なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「お風呂いただきましたー」*1
「はいお粗末様でした。もうすぐご飯ができるから、適当にテレビでも見ながら待っててね~」
「あー、なにかお手伝いすることとかは……」
「いいのいいの、座ってて」
「あっ、はい」
三人で入るには流石に狭い風呂を、どうにかうまいこと使い終えた私達は、髪の毛を綺麗に乾かしたのち、用意して貰った着替えに袖を通し、脱衣所から出て居間へとやって来たわけなのだけれど……。
一番風呂を貸して貰ったという、ちょっと後ろめたさがなくもない状況により*2、なにか手伝うことないかなーと挙動不審になったりするのであった。……私だけ。
「ふーん、今日は壁がやってるのね、壁が」
「うぐっ」
「うぐっ」
「……いや、なにに反応してんのよお前達?」
「じ、自分が豊かな方だからって、私達のこと絶壁って言った……!」
「お前達ナイムネの民には、こういう作品がお似合いね……って言った……!」
「……流石にそれは、被害妄想甚だし過ぎじゃないの?」
パイセンに関してはこちらがふと目を離した隙に、テレビのリモコンを勝手に弄り始めていた。……人んちのテレビ勝手に弄ってんじゃねーですよ。
なお、四方に最大九十九人の解答者が出てくるクイズ番組が映った*3ため、約二名(私と美希)ほどが謎の流れ弾を受ける羽目に。
これだから持てるやつは、みたいな恨み言を妹と一緒にぶちぶち言いつつ、そういえばアスカちゃんはどこに?……と視線を周囲に巡らせて。
「ねぇキーア、このお兄さん死んじゃったみたい」
「……あー、うん。とりあえず君は、純情な青少年の心を悪戯に弄ぶんじゃありません」
「そんなつもりは毛頭なかった。今は
「YA☆ME☆TE!?」
胡座をかいて座っていた上の方の弟を、座椅子代わりに座る……という、それなんてラブコメorギャルゲorエロゲ?……みたいなことをやって、無事撃沈させている彼女の姿を発見するのであった。*4
……うん、青少年に湯上がり美少女近距離接近~俺の胡座にあの子がin~なんてやったら、そりゃ致死量ですわな。……やっぱりなんか如何わしいんじゃがこの子。
そのままだと色々あれなので、仕方なく私の膝の上に座り直させれば、暫くののち弟は再起動を果たしていたのだった。……フリーズ前後の記憶がふっ飛んでいるみたいだから、わざわざ話題にするのは止めてさしあげよう(優しさ)。
ともあれ、夕食まではまだ少し余裕がある。
さっきの番組はちょっとあれだけど、他になにか丁度よい番組でもないかとリモコンを操作して、
『ふはは!マジカル聖裁キリアとやらよ!貴様の命運もどうやらここま
「わっ?……どど、どうしたのキーアさん?」
「いやなんでも。この時間帯に見るんならやっぱりバラエティがいいよね、うん」
「えー?でも私、今週のキリアちゃん見た
「やめろォ!?」
「ひゃっ?!」
努めて冷静に、他のバラエティを見ようと提案したものも、妹は不満げにこちらへと文句を言ってきたため、思わず過剰反応してしまう。
しまった、と思った時にはもう遅く、なんだなんだと周囲からの視線が私に集まってきてしまったので……、
「あ、あー。すみません、この作品の
「あ、あー。なるほどなるほど。ごめんねキーアさん、そういえばこのアニメのボスと同じ名前だね……」
などと、拙い言い訳を述べる羽目になってしまったのだった。……おのれCP君!
それって八つ当たりじゃないかな?なんて脳内で述べてくる
……妹はまだ中学生、アニメとか普通に見たいと言ってもおかしい年齢ではあるまい。大人になったらアニメは見ちゃダメ、というわけでもないが、ともかく
なので、正直なところ気まずい以外の何物でもないのだけれど。
「……えっと、見ても大丈夫、なのかな?」
「そもそもここの一家でもない私に、貴女が見たいものを否定する権利もありませんので。私のことは気にせず、どうぞお好きなモノを見てくださいな」
勝手に人の家のテレビのリモコンを弄っていた方がおかしかったのだ、ということを述べながら、妹にリモコンを渡すことにするのだった。
……ま、まぁ?今の私とアニメ内の魔王が、イコールで結ばれることなんて?多分おそらくきっとないだろうから?精々勝手に私の胃が痛くなってくるくらいのもので、
『──そんな!保健室の先生が魔王だったなんて……!』
『油断したなキリアよ!我が魔力を以てすれば、他者に変装するなど朝飯前というやつよ!』
「」<ガシャーン
「キーアさん!?」<ガビーン
……などという台詞がフラグだったのか、再びテレビに映ったアニメの中では、当の魔王様が保健室の教師に変身して学校に潜り込んでいた、などという新事実が明らかになっていたのだった。……貴様、(こちらを)見ているなッ!*5
思わず崩れ落ちるように額からテーブルに突撃してしまった私はといえば、暫くの間、頭部を襲う地味な痛みに苦しめられることになるのだった……。
「それにしても……意識して見てみると、キーアさんと魔王ってなんとなーく似てる気がしますね?」
「……アアハイ、ソウデスネー」
こっちの今の状況を理解してアニメを作ってる、なんてことになってるんじゃないだろうな?……と思わず疑い抱いてしまった私は、据わった目をアニメが映るテレビに向けつつ、妹の言葉に相槌を打ち続けている。
彼女の疑問に、『似ているもなにもあれ私がモチーフだからなぁ』とは返さない。
今の私は成人女性相当の風貌となっているが、画面の中の
まぁ逆を言えば、作中で保健室の教師に変装していた時の魔王の風貌が、今の私にクリソツ*6過ぎたために額を強打する羽目になった、という風にも解釈できるのだけれど。
……桃香さんみたいな未来視技能者が実在している以上、制作スタッフに同じような未来視技能者が紛れ込んでいないとは言い切れない……というのが、この話の笑えないポイントである。
「えっと……大丈夫です?キーアさん。妹の相手に疲れたんでしたら、私が黙らせますけど」
「ひぇ」
「アッ、ドウカオキヅカイナク。ヨクイワレテイルナイヨウダナー、ッテオモッテイタダケデスノデ」
(……その割には、滅茶苦茶片言になってるんだけどなー)
そうして話をしている私を心配してくれたのか、亜希の方がこちらを気遣うような声を掛けてきてくれるけど……美希が怯えているように、彼女の
……風呂場でのやり取りを思い出せばわかるけど、わりと手が出るのが早いからね、この子。
なお、そうしてやんわりと断った結果、二人からは微妙な視線を向けられることになったのだった。……いやなんで?今の流れのどこに、私が変なものを見るような視線を向けられる理由があった?
「自覚がないのってどうかと思うわよ?」
「ヤダナーカイサン。ワタシハイツデモマトモナツモリデスヨ?」
「まともな人間はわざわざ自分を『まとも』って吹聴しないのよ、しっかりしなさい」
「というかキーアはいつまで片言?めんどくない?」
「正直めんどいです……」
「あ、戻った」
なんで私、タコ殴り*7にあってるんですかねぇ?
首を捻りつつ、ようやく夕食が出来たと言うので、机の上の片付けやら食器の用意やら、手伝えることをちまちま手伝うことでさっきまでの話を有耶無耶にする私である。
で、当の夕食に関してだが、内容はメンチカツだった。
女性が食べるにはちと重いメニューのような気もしないでもないが、そこはそれ。
「……め、滅茶苦茶食べますね、お三方とも……」
「こうなってからエネルギーを異様に食うのよ。材料代はあとで出しとくわ。……国が」
「国が!?」
「経費で落ちますかねぇ、これ」
落ちなきゃポケットマネーから出すだけなんだけど、とぼやきながら、メンチカツをガツガツと、それでいて女性らしさを損なわない程度には上品さを残しつつ平らげていく私達。
その速度は、食べ盛りの少年である弟二人のそれと比較しても、それなりに速いと言えるくらいのもので。
それを見た一般的な女子である妹二人は、ぽかんとした表情を浮かべているし、母は相変わらずあらあらうふふと笑みを浮かべている。
男二人は負けじと大皿に積まれたメンチカツに箸を伸ばしていて──そうして食事が和やかに進んだ結果、あれほど山盛りにされていた料理は、綺麗さっぱり平らげられてしまっていたのだった。
「ごちそうさまでした、御母堂様」
「はいお粗末様でした。……多めに作ったつもりだったけど、すっかりなくなっちゃったわねぇ」
「美味しかった」
「そう?アスカちゃんが喜んでくれたのなら、張り切って作った甲斐があったというものだわ~」
「……母さん、アスカちゃんがすっかりお気に入りだな」
すっかりお世話になってしまった、と頭を下げる私に、母はにっこりと笑って『美味しかったのならよかった』と述べる。
基本大家族であるがゆえに大量生産を得意とする母だが、昔と変わらずその味は今も保たれているようだった。
……なのでまぁ、思わずおかわりとかしてしまったが……仕方ない、母の料理が美味しいのが悪い。
……なんかどこからともなく『り、料理の腕ももっと精進しますので!』みたいな
せめて後片付けくらいは手伝わせて欲しい、というおやつ時と同じ文句で母を押し切った私達は、三人+何人かで洗い物などを片付け始めたのだった。……+何人の部分は、順番に風呂に入る他の兄弟達の内のいずれか、の意味。
「手とか荒れないんで?」
「昔は酷く荒れたりもしたんですけど……料理屋のバイトで強い洗剤を使ってたせいか、いつの間にか全然荒れなくなったみたいで」
食器を拭いている亜希から、不思議そうな声音で問い掛けられる。……肌荒れを気にしてゴム手袋を使う、ということもなく、素手で洗い物をしているのが気になったらしい。
とはいえ、昔は俺も洗い物をする度酷いことになっていたので、その気持ちはわかる。関節部分全てに
これが私の手が強くなったのか、昔に比べて洗剤が手に優しくなったのかはわからないが……ともあれ、おかげさまで洗い物がわりと好き、という今の自分の性格に繋がっているということは間違いあるまい。
「……ふーん?」
そんな私の話を聞いた妹は、何故か意味深な笑みを浮かべていたのだけれど……なんだよう、なんか私変なこと言った?みたいに問い掛ければ、『別にー?』と流されてしまうのであった。
……むぅ、なんだろうかこの違和感みたいなの。