なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
秋は台風が多いがお前はトリコ?
「……いや、いきなり気温下がりすぎでしょ」
季節は夏を過ぎ、もうすぐ秋を迎えようとしている……そんなある日のこと。
ちょっとした事情から、郷の外へと行く用事ができてしまった私はといえば、外部への出入り口である雑居ビルのエントランスから、外をぼんやりと眺めていたわけなのだけれど……。
そのままぼんやりし続けていても仕方がないので、渋々とビルから一歩外に出て……外気温がつい数日前までのそれとは大幅に違うことに気が付き、思わずとばかりに言葉を溢していたのだった。……寧ろ肌寒いんだが?
温暖化による気温の上昇が叫ばれる昨今。*1
特に今年の夏は異常な暑さだった*2ため、これからやってくる残暑の方も、恐らくは辛く厳しいものになるのだろうなぁ……なんて風に憂鬱になっていたのだが。
こうもガクッと気温が下がってしまうと、それはそれでなんとも言えない気分になってくる。こう、身構えていたこっちの気持ちを考えろ……みたいな?
「っていうか夏場はほとんど見なかった蚊が、今さら元気に飛び回ってるし……っと」
自身の方へと飛んできた蚊をパシンと叩き潰しつつ、小さく嘆息する私。
最近の蚊は冬場でも死なない*3……なんて話もあるし、当の夏場の暑さについては、スズメバチも死んでしまうような高温になりつつあるし。*4
最早『蚊』は夏の風物詩などではなく、活発な活動時期が秋以降にずれ込むことから、そちらの風物詩として定着してしまうのかも知れないなぁ*5……なんて適当なことを思いつつ、とりあえず日傘を指して外に出る私なのだった。
夏が終わったと言っても、日差しの強さはまだまだ健在だからね、仕方ないね。
はてさて、今回私が渋々ながら、こうして外に出てきた目的はというと。
「『チチキトク イマスグ カエレ』……ねぇ?我が親ながら、なんというか……」
実家の親父殿がなにやら危篤だとかなんだとか、みたいな一報を受けたからなのだった。*6
それはビースト騒動も終わり、再び平和な日常が戻ろうとしていた時のこと。
「そういえば、もう秋だねぇ。ここに来てから二度目の秋なわけだけど、なにしよっか?」
「せんぱい、ここは芸術の秋などいかがでしょうか!」
「うちは真っ赤なお山を描きたいん!」
「あー、おばあちゃん家からちょっと歩くと、綺麗な紅葉が見られる場所があるんだよねー。なつかしー」
「なるほど?……もしかしてあの神社の近くの山は、
居間には皆が集まって、それぞれ好きなことをして過ごしている。
お昼時はもう過ぎているからか、ちょっとした間食を挟む人もいれば、周囲との会話に華を咲かせる人もいて。
そんな中、私とかようちゃん・れんげちゃんとマシュにクリスの五人は、だらだらと蜜柑を口に運びながら、この秋の予定について語っていたのだった。
私とマシュは二度目、他の面々はこのなりきり郷に来てから初の秋、ということになるわけだが……単に楽しいだけのものというわけではないことは、予め教えて置かなければいけないのかも知れない。
「……?いや、なにか警戒しなければいけないことで
むむむと唸る私の様子を、訝しげに見ていたクリスだったが……話の途中で、玄関の扉を文字通り蹴飛ばしながら入ってきたドラ娘の姿を見て、即座に理由を理解。
思考を真っ先に放棄して、来る嵐がさっさと過ぎ去ることを待つ体勢に移行するのだった。……卑怯くせぇ!
なお、ドラ娘もといエリちゃんとの初邂逅である他二人は、突然現れた派手な少女の姿に、目をぱちくりとさせていたのだった。
「エ~リ~ザ~?玄関を破壊するのは止めなさいと、何度言えばわかるのですか~?」
「いた、いたたたっ!?ちょっと止めなさいよリリィ!?今の時代、アイドルもそれなりに頭が良くないと勤まんないのよ?!」
「先ほどの行動のどこに、知性の煌めきを感じられる要素があると言うのですかっ!」
「ひゃぁ逆効果!?子ネコ、助けて子ネコ~!!」
「助けませーん。ちゃんと反省してくださーい」
「そんなぁ!?」
なお、当のエリちゃんはと言えば、玄関の扉を蹴飛ばして壊した罪により、アルトリアからのぐりぐり攻撃*7の刑にあっていたのだった。……誰から教わったの、それ?
「うー、酷い目にあったわ……私の頭がおバカになったら、ちゃんと責任取ってよね!」
「そこでなんで私を見るんです……?」
ある程度制裁を加えたことで満足したのか、元の位置に戻っていくアルトリアを見送る私達。……え?元の場所でなにをしてるのかって?何故かハクさんとチェスしてるよ、この人。
ともあれ、改めて会話の輪の中に新たなメンバー・エリちゃんを加えることになったわけなのだけれど……。
何故か彼女は、自身の所業を棚にあげて、こちらが悪いと駄々を捏ね始めるのだった。うーん、相変わらずの面倒臭さ。
まぁ、相手をしないと拗ねてもっと面倒臭いことになるので、ほどほどに構うことにはしているのだが。
「……あれ?もしかして私、手間の掛かる子供扱いされてる……?」
「
「今年もまた増えるのでしょうかね、エリザベートさんは……」
「ぐだぐだも新しいのやるみたいだし、そりゃ増えるでしょうね」
「なんだか知らないけど四面楚歌の予感!」*8
「エリエリお姉ちゃんも大変なん。頑張って生きて欲しいん」
「手間の掛かる子供どころか、末っ子扱いじゃないのこれって!?」
なお、その空気感はみんなにも伝播し、結果としてエリちゃんは生暖かい視線の雨を受けることになるのだった。
ともあれ、軽く涙目になる彼女の頭を撫でつつ、かようちゃんとれんげちゃんに大雑把に説明。
ここにいるエリちゃんは、ハロウィンになると何処からともなく聖杯を拾ってくるタイプのトラブルメイカーである、と伝えると、彼女達の視線は胡乱げなものになるのだった。……
「私はその辺り、あんまり詳しくはないけど……聖杯って、なんでも願いを叶えてくれる……ってモノだよね?……なんで拾ってくるの???」
「まぁ、正確には単なる魔力リソースの塊、らしいんだけどねぇ。……それでもホイホイ拾ってこれるようなモノでは、ないはずなんだよねぇ……」
「止めなさいよ子ネコも子タヌキも!それだと私が変な生き物みたいじゃない!」
「「……?」」
「『いや変な生き物でしょ、なに言ってんの?』……みたいな顔するんじゃないわよもー!!」
一通り叫んだ彼女は、肩を上下させながら荒く息を吐いている。……うん、エリちゃん弄りはこれくらいにしておこうか()
元が元なのでトラブルメイカー気質は変わらないものの、それでも彼女は逆憑依。元と比べれば遥かに御しやすい、というのは確かな話。
「具体的には、
「ひ、被害が出ない?!嘘でしょ!!?」
その内の一つが、『
歌い始めとかサビ手前とかのごく短期間ながら、周囲に死と絶望をもたらす歌ではなく、天上の神の与えたもうた美声と讃えられたその歌声を、存分に発揮できるというもの。
いやまぁ、実際には『設定を知っているからできる』という認識だと、ちょっとばかり気持ちがこもらなくなるとかなんとかで、原作での美声に比べると実際は数段落ちているらしい、とか。
そのまま歌い続けていると、だんだんと楽しくなって来てしまって、結局いつもの破壊音に戻っていく……とか。
問題点を挙げればキリはないけど……そうそう死者が出るものではないという点ではまだマシ、と言い募っても問題ではないだろう、多分。
まぁ無論、言われているエリちゃんからは不満が飛んでくるんですけどね、あれこれと。
「し、仕方ないじゃない!私だって好きで音痴なわけじゃないわよ!」
「まぁ、ドラゴンブレスの一種だしねぇ、エリちゃんのそれは。……だからってそこらで唐突に練習するのも止めてね?やってるうちにそこらが死屍累々、なんて片手じゃきかないくらいやらかしてるんだからさ」
「……わ゛ー!!子゛ネ゛コ゛がい゛じめ゛る゛ぅ゛ー!!!」
「よしよしなん、エリエリ」
「年上扱いですらなくなったんだけど!?」
なお、そうしているうちにれんげちゃんからは、すっかり年下扱いされてしまうのでした。……まぁここのれんげちゃんは中身ナーサリーだからね、仕方ないね。
そうして、突然の闖入者であるエリちゃんを交え、今年の秋の過ごし方を模索していた私達なわけなのだけれど。
「……む?メール?」
「どうなさいましたか、せんぱい?」
「いや、ここに来てから久しく使ってなかった機能が突然活動を」
「ああ、ここだと大体暇潰しとかにしか使われないものね、スマホ」
突然音楽をならし始めた我が携帯端末君に、ちょっとびっくりする羽目になるのだった。
クリスの言う通り、郷の中では連絡にスマホを使う、ということは極端に少ない。
今や住人の大半が念話的なモノを使えるため、わざわざスマホを出してアドレス帳開くより、脳内で「念話!」とでも叫ぶ方が、余程安上がりだし速いのである。
そうなってくると、この薄い機械は最早なにかしらの空き時間に、特に他にすることもないので弄る……みたいな、暇潰しの道具としての用しか果たしていないのだった。
まぁ、ソシャゲの周回とかは脳内ではできないので然もありなん。
なので、スマホが着信音を鳴らすということ自体が、下手をすると年に数えられる程度の回数しか起きない現象、と化しているのである。
そりゃまぁ、ちょっとびくっとして飛び上がってしまうのも、仕方のない話というわけでですね?これは決して、私が陰キャだということではなくてですね?
「いや、なんに対しての言い訳だ、なんに対しての。……そんなことより、内容を確認した方がいいんじゃない?」
「そ、それもそっか。どれどれ…………んん?」
などと挙動不審になる私に、呆れたような視線を向けてくるクリス。そんな彼女の言葉に促され、件の着信──一通のメールを開いた私は、その本文を見て思わず間抜けな声をあげることになるのだった───。