なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「えー、アスカちゃんがうちの子になったら、きっとみんな喜ぶと思うけどなー」
「私もきっと楽しいと思う。ダメ?」
「ダメもなにも、今のところ他者に感染させてしまう様子がないからお目こぼしされている……というだけで、感染者の共通点も感染ルートも完全に解明されていない、未知の感染症の患者の一人だっていう自覚、持って頂かないと困るのですが?」
「むぅ、残念」
「「ねー」」
「……こいつら、なんでこんなに波長が合ってるのかしら?」
「私に聞かんでくださいよ……」
そもそも君【顕象】なんだから、単なる外出許可レベルでも申請にとてつもなく手間の掛かる存在だ、っていうことを忘れてない?
……みたいな言葉を呑み込みつつ、勝手に盛り上がっていた二人を嗜める私である。
ようやく宇宙から戻ってきたパイセンと二人で、その発言についての問題点をピックアップしていけば、流石に無理があると悟ってくれたのか、二人はぶーぶーと文句を言いつつも、養子云々についての話題を諦めたのだった。
……これから楽しい楽しい(棒)肉体労働の予定だというのに、精神的な疲れまで誘発させないで貰いたいものである。
そんなわけで(?)話を戻すと、田舎において『人手が必要な仕事』というのは、その種類がほとんど限られてしまっている。
都会での『人手がいる』とは、基本的には一つの仕事に対しての動員数が足りてない、ということを述べるモノだが──田舎においてのそれは、そもそもに全体の総力が足りていない、ということの比喩であるというのがほとんどだろう。
先の荷物整理にしろ、庭の草むしりにしろ、単純単調・しかして重労働かつ長期労働……というのが、田舎における仕事というものの立ち位置であるという考え方は、決して大袈裟なものだとは言えない。
それは、本来であれば生とはすなわち
ともあれ、人の世・理知の世界として進んでいる・発展しているのが都会の方、ということに違いはなく。比して田舎の方が原始的、ということにもまた違いはない。
──つまり、それぞれの場所に転がっている仕事というのも、その性質を異にするのは当たり前のこと、というわけなのである。*2
「……つまり、どういうこと?」
「ミニマリストとか、反出生主義とか*3。そういう、『人は余分である』みたいな考え方自体が、
アスカちゃんの問い掛けに、微妙に答えになっているのか、なっていないのかわからないような声を返す私。
……それもまぁ、仕方のないこと。
人の歴史とは、すなわち簡略化の歴史である。*5
食べ物を育てるのも、肉を得ようと狩りをするのも、共に現代となっては
効率的な作物の育て方、狩猟よりも安定性の高い畜産の開発……それらは全て、そこに掛かる負担を軽減するために生まれたもの。副産物的に、時間を生み出すものだというわけである。
余暇は人に探求の暇を与え、その探求は知り得なかった新たな法則を見出だし、新たな法則によって再び簡略化できる仕事が見付かっていく……。
人の歴史とは、そうして簡略化を推し進めるものと認識しても、そう間違いではない。
余分とはすなわち余裕。余裕があるからこそ、人はあらゆる可能性を検分しようと立ち上がることができるわけで。……その過程の中に『
つまるところ、
しかし、それでは知性体としては宜しくない。
ただ生きるだけではたどり着けない場所に向かうのが、知性体が為すべきことだとするのであれば──何億年も変化しない、獣達の理に迎合するのは実にナンセンスである。
単に生きるだけならば、それこそ服も金も土地も家も名誉も全て、無駄なモノでしかない。
どころか、命に限りがあって、いつかは終わりを迎えるのが真理なのだから──生きることだって、無駄の一つでしかない。
つまるところ、命とは全て無駄である。無駄であるからこそ、獣達は一定以上の知性を持とうとはしない。ただ、己の命をまっとうすることに命を賭けている。
そしてそれは、人が選んで良いものではない。
知性を得た人間達は、無駄を手に入れられる場所に立ったのだから、その無駄を
諦めを選ぶことは許されない。人は、連面と繋いできた過去からの所業に、それに相応しい答えを探し出さなくてはならない。
ゆえに、人は
生きるためというだけであれば、必要のないそれらを積み重ね。
「……なんか大仰な話になってたけど、結局なにが言いたいのよお前」
「都会では余分を考えられるので、仕事の方も頭脳系に寄るけど。田舎ではそもそも余分に割く時間もないから、仕事もその場その場で必要な肉体労働に片寄る、って話」
「…………最初からそう言え!」
……的な講釈を長々と垂れ流していたところ、パイセンから思いっきりげんこつを食らう羽目になったのでした。いてぇ。
「むぅ、割り振られた仕事を黙々とこなすだけだと、どっかのアビスみたいな田舎という一種の異界に呑まれますよ、って言いたかっただけなのに……」*7
「だったら最初からそう言えってのよ、ミニマリズムだの反出生主義だの、余分な話に飛び火し過ぎなのよお前」
……もうちょっと詳しく語りたかったなぁ、なんてことを内心に秘めながら、黙々と草むしりに精を出す私である。
「あらあら。よく口が回るのね、貴女」
「口八丁手八丁と申しますように、あれこれやれないとこの仕事やってられませんからね」
そんな私に、ニコニコと笑みを浮かべながら声を掛けてくる母。……今日はずっとご機嫌だなこの人、なんてことを思いつつその問いに答えれば、彼女はさらにニコニコと笑みを深めていたのだった。……えぇ、なんなの怖いんだけど……。
ともあれ、役人があれこれと無理難題を吹っ掛けられるのは、どの地域でも大差なく。それゆえ、昔みたいに『公務員なら安泰』みたいな面が減ってきている、というのは如何なものだろうか、なんてことも思わないでもない私である。*8
お客様精神とクレーマーの合わせ技、ということなのだろうが……それにしたって、相手を人間と思っていないかのような主張や要求はどうなのだろうか?……いやまぁ、私は正確には役人ではないのだけれど、現在役人として振る舞っているのでアレというか。
……いかんな、変な話をしていたせいで、思考も変なことになっている気がする。
頭を振って気を取り直した私は、改めて今の仕事場所──母に手伝いを依頼されたその場所を眺める。
それは、それなりの大きさの野菜畑。
多種多様な野菜が実るその畑を見ながら、私はこりゃまた時間が掛かりそうだ、とため息を吐くことになるのだった。