なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「──な、なるほどー。『ジュン』という響きから勘違いしていましたが、お、女の子だったんですねー」
(……声は震えてるし目は泳いでるし、ごまかしようがないわね、これ)
しまった、これ誘導尋問だ!
……とようやく気付いた私は、視線をあらぬ方向に向けつつ答えを返す。
そういえばそうだった、長いことマシュとしての姿しかみてなかったから忘れかけてたけど、楯ってば親御さんからは
その辺りはややこしい事情があるので、ここで語ることはないけれど……ともあれ、戸籍上では女性になっているのだから、息子と同じ性別であると知っているかのように話していたのは、とても宜しくない。
だがしかし、今ならまだごまかせる。
なにせ『ジュン』という名前は男女どちらにも使えるもの、だから男だと思っていた……母も楯
という、私の思惑は。次の母の言葉により、あえなく瓦解することになるのだった。
「ところで芥さん。
「──ええ、覚えてるわよ。中学のアルバム辺りから、一人だけやけにアンタの息子にべったりな
「」
……う、裏切り者ぉ~っ!!?
まさかのパイセンからの突然の裏切り(※聞き流していた自分が悪いだけです)により、そもそも『楯君って誰?』という発言の時点で疑われていたことに、遅蒔きながらに気付く私。
ぱ、パンドラの箱には、やはり災いしか詰まっていなかった……!!*1生返事なんてするもんじゃねえ!
って、そんなことを言っている場合ではない。
とりあえず、楯回りの話で嘘を付いていた、ということは認めなければなるまい。状況証拠がこうして揃い始めている以上、更なるドツボに填まる前に巻き返さなければ大変なことになる。
幸いにして、今一番バレたら不味いものである私の正体に付いては、一切触れられてはいない。
結局のところそれが一番重要なのだから、それ以外は全てうっちゃって*2しまえばよかろうなのだァーッ!!
「……むかーし洗い物をしていた時に、冬になる度皹まみれの手になってしまっていた、とか」
「…………?」
「考え事をするとき余計なことまで考えて、結果として結論に行くまでに話が長くなりすぎる、とか」
「……………」
「他にも、例え話する時に既存のことわざをちょっと捩ったものを使ったりだとか、お父さんの容態を尋ねた時に『蜂』が話題に上がった途端、露骨に安心した顔を見せたりだとか。……そういう、細かい気付きは幾つかあったけど──」
「あ、あったけど……?」
……などという逃げの一手は。
「一番はそう、貴女が『マジカル聖裁キリアちゃん』を見るのを嫌がったこと。……そのあと色々理由を付けてごまかしてたけど……貴女が
「─────────」
そもそも最初から逃げ道なんてなかった、という答えによって粉砕されてしまうのでありました。……あ、これ詰んだわ。
思わず白目を剥く私だが、母の追求は止まらない。
決定的な一言を告げるまで、その口は閉じないのだ。
「そう。貴女は他の二人と同じく、例の感染症に罹患し、その姿をアニメキャラに変じさせた人。そこに、数多の嘘とほんの少しの真実を混ぜることで、自身の役割に信憑性を持たせようとした……けれど私の目はごまかせない。そう、貴女は──」
「…………(ごくり)」
それはまるで、
ゆっくりと持ち上げられた右腕は、同じようにゆっくりと下ろされながら、私を指差していく。
なるほど、これが犯人の気持ちか……なんて戯言を脳裏に思い浮かべながら、その時を待つ私は。
「──そう、貴女は楯君本人ね!!」
「…………はい?」
見当違いの答えをぶつけられ、思わず首を傾げることになるのでありました。
「あ、あれ?違ったかしら?」
「ええと、とりあえず何故そう思ったのかお聞きしても?」
最後の最後でボタンを掛け違えた、みたいな感じの言葉が出てきたことに、思わず困惑する私と母。……いやなんで母まで困惑してんねん。
ともあれ、なんでその結論が出たのか、というところには興味があるので、推理の根拠を彼女に聞いてみたわけなのだけれど。
「ええとね?アルバムを見なかったのは、そこにうちの息子が載っていたから、だったと思ったのだけれど……」
「……え、そういう?」
「止めてください芥さん、茶化さないで」
一つ目の根拠は、私がアルバム回りの話を聞き流していた点。
どうにも母は、それを楯(と勘違いした私が)が
……いやまぁ確かに?もし仮に
「あと、洗い物のエピソード。それ、うちの子から聞いてたそれを、自分のことのように話す──いわゆる嘘だけど本当のこと、ってやつで、話の信憑性を盛るためのものだと思ってたのよね。よもや
「…………」
「……なにか言いなさいよ、お前。白目剥いてる場合じゃないでしょ」
二つ目の根拠は、節々に語られる個人のエピソードが、
本人であることを悟られないようにするのであれば、参考にするエピソードは
ゆえに、
無論、それによって気分が舞い上がってしまい、
話を聞く度、私に言葉のナイフが刺さってくるのですががが。
「え、えっと……それからその、うちの子といい感じなんじゃ?って問い掛けに殊更に否定を投げてたのが、『今まで通りの押せ押せじゃ先輩には届きません』って気付いて、
「…………(死ーん)」
「しっかりしなさいお前、傷は深いわよ、がっかりしなさいお前」*3
「そのいいぐさ、なぐさめるきあるんですかぱいせん……」
「ないけど?」
「ないんかい……」
最後、『うちの子の嫁に』云々の話に全て否定を投げていたのは、いわゆる一種の照れ隠し、ないし『押してダメなら引いてみろ』の結果ではなかろうか?……と判断したというもの。
確かにずっと後ろを付いてくる感じの子だった楯は、最近は少し自立したというか、私から離れて行動することも多くなったような気はする。……いやもしかしたら、そんな気がするだけかもしれないが。
ともあれ母からは私が、楯がパイセン達と同じ病気に罹患し、『マジカル聖裁キリアちゃん』の敵役である魔王になってしまった存在……という風に認識されていた、ということは間違いないようで。
……その間違いをそのまま押し通せば良いのでは、みたいなことも脳裏を過ったが後の祭り。
「……え、その反応、もしかして違うの?楯君じゃない?…………え゛、じゃあまさか、貴女の本当の姿は……!?」
「……お察しの通り、超能力者です。そう呼んだ方がいいでしょう。まっがーれ↓」*4
「…………うちの子だーっ!!!!!????」
それまでの反応の違和感が積み重なり、彼女は真実に気付く。
ゆえに私に取れる手段も多くなく、仕方なくごまかしのために吐いた言葉は──なんの意味もなしはせず、私の隠す真実を、白日の元に晒すことになるのだった。
「「「「えーっ!!?兄ちゃんーっ!!?」」」」
「ええい、なんの漫画だこれはっ!!」
その後、聞き耳を立てていた兄弟達が一斉に居間に雪崩れ込んで来たため、余計に酷い騒ぎになるのであった……。