なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
「……うん、いいデータが取れました」
「それはなによりッス……」
最近月姫世界にお邪魔して、そこで新たな技を披露したことがフィードバックされたというマシュの『スタイリッシュ建築』により、一度城に潰されるという憂き目にあった二人。*1
結局ボロボロになってしまったのでそれを癒しつつ、纏めたデータに頷いて彼らを褒め称えた私は、憮然とした顔をしているクモコさんに対して、小さく苦笑を返していたのだった。
実際、相手がマシュであるということを念頭に置けば、彼等がかなり善戦した方だというのは間違いないだろう。
結局ラストアーク*2まで使わせているのだから、彼女なりに二人の実力を認めた、ということでもあるのだろうし。……いやまぁ、単に横から見てたら二人が画面端でぼっこぼこにされてただけ、って風に見えてしまうのも確かなことなのだけれども。
「そう思うんなら、なんとかして欲しかったんだが?」
「お二方の目が死んでいませんでしたので。一応、なにかしらの反撃手段は持ち合わせていたのでしょう?単にそれを披露する機会がなかった、というだけのことで」
「はははは、なんのことかわからないッスねー!!」
まぁ、こうして目が泳いでいるクモコさんを見る限り、本当にボコられていただけなのか?……というところには疑問点が残るわけだが。
……無論、その辺りを察したマシュの攻撃がちょっと苛烈になりすぎていた、というところもなくはないわけなのだけれど。
反撃潰しのためとはいえ、コンボの切れ目がないのは、初心者がコントローラー投げても仕方ないんじゃないですかね(白目)
「……はい、マシュ・キリエライト、反省しております……」
「そういうわけですので、許してあげてくださいね?」
「は、はーい……」
なお、相手の全力が見たい……的な意味があったのにも関わらず、最終的に自分の全力しか見せてなかったマシュに関しては、ご覧の通り石抱き刑の目に合っているのだった。*3
……まぁ、サーヴァントとしての膂力についてはそのまんまなので、どれだけ重いものを上に乗せようが、単なる反省のポーズでしかないわけだが。
外から見ると涼しい顔でこなしているようにしか見えないので、視覚的攻撃力がだいぶ酷いことになっている、というのは言うまでもない。……心なしか二人ともひいているような?
ただまぁ、これは互いの落とし処を探した結果でもあるので、マシュばかりが一方的に責められるべきか、と言われると微妙なところがあったり。
「
(……ああなるほど、理由をくれたんッスね……)
なので、これは二人に
マシュが圧倒してしまったため、最後の最後までやりきることは出来なかった……という筋書きを呑み込むのなら、お前達の隠しているものについてこちらは踏み込む気はないぞ、と。
お偉いさま方には、マシュが最後まで二人を抑え込めた、という事実が目眩ましになる。
無論、ゆかりん辺りにはちょっと厄ネタがあるかも、とは伝えるかもしれないが──本人達にその気がない、というのも合わせて伝えようと思っている。
何故ならば、躊躇が見えたからである。──全力を見たい、と言った時に、二人の中に。
その躊躇があるのならば、彼等が心までモンスターになってしまうことはないだろう。少なくとも、人としての在り方を守りたい、と思っている限りは。
……まぁそれはそれとして、足がバーニヤになる辺り響としての要素もしっかり引き継いでいる、すなわちビーストⅢL/iとしての権能も使える可能性が高い、というところについては報告させて貰うが。
「なんでッスか?!」
「いえ、全く無害だと思わせておくのは、それはそれで問題でしょう?」
今はそれで良いかもしれないが、いずれ彼等がもっと成長した時──自身がモンスターである、という事実がもっと大きくのし掛かってくる可能性は零ではない。
その時に、無防備に彼らの前で隙を晒すものがいれば──魔が差す、なんてことはあるかもしれない。
無論、送り狼に悪い点がない、なんてことを言うつもりはないが──同時に、触れる側が気を付ければ防げる事故であるのならば、そこに被害者側の罪がないとも私は思わない。
そういう意味で、互いに気を付ける余地を設けておくのは、決して間違いではないだろう。
「……なんというか、過保護ッスね?」
「これでも師匠ですので。弟子にある程度目を掛けるのは、普通のことでしょう?」
再度、呆れたような笑みを浮かべるクモコさんに笑い掛け、私はマシュの元へと歩き始めるのだった。
「──姿は変わったように見えて、あのお二方の根幹は変わっていない、ですか?」
「そうそう。元がモンスター種である、ってとこは変わってないのよ」
必要性もなくなったため、キリアモードからキーアの姿に戻った私は、あの二人と別れ再び食堂に戻ってきていた。
時刻はもう夕方、周囲には夕食を食べようと集まってきた人々で埋まっており、私たちの会話はその喧騒に阻まれ外には漏れていない。
それを認識しつつ、マシュからの疑問を片付けている私なのであった。
で、彼女の疑問と言うのが、結局先程までのあれこれはなんだったのか、ということ。
無論、二人の成長と危険性の確認、というのは間違いではないのだが……改めて自覚を促した、という面も少なくはない。
「あの二人は、出来上がったものの
「例え姿形が変わろうと、スタート地点は変化しない……と?」
「そうそう」
私たち『逆憑依』は、基本的に出来上がったものを模倣している。言い方を変えれば、原作においてある程度進んだ姿を取っている、というべきか。
知識や経験のフィードバックもあり、原作が未完のモノであれば最新のそれに追い付くようになる、ということもあって、基本的には現在進行形のもの、と考える方がいい。
だがあの二人は──誕生の経緯が特殊なクモコさんは別として、リムル君の方は明確に最初の姿の模倣、という形になっている。
知識のフィードバック、という点では他の『逆憑依』と大差ないように見えるが──その実、精神の変容を迎えていない、という時点でかなり別物である。
作中で明確に
今までは選ばなかったような選択肢も、例えば『死んでも蘇らせることができるから』みたいな理由から選べるようになったりするわけである。
無論、これらの精神の変容は、別になろう系のキャラクターに限った変化ではないが……到達点が神、という点を見れば、そう多い事例でもない。
「……なるほど。インフレですね?」
「大体なろう系って終わらないからね。……結果として敵味方がインフレし続けるんだよねぇ」
なろう系のキャラクターだけ、殊更にその部分を気にされるのは──結局のところ、彼等がほぼ例外なく神に到達してしまうため。
今ある自分を捨ててしまう可能性が、非常に高いためである。
無論、彼等本人にそのつもりは一切ないわけだが──できることが変わってしまっていて、判断基準も違うのであれば両者が別物、とするには十分なわけで。
そういう意味で、なろう系のキャラ自体が危険物である、という考え方は間違いではない。再現度を高めることによって、唐突に別人に変化する可能性があるということなのだから。
「ただまぁ、あの二人に関してはそれ以外にも問題がある、ってところが大きくてねぇ」
「それが、元がモンスターである……というところにあると?」
「そうそう。……まぁ、本当に獣であったわけでもないから、想定しているものよりはまだマシだとは思うけど」
ただ、あの二人にはそれ以上に大きい問題として──元がモンスターである、という部分が存在する。
人が転生し、モンスターとなり。作中で成長して、やがて神になる──。
言うなれば、あの二人だけ変化の可能性がさらに一つ多いのだ。最初の転生、という部分に着目すれば。
転生して、他者の殺害に対し忌避感が薄れる──というのは、よくある話である。
知識や知恵があるのに、その部分の忌避が薄れてしまうというのは──別物になった、という風に考えてしまってもおかしくはない。
ゆえに、それらが起こった部分は別人への変容、という風に受け取っていいことになり。──理由があれど、それを選べるようになった二人は、やはり既に変化してしまっている、と述べてもおかしくはない。
いやまぁ、厳密なことを言えば、クモコさんはちょっと違うのだが……細かく見れば彼女は更に追加でもう一回変容しているわけでもあるので、問題点としては更に広がっている、という風に受け取ってもいいかもしれない。
ともあれ、精神の変容のきっかけとなるものが複数ある彼等は、他のものに比べてふとした瞬間にそれに引っ張られる、という可能性が強い存在である、という風に見ることができる。
成長がそもそも以前の自分からの脱却、という性質を持つものである以上、彼等はそれに深く影響されやすいのだ、と言うべきか。
「体に引っ張られる、という風に言ってもいいかもしれないわね。人の姿を求めるのも、ある意味では自己の変容を厭っているから、なんて風に考察できるかもしれないけど……まぁ、今回は別件かな」
獣には獣の心が宿る、というべきか。
獣の生活の中で、人の心の在り方は自身を苦しめるだけ、という風にも言えるかもしれない。
ともあれ、存在の根幹がモンスターであるのならば、思考がモンスターのものに寄りやすい、というのはそう間違った考え方でもないだろう。
ゆえに、あの二人には一層の自制心が求められる、そしてその自制心を揺らさぬためにも、周囲にもある程度の気遣いが必要になる……そういうことを、二人に自覚させるためのもの、と言う面も強いのであったと、私はマシュに言い聞かせるのだった。