なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
これまた突然に現れたパイセンにより、意識がそっちに持っていかれた私たち。
エリちゃんは先ほどまでの話を忘れ、彼女をグッビーなるあだ名で呼んでいるわけだが……ええと、知り合いなので?二人とも。
「知り合いもなにも、このなりきり郷におけるライバルの一人なのよ、グッビーは!」
「まぁ、私はやろうと思えば結構なんでもできるし*1。……で、たまたまネットで配信してたら、これが意外と視聴数取れたわけよ。……最終的に、何故かBANされたけど」
「……それ、センシティブ判定されたのでは……?」*2
「なによ、また虞美人差別?」
「区別です、お間違えなきよう」*3
「い、言うじゃない……」
そうして尋ねたところによると……ええと、アイドル的なライバル、ということになるらしい。『y○utuber』的な?
まぁ、パイセンがアイドル、というのは正直意味がわからないのだが……なんか
……無論、パイセンは服装に頓着しないので、その方面で伝説のアイドルと化した、みたいな面もあるようだが。一夜限りの伝説、みたいな?
ともあれ、本編のそれとはまた別種の繋がりがあるらしいこの二人。
それを知れたことで……知れたことでなにか変わるの?この状況。
今のところ、エリちゃんはさっきまでの話を忘れて、パイセンとあれこれ話しているけれど……それが終われば、やっぱり先ほどの『何事かをこちらに頼もうとしている』状態に戻るだろう。
そうなればこっちに回避手段はなく、自動的に聖杯がもう一つ加算されることは確定的なわけで……。
「そういえば、お前暇?」
「……って、はい?」
などと唸っていると、突然エリちゃんと何事かを話していたパイセンから声を掛けられることに。
……なんでみんな、悉く人のことを暇だと確信したうえで声を掛けてくるのだろう?……え?実際暇だろうって?そうねぇ……。
ともあれ、暇か否かと問われれば暇だと答えるしかない私である。さっきエリちゃんにもそう言っちゃったし。目の前で聞いてるし。
仮に暇じゃないって言ってパイセンの話を打ち切ったとしても、得られるものは(さっきのは私へのアピールだったのね?!って勘違いした)エリちゃんからの好感度くらいのものだろうし。……絆レベル上がりそう(小並感)。*4
「そう。じゃあ丁度良いわね」
「あっ、ちょっとグッビー?キーアには私から、頼み事をしようと思」
「お前も、丁度良いから手伝いなさい」
「……ってちょ、なによいきなり?」
そうして困惑している内に、話はどんどん進んでいく。
傍若無人先輩・虞美人により、私とエリちゃんは纏めて彼女の頼み事に引っ張られることが確定したのだった!
……よくよく考えれば、エリちゃんも暇であることは間違いないからね、仕方ないね。
「なに ごと」
思わず私がぼやいてしまうのも仕方のない話。
真っ先に私たちがやらされたことは、『tri-qualia』からのログアウト。……ゲーム内でなにかするのかと思えば、パイセンの用事とやらはリアルでのものだったらしい。
いや、エリちゃん外に出ても良いので?……と思ったのだけれど、どうやらその辺りの許可は既に取っているのだそうで。……パイセンにしては準備がいいな、なんてちょっと失礼なことを思いながら、先導する彼女に付いて行った先にあったのは……。
「……ええと、出店?」
「そうよ、出店よ」
お好み焼き屋、わたあめ屋、チョコバナナ屋……などなど、日本の祭の風景において、普遍的に転がっているだろう出店達。
それが一塊になった──端から見ると盆踊り会場みたいになっているステージ。それが、彼女に引き連れられてやってきた場所なのであった。
「設立記念祭、だったかしら?……アレって、要するに競走ってことでしょ?……そういうのイヤ、ってやつも結構いるのよ」
「あー、まぁはい。景品の内容が内容だけに、結構張り切ってる人も居るって話を聞いた気はしますが」
詳しく話を聞いたところ、この舞台に集められた屋台達は、今回の聖杯戦争もとい売上競走とは
競走という要素が入ると、どうしても店の空気や出される商品などが、常のモノとは違ったモノになる……というのはまぁ、わからないでもない。
特に、今回の景品の目玉である『流れ星の指輪』や、それ以外の景品達など、貰える可能性があるのなら貰ってみたい……というような魅力的なアイテムの数々を目の前にちらつかせられれば、ちょっと変なテンションになる人は少なくないわけで。
そういう、言ってしまえば熱気のようなモノを嫌がる人も居る、というのはおかしなはなしでもなく。結果として、そういう人達のための屋台というのも用意しよう、ということになったのだとか。
……お察しの通り、それが今私たちの目の前にある屋台群である。
「ただ、問題が一つあってね」
「はぁ、なんでしょうかその問題って。薄々分かる気もしますが」
「そりゃもう、これしかないでしょう。──店員が足りてないのよ、ここ」
だが、そうした高尚?な目的とは裏腹に、この屋台達には致命的な問題点があった。……この場所を必要とするような気質の人達は、まず屋台の運営なんて出来やしない、ということである。
悪い言い方をすると、陽キャ達の群れのなかに陰キャ達の居場所を作ろう、みたいなことになるため、誰も音頭を取りたがらなかったのだ。
……まぁうん、競う空気が好きじゃないのなら、祭の空気も好きじゃなさそうというのはよく分かる。
だが、運営の上の方には、こういう場所が欲しいという陳情が多くある、というデータが確かに存在している。
ならば、やらないわけにもいかない。……ということで、人間の喧騒をそこまで好んでいない?っぽいパイセンが(暇そうだからという部分も含めて)運営責任者として抜擢され、今こうして店員達をかき集めている……ということに繋がるのだった。
「……全体的にツッコミ処しかないけど、とりあえずゆかりんからの承認は得ているってことで宜しいので?」
「そりゃそうよ。そもそも、アイツから言われたんだし。『エリちゃんが暇そうにしてるだろうから、誘ってあげて』って」
「本質的には
っていうか、仮に本当に集まってくるのが陰キャっぽい人達ばかりだった場合、そういう人とは水と油みたいなもんなんじゃないのこれ?
……などと私が思ったことを察したのか、パイセンはにっこりと笑ってとある場所を指差していた。
「大丈夫よ。ええと……ねらー?だっけ。ともかく、そういうのに詳しいやつがいるから大丈夫よ。時限式だけど、今なら
「お、お疲れ様ですせんぱい」
「……クリスとマシュ、だと……?!」
そこにいたのは、普段の白衣をエプロンに代え、なんとも言えない表情でたこ焼きを焼き続けるクリスと、その横でわたあめをくるくる回しているマシュの二名。
……なんだこれ地獄かね?
そんな言葉が口を突いて出なかったのは、ほぼ偶然みたいなものなのであった。
──で、ようやく時間は今に戻ってくる。
顔を合わせた途端微妙にギクシャクし始めた私とマシュの様子に、クリスがお節介を焼いてから少し。
時限式、の言葉通りマシュはラットハウスへと帰っていき、この地獄に取り残されたのは私たちだけ。
……ああいや、別に来る客がヤバイ、とかそういう話ではない。
「……すまねぇが、たこ焼き四つ」
「はいはい承りました少々お待ちくださーい!!」
「なんつーか、大変そうだな……」
ふと視線を横に向ければ、何故か連れ立っているソルさんとハジメ君の二人が、クリスに対してたこ焼きを頼んでいる姿が見え。
「今日も可愛いねエリちゃん。そこの串一つ貰える?あ、
「なんでどいつもこいつも、挨拶かなにかみたいに私の歌を拒否るのよー!!言っとくけど、別に私は音痴じゃないわよー!!?」
「ああ、別に悪口を言ってるわけじゃなくてな?……お楽しみは、最後に取っておくべきだろ?」
「……な、なるほど。至極全うな理由だったわ。至極全うなっ、理由だったわっ!!」
その反対では、串カツを揚げているエリちゃんに対し、サンジ君が努めて紳士的に彼女へと会話を投げている姿がある。
……歌わないで、の意味がよもや最後のライブを楽しみにしてのモノだったとは、このリハクもといキーアの目にも読めなかったが……改めて、このエリちゃんに評価で勝つのは難しいのでは?なんて懸念が沸いてくる私である。
ともあれその部分は今は置いておくとして。
……まぁうん、想定されていたよりも、遥かに忙しいのである、この屋台達。
言ってしまえば、極めて単純な祭の形。
それが一種の客寄せになるのか、さっきから客足がひっきりなしなのだ。……
元々人手が足りてない、と言っていたように、この状況では余計なことを考えている暇もなく、結果として私は久々に分身を使わされる羽目になっていたのだった、戦闘でもないのに。
「行くぞ私A!」
「よくってよ私B!」
「出た!キーアさんのコンビネーションクラッシュだ!」
「いやクラッシュしちゃダメでしょ?!」
「大丈夫だ、パフォーマンスだからな!」
「そっかー、それなら安心ね!」
(安心なんだ……)
外からのお客様もそれなりの数が見えているため、そういう人達へのファンサービス的な動きも交え、ひたすらに働き続ける私たち。
結局、この突然降って沸いた屋台の手伝いの仕事は、一般客の退場時間である午後五時までの間、大盛況としか言い様のない忙しさをキープし続けたのでありました。
「あ、これ三日間続くから。明日もちゃんと来なさいよ」
「……死人が出るやつでは!?」
なお、解散間際にパイセンから告げられた言葉に、みんなして絶望顔をすることになったけどそれは余談である。