なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「はい、これは着替えね」
「ああはい、ありがとうございます……?」
なんでこうなった。
偽らざる今の私の気持ちだが、それを嘆いてみても仕方ない。
どうしてこんなことになったのか?それは、畑作業を終えて家に戻ろうとした、その帰路で起きたことが原因なのだった。
「こ、腰が……」
「おばあちゃんじゃないんですから、しっかりしてくださいよ芥さん……」
「按摩師が必要。それはもうバッキバキ」
「ええと……虞美人さんみたいになってるから、腰の施術にも相応のパワーがいる、みたいな?」*1
「そうそれ。ミッキーは呑み込みが早い」
「……褒めてくれるのは嬉しいんだけど、そのあだ名はやめて欲しいかなー」
「なんで?ミッキーって名前、とっても可愛い」
「ああ連呼しないで!なんだかよくわからないけど甲高い笑い語がっ!!」
「?????」*2
うちの妹が夢の国と交信してる件について。……いやどっちかって言うと
まぁともかく、実際はそんなに厳しく取り締まったりはしてないとかなんとか聞くし、そこまで怖がる必要はないんじゃないかなーと思う私である。……え?本当に二次創作したらどうなるのかって?そりゃもう晒し首でしょ(真顔)。
「ちょっと話題に出すならまだしも、それで金儲けし始めたら怒られるってやつだよね」
「でもそれって普通のことじゃないかな?」
「普通って基準としてはわかりにくいんだよね……」*3
そういうことになった。
……冗談はともかく、実際には単なるファンアートとかは大歓迎らしいので、ネットでの噂ほどに警戒する必要はないんじゃないかなー、などと。
無論、キャラクターのイメージを毀損するようなもの(例:たこぶえみたいなの)を今の時代にやったら、恐らく例の笑い声が聞こえることになるだろうけど。*4
閑話休題。
謎のネズミの影に怯える妹には、あだ名くらいであれこれ言われることなんてないよ、と伝えて安心させ。
そのまま、薄暗くなった夜道をぞろぞろ並んで帰る次第である。
「そういえば、お三方はこのままお帰りに?」
「ええまぁ、そうですね。日帰りの予定でしたし、時間帯もまだ終電にも早いですから」
そうして歩を進める中、母から声を掛けられた私は、これからの予定について思い浮かべることに。
腰をやったという父には会えなかったものの……俺に対して伝えるべきことは一通り聞いたあとなので、特に留まる用件もない。
一番人手が必要だったのが部屋の整理ということもあり、このまま帰っても問題ないだろうと考えた私は、その旨を彼女に説明しようとして……、
「うわぁうりぼうだ!」
「へ?ってぬぉわぁ!?」
母と会話するために後ろへと振り返っていたため、左方・山の中から突然飛び出してきた、子供のイノシシを避けようと無理な回避体勢を取って、そのままバランスを崩し。
「……わぁ、泥だらけ」
「あらー、昨日ちょっと雨降ってたものねぇ」
「…………おのれクソイノシシ!!ぼたん鍋にしてくれるわどこ行ったぁ!!」
「お、落ち着きなさいっての!もうどこ行ったかなんてわかんないわよ!薄暗いし!」
近くの水溜まりに、無様にも尻餅を付く羽目になったのだった。……当たり屋とはやってくれたな
背後からこちらを羽交い締めにしてくるパイセンと、憤慨して両手を振り回す私。
そんな、さっきまでのあれこれで見せた姿とは真逆となった私達に、他の面々はポカンとした顔を浮かべていたのだった──。
「まぁでも、おかげでちょっとキーアさんが親しみやすくなったかなー、って」
「はぁ、それはまた何故に?」
「んー、キーアさんって三人のまとめ役?みたいな感じだったから、実はお偉いさんなのかなーって思ってたんだー」
「……あれは単にほか二人の保護者として努めている、というだけでですね?」
元々農作業のため上着は脱いでいたものの……下がスーツのまま、ということに変わりはなく。必然、その姿で転べばスーツが泥塗れになるわけで。
この格好で新幹線に乗るわけにもいかず、かといってクリーニングに出すにしても、
落ち着いた私が途方に暮れる中、母から提案されたのは『一日泊まっていかないか?』というもの。
そこまでお世話になるわけには、と断ろうとした私だったが、『まだうちの子の近況とか、聞いてないし』などと押し切られる形で、脱衣所に放り込まれてしまったのだった。
で、今は次女の方の妹にシャンプーやらリンスやらの場所を教えて貰っている最中、というわけである。
……え?実家なんだからそういうのの場所、知ってておかしくないんじゃないのかって?いや今ここにいるの
そうでなくとも、暫くの間帰郷していない実家である。
……いつの間にやら物の配置が結構変わっており、仮にここにいるのが俺の方だったとしても、結局どこになにがあるのかを妹が弟かに尋ねなければならなくなっていた、というのは間違いあるまい。
「それにしても……わぁ、完全にシミになってるや」
「……あのイノシシ、今度会ったら確実にシめてくれる……っ」
「あ、あはは……意外と粘着質なんだね、キーアさんって」
一通り説明の終わったあと、背後に回った妹からそんな言葉が返ってくる。
スカートも勿論のこと、上に着ていたカッターシャツまで泥で茶色くなっている辺り、無理に帰るのであればゆかりんの協力必須だっただろう。……この時間帯だと確実に寝ているので、どっちにしても無理な話ではあるのだが。
個人的にはさっさと帰りたかったこともあり、こうしてこちらに滞在するきっかけを作りやがったあのイノシシには、必ず相応の礼というものをしてやらねばなるまい……。
なんて風に、メラメラと仄暗い感情を燃やしていたところ、妹からはちょっと引き気味の声が返ってくるのだった。……あらやだ怖がらせちゃった?キーアん反省。
「でもイノシシは害獣なので、小さかろうと殲滅です」
「ああうん、そこに関しては同意。可愛さ余って憎さ百倍、だよね」
でも田舎の民にとって、イノシシがゴミカス(比較的ソフトな表現)であることは事実なので、すぐさま乗っかって来てくれるのだった。……折角作った野菜とか食い荒らすからね、仕方ないね。
そんな感じに一通り話した私は、諦めて風呂に入る準備をしようとしたのだけれど……。
「……あの、美希さん?何故に服に手を掛けていらっしゃるので?」
「え?一緒に入ろうかと思ったんだけど……ダメ?」
何故かシャツを脱ごうとしていた妹を、そのまま脱衣所の外に放り出すことになるのだった。
「あれー!?なんで追い出されたの私!?」
「ナチュラルに赤の他人と一緒に風呂に入ろうとしないで下さいます?」
「心なしか早口言葉?!えー、いいじゃないですか減るもんじゃなしー!」
「減る減らないの問題じゃなくてですね?いいですか、お風呂っていうのはなんというかこう、救われてなくちゃダメなんですよ。独りで静かで豊かで……って、ノブをガチャガチャするのは止めなさいって!」
「うるさーい!大人しくお縄につけー!!」
「なんでそんなに楽しそうなんです!?」
無論、今の私の性別が女、かつ最早
子供じゃないんだから、一緒に入るとかあり得んでしょ!……と拒否するのは当然のこと。それゆえ、暫くの間扉一枚を隔てて、謎の戦闘を繰り広げることとなり……。
「ひぎゃんっ!?」
「ぬおっ!?」
暫くガチャガチャとノブを捻っていた妹が、なにかヤバい音と共に沈黙したことに思わずガチビビりし。
「あー……すいません、妹が変なことを」
「あ、はい。すいません、こっちこそお風呂貸していただいて……」
「いえいえ。なんか手伝って貰ったって聞きましたし、遠慮なく入っちゃって下さい」
外から聞こえてきた、別の女性の声──長女の
「あーい変わらず、予定通りに進まないなぁ……」
一通り体を洗い終え、湯船に浸かって天井を見上げている私。
今回もいつも通り、トラブルに見舞われて予定が予定と消えたわけだが……なんだろう、呪われてるんだろうか私?
なんてぼやいたのち、
このあとは多分夕食に巻き込まれるのだろうし……そうなれば出ていくタイミングは最早残されていない。大人しく母達の願いを聞いてやらねばならなくなるだろう。
……ただこう、近況つっても、なにを話せばいいんだかわかんないというか?よもや毎日どったんばったん大騒ぎしてます、と子細に説明するわけにもいかないだろうし。
──なんて風に唸っていたから、風呂場の外が仄かに騒がしいことに気付くのが遅れた私。
これはアレか、性懲りもなく美希が風呂場に突撃してきたのか?……と、やむを得ず能力使うか迷った私は。
「私が来た!」
「私もきたー」
「……お、おう?」
ババーン、と風呂の扉を開けて現れた、真っ裸のパイセン&アス
「感謝しなさい、性懲りもなく突撃しようとしてたあの娘に代わり、私が一緒に入ってやるわ」
「私も私もー」
「……あー、赤の他人云々って断ったから、赤の他人かどうか微妙なラインのパイセン達が一緒に入ります、って言って断った、ってことです……?」
「その通り。キーアは察するパワーが高い」
「察するパワーってなに……?」
聞くところによれば、先程の鉄拳制裁もさほど堪えた様子のなかった美希は、懲りずにまたお風呂に突撃しようとしていたらしく。
それを制する形で、パイセンとアスカちゃんが一緒に入ってくる、と宣言したらしい。その程度には仲は良いほうだ、と押し切る形で。
まぁ、妹が入ってくる時の気まずさに比べれば遥かにマシ、というのは確かなのだけれど……。
「……いや、せめてなんかこう、隠してくださいよ色々と。恥ずかしくないんですかマジで」
「?なに言ってるのよ、項羽様に見せるのならばいざ知らず、お前に見せたところでなんにも減らないわよ」
「羞恥心が減ってるんだよなぁ……」
……こう、その姿で仁王立ちするの止めません?
境遇が同じだから気にはしないけど、気まずさがゼロとは言ってないんですよ私。
首を傾げるパイセンと、それを真似するように首を傾げるアスカちゃん。……これ、妹が突撃してくるのと心労的には大差ないのでは?とちょっと本気で悩んでしまう私なのでありました。