なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……まだあるんスか、模擬戦」
「まぁまぁ。先ほどは単純にお二方の総合的な能力を見せて頂きましたが、それだけでは足りませんので」
「面倒見がいいのも考えものッスよぉ……」
項垂れるクモコさんに労いの言葉を掛けつつ、再度の戦闘を強要する私。
それもそのはず、さっきのはあくまでも、彼らの総合的な戦力の確認をするためのもの。
彼らの現在出せる全力を確認したわけではないので、そっちの確認となるとまた別口なのである。
……まぁ、流石になんにもなしに連続で戦闘は無理があるだろうから、こうして私が回復魔法とかを掛けてあげているわけなのだが。
「…………」
「……なぁ、マシュがめっちゃくちゃ見てくるんだが?」
「マシュがちょっと暴走していたのも確かですので。今回はマシュのリフレッシュはなし、です」
「そんなぁ」
なお、マシュの方もそれなりに疲れているのは確かだろうが──体力が削れるような疲れ方ではない、というのもまた事実。
っていうか寧ろ暴走して余計なことをした、という面の方が強いため、彼女に関しては労いは(現時点では)なしである。
そんなぁと言うのなら、後半部分はちゃんと勤めあげてください、という感じだろうか?
「……え、後半もマシュさんなんッスか?」
「ええ。今度はちゃんと通常状態で、ということになりますが。また、場合によっては私の補助も持ち出すやもしれません」
「どこのレベルを想定してるんだよ、どこの」
そんなこちらの発言を聞いて、露骨に嫌そうな顔をするクモコさん。
とはいえ、マシュ以外となると、何ヵ月ぶりかのアルトリア再来になるよ?……と返せば、二人とも「マシュさんでお願いします!!」と必死になってこちらにすがってくることになったのだった。……トラウマ刻まれ過ぎである。
(まぁ、二人のレベル如何によっては、
「……なんだかわからないッスけど、凄まじいまでの悪寒が!?」
「アレでしたら、私がキーアの方で参加するパターンもご用意できますよ?」
「丁重にお断りするッスー!!!」
ちなみに、彼女にとっての一番のトラウマ──
「では、マシュにも少し枷を付けることとしましょう」
「私にも、ですか?」
さて、つかの間の休息も終了し、再びの模擬戦のお時間である。
向こうにはやれること全部駆使するように、と言ってあるので前半よりも凄いことになると思うが──それでも全開マシュの方が遥かに上、ということはほぼ覆らないだろう。
なので、戦闘中に段階的に制約を解除する、ということを前提としてマシュの方にリミッターを設定させて貰うことにする。
無論、この戦闘の間だけの限定処置だが……実験結果は有効活用されるため、そっち目的の意味も少なくはない。
「……また琥珀さんですか?」
「まぁ、こういうことを頼んでくるのは、基本的にあの方しかいらっしゃいませんからね。一応、外から後付けでリミッターを課せられるのであれば、暴走した相手の対処手段として有効活用できるだろう、みたいな面もあるそうですが」
「……まぁ、メカエリザ・ギガントに対しては、琥珀さんの今までの発明のほとんどが無意味でしたからね……」*1
なお、この辺りの研究結果を欲する人など限られている、というマシュの言葉は正解であり、リミッター云々の提案をしてきたのは琥珀さんだったり。
今の時点でもわりと大概だが、彼女が目指すものは深淵雄大ということか。
……いやまぁ、機械の極致みたいなものであるメカエリザ・ギガント、もとい超巨大メカエリザちゃんにインスピレーションを受けたので張り切っている、というところもなくはないだろうが。
ともあれ、最初から全力ではないという話は、クモコさん達にとっても安心できる話だったようで、露骨に安堵のため息を吐いていたのだった。
「安心しているところ悪いのですが、マシュのリミッター解除を誘引できなかった回数如何によっては、貴方達二人の再教育の可能性もでてきますので、その辺り認知したうえで挑むように、と最初に述べておきますよ?」
「あはははは。……クモコさん達を糠喜びさせて、そんなに嬉しいんッスか貴方はー!!?」
「なにを仰るかと思えば……嬉しいですよ?弟子の成長は師匠の誉れです」
「本気で言ってやがる……」
まぁ、私がこの二人に
この二人はなろう系のキャラを根幹に持つものであり、なおかつ通常の彼ら彼女らとは全く別の進化ルートを通っている存在である。
そんな二人の潜在的な危険性や成長性というのは、実は他の人のそれとは全く別物。
彼ら二人は『逆憑依』、ひいては『なりきり』というものから外れた存在になりつつある者であるため、確認はしてもしたり無いわけなのだ。
……実際変なモノを感じれば、即検査機に突っ込むつもりでもあるわけだし。
そこら辺の理屈を説明されれば、二人も流石に事の重大さには気付けたようで。
ちょっと顔を青くする二人に、危機感煽り過ぎたかなー……なんてことを思いつつ。
「まぁ、慎重になる分には悪いことはありません。──ではマシュ、手を」
「あ、はい!」
自分の立場について、もう少し考えて欲しい……というこちらの願いは果たされたと判断して、そのまま模擬戦の準備に戻る私なのであった。
こちらの言葉にハッとした様子のマシュに、手渡すのは腕輪型の制御装置。
……まぁ、制御と言っても再現度をどうにかする、とかそういうものではなく、外部に対しての物理的な影響を抑える……という、ダメージコンデンサー的な用法のものだが。
まぁ、マシュの本来の火力が高過ぎるというのも間違いではなく、そこら辺を抑えることができる時点でわりとアレ……というのも確かだったりするので、特に問題はないというのもまた間違いではない。
それだけではなく、行動に付随する魔力放出なども計測できるようになっており、何処を抑えればどう影響を与えられるのか、みたいな実証試験のためにも有効活用できる機能もある。
その情報は私の手元の端末に送られるようになっているので──物理的な制御だけでは抑えられない部分に関しては、私がその場で調整することも求められているのだった。
将来的には、その辺りも腕輪側の機能として搭載できれば、と琥珀さんは述べていたので、無駄になるデータは一つもない、と言えるだろう。
「そういうわけですので、マシュは特に気にせずに二人の相手をしてください。細かい調整はこちらで致しますので」
「──わかりました、せんぱいのご期待に応えるためにも、マシュ・キリエライト、全力で模擬戦を全うします!」
「──いい返事です。期待していますよ、マシュ」
「……え、なんでこの人激励してるんスか……」*2
「死ねと仰ってる?」
「死ぬほど頑張れ、と言っています。先程までのあれこれが児戯のようなもの、というのは既に看破していますので」
「ぎゃー!!やっぱり凄女ッスー!!?」
なお、ここまで無茶苦茶言っている理由は。
元を正せば、この二人が先程の模擬戦では全然本気を出していなかったから……だったりするので、自業自得だとここで明確に述べておこうと思う。
……私の目は誤魔化せねー!!
「……とは言ったものの、これほどかー」
思わず口調を崩して話す私の目の前で繰り広げられているのは、先程までの模擬戦が本当に児戯にしか見えないような、そんな高度な戦い。
響ちゃんの姿は単なる見せ掛け、みたいなことを言っていたが──蜘蛛部分の足をバーニヤに変化させて飛び回るその姿は、初期の時に『響・ウォリアー』などと呼ばれていた彼女を幻視させるもの、と言えなくもないかもしれない。*3
片割れのリムル君も、まさかのマダンテぶっぱで攻撃して来る辺り、実は潜在火力的には結構なものなのだ、と知らせてくるかのようである。*4
ゆえに、マシュのリミッターは早々に三つほど吹っ飛び、今の彼女は大体レベル七十くらいの戦力で二人と相対する、という形になっているのだった。
「でもそれ以降どうにもならないんッスがー!?」
「おっかしいなー。これ以上の火力とか無理なんだけどなー」
「いえ、お二人の成長速度は目を見張るものがあります。誇ってもよいのではないでしょうか?」
「全部受け流されてる状況だと、素直に喜べないんッスけどー!!?」
まぁ、そこまでレベルが上がると、マシュへのダメージは一すら通ってない、という実力差になってしまっていたのだが。
瞬間的な上昇値が高かったためちょっと見誤ってしまったが、今こうして眺めている分には六十レベルが適正値、という感じだろうか?
元の二人のレベルが十相当だったことを思えば、驚異的な成長速度だが……まぁうん、ここのマシュは言うなればレベル百くらいなので、そこまで成長しても見劣りがあるのは仕方ないというか。
いやまぁ、実際本当に凄いんだけどね?二人とも。
さっきの模擬戦がやっぱり手を抜いてた、って確信することになるレベル差であることに文句はあるけど、同時にここまで成長してるなら隠したがるのもわかるわけで。
そんな風に冷静に二人の全力を分析しつつ、琥珀さんへの腕輪の使用感も纏めていく、そんな真面目に働くキーアさんなのでありましたとさ。
……ええと、腕輪は一度リミッターを解除すると、全部解除するまで再度リミッターを掛けられないのがわりと問題……と。