なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「とりあえず一通り掃除も終わったわけだし、ここからは祭りで出すメニューでも考えることにしようか?」
「だねー。……だけどその前に休ませてー!私もうくたくただよー!」
「なるほど。では、これを食べるといい」
「わぁ、ウッドロウさんのおやつだー!」
ラットハウスを綺麗にする作業も終わりを見せ、とりあえず休憩しようということで中に戻った私達。
店の中では冷たいスイーツを用意したウッドロウさんが、こちらの帰りを密かに待っていてくれたのであった。……外が暑かったこともあり、とてもありがたい話である。
で、そのよく冷えたプリンアラモードに舌鼓を打ちながら、次にすべきこと──祭りで出すものの検討のために、ライネスが声をあげたのだった。
「といっても、ラットハウスは飲食店なのですから、出すものも自然と料理に絞られるのでは?」
「そりゃそうだけど……なんというかこう、それだけだとインパクトってもんが足りないだろう?最近は客足も増えたとはいえ、うちがそこまで規模の大きな店ではないというのは事実なんだ」
「……なるほど?だからなにか一つ、目立つモノでも考えようってことか」
「そうそう」
普段から店で働いている面々から、様々な声が挙がっている。
出すものは普段と変わらないのではないか、と尋ねるマシュに、いつも通りでは周囲に埋もれてしまうと反論するライネス。
その言葉に上条君が賛成の意見を述べ、ココアちゃんはプリンを美味しそうに食べ、その横でははるかさんがパシャパシャと妹の姿を写真に収め……。
「……ってそこの姉妹二人!勘案もせずに間食に勤しむとは何事かっ!」
「ひゃ、ひゃい?いやーその、難しい話はよくわかんなくって……」
「私はこうして写真を撮り貯め、ココア写真館でも個人で開こうかと」
「お姉ちゃんっ!?」
あまりに蚊帳の外、みたいな感じで行動していた二人に、ライネスが思わずツッコミを入れる。
……ココアちゃんはプリンに夢中になっていただけ、みたいな感じだったが。
対する
みたいな疑問を呑み込みつつ、彼らの仲裁に入る私である。
いやまぁ、別に険悪な感じってわけではなかったけど、ほっといても自然には収まらなかっただろうし、ね?
「いーいお姉ちゃん、お願いだから写真展は止めよう、ね!?」
「ええー、でもココアの可愛さを、世の中の全ての人に広めたいんだけど……」
「だーかーらー、恥ずかしいから止めてってばー!」
「というか、ご自身の元
「……むぅ、残念」
そんな感じであれこれと説得したところ、渋々ながらに野望を諦めカメラをしまったはるかさんに、思わず安堵のため息を吐く私達なのであった。
……口調は軽かったものの、どう聞いても冗談ではなかったので、こうして止められて良かったと思うほかない感じである。
とはいえ、考え方の方向性としてはそう悪いものではないかもしれない。
「と、言うと?」
「モノを単純に作って売る、って時点で価値の創出にはある程度の限度があるってこと。食べ物で言うのであれば、美味しさを磨くのが普通なんだろうけど……用意できる食材や時間の関係上、そのレベルには知らず知らずのうちに上限が設けられてしまっている、みたいな?」
上条君が首を捻っていたので、軽く説明をする私である。
単純にモノを作って売る場合、クオリティには必ず限度というものが発生する。
採算度外視、ほぼ趣味の領域になるのであれば、クオリティの限界値はそれこそ理論上の限界値と同等となるだろうが……これが『誰かに売る』ということを考慮した場合、そのクオリティの限界値はガクッと下がるのである。
それは何故かと言えば──掛かる費用が跳ね上がっていくため。
たった一度、諸事情を無視して個人のために作り出すのであればまだしも、多数の人に向けて『売る』となった場合、そこで問題になるのは
例えば、世界に一つしかない原材料を使って作ったもの、というものがあった場合、これは商品にはできない──正確に言えば多数に向けて売り出すものではない、ということになる。
原材料を確保する手段がない以上、これはたった一人しか持つことのできないもの──後に作られる全ては、
無論、現実には原材料が一つきり、なんてことはほぼ有り得ないことだが……例えば、職人の手によるハンドメイド品などは、それら一つ一つが
それらはまぁ、『一つしかない』ということを活かした販売形態をしているため、特に問題の出るものではないが……大量に消費されるようなもの、ここでは
正確には『技術料』みたいな形で値段に反映されてはいるものの、それによって法外に値段が跳ね上がる、ということはほとんどない。
「一部の高級シェフのモノでもなければ、というやつだね?」
「まぁ、そうだね。……ただそれにしたって、単純な料理人の腕前のみで価格が
例えば、ある料理人が
それを基準に普段の料理の値段を吊り上げる、ということは有り得ないだろう。それは奇跡的にたどり着いた場所であり、普段からずっと出せる
なので、いわゆる技術料として徴収される金額というのは、基本最大値ではなく平均値となる。
それゆえ、価格に反映されたとしてもそれだけで七桁を越えるようなことはほぼない、ということになるわけである。
で、話を戻して。
大衆に向けてモノを売り出す場合、一度限りの奇跡的な完成品を基準にすることはできない。
それを安定して作り出すことができないのであれば、受け取った相手からの文句を受けることだってあり得るのだから。
ゆえに、安定して作ることのできるもので、多少の出来不出来が気にならない程度……というのが一般向けの『クオリティの限度』ということになる。
必要とする人間全てにキチンと行き渡る程度の材料の用意や、その材料を作り出すための費用、遠方に運送する必要があるのであれば、それらの輸送費などなど……。
諸々の諸費用と相談し、客がそれを購入することに忌避を抱かない程度の価格を考案し。
そういった様々な要素の考慮の結果として、モノの価値というのは決まっているわけで。
「だから、例えばなにかを
薄利多売という言葉があるが、根本的には『利』を捨てればモノを多く売る、ということはそう難しいことではない。
無論、あくまで販売数が増えるだけであって、そのあとに待つのはその販売者の破産などの反動だろうが……とにかく数だけを稼ぎたいのであれば、それは決して間違った選択だとは言い辛い。
「ただまぁ、何度も言う通りこれは祭りだからね。……数が多くとも稼ぎが少ないのであれば
「あー……文化祭みたいなもん、って言ってたもんな」
だが、今回の議題は『売上をどうやって増やすか』、みたいなところも大きく。
ゆえに、宣伝目的での開店セールならまだしも、天辺取ろうぜみたいな議題の上では失策も失策、ということになるのである。
じゃあどうするか?……というところで引っ掛かってくるのが、先程から述べている……、
「クオリティの限度、ということですか」
「実際、うちで出せるモノとしてはもうこれ以上はない、と思っているからね。そうだろう、ウッドロウ?」
「……そうだな。私の料理スキルもカンスト、というわけではないだろうが……今からそれを鍛えたとして、それが売上に如実に反映できるほどのものになるのか?……と聞かれれば、私は首を横に振るしかないだろう」
この店の中で、一番料理が上手いのは紛れもなくウッドロウさんである。
上条君も、大量生産という点ではわりといい線行っているとは思うが……それが売上に繋がるほどのものか、と言われれば首を捻るほかない。
無論、彼が馬車馬のように料理を作り続ければ、多少は売上に貢献できるかもしれないが……あくまでも多少。
「ただ、これに関しては他の店に関しても同じだから、アピールポイントとしてはまだ弱いんだよね」
「……まぁ、怖いもの見たさで宿儺さんや波旬さんのお店に向かう、という方もそれなりの数がいらっしゃるでしょうしね……」
けど、そのアピールポイントも他所に大きな差を付けられるほどのものか、と聞かれると首を捻らざるを得まい。
例えば二万人の某妹達が、揃って店にご飯を食べに来てくれると言うのであれば、それはかなりのモノとなるだろうが……。*1
現実的に二万人の客なぞ捌けるはずがない。仮に捌けたとして、売れる商品はそれこそ学祭レベルの──サンドイッチなどのようなとかく調理の簡単なものばかり、なんてことになるだろう。
祭り効果で値段を上げるにしたって無理がある。
結果、仮に彼女達が二万人押し寄せたとして、返ってくる結果は上条君の過労死、だけなのである。
「だから、さっきのはるかさんの行動なのよ」
「なるほど。食事に対して他の付加価値を用意する──要するにコラボカフェ方式にしよう、ということか」*2
ここでようやく、話の発端に戻る。
はるかさんはココアちゃんの写真を撮り、それを使って個展を開こうと画策していたが……それはすなわち、本人から
料理そのものに付加できる価格というものには、どうしても限りがある。
だからこそ、
……そういうわけで、ここからは料理に何を付属するか?というのを話し合うことになるわけだが。
「……その前にゆかりんに確認とっとこう」
「勝手にコラボカフェした、とか言われたら困るからね」
一応、議題を始める前に責任者に確認を取っておく私達なのであった。……著作権は守らなければいけないからね、仕方ないね。