なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「台所が一番大変かなー、って思ってこっちに来たんだけど……見た限りここが一番問題無さそうですね……」
大掃除開始の合図と共に、とりあえず私は建物内に舞い戻ったわけなのだけれど……それは別に外の日差しから逃れるため、というわけではないのであしからず。
普通であれば日々の様々な調理の結果として、油汚れとかが一番凄いことになるのが厨房の常なのだから、こうして店の中に戻るのは本来とても理に叶った行動、ってことで別におかしくないのだ。……うん、本来なら。*1
「
「それを意識してできる人が、はたして何人いることやら……まぁでも、流石ですねウッドロウさん」
「なに、昔取った杵柄……みたいなものさ」*2
が、それはあくまでも普通の厨房についての話。
このラットハウスの厨房を任されているのは──一昔前ならば人員足らずで、ライネスが受け持っていたのだが。今年に入ってからは優秀なコックとして、ご覧の通りウッドロウさんが加入している。
そのおかげということなのか、厨房内には油汚れどころか、調理によって発生した食材の小さなカスすらほとんど落ちていない……というよりも、ぶっちゃけ新品レベルの綺麗な状態に保たれている、というのが真実なのだった。
これが王族の仕事か……?(褒め言葉)
一応高貴な身分のはずの彼に、ここまで完璧な管理をさせるのはどうなのだろう?みたいな気分が沸き上がってくるわけだけど……聞けば
……それ、別に魔法の言葉とか、そういう類いのものではないはずなんですけどね……?
まぁ、特段労力を必要としないのであれば、それはそれでいい。
仕事が一つ減ったところで、やるべきことがなくなるなんてこともないのだし。
「……で?こうして店の表に逆戻りしてきた、と?」
「まぁ、外観の掃除の方も、結構大変そうな感じだったし」
そんなわけで、厨房の掃除に関してはそのままウッドロウさんに任せ、おめおめと外へと戻ることになる私なのであった。
……いやまぁ?外からの窓拭きとか、壁の汚れ落としとか。そういうの、空を飛べる私が手伝った方が早いし?*3
みたいなことを述べたところ、外で掃除の監督をしていたライネスは確かに、と一つ頷きを返してくるのでしたとさ。
……ニヤニヤ笑い付きの頷きなんで、若干こっちを揶揄する意図もあるのだろうけど。勇み足で中に入った癖に戻ってきてやんの、ぷぷぷー!……みたいな?
「流石にそんな品のない笑いは浮かべないがね。……ともあれ、掃除は上から*4とも言うことだし、折角だから屋根の方から掃き掃除でもして貰うとするかな?」
「へいへーい。……ところで、魔法とか使ってホコリも汚れも吹っ飛ばす、っていうのは……」
「周囲の店からキレられることを許容できるのであれば、別にやってみてもいいが?」
「……やめときまーす」
「懸命な判断だね」
で、そうして空を飛べる私が頼まれたのは、掃除の基本である『上から下』──すなわち普段は放置されている屋根の上の汚れやホコリを、下へと落とすことなのであった。
なので、折角だから箒に跨がって上まで飛んで行こうか、なんてことを考えていた私は、そういえば魔法で雨とか風とか起こして、汚れやホコリを全部流せば楽なのでは?……みたいなズルを思い付いたわけなのでございます。
……まぁ、ライネスの発言によってラットハウスの周辺──他の店やら家やらの住人達が、こちらをニコニコと
流石に宿儺君とか波旬君とかに笑顔で見つめられては、私も肝を冷やすってもんでね?
楽って中々できないものだなぁ……なんて風に一つ息を吐いて、そのまま箒に跨がって屋根の上までひとっ飛びする私。
……魔女系のキャラを名乗るのであれば、やっぱり箒で飛ぶってのは定番中の定番、だよねぇ。
「ですよねぇ。やっぱりこう、箒で飛ぶっていうのはなんだかいいですよねぇ」
「ねー。──そっちみたいに魔女帽とローブってデフォ衣装を合わせるとなお完璧、みたいな?」
「いいですねぇ。……あー、でもこの格好だと、掃除とかの動き回る作業には向いていないんですよねぇ」
「んー……一応ローブって、元々は汚れから中の服を守るためのもの、だったような……?」
みたいなことを考えながら飛んだ結果、屋根の上で同じようなことを考えていたらしい、どこぞの魔女さんと言葉を交わすことになったのである。
……うん、多分某『私です』の人、イレイナさんだと思われるわけなのだけれど。
どうにもアニメ版、かつ美化された部分で
「なんと言えばいいのでしょうか。こう……我が事ながら蕁麻疹が走る、みたいな?私、そんなに清廉潔白でもなくないですか?……みたいな」
「私は話半分にしか聞いたことないけど……原作だとわりと毒舌腹黒自己中心的キャラ、なんだっけ?」
「そうそう、そうなんです。まぁ、どっちでも美少女である、ということは変わらないんですが」
「アニメ版はいい意味でキノみたいなもの、ってやつですかねー」
「あー、キノ。確かに、旅人特有の価値観とかは、彼女の影響とか合ってもおかしくないのかも?」*6
こくこくと頷く彼女は、どうにも自分の存在に違和感マックスらしく。……首を捻りながら、魔法ですいすいと屋根の上のホコリを集めていたのだった。
まぁ、どこぞのお兄様もアニメ化では微妙にキャラが矯正されていたみたいだし、ラノベとかなろう系がアニメ化する際にはよくあること、なのだろう。*7
実際、文字なら読み飛ばせる描写も、映像付きでやられるとくどさが悪目立ちしたりするみたいだし。
そんな感じに、あんまり気にしても仕方ないですよーと声をかけ、彼女の真似をしてホコリを風で一纏めにする私である。
いや、吹っ飛ばすのはあれだけど、
「……目の前で自分より高度なことをやられると、ちょっと凹むんですけど?」
「それはもう、私チートキャラですので。目に余るようであれば、視界から外して無視しておくのがおすすめですよ?全うに取り合うとストレス値稼ぎまくりですし」
「それご自分で仰います?」
なお、自身の技術をあっさりと真似したことに、イレイナさんはどことなくおかんむりな感じなのだった。
なので、あくまで効率化に比重を寄せているので、他の人でも教えれば真似はできると思う……みたいなことを呟けば、耳聡くそれを聞いていた彼女は『私にも教えて下さいません?』と声を掛けてくるのだった。
だから、このあと滅茶苦茶練習した。*8
「汚れやホコリを圧縮した結果、ゴミ箱に入るくらいの大きさになった件」
「纏めすぎ……ってわけではないか。所詮は塵が積もって塊になった程度、ここでは黄砂が飛んでくるなんてこともないのだし、汚れとしてはそれなりと言うべきか」
数分後、屋根の隅々まで風と水を使って汚れやホコリを集めた私は、そのごみをやりすぎにならない程度に圧縮して下に持ち帰っていた。
イレイナさんに関しては、上で別れを済ませたので今は付近にはいない。
「旅系のキャラか。どこぞのモトラド*9乗りならば、やはり三日ルールでここを出ていくのかね?」
「だろうねぇ。……もしくは、ここが千階層分あるから、それを一つずつ巡っていく……なんてことになるかもしれないけど」
「そっちの方が、管理者側としては楽だろうけどねぇ」
図らずもイレイナさんが話題に挙がったため、恐らくはそういう旅系作品の走りだと思われる、どこぞのモトラド乗りを思い出すこととなる私達。
今のところ彼女がここにいる、みたいな話を聞いた覚えはないが……もし仮にいたのであれば、彼女のような旅人の管理には上が悩むことになる、というのはなんとなく想像できてしまう。
特に彼女は根無し草、
……まぁ、スピンオフ版の方が大変そう、というのも確かな話なのだが。あっちはfateで言うところのユニヴァース枠だし。*10
「ところで気になるのだけれど、彼女が仮に現れるのであれば、やはり突然後書きが始まる、なんて怪現象が起こったりするのだろうか?」*11
「後書きの国?……んー、どうだろう。あの作品の後書きへの意欲には目を見張るものがあるけど、実体化したり他所で語られた時まで、本家の法則が侵食してくるとは……いやどうだろ、わからんな……」
で、思わず話は弾み、話題に挙がるのは彼女の作品には付き物……って言い方はおかしいが、特に作者が情熱を注いでいた『後書き』についての話。
作品の丁度中頃になる辺りに置いてみたり、先に書いてみたり、カバー裏にいたり……とまぁ、そのバリエーションには事欠かなかったわけだが。
もし仮に彼女──キノがこの世界にいたのなら、その辺りの法則も連れてくるのか否か。
それは、なりきり達全てに繋がる命題のようなものでもあり、少し判断に困ってしまう私達なのであった。
「……せんぱい?」
「んー?なんだいマシュ、私達は後書きとはどんな場所に合っても後書きなのか、はたまた後書きとは
「いいから、掃除してください」
「……はい」
……なお、実際にはどうでもいいことをぐだぐだ話し続けることで、仕事をサボっているのだとマシュには見抜かれてしまったため、二人してこってり絞られることになるのだった。
ち、違う!
「そのうちパースエイダー*12で脳天ぶち抜かれそうだねぇ」
「痛いのは嫌だなぁ」
「せーんーぱーいー?」
「はーい、マシュも不安よね。キーア 動きます」*13
「最初からそうしてください……」
まぁ、あまりにも適当言いすぎ、ということは私も自覚していたので、そのあと無茶苦茶真面目に掃除したのだが。
でもここでふざけてないと、最近のシリアス分を中和できない予感ががが。
……なんて私の主張は、マシュには暖簾に腕押しなのでありました。