なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……まぁ、覚悟したからといって完遂できるわけでもないんだけどね……」
「終始緊張していたな、君。……いや、気持ちはわかるが」
結局、好きなものを好き勝手に頼もうとするハクさんと、元がアンリエッタ──お姫様であるため、食材の価値とかが実はあんまりわかっていなかったらしい、アルトリアの無自覚で無慈悲な品評などに心を磨り減らされた私は、ご飯を食べていただけなのにも関わらず、既に死に体と化していたのだった。
……これで、とにかく量を食べるエー君とかがメンバーに居なかっただけ遥かにマシ……というのが、うちにいる選手達の層の厚さを思い知らせてくれる結果になるというか()。
ともあれ、値段を見るのも躊躇われるような高額会計を、平気な顔でこなす赤城さんにもう一度戦慄しつつ、ようやく店の外に出ることに成功した私は。
はぁ、と大きく息を吐いて、どうにか人心地付くことができたのだった。
「では、引き続き午後の部に参りましょうか」
「……そういえばそうだった」
「いや、本当に大丈夫か?もう少し休んだ方がいいんじゃないのか?」
……なお次の瞬間、そもそもこの同伴が『午後の部も一緒にやりましょうね?』という赤城さんからのお誘いあってのものだった、ということを今更思いだしてしまい、更なる絶望に誘われることになった、というのは余談である。
……このノリのまま行くと、夜ご飯も同伴する羽目になるやんけ!?ヤメローシニタクナーイ!
「勿体ないわねぇ。折角のお高いご飯なんだから、普通に楽しめば良かったのに」
「私しゃ根が小市民なんだよ……侑子みたいに、ドレスコード*1とか一切把握してないんだよ……」
「あら、私もその辺りは結構適当だけど?」
「嘘つけー!わざわざ小物とかに至るまで、蝶のモチーフあしらったりしてるお洒落さんじゃんアンター!」*2
「あっはっはっは。まぁでも、侑子ってば特に意識せずとも、そういう店には普通に馴染みそうよねー」
「反対に私達は、そういう店に行くにはそれなりの準備がいる……ということになりますけれど。見た目ロリですし」
「そこはほらゆかりん、私たちについては変身すればいいじゃん」
「……当たり前に言ってるけど、普通に変身できちゃうってのも、結構変な話よねー」
「そこはまぁ、『逆憑依』って時点でアレだし?」
「それもそっかー……」
さて、日付はまたもや飛んで、とある日の夜。
その日の行事のほとんどが終了し、これ以降用事はない……という時間帯になったこともあって、久しぶりに再会したんだから昔馴染みで集まって飲まない?……という話になった私たちは、そのまま雪崩れ込むように、初日に私がゆかりんに連れられて入った、【顕象】の店長さんがやっているあの定食屋へと足を運んでいたのだった。
昼間は定食屋をやってるんだけど、夜になるとこうして居酒屋として暖簾を変えるから、適当に集まる分にはちょうどいいんだよね、このお店。
「まぁ、私にとっては?利用する度にチクチクと胃にダメージを与えて来るお店、ということになるのですけれど」
「んー?そりゃまた、なんで?」
「ほら、ゆかりんってば、一応曲がりなりにもここの責任者でしょ?」
「……あー、なるほど。
「そちらの組織の、良い意味でのいい加減さが羨ましいですわ、全く」
なお、はぁと大きくため息を吐くゆかりん的には、ちょっと憂鬱な気分を誘発してしまう店、ということになってしまったようなのだが。
理由は単純、こっちが【顕象】という存在を認知するよりも遥か昔(と言っても二・三年前だけど)から、ここの店長さんと娘さんの二人は、普通にここにいた……という事実が、ゆかりんの仕事に穴があった、ということに繋がってしまうからである。
……いやまぁ、【顕象】どころか『逆憑依』自体の発生メカニズムもまだ解明できていない以上、突発的な
「それでもこう、こうやって灯台もと暗しー*3、みたいなことされると、私って上に立つの向いてないのかなー、って気分になるのも仕方ないかなー、って言うか?」
「あー、はいはい。ゆかりんは頑張ってるからねー、大丈夫よー、私達はわかってるからねー」
「子供をあやすみたいな対応は、やめて頂戴ミサト!」
(……ゆかりんって、わりと絡み上戸なとこあるよねー)
まぁでも、こうしてその不安とか不満とかを口にできるのは、既に彼女が酔っぱらっているから、というところも大きいので、あまり真剣に付き合っても仕方ないかなー、って気分になるのも仕方ないと言うか。……普段は折り合い付けてる、ってことだし?
そうして、既に真っ赤な顔になってしまっているゆかりんを、よしよしと頭を撫でながら適当にあしらうミサトの姿を見つつ、ちびちびと日本酒の入ったグラスを傾ける私なのであった。
「……そういえば、貴女は酔わないのね?」
「酔えないからね。そういう侑子は?」
「
「あー、『逆憑依』組が電脳世界に居る時は、勝手に耐性付与されるんだっけ……?」
「重篤そうなやつだけ、ね」
なお、酔っぱらっている向こう二人(ミサトはまだ酔っぱらってないが、時間の問題である)に対し、酔わないこっち二人は、次第に話題が別の方向に転がっていく。
私はまぁ、『キーア』の設定的に基本酔えないのだが、侑子の場合は彼女の現在の状況が酔うことを許さない、みたいな感じなので、ちょっと残念そうにしているのだった。
以前、『逆憑依』組はネットゲームに接続すると勝手にフルダイブになる、みたいなことを説明したことがあると思う。
で、その時説明しなかった……というか、それを認知するに至らなかったモノが一つあるのだが、それが『バッドステータスに対する異状なまでの防御値』。
要するに、毒とか麻痺になり辛く、なったとしてもフィードバックされる感覚がかなり弱い、というものだ。
恐らく、『勝手にフルダイブになる』という事象の付随物だと思われるのだが……細かいことを抜きにすれば、ペインアブソーバ*4が常に八とか九くらいのレベルで掛かりっぱ、ということになるわけで……これが良いことばかりとは言い辛い。
本家本元のペインアブソーバでも起きていたことだが、痛みや感覚が遮断されているということは、電脳世界で起きたことを認知するのに視覚以外の判断手段が制限される、ということにも等しい。
触れたという感覚があっても、そこに痛みがなければ危険だと気付けないように、実際の身体ではない架空のアバターを動かす電脳世界において、痛覚の遮断とは悪手になることもあるのである。*5
……まぁ、麻痺とか毒とか受けてても普通に動ける、という点も鑑みれば、良いとも悪いとも断言し辛いのだが。
ともあれ、酔うに酔えず飲む酒が美味いか、と言われると微妙な話。
酩酊状態は重篤な異常扱いになるようで、なってもほろ酔いまでという侑子の状態は、ある意味生殺しと言われても仕方のない状態なのであった。
「……ま、代わりに他の酔っぱらいを肴にできる、ってご利益があるわけだけど」
「それってご利益かなぁ……?」
まぁ、それならそれで楽しみ方を見付ける、というのも乙なもの。
周囲の酔っぱらいを眺める楽しみを得た侑子に、微妙に賛同しかねる空気を出しつつ。
私は追加の焼き鳥を一つ、口に含むのであった。
「むぅー……」
「……で?マシュは朝からどうしたんだい?」
「私がこうやってぷらぷらしてるのが、気に食わないらしいよ?」
「……それ、正確には
「せいかーい……」
またまた日付は変わって、とある日のお昼。
今日はお昼をラットハウスで摂ろう、と思って足を運んだのだが……作戦は大成功、ハロウィン一色の店内は人で賑わっており、私が通されたのも端っこの方の空いている席だった。
なので、店内の様子を眺めながら、スパゲッティなどを嗜んでいたのだけれど……私が店内に入ってすぐ、こちらを認識して一瞬喜色を浮かべたマシュはと言えば、その後ハッとしたような顔をしたのち、今のようなちょっとむくれた顔になってしまったのである。
……いやまぁ、他のお客さんの前では普通に笑顔を浮かべているのだが、対応が終わるとこちらをじーっと見つめて来るのである。正直怖い()
まぁうん、言いたいことはわかる。
私は働いているのに、なんでせんぱいはぷらぷらしてるんですか、とかそういうアレだろう。
だがな、マシュよ。今もチラチラ見られていることからわかる通り、ここでの私はリアル招き猫なのだ。
どこかに肩入れすると周りからずるい、って言われてなし崩し的にどこもかしこも手伝わなければならなくなる、というのは目に見えているのだ。
なので、許せサスケ!
「いやサスケじゃないし。そもそもそれだけが理由って訳でもないだろうに」
「……いやまぁ、祭中はマシュって常に忙しいじゃん?そりゃまぁ、必然的に私はボッチになるわけでして……」
「よぉしわかった、午後はマシュはお休みだ!」
「ヨッシャー!!」
「マシュが雄叫びを!?」
……なお、ライネスには無慈悲なツッコミを入れられた上、いいからマシュの機嫌取りをしろ、と放り出されてしまうことになるのだった。
いや、ウッドロウさんは『なに、気にすることはない』とか言ってないで助けて下さいよ!私のお昼ー!!
「では、どこかで一緒に食べましょう。ね、せ・ん・ぱ・い?」
「アッハイ」
そうして伸ばした手は、横合いから伸びてきたマシュに捕まれ。
……その笑みに、どことなーく元同じ声などこかの
……空鍋とか