なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「──よぉし、これで終わりっ」
「あらー、随分早く終わりましたねぇ」
先のちょっとした騒動を受け、
その甲斐あってか、押し入れの中に押し込められていた俺の私物達は、すっかりその姿を減らしていたのだった。……途中でパンドラの箱*1が何度か開いていたみたいだけど、私の精神安定のため内容についてはノーコメントとさせていただく。
「なにも
「喧しいですよ芥さん。それ以上ふざけたことを言うのであれば、その口を縫い合わせてさしあげますよ?」
「えぇ……?」
なお、パイセンに関してはほぼ戦力外状態だった。
アルバムを見ては笑ったり感心したりしてただけだからね、仕方ないね。……まぁ、そのおかげで母の相手を私がしなくてよくなった、という良い面も無くはないのだが。
あのまま母を放置していたら、どう考えても作業中にウザ絡みをされて、仕事の『し』の字ほども作業が進まないまま、無駄に時間を浪費させられる可能性の方が高かったのだし。
……なので彼女が居てくれて助かった、というのは決して大袈裟というわけでも間違いというわけでもない。
まぁその分、盛大にこちらをからかったり笑ったりしてきていたので、最終的な評価はプラマイゼロどころかマイナスに傾き気味なわけなのだが。
なので彼女に与える慈悲はない。ないったらない。
「ずいぶんと仲が良いのねぇ、貴女達」
「なんで一方が殴られてるのに、仲が良いって評価になるのよ……」
「猫とかのじゃれあいにしか見えない、みたいな?」
「……いや、なんでアンタが代弁してんのよ」
「私が一番冷静。えっへん」
そんなやり取りを見ていた母はと言えば、お盆の上にお茶と菓子を乗せて、台所から戻ってくるところだった。
それを見てふと壁掛けの時計に視線を向ければ、針が示す時刻はいつの間にか午後三時を少しばかり過ぎていた。……要するに今からおやつの時間、ということになるらしい。*2
「皆さんのおかげで、とっても早く部屋の片付けが終わったわぁ。ありがとうねぇ」
「いえいえ。これも仕事ですから」
お茶を置きながらこちらに頭を下げてくる母の姿に、ちょっぴり恐縮しつつ。差し出されたコップに注がれた麦茶を、そのまま一口。
キンキンに冷えた麦茶は、作業で火照った体を冷ますのにちょうど良い。
夏場、もしくは残暑の厳しい時に飲むのなら、やっぱり麦茶だよなぁ……なんて感想を胸の裡に思い浮かべながら、一緒に出されたのり煎餅をパリパリと食べる私なのであった。
「……ところで、政府のお役人様……ということになるのは、キーアさんだけということで宜しいのかしら?」
「?ええまぁ、他の二人は外部協力者……という立ち位置になるかと。今回の病気について説明するのに、彼女達のような方が手伝って貰えると、こちらとしてもとても助かりますので」
「ふむふむ。……ということは、皆さんは結構長い付き合いなんです?」
「……んんん?長い……んでしょうか?芥さんとは大体一年くらいの付き合いですし、アスカちゃんに至ってはつい先日出会ったばかり、みたいな感じですし」
そうして休憩する中で、母が尋ねてきたのは私達の関係性について。
政府の役人としての名刺を渡したのは私だけなので、他二人がどういう扱いになっているのか、地味に気になったのかもしれない。
まぁ、『逆憑依』は対外的には病気として扱われているため、二人はその病気に罹患した人の中でも、他者に病気を感染させる可能性のない協力者……という形に落ち着くことになるわけだが。
そんな二人が、その自由を制限しているとも取れるお役人様と、仲良く喧嘩しているというのがちょっと不思議に思えた……みたいな感じだろうか?
しかし、言われてみると私達の関係性、『仕事で』という括りでもないとわりと薄い、と言い換えてもいいモノのような気が?
パイセンを知ったのは、
アス
無論、別に険悪な仲と言うわけではないが……竹馬の友、と言い張れるほどの深い仲、というわけでもあるまい。
距離感的には本当に職場の同僚くらいの関係性なので、それにしては仲が良いというのは、決して見当違いの感想とも言い切れないのではないか?……みたいなことを考えてしまう私なのであった。
「……あらあら。ちょっと変なこと聞いちゃったかしら?私」
「ああいえ、改めて思い起こせば、変な面子だなぁと実感しただけですので、お気になさらず」
「……ふふふ。じゃあ、この話は置いておきましょうか」
「……?はい」
そんな私に対して、母から向けられていた視線は……なんだろうこれ、微笑ましげ?
そんな視線を向けられる理由がわからず困惑する私は、けれど母が話を打ち切ってしまったため、その理由を探ることも叶わず。
仕方なしに、飲み終えた麦茶のコップを洗うため、台所に食器を置きに行くことになるのだった。
「さっきはなにを話していたんです、芥さん?」
食器を片付け、暫く休憩時間を取ったのち、改めて別の作業の手伝いに駆り出された私達。
その目的地に向かう最中、私は手前を行く母に聞かれない程度の声量で、パイセンにさっきなにをしていたのか、ということを問い掛けていたのだった。
さっき、というのは、私が「そこまで気を遣わなくていいのよ~」という母の言葉をやんわりと拒否して、食器洗いをしていた時のこと。
私が洗うから居間で待っていて下さい、というこちらの言葉に折れた母はと言えば、渋々居間に戻った先で、私に聞こえない程度の声量でお喋りに興じていたのだった。
今回のあれこれは、母の様子を探ることにも意味がある。なので、その会話の内容をパイセンに聞こうと思ったのだけれど……。
「え?……ああうん、大した話じゃないわよ。なんかこう、お前の見た目がとても綺麗ねとか、そんな話」
「……?そりゃまた、微妙な話題というか」
目線を泳がせながらパイセンが述べたのは、母が再び
……なんか気に入られているなぁとは思っていたから、話題に挙がること自体には特に驚きもないが……同時にそうやって話題に挙げることで、私が示す反応を楽しんでいる節もあったので、私に聞こえないように会話をしている……という部分に引っ掛かりを覚えないでもない。
というか、引っ掛かり云々の話をするのであれば、今のパイセンの態度も引っ掛かる。
その目線の泳ぎ方は、まさしく動揺を押し隠すためのもの。……つまりはこうして問い掛けられること自体、彼女にとって都合の悪いモノになっている、という風に受け取ることもできるわけで。
なんだろう、『だからやっぱりキーアちゃんってうちの子にお似合いなのよ~』みたいな、謎の主張の押し付けでも受けたのだろうか?
はたまた、『そういえばうちの子はあれがこれでこうでね~』みたいな、再度の暴露話を聞いてしまったので、また怒られるんじゃと警戒している……とか?
「あー……いやまぁ、そのうちわかるわよ、そのうち」
「はい?……って芥さん、話は終わってないんですけど?」
「ついてくついてく、とっとこついてく」
そんなこちらの疑念に対し、彼女は小さくため息を吐き出したのち、こちらの追求を避けるように先へ駆け出してしまう。
まさに逃げるようなその行動に、一拍対応の遅れてしまった私は、ほんのり慌てながらその背を追って。いつの間にか背後霊状態になっていたアスカちゃんを引き連れ、結果的に母の横に並ぶことになってしまうのだった。……ちっ、上手くやりやがったなパイセン……!
「……ふふふ。やっぱり仲が良いのね、貴女達」
「まぁ、そうかも知れませんね。ただの同僚と言い張るには、ちょっと距離感が近いのは間違いないと思います」
こうなってしまえば、母に気付かれずに尋問するのは不可能。
なので、この場で確認するのは諦めて、声を掛けてきた母との会話に移行する次第。
……追いかけっこする職場仲間、というのがちょっと距離感が変なのは間違いではないため、先ほどの母からの問い掛けに、改めて頷くこととなる私である。
感覚的には──同じサークルのメンバー、みたいなのが近いということになるのだろうか。
「じゃあリア充襲撃しないと。うらぎりものには塩~」
「あらあら。じゃあお空からお塩をいっぱいばら蒔かないとねぇ」
「……???いや、どういうこと?」
「あー、芥さんは付いていけない話題でしたかー」
サークル、という言葉に反応したアスカちゃんが、唐突に懐から食卓塩を取り出して掲げる。
パイセンは彼女の突然のその行動に困惑していたが……対する母はと言えば、すぐさまネタに反応してヘリを呼ぼうとか言い出す始末。
……全母が泣いた、とか言われる作品から路上格闘家の話に話題が飛んでいるので、パイセンが付いていけないのも無理はないのだが、それ以上にアスカちゃんのネタのカバー範囲がよくわからねぇ、みたいな気持ちの方が強い私である。*3
「いいわねぇ、アスカちゃん。どう?もしよかったら、うちの子にならない?」
「とても魅力的な提案。考慮させて貰う」
「いやあの、勝手にあれこれ話を進めないでくださいね?っていうかノリと勢いで言ってますよね二人とも?」
「「……(無言のサムズアップ)」」
「駄目だこいつら……早くなんとかしないと……」*4
……なんて風に困惑していたら、何故かアスカちゃんを養子に貰えないか、なんて話に。
いや待てや、我が家は既に三男二女の七人家族、普通に大家族なんだからちょっと性急に過ぎるでしょうが!……ツッコミどころがおかしいって?
ともかく、勝手に話を進めるんじゃねえと割って入った私は、両サイドからのサムズアップに頭を抱えることになるのだった。
……パイセン?さっきから宇宙猫ですがなにか?