なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「はいどうぞ。安物のチューハイ*1でごめんなさいね?」
「いえいえ、お気遣いなく。……突然お顔をお見せになったのでなにごとかと思えば、晩酌のお誘いとは。……結構お飲みになる方なんです?」
「子供達の前ではあんまり飲まないけど……お客様が居るからたまには、ね?」
突然やって来た母に誘われたのは、大人組だけでの晩酌。
アス
プシッ、と景気のよい音を立てながら開いた飲み口から、軽く中身を啜る。……甘めの銘柄であることもあり、特に酒であるということを気にせずに飲めそうだった。
そのまま口内を濡らす程度に中身を傾け、母の方に視線を向ける。
この晩酌、本来であれば父と一緒に時々やっていたモノらしい。
今は父が病院送りになっているため、暫くご無沙汰だったが……私達が成人済みであることを思い出し、思いきって誘ってみたとのことである。
まぁ、個人的に言わせて貰えば、母がわりと酒を飲む方の人であるということの方が驚きなのだが。その見た目だけなら、仮に飲むとしても精々甘めのカクテルの類いだろう……なんて予想が立つような感じの人だし。*2
「?どうかしたのかしら?」
「……いや、なんというか……渋いですね」
「あらあら♪」
なお、実際の母が飲んでいるのは焼酎のロックである*3。……とんでもねぇ飲兵衛ですねこれは(白目)
ただそうなると、私達に出されているこのチューハイは、一体誰が飲んでいたものなのだろうか……?
「あ、それはお父さんのよく飲むやつなの」
「……子供舌?」
「酒なのに子供舌とはこれ如何に」
なんて風に疑問に思っていることが伝わったのか、母が答えたのはこれらのチューハイは父のよく飲む品種である、というもの。
……どれもこれも甘くてアルコール度数の低いものばっかりな辺り、なんというか『性別逆では?』みたいなツッコミが思い浮かぶ私達なのであった。
「……あ、もしかしてこっちの方がよかったかしら?」
「いえこれでいいです(キッパリ)」
「そう?結構飲みそうな感じなのに、遠慮とかしてない?」
「いえ、流石にそれはちょっと明日がキツいんで遠慮しておきます(震え声)」
因みに、母が飲んでいる焼酎のロックだが、よくよく瓶を確かめると『原酒』と書いてあった。……一般的な焼酎は、アルコール度数を下げるために水と混ぜてあるのだとか。
そのため、『原酒』と言うのは
そんなものをロックで嗜むこの母親が、飲兵衛以外のなんだと言うのか。……父用に軽めのチューハイが用意されている辺り、彼の苦労が偲ばれる感じである。
まぁ、こうして私達が消費してしまうことにより、次回の晩酌時に次を用意していない場合、自動的に父が母の焼酎を奨められることになってしまうわけだが。……御愁傷様、とでも言っておけばよいのだろうか?
まぁともかく。
どこの幻想郷の住人だよ、みたいなツッコミを口内で留めつつ、母親の晩酌の相手を務めることとなった私達。
パイセンも私も、酒精には強い方だが……流石に焼酎のロックは重いので、丁寧丁寧に断ってチューハイの缶を傾けつつ、おつまみの唐揚げをつまみながら彼女の話に相槌を売っていく。
「なるほど、そんなことが」
「そうなのよ~、別にわがままとか言ってくれても全然大丈夫なんだけど、みんな遠慮してるのかいい子のままなのよね~」
無論、酒が入った人間の話なんて、大抵愚痴か惚気かが大半。
母もそのご多分に漏れず、口から出てくるのは子供達への愚痴の言葉なのであった。……まぁ、一般的なそれとはちょっとずれた、『もうちょっと悪い子になってもいいのに~』なんていう愚痴だったのだが。
今話題に上がっていたのは、上の妹である亜希のこと。
俺を除けば一番歳上、現状のこの家の子供達の纏め役である長女の彼女は、見た目はちょっとギャルっぽい感じもあるが、基本的には真面目なやつである。
……なので、母的にはちょっと心配なのだ、なんてことを口に出していたのだった。
「いい子は
「そういう雰囲気を感じ取って、敢えてわがままを言わないようにしてる……とかだったりするんじゃないの?」
「なにその湾曲した反抗期ぃ~。もっと素直に反抗して欲しいんだけどぉ~?」
「あの、御母堂様?いわゆる飲みすぎ、というやつなのでは?」
親の手を焼かないのは有難いが、同時に自身の意思というものを表現するのが下手なのではないか?……なんて心配をする彼女に、パイセンは思春期のややこしい思考回路を例に出して、別に気にする必要はないんじゃない?……と嗜めている。
……まぁうん、その辺りは本人に聞いても素直に答えて貰えるとは思わないし、別に母が納得できるのならそれでいいとは思うけど……それは一体誰目線からの台詞なんですかパイセン……?
ともあれ、そろそろ母の様子がおかしい、というのは確かな話。
呂律が回らなくなってきているわけではないが、彼女が飲んだ酒の量は、およそ瓶三本分。……時計を見れば時刻は十一時を少し過ぎた頃、つまり二時間近く晩酌を共にしていた、ということになるわけで。
そりゃまぁ、幾ら酒に強いとは言っても酔いも回るというもの。そろそろ布団に叩き込むべきなのではないか?……なんて考えが思考を過るが。
「だいじょうぶだいじょうぶ。これくらいならまだまだ出だしだってばぁ~♪」
「いや、どう考えても完全に酔ってるでしょう?……ほらもう、いい子ですからお部屋に戻りましょう?」
「んー……じゃあ、私の質問に答えてくれたら、素直に寝ます!」
「は、はぁ?なんでいきなりそんな話に……?」
「なんでって、そりゃ勿論、そのために呼んだんですもの~」
「……はい?」
……なんだか、雲行きが怪しくなってきたような?
謎の緊迫感を覚える私と、なんだか目が怪しく輝いているような気のする母。
一体なにを聞かれるのか、そう思った私は。
「楯君は元気ぃ~?」
「……ええと、その楯君とは一体?」
「あれ、聞いてない?うちの子のお友達なんだけど」
ついで彼女の口から飛び出した言葉に、そういえば聞かれてもおかしくはないな……と思いながら、ごまかしの言葉を紡ぐ羽目になるのだった。
楯との付き合いそのものは、実際は小学生くらいの時にまで遡る。まぁ、その時分はあくまで顔見知り、って感じであって、今……というより大学生時代?みたいな先輩後輩の付き合いをするようになったのは、中学二年になってからのことなのだけれど。
なのでまぁ、母が楯のことを話題に出すことそのものは、別におかしい話ではない。疑問があるとすれば、それが今・私に対して尋ねられた理由の方だろうか?
「お友達、ですか。今聞かれたと言うことは、その方も息子さんと同じように?」
「んー、時期的に同じくらいだったかしら?向こうの親御さんも似たような説明をされてたみたいだから、多分同じ病気に掛かっちゃったんだろうなー、みたいな」
「なるほど。近い時期に同じ病気で入院したのだから、同じ病室にいてもおかしくはないですね。
「……そうそう。性別違いならアレだけど、
「なるほど……ですが、息子さんはお一人様の病室にいらっしゃいますので、同室の方というのは居ませんね」
「あらそう。……その言い種だと、うちの子からは特に伝言も頼まれてない感じ?」
疑問に感じつつも、こちらは
なので、彼女の話す内容については初耳、ということになるわけなのだが……うーむ、向こうの親御さんもちゃんと話を聞かされていた、というのは確かに初耳なので、そこを起点に嘘を調整すればどうにかなる、だろうか?
……なんてことを考えつつ、母と会話を続けていく。続けていくのだけれど……なんだろうこの違和感?
「なるほどなるほど。じゃあ、もしよかったら楯君も元気してるかどうか、確かめておいて貰えるかしら?」
「ああはい。所在などについては守秘義務の関係上、伝えられる情報には限度がありますが……無事か否かについてなら、特に問題はないかと」
「よかったぁ。向こうの親御さん、
「……なるほど、とても心配なされていらっしゃるのですね」
「そりゃもう、ねぇ?」
そのまま母からは楯の近況について調べて知らせて欲しい、と頼まれたわけなのだが……ううむ、いつの間に向こうの親御さんと仲良くなったのだろう?
そうして内心首を捻っていた私は、次に母が告げた言葉に、違和感の理由がなんだったのかを思いしることになるのだった。
「──ところで。
「─────────あ」
(……なんか、すごいことになってるわね)
そう、それは母の酔いがいつの間にか醒めていること。
単なる晩酌の一コマだったはずが、こちらへの誘導尋問のようなものが始まっていた、ということへの警戒心が、違和感として私に異常を伝えていたのだ、ということを……。