なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「で、本日の最初の目的地はどこなんです?」
「この間例のゲーム内で知り合った人が一人居るんですけど、その方を迎えに行く感じですね。そこからはまぁ、なんとなく流れで──という感じでしょうか」
「ほぉう、ほほーう。キーアさん、あのゲームやられてるんですか?」
「え、あ、はい」
タクシーで空港まで移動する最中、はるかさんに尋ねられたので、これからの行動予定を思い出しつつ答える私。
ついこの間、件のTSキリトさんから『もぅマヂ無理*1』から始まる例のアレを受け取ったので、最優先は彼女の回収である。
……文面的に滅茶苦茶余裕がある気がするけど、まぁ放置するのも気に咎めるので……といった感じだ。
因みに今回の例のアレは一刀火葬だった。*2……いつから護廷十三隊になったんですかねあの人?
そんな事を真面目に答えたら、私の発言を聞いたはるかさんが目を輝かせていた。
……え、なにこの『お仲間発見!』みたいな視線は?
「いいですよね『tri-qualia』!歩行型VRデバイス対応で、実際の体の動きに合わせたプレイも可能だとか!いいなぁ、私アレの抽選漏れちゃったんですよねー。ね、ね、キーアさんはどのデバイスで遊んでらっしゃるんですか?普通のHMD?それとも、まさかの歩行型なんですかぁ?!」
「おおお落ち着いて下さい!地球がぁー!地球そのものがぁー!?」
こちらの両肩を掴んで前後に揺さぶってくるはるかさん。
……濃ゆい!この人なりきり勢に負けず劣らず濃ゆい!というか下手に普通の人だから対応に困る!
必死に落ち着かせること暫し、はっとした表情の彼女は、たははと笑いながら頭を掻いていた。
「いやはやお恥ずかしい……妹にもそういうところよくない、とは言われていたのですが」
「そ、そうですか。……妹さんがいらっしゃるので?」
「ええ、可愛い妹です。……もう何ヵ月も、所在不明なんですけどね」
「え゛」
えっ、ちょっ、まっ!?
いきなり重い話をぶち込むのはよろしくないと思いますのことよ!(?)
なんてこっちの言葉はお構い無しに、彼女はぽつりぽつりと居なくなったという妹さんの話を始める。
妹さんは、慌てん坊な自分とは似ても似つかない、とてもしっかりとした少女なのだという。
誕生日に買って上げた携帯をとても大切にしていたとかで、何か掲示板のようなものに書き込みをしたりしていたそうな。
……なんかこの時点で嫌な予感がするんだけど、とりあえず邪魔をせずに話を静かに聞く私。
「あと、私がアニメとかゲームとか好きなのに合わせてくれたのか、妹もアニメとか好きだったんですよ。『ごちうさ』とか、無邪気に楽しんでましたね。かわいー、って感じで」
「へ、へぇー。……ところで、ごちうさだと誰が好きだったとか、わかります?」
「へ?えっと、ココアちゃんとか大好きでしたね。……
昔を懐かしむように、微かに笑みを浮かべながら答えてくれるはるかさん、なのだが。
……へーい、ツーアウトー。
いやまだだ、まだ私の勝手な推論だ、私の勝手な推測でみんなを混乱させたくない……。*3
なんて思いつつ、既に引き攣り気味な顔を無理やり笑顔に変えて、彼女に一つの問いを投げ掛ける。
「えっと、言いにくかったら流して貰っていいんですけど。……妹さん、病気にでも?」
「え?私、妹が重病人だったって言いましたっけ?」
「……言ってないですけど、なんとなく察しちゃいまして」
「おー……流石はあの八雲さんの秘書さんですね。その通りです。うちの妹は、病室から出られないくらいの重病人でした。……それが忽然と病室から消えてしまって」
……はいスリーアウトチェェェェンジゲッタァァッワァンッッッ!*4違う!ゲッターを呼ぶな!*5
お、思わず混乱してしまった。危うく虚無る*6ところだった!
でも私気付いちゃった!これ(対処とか諸々が)長くなる奴だ!
「え、えと。すみません、辛いことを思い出させてしまって」
「ああ、いえいえ。……どこかで元気にしてくれていると、信じてますから」
気丈に振る舞うはるかさんに、なんとも言えない気分になる私。……貴方の妹さん、多分
空港に付くまでお互いに無言のまま、微妙に気まずいタクシー移動になってしまったのだった。
「で、ここからどちらに?」
「件の人が暮らしていらっしゃるのが札幌だそうで、とりあえずはそこですかね」
成田空港が離婚の聖地*7などと言われたのも今は昔。
……とも言い難い、みたいな話を聞いたりもするけど、今回の私達には特に関係もなく。
サクッとチェックインして荷物を預けて保安検査を受けて。
で、カカッ*8っと過程は飛ばしてさっくり新千歳空港にとうちゃーく。
「折角北海道なんですし、ゴールデンカムイ*9の聖地巡礼とかどうでしょう?」
「流石に北海道全土を回るのは、幾ら日付があっても足りないので……」
「むぅ、アシリパさん*10とか探せば見付かるかも知れませんよ?」
「見付かる前に熊に出会いますよ……」
うだうだと話しつつ、札幌駅に向かう快速エアポートに乗って四十分ほど。
特に問題もなく札幌駅に着いたので、そのまま向こうから予め教えて貰っていた雑居ビルまで向かう。
……観光?今日このまま他も回る予定なのに、悠長にそんなことしてる暇があると?
「で、こうして駅から一直線に向かって来てくれた……と?」
「そういうことになりますね」
たどり着いた部屋で出迎えてくれたのは、完璧に美少女になってしまったキリトさんだった。……なんというか、ロングヘア似合うね?
そんな彼……彼女?は、横でニコニコと笑っているはるかさんと私に交互に視線を向けて、何かを口にしようとしていた。
……嫌な予感がするのでインターセプト!
「えっとキーアさん、貴方なりもがもが」
「はーい、キリトさんはいきなりの
「?はい、こっちは荷物を纏めればいいんですね?」
案の定迂闊な事を口走ろうとしていたキリトちゃんの口を塞ぎつつ、部屋の荷物の梱包をはるかさんに頼んでおく。
こちらの指示通りに動いてくれる彼女に、はるかさんが素直な人でよかった、と、一息。
……いやホントに素直なだけなのかこの人?
いやまぁ、とりあえず今はそれよりも、だ。
私に口を塞がれてもがもが言ってるキリトちゃんに、にっこりと微笑みを返しながら、しっかりと釘を刺しておく。
「今度余計なことを言おうとするならその口を縫い合わすぞ」*11
「コマンドーかよっ、クソわかった!わかったから放してくれ!」
「そうか」
「うわぁあああぁぁあっ!!!?」
「……キーアさん達何やってるんですか?」
「
……台詞が台詞だからか、わりとノリノリで叫んでくれたキリトちゃんに満足しつつ、ちょっと困惑しているはるかさんの手伝いに入る私達。
ふーむ、荷物としてはそんなに多くない、かな?
「じゃあ早速八雲さんを呼びますねー」
「おおっ、スキマですねっ!」
「マジで居るんだ、八雲紫……」
各々がわりと好き勝手な感想を述べるのを背に受けつつ、
「紫様、ご用意の方をお願い致します」
『……ぶふっ、いや、その、わかったわ。少し待っていなさい』
……おいこらゆかりん。吹き出すとは何事か?!
恐れ多くも帝より三位の位を賜わり、中納言まで勤めた麿の挙動を笑い者にするとは、どのようなことになるのか分かっておるのか!
「……いや麻呂は通じねぇよ流石に」*12
「いきなりどうしたキーア?」
「君も君でいきなり呼び捨てはどうかと思うのだけど……まぁ、なんでもないよ」
「????」
新シリーズもあったけど、そっちには居なかったしなぁ。……いやそもそも一話限りのキャラクターなのに濃ゆいんだよあの人……。
なんて事を一人でしみじみと噛み締めつつ、ちょっと待機。
暫くして、目の前にいつも通りのスキマが空いたので、荷物を入れようと振り返って。
「いよぉし、お姉ちゃんに任せなさい!」
「頼れる姉オーラ!?」*13
「はっ!?つ、ついやっちゃいました……」
荷物を運ぶために気合いを入れたはるかさんが、腕捲りをしてポーズをきめていた。
いや、確かに姉だとは聞いていたけれど。まさかここでそれが飛んでくるとは……。
「でも最近って、姉に対するイメージ微妙ですよね」
「……あー、姉を名乗る不審者……」*14
「ふ、不審者っ?!ち、違いますよぅ、ちょっと片付けしてたら、妹が喜んでくれたのを思い出したってだけで……!」
まぁ、姉と聞いて恐怖したり逃げ出したり諦めたりする人も、最近は多いんじゃないかなー。……みたいな事を呟いたら、すっごく狼狽し始めたわけなのだが。
でも仕方なし。妹の居ない状況下で姉パワーを発揮してたら、変な人以外の何者でもないからネ!
「は、はわわわっ!!……わ、わかりました!」
「へ?」
「き、キリトちゃんを妹にしますっ!」
「へぇあっ!?」
なんて風にちょっとからかってたら、
……キリトちゃん凄い声出したね今?あと顔が真っ赤な辺り結構うぶだね君?
「言ってなくていいから助けてくれっ!この人意外と力が強いってか止めて!これ後から酷くなるやつだよな!?」
「いいいい妹が居るんだからわわわ私はお姉ちゃんなんですよぉーっ!」
「ははは抜かしおる。妹なのであれば膝枕も余裕でできよう」
「ででで出来ますよぉーっ!私お姉ちゃんだから膝枕くらい出来ますよぉーだっ!!」
「おぉいっ!?なんで煽ってんだよアンタっ!?」
「え?キリト君と言えば女難なのでは?」
「ふざっ、ふざけんなぁーっ!!?……ってま、止めよう!後からお互いに酷いことになるから止めましょう綿貫さんっ!!」
「えっとえっとえっと、膝枕するなら頭とか撫でるべき?そうだよね慈しむように優しく撫でなきゃ……?」
「お願いだから聞いてくれーっ!!」
……ふむ。
完全にパニクってるはるかさんと、その膝の上でもがくキリトちゃんを眺めて、一つ頷く。──面白いから放っておこう、と。
「紫様、今から荷物を送りますね」
『……貴方、結構いい性格してるわよね』
「何を今更」
どたばたと慌てる二人の喧騒をBGMに、荷物の受け渡しに精を出す私なのでした。