なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「と、言うわけで!みんなでババ抜きしましょうよ、ババ抜き!」
「じゃあ私抜きね、お前達で勝手に遊んでなさい」
「……いや、ババ抜きって名前をゲーム参加拒否のための口実にする人、初めて見たんですけど?!」
「そこはほら彼女、性質的に見ると実際に虞美人さんと会話している、みたいなものですので……」
「あらあら。容姿だけじゃなく性格も創作のキャラクターに近付くだなんて、なんだか怖い話ねぇ」
食器の片付けやら、机の上の拭き掃除やら。そんな、粗方の片付けを終えた私達を待ち受けていたのは、下の妹・美希からの遊んでコールであった。
風呂に入り、夕食を食べたことで時間はかなり経過したものの……現在の時刻としては九時ちょっと過ぎ、布団に入るにはまだ早い、という主張はおかしいものではあるまい。
なので珍しいお客さん達に向けて、妹が遊ぼうと声掛けしてくるのは、ある意味では予定調和なのだった。……よもや『ババァ』抜きなんて聞き間違いを口実に、パイセンがその誘いを華麗に回避しようとするとは思わなかったけど。
いやまぁ、一人だけ回避とかさせないけどね?ちゃんと巻き込むけどね?
……でもやっぱりハバァ抜き呼ばわりでキレ散らかすのではなく、行事の回避手段に使うのは変な人扱いされてもおかしくないと思います(作文)。*1
「それはどうでもいいけど、もしかして全員でやるつもり?一人頭のカードの枚数、かなり減りそうだけど」
「そこはそれ、仮に揃いに揃って最初に上がっちゃっても、面白いのでオッケーです!」
「わぁ、遊びたいって気持ちが溢れすぎて、なんか無茶苦茶言ってるぞこの子」
とはいえ、現在ここに揃っているのは私達三人と妹達&母親の五人、合わせて八人。
トランプの総数である五十三枚を全員に均等に配る場合、一人頭に配布されるのは六もしくは七枚となる。そのうち一組でも揃っていれば数は四か五枚に減り、二組揃ったとなればなんと最初から二か三枚である。*2
ゆえにパイセンの心配は決して杞憂とは言えず、その辺りなにか対処とか考えとかでもあるのだろうか?……と確認してしまうのは、決しておかしな話というわけでもないだろう。
……まぁ、当の妹はなんにも考えていなかったわけなのだが。天和とか地和とかに関しては仕方ない、みたいなやつ?*4
「うふふ。じゃあ私は遠慮させて貰おうかしら。貴女達の騒ぎを後ろから眺めていた方が楽しそうだし」
「あ、お母さんが自然に退避した!?」
「退避だなんて人聞きの悪い。観戦よ、観戦」
とはいえ、やっぱり人数が多すぎるのに違いはなく。
それを察した母は、するりと人の輪から離れ、後ろでニコニコとこちらを見守ることに決めたのだった。……早すぎて止める暇がなかったでござる。
まぁ、それでも総勢七人である。ババ抜きをするにはちょっと多い気もするが……誰が抜けるかでまた一騒動ありそうだし、ここはこのまま続行するのがベストだろう。
「え、いや俺抜けたいんだけど……」
「じゃあシャッフルするねー」
「話を聞いて欲しいんだけど?」
「おっと、ショットガンシャッフルはカードを痛めるぜ☆」
「ホントはこれ、ショットガンシャッフルじゃないらしいねー」
「なん……だと……?」*5
「もしもーし。あれ、俺無視されてる?」
なんか上の方の弟が抜けようとしていたけれど、華麗にスルー。逃がさん、貴様だけは……っ!*6
……というわけではないけど、逃げたそうにしている理由が目のやり場に困るから、みたいなものであることは、その視線が右往左往していることから把握済み。
うんうん、思春期の少年にはパイセンの湯上がり姿とか、目の毒以外の何物でもないよね。だから気に入った(豹変)*7
「はい妹ちゃん、シャッフルが終わったのなら私が配ってしんぜよー」
「あれ?さっきまでと違ってノリノリだねキーアさん?」
「ふふふふ、我がカード捌きをとくとご
「キーアのテンションがおかしくなった。これは朝まで寝かせて貰えない」
「なんでもいいわよ。ほら、さっさと配んなさい」
「へーい」
やっぱりここは逃がさねぇぜぇ~!……的なノリで弟にロック☆オン。シャッシャカカードを配っていけば、譲二は諦めたように小さく息を吐いたあと、自身に配られたカードを確認し始めたのだった。
「よぉし配り終わったぞぅ、揃ってるカードは全て真ん中に投げ込めー^^」
「わぁい^^」
「……そのネタに乗れる辺り、やっぱりお前っておかしいわよね」
配り終えれば、枚数は一人頭七から八枚。
三から四組揃わなければ全消しにならないこともあり、流石に開始前から上がるような者は現れなかった。
……あと『のりこめー』ネタに反応できるアス
ともあれ、これより始まるのは仁義なきババ抜き。
負ければ罰ゲーム(『なんだってー?!』と叫ぶ下の弟ありけり)が課される過酷なそれは、上の弟のカードをパイセンが引く、という形で始まるのだった。
「いやー、遊んだ遊んだ」
「不自然なくらい一人弱かったけど……なんだったのかしら、アレ」
一時間ほどババ抜きを繰り返した私達は、一先ず寝る場所として用意された場所──明日以降下の弟の部屋となる予定の、今日片付けたばかりの部屋に敷かれた布団の上で、先ほどまでのやり取りを思い返して会話に華を咲かせていた。
なお、本来であれば今日からこの部屋を使うはずだった、下の弟・雅司はといえば、昨日までと同じように兄の部屋で布団を敷いているはずである。……さっきまでの様子を見るに、完全に
……え?逆上せた理由?そりゃもう、テーブルを挟んで反対側のパイセンが、自分のカードを引きに前のめりになる姿を何度も見せられてれば、ねぇ?
ただでさえ今の寝巻きは薄着だし、そりゃもう青少年には刺激が強すぎるというか。……まぁ当のパイセンは、
「……今からでもさっきまでの記憶、吹っ飛ばしとくべきかな?」
「突然猟奇的なこと言うんじゃないわよ……」
思い出したらなんか腹が立ってきたので、弟の後頭部を思いっきりぶん殴って記憶を吹っ飛ばしておいた方がいい気がしてきた。
初恋の人がパイセンになったら可哀想だし、早めの対処が必要なのでは?
……的なことを述べれば、パイセンからは呆れたような視線が返ってくる。
なんだよー、弟のためを思ってのことなんだぞー?
「それのどこが弟のためなのよ……」
「『
「…………」
「ぐーが『確かに』みたいな顔してるー」
他人に見られても気にしないとは言うものの、言い寄られるのは話が別。……というのは、夏のパイセンを見ていればよく分かる話。
弟が真っ赤な血の華にされては困るので、そういう意味でも忘れさせておいた方が良いのではないか、と愚考する私なのであった。……微妙に適当言ってたはずなのに、ちゃんとした理由になっちゃったんですけどそれは。
そういえばそうだ、みたいな驚愕の表情を浮かべるパイセンに思わず苦笑しつつ、胡座を解いて枕に後頭部を放る私。
天井は昔と変わらず板張りで、むかーし木目を色々なモノに見立てて遊んでたなー、なんてどうでもいいことを思い出してくる。
「……で?明日は帰るわけだけど、特になんにもないわけ?」
「あー、帰る前に父さんにも会っておきたいけど……んー、流石にそこまではどうかなー」
視界の外から、パイセンの声が飛んでくる。
なにかしておくべきことがあるのではないか?……という質問なわけだが、これといって思い付かない私は生返事を返す。
私が俺である、ということを伝えるつもりはないし……
そうなれば私達の関係は、家族のうちの一人に頼まれ、遠く田舎くんだりまでやって来た赤の他人の都会人……というものが正しいわけで。
ゆえに、やるべきことなんて今ここにいない相手、入院している父の近況を探るくらいのもの、ということになる。
……なるのだが。流石にそこまでするのもなぁ、と思ってしまう私がいるわけで。
いやだって、ねぇ?
最初は父の危篤と聞いて帰って来たわけだけど、それが単なる口実であったことは既に知れているわけで。
……その時点で、赤の他人である私が父に会いに行く必然性、というものが薄れてしまっているのである。だってそれを遂行しようとする場合、わざわざ家族の誰かを同行させる必要がある、ってことになるからね。
「家で会えたんならまだしも、わざわざ入院している赤の他人を見舞いに行く……とか、不審者扱いされても可笑しくないじゃないですか」
「言ってることは間違いじゃないけど、今さら自分が不審者じゃない、って主張しているようにも思えて、ちょっと笑っちゃうわね」
「ちょっとパイセン?」
……なお、その辺りのことを説明した結果、パイセンからはジト目を向けられることになったのだが……流石にその扱いは酷くね?
「……ん、誰か来た?」
そうして逃げるパイセンを追い掛けていた私は、取っ捕まえた彼女の口をぐにぐに引っ張る中で、誰かにドアがノックされたことに気が付く。
一体なんの用だろうか?……もしかして煩かったかな?なんて風に首を捻りつつ、パイセンを解放して扉を開いた私は。
「ちょっとお話したいんだけど、大丈夫かしら?」
「……御母堂様?」
そこでこちらに笑みを向けてきた母の姿に、思わず呆気に取られることになるのだった。