なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「あれこれと話していたけれど、すっかり夕方なわけで」
「……いや、誰に対して説明してんの、それ」
そうやってギャグ次元の人間にツッコミを入れられると、こっちとしても対処に困るんだけど?
……みたいな感じで、横に座る銀ちゃんからの怪訝そうな視線を右から左に受け流す私。*1
日もすっかり沈んだので旅館に戻ってきた私達は、大広間で食事を楽しんでいる最中であった。
お風呂上がりなのでみんな浴衣姿なのだが、着こなしにもちょっと個性があったりして、見ててちょっと面白かったり。……子細に語るとまたそれだけで話題が埋まるので今回は割愛。
「それにしても……こうして大人数で集まってると、なんか修学旅行感あるよね」
「最初の土産物屋の時点で大体修学旅行だったじゃねーか」
「でもこうしてお一人様用の鍋が出てくる辺り、修学旅行感を更に高めてるとこない?」*2
「最近は旅館以外でも使われているそうですよ、この鍋と固形燃料」
みたいな事を周囲と適当に駄弁りつつ、夕食に舌鼓を打つ。
……他のみんなも食事の席では騒ぐ気もないのか、至って静かなものだった。
「モノを食べてる時はね。誰にも邪魔されずに、自由でなんというか……救われてなきゃあダメなんだ。独りで、静かで、豊かで……」*3
「邪魔はされてないでしょうけど、自由かどうかは微妙だし、独りきりってわけでもないわよ?」
「そこで水を差すのはやめません?」
なので、なんとなくゴローちゃんの台詞を吟じてみたのだけれど、横合いからパイセンにツッコミを入れられてしまった。……なんで時々常識人染みた発言するんですかねこの人?
まぁ別に、ゴローちゃんの台詞*4に特別共感したりはしないのだけれど。みんなで食べる方が美味しいって思う方の人間だし、私。
……え?じゃあなんでゴローちゃんの台詞を引用したのかって?……言ってみたかったから?
「適当過ぎる……あ、仲居さん熱燗おかわり貰える?」
「あ、ゆかりんずるいぞ!私もおかわり!」
「……見た目は完全にガキなのに、日本酒がばがば飲みまくってんだけどこの二人」
「なにを今更。ほら、シャナちゃんだってそっちの二人ほどじゃないにしろ、結構飲んでるんだぜ?」
「……なによ、私が日本酒飲んでたらおかしいって言うの?」
「おかしいと言うか、なんだか脳が理解を拒むと言うか……」
「明確に大人に見える組以外は、全部こんなものだよねー」
そしたらゆかりんがばかばか徳利を空にしているのが見えたので、こっちも負けずに追加の要求を仲居さんに投げる。
……見た目からして完全アウトなしんちゃんとかの一部を除いて、基本的には飲酒可能な成人組ばかりだから仕方ないところあるんだけど。
あとアル君が若干寂しそうにみんなの食事を眺めているのが、なんとなく申し訳なく感じるので酒に逃げてる……という面もなくは無いかも?
「え、そうなのみんな?」
「俺に振んのかよっ!?……あー、まぁ気にすんなってのも難しい、ってとこはあるかもな?」
「そ、そうなんだ……じゃあボク、部屋に戻ってたほうが良かったかな?」
「んなわけねーだろ。けどまぁ、互いに気を病むってんなら、せいぜい楽しく会話でもしてりゃいいんじゃねーの?」
「お、ハセヲ君はいいこと言うねぇ。そうそう、食事ってのは何も飯を食うことだけが重要に非ず、一緒に卓を囲んで話をするってだけでも、いろいろ捗るもんだぜ?」
「……そっか。じゃあボクもしばらくここに座ってるよ」
なんてことを口走ったせいで、ちょっと不穏な空気になってしまった。
……みんながフォローしてくれたからいいものを、こういうのはよくないなぁ、とちょっと反省。
「気になるのもわかるけどね。……あとで謝っときなさいな」
「そうする……こうなったらやけ酒じゃー!」
「まだ飲むんだっ!?」
ええい、こうなったら酒で全部流し込めー!
そうして飲みに飲みまくって、そして…………。
「こうして夜中の変な時間に目が覚めたというわけなのです」
「ええ……?」
酔っ払ってそのまま寝たため、朝には程遠い真夜中に目覚めてしまった私。
仕方ないのでちょっと外の景色でも眺めてるかなー、と思ってたら件のアル君とエウロペさん、ピカチュウにXさんという謎の集まりに出くわしたのだった。
……談話室的なこの場所で、この四人が机を囲んでいるのが見えたら、そりゃ近付いてみるよねというか。
「で、さっきはごめんねアル君。ちょっと無神経なこと言っちゃったみたいで」
「別に気にしてないから大丈夫だよ。……って感じの事を、エウロペさんにも言ってたところ」
「エウロペさんに?」
で、話を聞くところによると、そもそも眠る必要性のないアル君が談話室でボーッとしているのを、エウロペさんが見付けて近付いてきたのがこの集まりの発端らしい。
あれこれと話をしていたらいつの間にかピカチュウが加わって、そこにお手洗いに起きてきたXさんが合流した……という形のようだ。
「眠る必要がなくても、心を休める必要はあるでしょう?子守唄……までは歌わなかったのだけれど、代わりにしばらく頭を撫でてあげていたの」
「ちょっと母さんのことを思い出しちゃったよ。エウロペさん本人はおばあちゃん、って呼んで欲しいみたいだけど」
「ぴっか、ちゅー」*5
「私は単純にゴツい鎧に興味がありましたので!アーヴァロン的な意味でも!」
「……Xさんはいつも通りだね」
エウロペさんがアル君が気にしていたからこうなった、ということだろうか。
まぁ、彼女のおばあちゃまな性格的にはわからない話でもない。……Xさんがいつも通りなのはまぁ、うん。
それとピカチュウはなんか発言が時々渋いよね君?
「まぁ、元気ならいいや。……そういえば、あの後どうなったの?」
「キーアさんが寝ちゃったあと?みんなでカラオケ大会とかしてたよ、真赤な誓い*6とか叫んでた」
「なんと、それはなんと言うか、出遅れたというか乗りそこねたというか……」
で、私が酔い潰れた後の話になったのだけれど。
……カラオケ大会、ビンゴにトランプなどなど、みんなで色々して遊んでいたらしい。
むぅ、そんなに楽しげにしてたのか、私も革命返しに革命返されて撃沈とかしたかったぞー。*7
「なんで返されること前提なのさ……?」
「私の幸運値は殊更低いわけじゃないけど、何人か幸運A以上の人が居るから」
「あらあらうふふ」
「む、運が絡む勝負事はよくないと私は思うわけなのですが!素寒貧になる予感しかしないわけで!というか大本の
「ぴー、ぴっかぴっ」*8
「ぐう」
「おお、リアルぐうの音」
アル君が疑問を溢したので、軽く説明。
……
そんな感じで、さほどカードが得意なわけでも幸運なわけでもない私は、恐らく迂闊に仕掛けて返り討ちにあう下っ端ポジションだと思う次第なのである。
まぁ盛大に負けるのもそれはそれで楽しいので、それならそれで派手に負けたかったなぁとも思うのだった。
「そういうわけなので、トランプ、やろう!!」
「なんでどこかのゴムの人みたいな台詞……?いやまぁ、暇だから構わないけどさ」
「ではわたくしも張り切って参加いたしましょう。先ほどは後ろから眺めているだけでしたが、構いませんよね?」
「え、あっはい。……不味いな、早速敗北フラグが……」
「なに、キーアさん。こう考えればいいんですよ。──負けちゃってもいいさ、と」*9
「はっ!?だ、ダニー!!」
「正解だぁ!……いや違いますからね?!思わず正解って言っちゃいましたけれど!」
そんなわけで(?)ここに居るメンバーでトランプしよう、みたいな流れに。
……当初の予定だとエウロペさんは後ろでニコニコしながら見てるかなー、と思ったのだけれど。どうにも遊びたい欲のほうが勝ったらしく、今回は積極的に参加されるようだ。
むぅ、こうなると私達の負けがほぼ確なのでは……?
みたいな気分でボツりと呟くと、Xさんが考え方を逆転させるように促してきたので、思わず発言者を逆転してしまった。*10いや失敬失敬。
その後普通にトランプしたけど、基本的にエウロペさんが一位なのはほとんど変わりませんでしたとさ。
恐ろしきは高ランク幸運の補正、ということなのだろうか……?
「まぁ、大体そんな感じよ。はい、これお土産の地酒」
「ふぅん、それはまた楽しそうなことになっていたのねぇ」
後日、お土産のお酒とお菓子類を電子変換して持ち込み、侑子のホームに向かった私。
渡されたお菓子を両手で掲げて大喜びするアグモンを見送りつつ、彼女の対面の席に座った私は一泊二日の旅の話を語っていたのだった。
……彼女はここから出られないので、こうして土産話を持ち帰るのも私の重要な仕事だったわけである。
「ねーねー侑子は食べないのー?」
「私はあとでいいわー。貴方は向こうで食べてなさいな」
「はーい」
途中で思い出したようにこっちに帰ってきたアグモンに、侑子が居間の方で食べてていいわよと返すのを見ながら、出されたお茶を一口。
電子の世界の中にあるというのに、完全に和の雰囲気に溢れているこのマイホーム。外周は竹林で囲まれていたりするので、地味に迷いそうになったりもする。
……で、そんな素敵な和風のお屋敷であるこのマイホーム、実は永遠亭*11と言うそうで。
「……居るの?うさぎ」
「居ないわよ?あくまでも名前だけ。……これから進んだ先に、それがないとは言い切れないけれど」
「んー、あの社長は『
「ゲーム自体が自身を拡張している、だったかしら?まぁ、ありえなくはないでしょうね」
こういうモノを作っているのはゲーム自体、ということが知れたのはいいのだが、そのせいで微妙に見通しが立たなくなっているのはどうにかならんのだろうか?
なんて愚痴を言いつつ、土産と話を交えながらしばらくぐだぐだと管を巻いて。
「ん、もうこんな時間か」
「あら、もう帰り?」
メニューウインドウを開いて、いつの間にか結構な時間が過ぎていた事に気付いて声をあげる。
そんな私の様子に侑子が声を掛けてくるが、まぁ彼女に心配されるような事ではないので苦笑を返しておく。
「ちょっとね、私だけで郷を出なきゃいけなくなったから、その準備しなきゃ」
「ふぅん……ん?どういうこと?」
「あ、言い方が悪かったね、ごめんごめん。私だけ出張、みたいなもんかな?」
「……出張?貴方が?」
疑問符を浮かべる彼女に、私はますます苦笑を深くするのだった。
夏休み終わり!閉廷!