なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「で、なんでおに……お
「なんでわざわざ言い直したし。……いやまぁ、この姿でお兄って呼ばれても、それはそれで困るけど」
次の日。
さんざん大騒ぎしたのち、波が引くようにサーッと部屋に戻っていった私達はというと、そのまま布団に入ってぐっすりと眠りに落ちていったわけなのですが。
その翌日、起きてさっさと帰ろうとしたところを、母から『ちゃんとお父さんにも顔見せしてから行きなさいよー』と言われ、渋々父の入院する病院へと足を運んでいたのだった。
なお、本日は付き添いとして亜希が一緒に来ている。
他の面々は(平日なので)普通に学校だが、亜希だけは昨日までのテストの影響とかで、休みがずれたのだとかなんとか。
……我が家の中では私に次いで年長者な子供組ということもあり、色々と大変そうな立場の妹である。
「そう思ってるんなら、別に今すぐこっちに戻ってきてくれてもいいんだよ?」
「いやー、無理でしょ。少なくとも元に戻るまでは」
「ふーん……まぁ、戻る気があるんなら、それはそれでいいけど」
「なにさ、その含みのある言葉」
「なんでだろうねー?」
そんな風に軽口を投げ合いながら、病院の敷地内を足早に進む私達なのであった。……他二人?なんか後ろの方──具体的には敷地への入り口辺りでぐだぐだしてますがなにか?
「……パイセーン、
「……なによ」
「いや、こっちがなによー、ですよ。どうしたんですか、いつまでもまごついて*2。アス
「人聞きの悪い言い方するんじゃないわよっ!……ったく、なんで私がこんな格好を……」
「流石に公共の施設であの格好はダメ。グビは多少反省するべき」
「はいはい……」
で、なんで彼女が病院の敷地を跨ぐか跨がないか、くらいの位置でぐだぐだしていたのかと言うと、その理由は今の彼女の格好にある。
……うん、よもや
嫌がる彼女に無理矢理着させたのが、いわゆる芥ヒナコっぽい服──大きな白コート、というわけなのだった。
これは、こちらに来る前に服屋で購入したあのコートを、あれこれと手を加えてそれっぽいものに仕立て上げたモノである。作業協力母以下数名で、縫ったり変えたり切ったりした、というわけなのだった。
美希の方からは『コスプレ服作りみたいで楽しいねー』と言われ、『あー、着せ恋?』と亜希が述べ、『そういえば五条くん、うちにもいるよー』『『『マジで!?』』』……などと話題にもなったが、それはそれ。
パイセンが敏腕秘書モードで着ていたスーツは、昨日私のスーツと一緒に洗ってしまったこともあり、『それはもう絶対に着ないわよ!』などと言われてしまい、今は
……そういうわけで、
まぁ一応?本人の別形態みたいなものなのも相まってか、嫌がってはいるものの、秘書服などと比べれば随分マシな感じではあるようだが。……代わりに奇抜な格好だな、みたいな視線は集まっているが、許容範囲内である。
なお、アス
「石ころぼうしだっけ?あれみたいな感じというか……」*3
「まさか知り合いだけど一般人、みたいな人相手だと変なことになるとは思わなかったわね……」
服装までバッチリ決めたことにより、とりあえずあからさまに変なやつ、という風に見られることはなくなっただろうが。
今度は反対に、『芥ヒナコ』を知る人間には疑われるような姿になっていた、ということも事実なので、その辺りをごまかすためにバッジを使用しようという話になったのだけれど……。
スイッチを入れた途端、亜希がこっちを無視して歩き始めたものだから大慌て。肩を掴めば流石に反応はしたものの、バッジの効果中はすぐにこちらから意識が切り離されたように、先に行ってしまう……という、ある種のホラー体験をする羽目になったのだった。
それこそ亜希の言う通り、石ころぼうしでも被ったかのような気分になったというか。……はるかさん相手にはそんなことなかった辺り、戻ったら要検証である。
まぁそんなこともあって、パイセンは今のところ『芥ヒナコのコスプレ』的な認識を隠せていない状態、ということになるわけで……。
田舎なのでそこまでサブカルに精通している人間がいない、という点ではまだマシなのだろうけど、それでも白いコートの人間が目立つのも確かな話。
結果、周囲からの視線を嫌ったパイセンが、こうして駄々を捏ねることとなった、というわけなのであった。
……いやまぁ、そんなに嫌なら普通の格好をして貰えればいいってだけの話、なんですけどね?
「なんで私が周囲に合わせなきゃいけないのよ、寧ろ周囲が私に合わせなさいよ、また虞美人差別?」
「あーはいはい。わかりましたから、さっさと中に入りましょう」
「ちょっと!?襟首持って引っ張るんじゃないわよ!」
「……うーん、流石お兄。相変わらずだわ」
「ほほう、その辺詳しく」
パイセン的には現状で既に譲歩済みということもあり、議論は平行線。
……仕方ないので、無理矢理引き摺る形で、彼女を院内に連れ込むことになるのだった。
「はい、前園です。……はい、父の面会で。こちらは親戚の方でして」
「この子の
「なるほど、ではお静かにお願いしますね」
受付で手続きをしたのち、亜希の背を追って階段を上がる私達。
エレベーターが故障中らしく、仕方なしに階段を利用する羽目になったが……それが逆に功を奏したのか、道中患者や見舞いに来た人達と出会うことはなかった。
「まぁ、比較的軽い症状の人しか入院できないからね、ここ」
「田舎だから設備がボロいのよねー。大掛かりな手術とかはできないから、もっと市街地の方の病院に回されたりするし」
「そうそう」
「……田舎あるあるかなにか?」
それもそのはず、この病院に入院しているのは、基本的にはちょっと体を捻っただけとかのような、比較的軽い症状の患者達ばかり。……言い方は悪いが、緊急性のない人に限られているため、わざわざ急勾配な階段を上り下りしてまで会いに行く必要がほとんどないのである。
無論、完全に放ったらかしということはないだろうが……週に一度程度の面会でなんの問題もないし、そもそも患者の数自体が少ないので、必然院内の人の影自体も少なくなっているのだ。
まぁ、少しでも重病化した途端に市内のもっと大きい病院に搬送されるということもあり、往来のしやすい下の階ほど人が多い、というのも間違いではないのだが。
……逆を言えば、ぎっくり腰のみのうちの父上殿は、屋上に近い部屋に押しやられている、ということでもある。変に動かれても困るので、上の階で大人しくしていてください、とでも言うか。
それでいいのか院長、みたいな気分もなくはないが……田舎ならまともに稼働している病院がある、というだけで有難い話なので、文句は言えまい。
「そういうものなの?」
「ここはそこまで過疎地域、ってわけじゃないけど……そういうところならそもそも病院が開くのが毎日じゃない、なんてこともあるしね」*4
周囲が畑や田んぼであることからわかる通り、この辺りはまだ活気のある方。
これがもっと奥まった、例えば山の中の盆地にぽつりとある集落、みたいな感じになると、そもそも常勤の医師がいないので病院が毎日開いてない、なんてこともある。
そう考えれば、例えボロくて壊れかけに見えなくもないこの病院も、毎日開いていて入院患者の受け入れがある、というだけで天国のようにも思えてくるではないか。
……いやまぁ、病院相手に『天国』って、褒め言葉なのかどうか迷うところだけれど。
「そういうこと言うのはいいけど、院長先生に聞かれないようにねー。凹むから、あの人」
「あー、変わんないねー。……っと、ここかな?」
呆れたような含み笑いが亜希から返ってきたことに、こちらも笑みを返しつつ。最上階の一番奥の部屋、目的地にたどり着いたことで、改めて気合いを入れる私である。
なにせ、ここからは父との対面である。……なし崩し的に母達にはバラしてしまったが、これ以上話が広まるのは宜しくない。
無論、我が家族達の口が軽いなどとは思っていないが……それでも人の口には戸の立てられぬもの。
特にここは田舎、噂が一瞬で広まってしまう場所である。気を付けすぎ、などということはありえまい。……いやまぁ、だったらバレんなよ、と言われるとぐうの音も出ないわけなのだけれど。
ともかく、一つ深呼吸をして気を入れ直した私は、亜希がドアをノックして中の人に確認を取り、こちらに合図を送ってきたのを受け取って、そのまま彼女の後に続いて部屋の中へと入り──。
「──よく来たな、亜希。それからそちらは──ふむ。暫く見ない間に随分と姿が変わったな。……いめちぇん、というやつか?」
「あはは。…………バレてーら」
「ええ……」
ベッドから身を起こしていた父が、こちらを視認した途端にその内情を(子細はどうあれ)察したことに、思わず天を仰ぐ羽目になるのだった。
……用意してた言い訳とか会話デッキとか、全部無駄になったんですがー!?