なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「で、せんぱいが少しは私に負い目がある、ということがわかりましたので……」
「ヤメローシニタクナーイ!」
「……はい、別に命の危険とかはありませんので、素直に座って待っていてくださいね?」
前回、クオリアやらなにやら持ち出して、話をごまかそうとした()私。
だがしかし、流石にクオリア万能説でごり押すのは問題があったようで、目の前のマシュは笑ってるけど笑っていない感じの笑みを浮かべながら、こちらを席に着くように促しているのであった。
辺りを見回してみる。
……人々は相変わらず祭の熱に浮かされたような感じで、ちょっと高級そうな店内にも関わらず、漂う空気感はパリピっぽさを思わせる。
運ばれてきた料理を写真に撮ったり、はたまた仲間内で肩を寄せあって写真を撮ったり……って、写真好きね君達?
まぁともかく、ふわふわした感じ、というのは間違いあるまい。
……さて、こんなところに連れ込んでマシュはどうするつもりなのかなー、はははー。
「あっ、わかったー!カルデアならぬなりきり郷ディナータイム、というわけだ
「せんぱい」
「アッハイ」
やだ怖い(真顔)。
睨まれているかと錯覚するような、マシュの真剣な表情。
思わず居住まいを正すが……ううむ、良くない傾向だ。
どうにかして脱出したいところなのだけれど……この圧から逃げるのは並大抵のことではあるまい。
そこら辺、できれば曖昧のままにしておきたかったのだけれど……これは腹を括らねばならないか。
そんな風に内心頭を抱える私を見て、マシュは、
「……はぁー」
「ま、マシュ?」
大きくため息を付いて、下を向いてしまうのだった。
思わず声を掛けるも、彼女から返ってくる反応はなし。……どうしたものかなー、なんて風に私が思っていると。
「──ご返事は、頂けないのですね?」
「……あー、うん。少なくとも、
ぽつり、と呟かれた言葉に、努めて真摯に言葉を返す私。
──少なくとも、キーアのままでその答えを出すことはできない。それは確かな話なので、それを真剣に伝えて。
「……はぁ。わかりました。別に私も、せんぱいを困らせたいわけではありません」
「そ、そう?」
「……ですので。この祭が終わったら、真剣に事態解決のために動きたいと思います」
「ひぇっ」
顔を上げた彼女の表情に、思わず悲鳴をあげる。
……やだ、イケメン……。
覚悟に染められたその表情は凛々しく、立ち塞がるのであれば何者であろうとも叩きのめす、とでも言いたげな感じ。
これが、敵に対して向けられたものであれば、こちらとしても問題はなかったのだが……半分くらい私にも向けられてるからなぁ、これ。
込められた感情の熱に、思わず戦慄しつつ。
わざわざ入ったのにも関わらず、なにも頼まないままに店を出ていく彼女の背を見送って──遅れて襲ってきた疲れに、思わず椅子からずり落ちそうになるのであった。
「……喧嘩ですか?」
「ああうん、似たようなものというか、なんというか……」
遅れてやって来た店員さんに謝辞を述べながら、流石になにも頼まずに出るのもなーと思った私は、一先ず料理を選ぶためにメニューをお願いしたのでした……。
「……痴話喧嘩なら他所でやって欲しいんだが?」
「うるさいわよクリス、アンタだって相手がいればやってるでしょうに」
「岡部のことは今は関係ないんだがー!?」
「うるさい」
「あいたぁっ!?」
そんなことがあったのが三日前。
測らずもその日から冷戦状態みたいなことになってしまった私とマシュを見て、声を掛けてきたのはクリスだったわけなのだが……。
いや、これを痴話喧嘩とか言われると、お前さんのやつはもはや乳くりあっているようなもんやんけ、とツッコめば、彼女から返ってきたのは盛大な自爆なのであった。……遠回しに肯定するのやめない?
いやまぁ、悪いのが私の方、というのはわかっているのである。わかってるんだけど……。
「いやほら、謝るのも違うじゃん?……なんとも言えない、ってのは本当のことなんだし」
「いや、そもそもその『返事ができない』って時点でよくわからないんだが?」
迂闊に答えを出すのはよくない、ということもあって、正直口ごもるしかない私である。
まぁ、こっちの事情を話半分程度にしか知らないクリスにとっては、そんなの知ったこっちゃねー、みたいな感じのようだが。
「……ここにいる人で、その辺りのことを知ってるのはBBちゃんくらいかなぁ」
「は?ってことはもしかして、同じ後輩なのに扱いが違うの?……うわぁ」
「私がふしだら、みたいな言い方するの止めてくれない?」
そんな彼女の様子にため息を吐きながら、思わず溢す愚痴。
……彼女は変な意味で受け取ったみたいだが、別にこれはBBちゃんを贔屓しているわけではない。寧ろ、
「はい?」
「……詳しくは説明しないわよ。知らせてないってことでややこしくなってるのに、ここで知ってる人を増やしても意味はないんだし」
「……ええと、よくわからないけど……結構、面倒な話だったり?」
「……敢えて言うのなら、少なくとも『キーア』にそういう話をする
「ふーん……?」
こちらの言い口になにかを感じ取ったクリスは、へーとかふーんとか、そんな感じの言葉を述べたのち。
「──ま、いいわ。別に私、貴方達の仲人ってわけでもないんだし」
そんな、なんとも言えない言葉を並べ、席から立ち上がったのだった。……まぁ確かに?彼女がこちらのことを気にする必要性は、ないと言えばないわけだけど。
「……だからといって、ここから逃げる理由になるわけないでしょうが!」
「……ちっ!流されなかったか!」
「うるせー!逃げるなー!!卑怯ものー!!!」
だからって、それを口実にこの場から離れようとすることは許されないんDA☆
……はい、ここでようやく『私たちがなにをしていたのか』というところに話を移すのだけれど。
それはすなわち、祭の手伝いである!……いやさっき『特定のところに肩入れすると良くない』って言ってただろうって?ナンノコトカナー()
いやまぁ、嘘を言ったわけではないのである。
特定の個人・ないし特定の団体に手を貸すというのは、すなわちそこが勝つように手を貸すということと同義。
それゆえ、公平を期すために私はどこも手伝わない……というのは、暗黙の了解のようなものだったことは間違いではない。
だがこれは、
「こういうことだよー!!だよー、だよー……」
「セルフエコーしてんじゃないわよ、口を動かす前に手を動かしなさいバカ後輩!」
「ハイヨロコンデー!」
……はい。私の横で、さっきまで黙っていたパイセンがやってることをみれば、その疑問も氷解するというもの。
そう、その仕事の発端は、ある日のゆかりんルームでの会話が元となっているのであります。ほわんほわんきあきあ~。
「はーい、エリちゃん元気してるー?」
記念祭も折り返しを迎え、そろそろ後半戦。
そろそろエリちゃんの出番も近付いてきたということもあって、彼女の様子を確かめに最上階・ゆかりんルームに足を運んだ私。
……いやまぁ、マシュにああ言った以上、なにもせずにぷらぷらしてるのもなー……ってことで、エリちゃんの面倒を見るくらいなら他の邪魔にもならないんじゃないかなー、って感じに様子を見に行った感じなのだけれど……。
「あら、いらっしゃいキーア」
「おっと、今日も侑子か。ってことはゆかりんは別のところ?」
「郷内一番の輸送力持ちだもの、駆り出されるのは仕方ない話じゃない?」
「あー……確かにスキマを使えばそういうの速いもんねー……」
そこにいたのは、HMDを被って何事かをしているエリちゃんと、それを眺めている侑子の二人。……一応目的の人物であるエリちゃんは居るものの、判断を仰ぐ相手であるゆかりんの姿はないし、若干空振った感がなくもない。
まぁ、侑子の説明を聞くと、それもやむ無し……って感じになったのだけれど。
確かに、距離と重量を無視して物を運べるゆかりんのスキマは、こういう忙しい時の荷物運び手段としては、かなり重宝するだろうし。……エリちゃんライブの機材運びとかも彼女の仕事だったはずなので、それを知られていれば頼まれごとも増えようと言うものである。
一応のデメリットである『見知った場所にしか移動できない』も、郷の中なら完全に無問題だしねー。
ただ、そうなってくると、ゆかりんに判断を仰ぐというのは難しくなってくるかもしれない。
「あら、なにか探してるの?」
「ちょっと仕事をね?……ただまぁ、この分だと最後の方までゆかりん忙しそうだし、ちょっとタイミングを見誤ったかなー」
「まぁ、一度手を止めて貰うわけにもいかないものね」
はぁ、とため息を吐きながら述べた通り、仕事を受けるのであれば、必ず説明を挟まなければならなくなる。
そして、その説明は基本的にゆかりんにして貰う必要があるので──必然、彼女の仕事を止めてしまうことに繋がる。
一応、スキマの開け閉めだけならば、彼女も片手間で行えるだろうが……細かい座標指定は難しくなる、というのは間違いないだろう。
分刻みのスケジュールで動いているとおぼしき現在、そこまで彼女の手を止めさせるだけの理がこちらにあるかと言われると……うん、ないね。だって極論すると、やることないんでなんかなーい?……って聞きに来ただけだからね、今の私。
そうなると、どうしたものかなーってことになるのだけれど。
一応エリちゃんの面倒でも、って感じでやって来たわけだけど……先に侑子がいる以上、二人で一緒にやるのは効率的な問題であれだろうし。
そこら辺も含めて、ゆかりんに色々判断して欲しかったんだけど……って、ん?
「……そういえば、エリちゃんはなにやってるの、これ?」
「んー?……そうね、じゃあそっち方面で手伝って貰おうかしら」
「え、なになにやぶ蛇だった感じ?」
よくよく考えたら、HMDなんて被ってエリちゃんはなにをしているんだ……?
そんな、ある意味すぐに浮かんできてもおかしくない疑問に、今さらながらにたどり着いた私は。
ふふふ、と怪しげな笑みを浮かべる侑子の姿に、もしかして判断を仰ぐ間違えたのだろうか?……と、顔を青くする羽目になるのだった──。