なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「『チチキトク イマスグ カエレ』……ですって?」
「は、はわわわわ!せせせせせんぱいのお父さんが、きききき危篤っ!?」*1
「いや、なんでマシュの方が慌ててるのよ」
メールの本文を読んで、思わず間抜けな声をあげた私はと言うと、その声になんだなんだと集まってきた面々に見えるように、自身のスマホを机の中心に設置。
そしてそのまま、みんなでメールの意味を考える会へと移行することになるのだった。
マシュはご覧の通り、何故か私よりも慌てている様子だったが……他の面々の大半は懐疑的。*2
なにせこのメッセージ、わざわざカタカナで書いてあることからわかる通り、
「そうなん?」
「要するに電報のノリだからね、これって。……あとは噂のポケベル、とか?」
「ポケベルがわかる人が何人居ることやら……」*3
首を傾げているれんげちゃんに、簡単な説明を始める私達。
ひらがなよりもカタカナの方が情報量が小さい、みたいな話を聞いたことがないだろうか?
わかりやすいもので言えば……『は』と『ハ』か。これだとひらがなは三画、カタカナは二画。
また、例え画数が同じでも……『の』と『ノ』なら、カタカナの方が簡素である、ということを疑うものはいないだろう。
まぁ、データとして扱う時には、ひらがなもカタカナも共に同じデータ量なのだが……これが液晶に表示する、ということになると話が違ってくる。
液晶に表示される絵や文字というのは、基本的にはドットや
今でこそ、実写に限りなく近い解像度の液晶も出てくるようになったが……その最前線である8K画質でも、実際には人の見える画素数には遥かに足りていない*4……なんて話があるように、現実だって分解していけば
……なにが言いたいのかわからない?じゃあまぁ簡潔に、結論だけ。
要するに、今よりも古い液晶──特にポケベルが現役の時代の小さく解像度も低い液晶では、仮に普通に文字を書けば表示できるようなスペースがあったとしても、必要な画素数と一つのドットの大きさゆえに、ひらがな表示では文字が潰れてしまう……ってこと。*5
これに関しては『あ』が例としてわかりやすいだろうか。
交差する部分が多く、更に画数も多いこの字は、必要とする最低解像度がカタカナの『ア』よりも多くなる。具体的には、
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……というように、できうる限り必要ドット数を縮めたとしても、六×六のマスを必要とする……上に、これだと凄まじく読み辛い。*6
その点、カタカナの『ア』の場合はというと、
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……と、最悪三×三マスで表現することができる。*7
まぁ、ここまで小さくすると結局読み辛いし、『フ』との判別に苦労しそう、などの問題もあるわけだが。
ともあれ、解像度の低い液晶において、どちらが可読性に優れるのかと聞かれれば、カタカナの方に軍配が上がることは避けられないだろう。
ゆえに、古い液晶を使用しているポケベルでは、カタカナが表示される文字の主役を飾っていた、というわけなのである。……更に初期の方のものだと、数字しか送れなかった?細かいことはいいんだよ!
ともかく、こういう文章でカタカナしか使わない……というのが、古い時代の象徴である……ということは、なんとなくわかって貰えたことと思う。
そしてそれゆえに、この文章からは若干の悪戯めいた空気を感じてしまう、ということに繋がっていくのである。
「……んー、どういうこと?」
「そもそもこれ、スマホでしょ?……要するに、文字数制限もなければ、変換の手間があるわけでもない……というか、全部カタカナって方が逆に手間なわけで……」
「な、なるほど。文章の内容こそ逼迫して見えますが、その実わざわざこの文体にしていること自体が、半ば悪ふざけの産物だと読めるというわけなのですね」
「そういうことー」
スマホもポケベルもよく知らないらしいかようちゃんが首を傾げているが、隣のマシュはわかった様子。
基本的に、現在の日本にて送り仮名として使われるのは、圧倒的にひらがなの方。
一般的な入力システムもそちらに倣っていることがほとんどなので、この文章のようにわざわざ全部カタカナになっている……というのは、寧ろ変換の手間を自分から背負い込んでしまう形になるため、その時点で真面目な話ではない……と相手に印象付けてしまうのである。
……これが電報として送られてきたのなら、話は別なのだけれど。
まぁそんな感じもあって、私としては懐疑的。
そもそもの話、
「わ、罠?」
「かようちゃん達は、わりと自由に会える方だからわからないかも知れないけれど……私達って元の家族達には、遠方に治療のため移住した、って説明をされてるはずだから……こんなメールが届くこと自体、結構意味不明なんだよね」
唯一の例外、とも言えるかようちゃん達がいるのでわかり辛いことになっているが……そもそもここにいる人々はほぼ『逆憑依』、元の自分からはかけ離れてしまっている人達である。
その辺りは政府主導でカバーストーリーが敷かれている、という話があったように、基本的に家族には『病気の療養』というような説明が為されているはずで──それが真実であるのなら、このようなメールが届くこと自体がおかしい。
なにせ、
にも関わらず、私のスマホの画面に踊る文面は、父の危篤を知らせるもの。……疑うな、という方が問題だと思わないだろうか?
そういう理由もあって、このメールがなにを目的に送られて来たものなのか?……ということを話し合うことになった、というわけなのです。
「……でもこれ、一応元々持ってたスマホと同じ番号なんでしょ?」
「ああうん、なんか知らん間にMNP*8されてたというか……」
とはいえ、これが家族からのメールではないのか?……と言われると、それもまた疑問。
なにせこの端末、製造や通信会社などは確かに郷の傘下企業名義になってはいるモノの……使っている番号自体は、元々持っていたスマホのそれと同じなのである。
その流れでメールアドレスも引き継がれているため、端末以外は元のスマホと変わらない、という風にも言えるわけで。
その時点で、少なくともこちらと顔見知りの相手が送ってきたもの、ということは間違いない。
ゆえにこそ、意図が読めない。
まさか本当に父が危篤、だなんてことはないだろうし。これを私に送って、一体なんの意味があるのか?……というのもわからない。
「……それに、もし本当にお父さんが危篤だったら、無視するのも寝覚めが悪い……ってことよね?」
「…………まぁ、仲が良い方ではなかったと思うけど、だからって死んでほしいかって言われると違うからね」
そしてクリスの言う通り、これが悪ふざけに見せ掛けた本当の知らせだった時、無視した場合のこちらへのダメージというのは、それなりに大きなモノとなる。
世の人々の中には、親兄弟と仲が悪く絶縁状態にある、という場合もあるだろうが……私に関して言えば、あくまで親元から離れて生活していたというだけで、殊更に仲が悪いというわけではない。……いやまぁ、良かったかと聞かれるとそれはそれで疑問なのだけれど。
そんな感じなので、変に拗れているわけでもない以上、このメールを無視するという選択肢は取り辛い。明確に誰かの偽装だと判別できるのなら、別に無視してもいいのだが……そういう様子は、特にはない。
そもそもの話、自身のメールアドレスを知っている人間が、ごく僅かな数しか居なかったこともあり……、それならば家族の誰かが悪ふざけでメールを送ってきた、とでも考えた方が筋が通る。
……つまり、どちらにせよ(理由はともかくとして)帰ってこい、という主張が為されていることには変わりなく。
「……んー。虎穴に入らずんば虎児を得ず、とも言うし……行くしかないかなぁ、一応」
渋々ながら、そんな結論を出すことになるのだった。