なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
もうすっかり息子の嫁候補、みたいな見方をして来ている母に、これもう私が貴女の息子ですよと明かした方が早いのでは?……と、ちょっと追い詰められつつある私である。
やめた方がいいよ、と脇腹を小突いてくるアスカちゃんがいなければ、その選択を選んでしまってもおかしくない精神状態だったが、辛うじて持ち直し……区切りを付けるように一つ息を吐いて、改めて母と向かい直っていく。……笑いを堪えてらっしゃるパイセンは、あとで絞めるから覚えてろよテメー。
「んー、残念。そこまで嫌がられてるってことは、うちの子には脈なしってことねー」
「……良き友人ではありますが、そういうのではないですね。何度も言いますが」
「えー?男女の友情とか一番脆いもの、って私は思うのだけれど?」*1
「それを女性側が言うのはどうかと思いますよ私」
まぁ、仮に男性側が言ってたとしても、問題はあると思うわけだが。
閑話休題、どうにかして話を元に戻した私は、改めて最終確認を行う。
「ええとつまり、息子さんを呼び戻したのは……」
「お父さんが病院送りになっちゃったから、その見舞いに戻ってきなさいって言うのと──」
「男手のない環境で、男手が必要になる機会がやって来たから、その補充のため……ってことでいいのね?」
彼女が俺に連絡を取ってきたのは、純粋に父の危篤を知らせるため。……無論、危篤と言っても命の危機というわけではなく──こういう話によくありがちな、ちょっと病院沙汰になったのでついでに顔見せしなさい、というような程度のものでしかなく。*2
言ってしまえば、取り越し苦労。……とはいえ、確認せずに放置するには、問題が多々あったということにも間違いはなく。
なのでまぁ、終わりよければ全てよし、とばかりに話を締めることにするのだった。
「そうねぇ。本当なら、久しぶりにうちの子の顔を眺めたかったんだけど……無理を言っちゃったみたいだから、謝っておいて貰えるかしら?無論、貴女達にもごめんなさいね、って言わせて貰うけど」
「お気になさらず。私共は国の
話を終えて、ふぅと息を吐く母の姿に苦笑を返しつつ、問題はないと伝え返す私。……従僕云々はあれだが、彼女や父親が平穏無事だと確かめられたのは、確かな成果だと言えるのだし。
とまれ、話が終わったのだから──次にするべきことは決まっているだろう。
「……あら?」
「男手が欲しかったのでしょう?生憎と人手へとランクダウンはしていますが……幸い数はありますので、余程の力仕事でもなければお手伝いできるかと」
こちらが立ち上がったことに、小さく首を傾げる母親。……そこで首を傾げられても困るのだが?
彼女が語った通り、あのメールは父の病気と、
で、あるならば、
無論、『
戦いは数だよという名言もある。余程突拍子もないお願いでもなければ、ある程度は賄えると踏んでの発言だったわけなのだが……どうしてか、母は小さく吹き出していたのだった。
「まあまあ。……なるほどなるほど、ふーん?」
「……ええと、どうされましたか?」
「いいえ別に?……じゃあ、ちょっと手伝って貰っちゃおうかしら?」
何故か私の顔を見て、ニヤニヤ笑いを再び浮かべ始めた母の姿に、どういうこっちゃとパイセンに視線を向けるも──『私にわかるわけないでしょ』と視線で返されてしまえば、もはや所在なし。
同じく首を傾げていたアスカちゃんと顔を見合わせた私は、神妙な面持ちで母の様子を眺めることになるのだった。
よく分からないやり取りがありつつも、そのままなし崩し的に母の手伝いに移った私達。
そんな私達が、今現在なにをしているのかと言うと……。
「ふーん、こ……あいつって小さい頃、こんな感じだったのねぇ」
「可愛いでしょー?『かっか、かっか』*4って言いながら、ずっとうしろを追い掛けてきてくれてたのよねぇ」
「……ソ、ソウデスカ。ソレハサゾヤカワイカッタノデショウネ……」
「うんうん。この時はまだ一人っ子だったから、殊更に甘やかしていたわねぇ」
「なるほど、だからモノがいっぱい」
……なんでか知らんけど、私……もとい俺が使っていた部屋の片付けをさせられているのだった。
一応、末の弟に自室を与えるため、長男である俺の部屋を片付けたい……みたいな理由から始まった作業なのだけれど。……掃除中についつい他のことをしてしまう、というのは世代を問わずに起こることのようで。
押し入れの中身を整理している最中、たまたま見付けたアルバムと、そこに納められていた小さな頃の俺の写真によって、突然の昔語りが始まってしまったのだった。……なんの拷問なんですかこれ?
写真に写る俺の姿は、ほんのりぷっくりとした──恐らくは幼稚園くらいの時のもの。
さしもの俺も、その時の記憶なんてほぼほぼ曖昧だが……だからといって、その時の赤裸々エピソードを語られて無事でいられるか、と言われればノーとしか答えられないわけでして。
……必死で顔が赤くならないように心を殺しているが、正直転げ回りたくて仕方ないです、はい。
なにがアレって、嬉々として私に幼少期の俺のエピソードを聞かせて来るものだから、何処にも逃げ場がないというね?
っていうかなんで私に聞かせて来るんですか。やっぱり勘違いしたまんまなんです?
「んー?どうしたのかしらキーアさん?なんだか動きがぎこちないような……」
「か、顔見知り程度の間柄とはいえ、幼少期という一種の恥部に触れてしまったと思えば、寧ろ穏便な反応だと愚考する次第なのですがっ」
「あらあら。親しき仲にも礼儀有り、ってこと?」
「友人と言い張れるほどの間柄でもありませんし、ちょっと違うかと思いますっ」
そんな私の態度を、『気になる男性の子供の頃を見せられて、恥ずかしがっている』とでも勘違いしているかのような母の反応に、思わずたじたじになる私。
ちげーよ普通に恥ずかしいんだよ、っていうか色々忘れなさすぎっていうね!
どないせいっちゅうんじゃい、みたいな陰鬱な気分の私だが、周囲から救いの手が伸びる気配はない。
パイセンは先程から変わらず、俺の古い写真を眺めては忍び笑いしているし、アスカちゃんはへーとかほーとか呟きながら、押し入れから出てきたおもちゃをあれこれと弄り回している。
つまり、そもそも誰もこっちを気にしてない、というわけで。
……うん、
はぁ、と小さくため息を吐きながら、いらないものとして分けられた本などを、紐で縛っていく。
……本人に聞かずにいらないもの扱いしてゴミにするのは如何なものか?……なんて風に思ったのだけれど、よくよく見れば『……確かにいらないな』って感じのモノばかり渡されるので、この辺りは母親の面目躍如というか。
「……というか、貴女はいつまで笑ってるんですか芥さん」
「ふ、ふふっ。だって、これ見なさいよ……ふふっ!」
「オイぃ?人の顔見て笑うのは流石に失礼すぐるんだが?」
だからこそ、さっきからなんにもせずにアルバム眺めているパイセンには、次第に怒り心頭というかですね?なんか知らんけど、人の顔見て笑ってるし。
一体なにを見て笑っとるんだ、という思いを抱きつつ、彼女が眺めているアルバムが見える位置──彼女の背後に回った私はと言うと。
「──ああ、それは小学校に上がる前の写真が入ってるアルバム、ですね。その時は確か──
幼い自分が、
意味ありげに、こちらに視線を向ける母親の姿を、その視界に納めることとなるのだった。
……ああうん。はい、なるほど。
「そりゃそんな目で見られるわけですわ……(白目)」
思わず気が遠くなりそうになったが、堪えて頭を振る。
……うん、思い出してきた。確かこれは、先生に『どんな人に憧れるか?』みたいなお題を出されたとかだったはず。
で、当時の俺は、その辺りあんまり深く考えずにクレヨンを手に取って──金髪美女っていいよね!みたいなテンションで絵を描いたんだった。
で、今の私の姿。
キーアそのままの幼女姿では、国の職員云々の話に信憑性が出ないだろう、ということで
つまりはこういうことである。
子供の頃、『こういうのが好き』みたいなノリで描いた絵を、連想できてしまうような人間が現れ。あまつさえ本人と仲良さげである、というのであれば。……少なくとも、
そもそも、赤の他人と言っても良い相手のお願いを聞いている、という時点で仲が悪い、ということはありえないのだし。
……つまりは自業自得、ということですね。ただし、自分がすっかり忘れていた、過去からの侵略……的なあれだがなぁ!!
思わず恥ずか死しそうになる私の気持ちを、知ってか知らずかけらけら笑いながらアルバムを捲るパイセンと、その向こうからこちらに熱視線を送ってくる母。
「元気だして、キーア」
「ああはい、そうですね……まだ終わってませんもんね……」
なるほど、これが地獄か。
よいこよいこ、とばかりに頭を撫でてくるアスカちゃんによって、更なる虚無の到来を胸に感じながら、私は来るんじゃなかった、という言葉を飲み込むことになるのだった──。