なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……むぅ?わしは一体なにを……」
ぶるりと身震いをしたのち、意識を取り戻したミラちゃんが、閉ざされていた目蓋を開け、そのまま周囲を見回している。
それなりの長時間に渡る睡眠は、どうにも彼女の意識をぼんやりとさせているようで。ゆえにその視界は、未だはっきりと焦点を結んでいない様子。
まぁ、こちらとしてはその方が色々と都合がいいので、そのまま作戦を決行させていただく次第なのだが。
「ようやくお目覚めですか、ミス・ミラ。お昼休みはとうの昔に終わっていますよ?」
「ぬ、ぬぅ?キリア……よな、お主?」
「まだ寝惚けていらっしゃるのですか?ほら、しっかりして。早くしないと、次の授業に遅れてしまいますよ?」
「う、うむ?授業……とな?」
その肩を軽く揺すってやれば、素直にこちらを向いてくるミラちゃん。
そんな彼女に私が向けるのは、世話の焼ける同級生への、困ったような眼差し。……案の定、なにがなにやらわかっていない様子のミラちゃんに、これ幸いとばかりに情報の洪水をぶち撒けていく私である。
彼女の手を引いて椅子から立たせ、その服に付いていたホコリを払ってやれば、それと同時、ミラちゃんが困惑を更に深めるように、自身の姿を確認している姿が写る。
それもそのはず、今の彼女の姿はというと、黒いローブを纏った状態。
またその中身も、いつものゴスロリとか甘ロリチックな服ではなく、どこぞの魔法学校の制服に近いモノとなっているのだった。
その服装、それから私の『次の授業に遅れる』という言葉から──、
「ああなるほど、これは夢じゃな」
「……?どうしましたか、ミス・ミラ?」
「いや、単なる独り言じゃよ。ところで、次の授業とやらはなんじゃったかのぅ?」
──これは自分が見ている夢だ、と一応の納得を見せる彼女。
小声で呟かれたそれは、はっきりと私の耳朶に届いていたが……あえて聞こえなかったふりをして、代わりに彼女へと疑問を投げ掛ける。
それを聞いた彼女は案の定、こちらを夢の世界の住人だと勘違いをして、適当にごまかしながら別の話題を振ってくるのだった。
「次の授業ですか?……その、ミス・ミラ。もしかして午睡のし過ぎで、判断能力が一時的に麻痺している、なんてことは?」
「……いや、いきなり失礼なやつじゃのぅ……」
「ああ、いえ。別にからかうつもりでは。……ですが、
「ぬぅ、情熱……とな?」
なので私は、彼女の望む通りの話に付き合ってあげることにする。
夢の中の案内人、
というわけで、まず手始めにするのは話題提起。
彼女の今の関心ごとである『次の授業』、それを察するためのヒントを会話に散りばめていく。
互いに纏うのは黒いローブ。
チラリと覗くローブの裏地は赤く、左胸には勇ましく立つ獅子を模した刺繍が、燦然と縫い付けられている。
授業前、ということで私が持っているのは、太めの本が一つとノートが一つ。それからその右手には、長さ十八センチほどの短い
それらの服装・所有物を順に確認し、続いて彼女が確かめるのは自身の持ち物達。大まかな荷物については私とほぼ同じで、唯一彼女の右手の杖だけが、その長さと材質などを私の
それから、周囲の風景について。
……ここまで確認すれば、ここが何処か、などという疑問はすぐに答えが出ようもの。
ゆえに彼女は荷物を抱え直して、改めて私に声を掛けてくるのだった。
「わしの勘違いなら申し訳ないのじゃが……もしかして、次の授業は
「……ようやく脳が活動し始めたようですね。では、時間がないのもわかっていますよね?」
「ふむふむ、ふーむふむふむ!なるほどなるほど、あいわかった!焦らず急がず走らずに、大至急教室へ向かうとしようではないか!」
「……いつもの調子が戻ってきたようで、なによりですよ」
ふんふん、と興奮から鼻息を荒くする彼女を見つつ、作戦はうまく行っていると笑みを浮かべる私なのだった──。
無論、これらは夢などではない。
夢のように誤認させることで、現実感を喪失させているだけであって、実際に私達は広大な
本読み達が憧れることといえば、賛否はあるとすれど、恐らくは『物語の中に入ってみたい』だろう。
この図書館に集う本読み達も、その例に漏れず。……その情熱が昂った結果製作されたのが、今現在私達が走り回っている此処──『空想体験館』である。
借りてきた本をセットすることで、そこに記載された記述を読み取り、その世界を再現する……という、一種のジオラマであるこの館は、ドラえもんのひみつ道具『絵本入りこみぐつ』にそのアイデアの発端を持つモノである。
言うなれば究極のごっこ遊び用フィールドであり、この図書館にあるもの以外にも色んなところで小型版が使われたりしているらしいが……ここにあるのは、それらのオリジナル。
出力的には他の場所のそれとは比較にならず、こうして一つの世界を丸々作ってしまえるほど、だったりする。……まぁ、本を媒介に具現化させているので、セットする冊数が少ないと世界に歯抜けができることもあるのだが。
ただ、これにはこれで利点と言うものが存在する。
それは、
海外文芸ではよくあることだが、翻訳者の質や癖によっては、本来の文章から読み取れるキャラクターとは、微妙にずれたモノができあがる……ということは少なくない。*2
そしてそれは、世界観の構築にしても同じこと。
特に専門用語の多い作品や、抽象的な表現を多用する作品において、作者が脳裏で思い浮かべている世界と、それらの文を読んで読者の中に形作られる世界と言うのは、微妙に食い違うことが多い。
そしてそれゆえに、映像化された作品における建物・物品などが、原作から読み取れるものとは些か様相が違う……なんてこともまた、多発するのである。
その点この館では、原文をそのまま読み取るために翻訳時の変換を防ぎ、複数のシリーズを読み取ることで解像度をあげるなどの手法により、ほぼほぼ原作者の脳内の世界を再現する、ということに成功したのである。
ゆえに、今現在展開中のこれ──ハリー・ポッター世界は、最早U○Jのアトラクションよりも再現度においては上なのである!……あとで怒られないかなこの表現?
まぁともかく、文章から映像に変換する時に発生するノイズを、限りなく零にしたのが現在のこの場所、ということで。
現実感をごまかされている今のミラちゃんでは余計のこと、これらの世界が作り物であることに気が付けない、ということなのだった。
(まぁ代わりに、私への負担が凄いことになってるんだけどね!)
なお、ミラちゃんの感じている現実感を夢遊感に変換しているのは、能力強化状態の黒子ちゃんであるが。彼女がそれを行えるように補助している私への負担というものは、実はわりといっぱいいっぱいの域に達しているのだった。
だって今の私、ミラちゃんと黒子ちゃんを繋ぐ通信ケーブルとしての役目だけじゃなく、ミラちゃん自体を導くお助けキャラまでやってるからね!
夢の世界と言うものは、とかく都合の良いもの。
一般にはそれらは日中の情報を整理する際に生ずるノイズ、みたいなものだと言われているが……ゆえにこそ、変な現実感が感じられれば、それは違和感となってしこりを残す。
基本的に夢というものは、覚めてしまえば忘れてしまうもの。それが脳のデフラグ*3の結果なのだから、逆を言えば『覚えている夢』というのはデフラグのミスによって残ったデータ滓、という風に捉えることもできる。
つまりは消し忘れ、消し残し、消しミス。
覚えていられる夢とは、すなわち疲れを取り切れていないということ。眠っているのに脳が活動してしまっている、ということである。
ゆえに、彼女にこれを
そのため、現在の私はキリアとしてもキーアとしても、微妙にキャラの違うモノを演じる羽目になっているのだった。……因みにイメージ元はハーマイオニーである。まぁ、丸っきり同じだとそれはそれで違和感なので、微妙に変えてはいるが。
ともかく。
今回の私のミッションは単純明快。
それは、この再現ホグワーツの中で、ミラちゃんにダンブルドア氏の授業を
そのために私は、万難を排する必要がある……のだが。
「~♪」
(……大丈夫かなぁ)
るんるん気分で歩いているミラちゃんを見ると、微妙に不安になってくるのだった。……好感度は上限を設けてるはずなんだけど、大丈夫かなぁこれ?