なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~   作:アークフィア

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幕間・起死回生を狙え

「……まぁうん、こうしていつまでも沈んでても仕方ないし、とりあえずお昼食べましょ、お昼!」

「あー、そういえばゆかりんの休みに付き合う予定だったんだっけ、私……」

「それがなんでこんなことにっ!!!」

「自分で言っておきながら、真っ先に沈み始めた件」

 

 

 思わず暗い空気になってしまった私たちだが、そうして沈んでいても時間が解決してくれる、というわけではないのも確かな話。

 なので、そろそろお昼時ということもあり、追加注文として昼御飯を頼み始めたのだが……。

 

 

「……そういえば、なんか人が少ないですね、この喫茶店」

「んー?……ホントだ、お昼時って普通もっと人が居るもの、だよね……?」

 

 

 こてん、と首を傾げながらBBちゃんが言ったように、現在の時刻は大体正午ちょっと過ぎ。

 普通の飲食店であればまさに書き入れ時、客の数は多くなって然るべきなのだが……店内を見渡す限り、そこにいる客は私たちだけ。

 窓の外に見える人波は多いのに、店に入ってくる人間が極端に少ないのである。

 

 そしてすぐさま、私たちはそれが何故なのか、という理由に気が付いてしまうのだった。

 

 

「……コーヒー単体の時には気にならなかった……いや、()()()()()()()()()()()が、これは……」

「ゆるされよ ゆるされよ しょうじきちょっととおもったの ゆるされよ」

こ、こらっ!失礼でしょビワ!?

「いやでも、正直ビワさんの言葉には、賛同するよりほかないといいますか……」

BBちゃんんんんんっ!?

 

 

 運ばれてきた料理達、それを口にしたみんなが、なんとも微妙な顔を浮かべている。

 ビワやBBちゃんが言うように……正直、ちょっと口を噤んでしまう感じ。いや、正確には食べれないというわけでも、味がクドいというような問題があるわけでもないのだ。

 

 

「……だが、あまりに普通すぎる。言うなれば()()()の味、というべきか」

「私たち、いつの間にか舌が肥えちゃってたんだな、って気分になっちゃったの……」

「言われてみれば、ここにある料理屋って、そのほとんどがなにかしらのキャラクター達が出してる店、だもんね……」

 

 

 そう、この料理の問題点とは、すなわち『なりきり郷の他の店に比べて味が落ちる』ということ。

 名店が並ぶ場所で、あえて普通の定食屋に並んだ時のような気分になってしまう……ということが問題なのであった。

 

 この場所にあるのでなければ、恐らくは普通に繁盛しているはずだ、と自信をもって言えるだけの味は確かにある。

 だが、このなりきり郷では基本的に()()()()()()()()()()()──すなわち材料費や調理費を気にして安い食材を使う、などの行動をする必要がない。

 つまり、普通の店が普通に料理を出すだけだと、単純に見劣りしてしまうのである。──他所の店が、創作の中から出てきた存在達が作る、正しく『想像上の味』を売りにしているものだからこそ、余計に。

 

 

「流石にそうそうあることではないが……食べた瞬間咆哮を挙げたくなるような料理や、謎の空間内で服を剥かれる料理のような、そんなインパクトがまるでない。あくまでも普通の範疇、普通の旨さだと言えるだろう」

「他所ならそれが普通だし、それで全然いいんだけど……この場所でこの料理を出されても、それをまた食べようって気にはならないわよね……」

 

 

 無論、エミヤさんが言うようなインパクトのある料理というのは、それはそれで『一度食べたらもういいかな……』という気持ちを生む類いの料理であるが……それは極端な例なので、ここで考慮するべき対象とは言い難い。

 だが、それを考慮せずとも……他の店はここよりも食材にしろ調理の腕前にしろ、共に上のレベルの店ばかりである……というのは確かな話。

 ゆえに、普通の店であるこの喫茶店に人が入ってこないのは、偏に『普通である』からという、あまりに無体な理由になってしまうのであった。

 

 そこまで考えてから改めて、調理場の方に視線をそっと向ける。

 そこにいるのは初老の男性。特になにかのキャラクターである、というような様子は見られない、普通の人物だ。

 つまり、彼・およびこの店は、恐らく一般人がやっているモノ、ということで間違いないだろう。

 

 

「まぁうん、はるかちゃんみたいな人も、それなりにいるからここ……」

 

 

 ぽりぽりと頬を掻くゆかりんが言うところによれば、恐らくこの店ははるかさんのような『逆憑依』ではない人たちのための店だろう、とのこと。

 

 最初の方のなりきり郷では、いわゆるアーコロジーとしての運用が完全には行えてなかったこともあり、金銭の必要性も普通にあったのだそうだ。

 

 それゆえ、こういう普通のお店というものにも、それなりの需要があったのだが……時が進むに連れ、生活必需品や食材などを郷内部で賄えるようになってくると、料理系作品出身のキャラなどが、こぞって店を出すようになっていった。

 無論、郷内で賄えるようになったといっても、当初はまだまだ金銭の必要性が残っていたこともあり。

 そういった店が出す料理の値段というのは、こういった普通の店からすると二倍三倍にあたる、まずもって手の出せない金額になっていたのだそうで。

 

 ただそこに居るというだけで、価値の創造を行えるかもしれない『逆憑依』達ならばいざ知らず、あくまでも協力者として関わっていた普通の人達には、そんな高額払い続けられるはずもなく。

 それゆえにこういう普通の店の需要も、最初のうちはそれなりに存在していたわけである。

 

 ……が、時代が下るにつれ、最初はあくまでも賄えるだけ、程度だった郷内の自給率は、それを外に売り出せるレベルにまで成長し、結果として当初は二倍三倍していた価格の方も、普通の店で食べるそれよりも安くなっていき。

 結果、郷内での生活にはある程度の金銭を必要とする、という制約のある普通の人々達も、食事に掛かる金額は外の世界のそれよりも遥かに低額になってしまった……というわけなのであった。

 

 で、そうなってくると総合的な『生活の質』とでも言うものも、同時に上がっていくわけで。

 そうなれば、例え料理の価格を下げようとも、全体的な質の面で遅れを取っている普通の店達は、いつの間にか姿を消していくことになってしまった……という次第なのである。

 ……え?単純に聞いていると、昭和から平成・平成から令和に移行しているくらいの時間経過がありそうな話に聞こえた?

 残念なことに、実際にはここ三年とかそこらの間に起きた話、なんだよねぇ……。*1

 

 まぁともかく。

 この店がそういった荒波に揉まれた結果、それでもなお生き残っている貴重なお店……と言うことはわかったわけだが。

 それがわかった上で、そーっとエミヤさんの方を見てみよう。

 

 

「……ふむ」

(……あ、なんか火が着いた感)

 

 

 時代の荒波()に揉まれ、それでもなお続く店。

 そうなれば、店の主人になにか続けようとするだけの理由がある、と見るのはそうおかしな話でもない。

 そして、ちょっと前まで私たちが話していたこととは、聖杯戦争めいたことになってきた、店対抗の売上争いについてのもの。

 

 聖杯戦争といえば、大判狂わせなどいつものこと。

 すなわち、他者の目を欺く──こちらの目的を優勝することだと誤認させるには、()()()()()()()()()()()というのはまさに渡りに船なのである。

 準え的には、弱ければ弱いほど良いのだから。*2

 

 

「ふーん、なるほどねぇ。ってことは、今から交渉しに?」

「ああ、無論向こうの意思を尊重するべきだから、断られる可能性も十分にあるわけだがね」

「まぁ、客が来ないのに続けてるって時点で、なにか拘りがありそうだしねぇ」

 

 

 無論、そうして利用しようにも、相手方の意思によっては突っぱねられることもあるだろう。

 それを踏まえてもなお、エミヤさんはこのお店に肩入れしたくなっている、ということになるようだ。

 想像されるお店の経緯が、彼にとっては燃えるシチュエーションだったのも理由にあるのかもしれない。

 

 ……まぁ、私は関われないので、その辺りの交渉頑張ってください、としか言えないのだが。

 

 

「と、なると……あれ?もしかして私のお休み、終わっちゃった……?」

「まぁうん、また今度なんか持ってくから……」

「せ、折角早起きしたのに……」

 

 

 なお、自動的にゆかりんの休みが潰れる(どころか、暫く予定が埋まる)ということについては、御愁傷様としか言えない私である。……侑子にエリちゃんのお世話延長を頼まないと(白目)。

 

 

 

 

 

 

 こうして、郷に迫る新たな脅威を認知した私たち。

 とはいえやることはいつも通り、脅威に対して立ち向かうだけのこと。

 なので、『君は関わっちゃダメ』と言われた私は、一人寂しく祭りを回ることとなり。

 

 

「……あー、キーアちゃんおひさー。元気してたー?」

「そっちこそ……って言いたいところだけど、酔っぱらってるわね貴女、確実に」

「あっはっはっはっー。そりゃもう酔っぱらうわよー。だぁって、ちょっと前まで私ってば葛城ミサトに転生した、なーんて思ってたんだからー」

「……あーうん、そりゃ酔っぱらいたくもなるわよねー……」

 

 

 その中で、とても懐かしい顔と再会することになるのだった。

 

 

*1
技術革新が早すぎるということ。三年そこらの間に、高度成長期が含まれているような感じ。そりゃ流行も衰退も早いというか

*2
物語の展開的に、弱者が強者を打ち破っていく方が多い、ということ。強者が弱者に勝つのは当たり前であり、そこにドラマは生まれない……ということでもあるか。現実でも、あまりに強い存在が競技などに参加している場合、(特にそれがお金の掛かるようなモノであればなおのこと)強者にヘイトが向く、なんてことは頻繁に起きることである

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