの理由だが、別の人間が持ち物として持ち込んだ場合などはその限りではない。
こっちは完全無欠の真作扱いをされるため、問答無用で封印処理である。……さっきの例だと、『霧間誠一』氏の作品が該当。あんなもん普通の人に読ませられるか、的な意味も含む。*12
ともあれ。
本来であれば存在だけが確認され、その中身を見ることはできないはずの想本達。
資料価値的にも希少価値的にも下手に外に出せないそれらの本を、厳重に管理しておくのはそうおかしな話ではない。
……おかしいのは、封印処理までしておきながら、それでも『読みたい』と怨嗟の叫びをあげる活字中毒どもである。
その辺りの話は、機会があればするとして。
結果としてはご覧の通り、活字中毒者達の居住区の必要性、希少本達の保管場所の必要性、そこに本があるなら、と集まってくる者達へのある程度の規制。
それら全てを満たすものとして生まれたのが、この会員登録制図書館、というわけなのであった。
で、会員登録制なので、ミラちゃんは噂は知っていても近付けなかった、と。
まぁ仕方ない。ここの会員になるには、なりきり郷に住んでいるという住民票?的なものがいるのだから。
「まぁ、それ以外には特に必要な条件とかもないんだけどね」
「……まぁ、活字にそれほど興味があるように見えないキーアさんが持っていらっしゃるのですから、それほどキツい条件ではないと思いましたけど」
「貸出不可となれば、とにかく読み漁るしかないのぅ!!」
無論、私がここの会員証……もとい図書カードを持っていないわけもなく。
すんなり施設の中に入った私達は、そのまま現地解散して本を選びに掛かるのだった。……読書中は静かにしてなきゃいけないから、固まってる必要ないしね、仕方ないね。