なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「やーもう、最初のうちはほんっっっとにびびったのよー?だってほら、葛城ミサトでしょー?ってことはエヴァでしょー?……私に代わりが務まるとはぜんっぜん思ってなかったから、最初の一月辺りはわりとマジで、鬱状態になって部屋に閉じ籠ってたんだから」
「あーうん、心中お察しします、みたいな?」
とある焼き鳥屋で発見した、缶ビールをぱかぱか飲んでいる妙齢の女性。
彼女の名前は葛城ミサト、『エヴァンゲリオン』シリーズにおける登場人物の一人である。
……で、『エヴァンゲリオン』といえば、俗に言う『セカイ系』の走りとして有名な存在。ゆえに、その作品世界の詰みっぷりとでも言うべきものは、既に多くの人に共有されているわけで。
……うん。もし仮に私が彼女の姿と知識と能力を持たされた状態で、そこら辺に突然放り出されたら……まず間違いなく絶望するだろう。
それもそのはず、この『葛城ミサト』というキャラクター、主人公ではないものの、作中においてはかなり重要な立ち位置にいる人物なのである。
作中における立案のほとんどが彼女、という時点でもかなりアレなのに、新劇の方に至ってはシンジくんの壁までやらなきゃいけない。ついでに言うなら母親ポジションも取らなきゃいけない。*1
そもそも人類滅亡しかけの世界ということもあって、キャラクター人気などは高いものの、転生とかはしたくない世界としても知名度が高いのが、『エヴァンゲリオン』という作品なのである。*2
……まぁ、今言ったようにキャラクター人気は凄いので、彼女みたいななりきりも結構多かったわけなのだが。この間の綾波さんなんかも、その類いだろうし。
「おっ、さっすがキーアちゃん。早速レイとも仲良くなってたんだ?」
「その口ぶりと勘違いからすると──互助会組だったのね、ミサトって」
「そーそー。大変だったわよー?……ま、でもそのお陰で、自分の勘違いに早々に気付けた、ってところもあるんだけどねー」
しみじみと語るミサトは、どうやらこちらでも早期に綾波さんと合流していたらしい。
……が、だからこそ、しばらくの間この世界が『エヴァンゲリオン』の関連作品である、という勘違いから脱出できなかった……ということにも繋がるらしく、ちょっと複雑な感情を抱いたりもしていたらしいのだった。
無理もない、劇場版の完結こそ
パチンコへの派生は、今や数々の作品で行われていることなので特記するものではないが……その他の作品──パズルに探偵、恋愛ゲームに格闘ゲームなどなど、とかく『人気のあるうちにゲームを出しまくろう』とでも思っていたかのような、あまりに多岐に渡る作品展開は、正直こうして今見返してみてもなお、『なに考えてたんだろう、当時のスタッフ』みたいな気持ちを抱かせること間違いなしである。
特に、『名探偵エヴァンゲリオン』。執拗なまでのローキックを繰り出したり、なんか異様に頭が良かったりなど、シンジくんのキャラクターを大いに勘違いさせたとして有名だ。
……一説では、その設定が世の二次創作家にスパシンを思い付かせた、なんて話もあるが……詳細は不明である。*3
だが、ここでの一番の問題は最新作にして完結作『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』において、数多の作品達がパラレルワールドとして認められた、という一点に尽きるだろう。
要するに、単に他所のアニメやゲームのキャラクターがいるだけでは、その世界が『エヴァ世界ではない』と断言する証拠にはならなくなった、ということだ。
特に、ゲーム系のエヴァ作品はオリジナルキャラクターも多く存在するため、仮にどこか別の作品で見たことのあるようなキャラクターが目の前にいても、それが本当に別作品の誰かなのか、はたまたそれを元にしたオリジナルキャラクターなのか、一目では判別できない……なんてことに陥るのである。
なにが酷いって、前述のバカゲー……もとい『名探偵エヴァンゲリオン』が、時々『逆転裁判』のパロディ的なことをしていたのがね……。
そうでなくとも、『エヴァンゲリオン』シリーズは二次創作の多い作品。
クロスオーバーだったりコラボだったりする可能性は否定しきれず、しばらくの間『いつセカンドインパクトが起きるのか』『サードインパクトは発生するのか』みたいな恐怖に襲われていたとしても、迂闊に笑い飛ばすこともできないというわけである。
……あとはまぁ、所属してたのが互助会だったのも、多少悪い面に働いたところもなくはないのではないだろうか。
みんながみんな自身を転生者と思っているような場所では、些細な疑いも大きな陰謀に化ける……なんてことは日常茶飯事だろうし。
ただまぁ、元の作品が厄介な世界観を持っていたとしても、それがいつまでも疑念として残り続けるものか、と問われれば否。
なにせ、『逆憑依』という事象こそおかしなものではあるものの、それ以外についてはなんの変哲もない、というのが今の世界。
長く暮らせば暮らすだけ、『あれ?』と思うようなことが増えるのは当たり前のこと。
特に、『葛城ミサト』はわりとハイスペックなキャラであるので、些細な違和感から自身の勘違いに気付く、なんてことは朝飯前だろう。
結果、今の彼女は以前ネットで見掛けた時と変わらず、酒飲みお姉さんとしてそこらをプラプラしている、というわけである。
……思ったより結論が『これは酷い』感じになったね?
「いいのいいの。だって、酒に溺れてるのは間違いないんだしぃー♪」
「それでいいのかいお前さん……いやまぁ、思ってたよりストレス感じてたー、とかなのかもしれないけれど」
「あっはははー♪否定も肯定もしなーい♪」
ただまぁ、こうなる前に感じていたストレス、という面では、情状酌量の余地もなくはないだろう。
彼女は直接前線で戦うタイプの存在ではなく、子供達を前線に送り出すことを強いられる指揮官タイプである。
葛城ミサトとして、本来求められる仕事を思えば……ストレスから酒が多くなる、というプロセスそのものはわからないでもない。
……まぁ、それとは関係なしにお酒好きなので、結局印象的にはプラマイゼロ、って感じになるわけなのだが。
はぁ、とため息をついて、彼女の対面に座る私。
途端にやって来た店員さんに注文を伝え、私は彼女の
「ふぅん、昔馴染みねぇ」
「そうそう、最近会うことが増えてきたー、って感じでね?」
日付は変わって別の日。
今日も今日とて郷の内部はお祭り気分だが、当初のそれとは若干趣が変わって来た感じがあったり。
それもそのはず、最初のうちはスタートダッシュ、ということもあってどかーんと大きめの催しが多かったが、中盤となる今の時期ではしみじみと楽しむ、みたいな感じの、少し大人しめの催しに切り替わっているのである。
なので、今日は幾人かのメンバーを連れ、その催しの内の一つ──釣り大会に参加していたのであった。
なお、参加しておきながらあれだが……私は釣りがあんまり好きではなかったりする。
「……それでは何故、わざわざ苦手なモノを……?」
「苦手なものを克服しよう……なーんて殊勝な心掛けってわけじゃないよ?単に連日騒いでるのに疲れたってだけ」
「まんまと運営の策略に嵌まっておるではないか、お主……」
なお、同行しているメンバーはライネス・アルトリア・ハクさんの三人。何故この面子なのかといえば、偏に暇そうだったのがこの三人しかいなかった、というどうでもいいような理由だったりする。
……いやまぁ、正確にはビワとエーくんも暇そうにはしてたんだけどね?ただまぁこの釣り大会、食べる魚を釣るものではないのでエーくんを参加させるのは躊躇われ、じっとしている必要があるのでバタバタしてるビワは考慮外だったと言いますか。
呆れたような顔をするハクさんに、たははと笑い返しながら、改めて自身の竿から伸びる糸を眺める。
……要するに、魚がいないかのように静かだ、ということなわけなのだが。
これ、真面目にやっても釣れるのだろうか?
「釣りをする時は、釣れるかどうかを気にしてはいけませんよ、キーア」
「……それは皮肉かなにか?」
「え?……あ、いや、そういうわけではなくてですね?こう、釣ろうという気持ちが先行しすぎていると、糸を通して水中の魚達にも伝わってしまう、ということでですね?」
「なるほどねぇ、それをキチンと実践できているから、君はそんなに釣れてるってわけだ」
「ら、ライネス!話をややこしくしないで下さい!」
「……おーい、そんなに騒いでおると魚が逃げるぞー」
なお、一切釣れていない私たちの横で、アルトリア一人だけが山盛りになるほど魚を釣り上げていたわけなのだが。
流石は妖精や精霊に愛される子であるというか、なんというか。
なお、本人としては心構えの問題、と思っているところが大きかったからか、その辺りを指摘されるとはわわっという感じに慌て始めたのだが。……別に気にしなくてもいいのにね?
「……って、おおっ?!引いてる引いてる!」
「いや引きすぎじゃろう!?なんじゃそれ?!」
「わー、なんだか知らないけど嫌な予感がしてきたぞー」
などという風に、意識を竿から離していたのが良かったのか、はたまた悪かったのか。
いつの間にか竿は大きくしなり、水面はボコボコと波打ち始めている。
大物が掛かった、と傍目からみてもわかる様相だったわけだが、それにしては大きすぎる。そう、普通の大物ではなく、なにか規格外のものが掛かったような……。
その異様に周囲が慌て始め、ライネスが不穏なことを口走り。
「久方ぶりだな人間ぶへぇっ!!?」
「前も言ったけど、山に海の魚がでてきてんじゃねー!!」
そうして飛び出してきたサンマ頭に、最後まで言わせてやるものかと手が出た私なのであった。