なりきり板より愛を込めて~逆憑依されたので頑張って生きようと思います~ 作:アークフィア
ぽいぽいっと荷物をスキマに投げていくこと暫し。
現在の部屋の中は綺麗サッパリなんにもなくなって、所々のちょっとした傷が目立つな……くらいの状況。
はるかさんが居ないのなら補修も併せてやっておきたいところなのだけど、生憎彼女の前で下手な事をするわけにもいかないのでスルー。
……まぁ、補修費はお上持ちらしいので、放って置いても特に問題がないのは救いだろうか。
「というか、なんで壁に穴とか開いてるの?」
「あ、あはは……ちょっと、運動してて」
まぁ、シャドーボクシングでもしてたのか、ポスターの裏にこぶし大の穴が隠されていたりしたのはちょっと眼を疑ったけど。
……サンドバック置いてあるんだから、ちゃんとそっちを殴りなさいよ……。
「キリトちゃんを責めないであげて下さい、思春期にはよくあることですよ?」
「ぐふっ」
「……追撃してどうするんですか」
「え?……えっ、あっ!?ごめんねキリトちゃん!」
「は、ははは……だい、大丈夫です……」
中の人が何歳なのかは知らないけれど、
横合いから突然トラックに轢かれたかのように、沈痛な面持ちで笑みを浮かべるキリトちゃんと、それを見て慌てるはるかさん。
……姉モードが抜けきってないですね。冷静になった時が楽しみですはい。
まぁ、部屋の話は置いといて。
必要な荷物はキリトちゃんの部屋(予定)に全部スキマ郵送済、このままキリトちゃんもスキマで送れれば楽なのだけど……。
『んー、とりあえず一緒に連れてってあげてくれないかしら?』
「別に構いませんが、理由をお聞きしても?」
スキマ向こうのゆかりんは思案顔。
キリトちゃんを同行者として、次の場所に向かって欲しいとの事だった。
……費用とかは全部経費なんでそこは問題ないけれど、なんでまた彼女を同行させるなんて話になるのだろう?
という事を聞くと、突然脳裏に言葉が浮かんできた。
……これはまさか!
(ファミチキ下さい)*1
(こいつ直接脳内に……って違うわよ!私から話し掛けてるんだからこっちが聞く方……でもなくて!)
特に捻りもなく念話だった。
……ふむ、表面上なんでもないように振る舞いつつ、脳内会話で事情を話し合うわけじゃな?
(毎回思うんだけど、脳内会話しつつ素でもちゃんと喋れって、結構無茶苦茶言ってない?)
「では紫様、彼女を連れて次の現場に向かいますね」
(やれてるじゃないの貴方?……一つははるかちゃんの行動監視の為よ、一応彼女、向こう派閥の人の筈だし)
『はいお願いね。着いたらまた一報頂戴な』
(ちくわ大明神)
「『誰だ今の』」*2
「僕だ!」
「ブルーノ、お前だったのか!*3……ってホントにブルーノちゃんだっ!?」
「ゴンも居るよ」
「ゴン、お前だったのか……毎日お供え物をして……って違う!それ恐竜の方……っていうかなんで居るの!?」
脳内会話しつつ普通の会話を進めるのって結構労力使うよね、みたいな事を脳内で言い合っていたら、唐突に脳裏にひらめくちくわの影。
お決まりと言えばお決まりな謎の横やりに、思わずゆかりんと口を揃えて疑問を呈すれば、何故か玄関をバーンっ!と開いて青髪で結構背の高い青年が現れた。*4
まさかのブルーノちゃんの登場に困惑していると、お前だったのか繋がりで狐のごん*5を……出すと見せ掛けて、何故か恐竜の子供みたいな不思議生物の方のゴンをお出しされてしまった。*6
怒涛過ぎる一連の流れにはるかさんがぽかん、としてしまっている。
いやまぁ、気持ちはわかるよ?突拍子もないもんね、今の流れ……。
『で、キリトちゃんの同行の理由が彼等よ。……キリトちゃんの知り合いに何人か憑依者が居るから、彼女の案内のもとしっかりコンタクトしてきて頂戴』
「つまりキリトちゃんはチーム・サティスファクションのリーダー……?」*7
「なんでそうなる?!」
どうにもキリトちゃんを中心に、なりきりのコミュニティがあったみたいだ。
なるほど一網打尽、キリトちゃんを姫扱いすればいいんだな?
……なんて事を言ったら「ちーがーうー!」と否定されてしまった。
えー?原作のキリトさん自分の容姿を有効活用してたじゃないですかー?
「俺はそんな事しないって!」
「えー、ほんとにござるかー?」
「やらないって!!……いや、その、ちょっとこの姿かわいいなーとかは思ったけど」
「堕ちたな……」
「堕ちてるねぇ。だってほらこれ、このあいだみんなで集まった時に、キリトがしてた格好」
「ばっ、ブルーノなんてものを……っ!?」
ふーむ、私なんかよりよっぽどTS娘として楽しんでおるなこの人?
そんな事を思う私が見ているのは、ブルーノちゃんのスマホに映し出された、ノリノリでふりふりなアイドル服を着こなして、上機嫌で激唱*8していると思しきキリトちゃんの写真であった──。
「ごまかしようがない位に、女の子を全力で楽しんでますねキリトちゃん」
「うわぁぁぁぁぁぁ、いっそ殺してくれぇぇぇぇぇぇぇ………」
「はいはい、いいから次行きますよー」
そもそもの話、GGOキリトの性転換なんてニッチなものをやってたキリトちゃんが悪いので、そこに関してはご愁傷さまとしか言いようがない。
まぁでも、可愛い女の子になったら着飾ってみたりとかしたくなるのは、男として当然の感覚なんで気にしないでいいんやで(?)
「フォローの仕方が雑ぅ……」
「悪いなキリトちゃん、このフォロー一人用なんだ」*9
「三人分ですらない……だって……?」
わざとらしく驚愕してくれるブルーノちゃんにちょっと感謝しつつ、次なる目的地に向かう私達。
──北海道の雄大な大地を贅沢にタクシーを使って移動する私達は、周囲からどう見えているのだろう?
……ゴンに関しては凄まじく目立つ(上に、わりとトラブルメーカー)のでサクッとスキマ送りしたが、ブルーノちゃんは一緒に行くと駄々を捏ねたので現在同行中。
そもそもの話ちくわ大明神してたのが彼なので、端から着いてくる気満々だったのだろうけど。
それを踏まえてなお、だ。……彼の容姿が凄い目立つ。
ナチュラルに青い髪なんて珍しすぎるので、その高身長も相まってすっごい目立つのだ。……まぁ目立つと言っても、幸いにして単なるコスプレだと思われているわけなのだが。
あと、そうしてブルーノちゃんが目を引いた後に、近くに居るキリトちゃんが目に入るので、彼女もわりと目立ってしまっている。
こっちは単純に可愛いから……みたいな感じが強いようで。
時折写真を頼まれては陰キャっぽい断り方をして、それが逆に可愛いと言われて真っ赤になってブルーノちゃんの背後に隠れ、その行動にまた可愛いと言われる……みたいな、ある意味負のループに陥っていたのだった。
「そうして見兼ねて止めようとした結果があれだよ、笑えよベジータ」*10
「あれよあれよという間に囲まれちゃってましたね……」
このまま囲まれてちゃ堪ったもんじゃねぇ、って感じで私が止めに入ったのだが、そもそも私の姿自体が大概コスプレめいて居たため、結果として並んで写真を撮られるハメになったりしたわけで……。
最終的に、当初はお安く電車やバスで移動の予定だったのが、全行程タクシー移動になってしまった。
……一応レンタカーを借りることも考慮はしたのだが、免許持ちが私かブルーノちゃんの二択だったので諦めた。
ブルーノちゃんは目立つアンドメカオタクだから進めそうにないという理由で、私の場合は……うん。
「短期間の移動中に、一体何回警察に補導されかかってるねんって話ですよ……」
「三回目くらいからか、免許出すのも手慣れた感じになってたなキーア」
ようやく調子の戻ったキリトちゃんの言う通り。
ちょっとコンビニに立ち寄れば、出入り口でお巡りさんに呼び止められ。
レンタカーを借りようとすれば、免許が本物かどうか確認のために警察が呼ばれ。
バスに乗ろうとすれば、たまたま近くを通ったらしい、自転車に乗った制服警官に呼び止められ。
……お昼前、かつ平日というロケーションが祟ったのか、異様なほど警察に呼び止められる事態になっていたのだ。
このまま私が車なんて運転してたら、ろくに移動もできないままに日が暮れるわ!
……という感じで、お国には悪いのだけどタクシー移動である。メーターが怖いことになってるけど気にしない、気にしないぞぉ……!
「すみません、私の方で手配できたら良かったんですけど……」
「人手が足りないんでしたっけ?じゃあ仕方ないですよ、
「うう……キリトちゃんの優しさが痛い……」
一つ前の席に座ったはるかさんと、キリトちゃんが会話しているのをなんとも言えない表情で見る私と、「お姉ちゃん……?」みたいな感じで両者に視線を向けて困惑するブルーノちゃん。
……うん、これ自然に解けないやつだったりする……?みたいにちょっと不安になりつつ、目的地である小樽市に到着。
修学旅行とかで目的地に含まれている事が多いため、わりと道外の人にも知名度があるような気がするここで、人通りの少ない方に向かって移動する私達。
今から接触しようとしている相手は、ちょっと前から連絡が取れなくなっていたのだとか。
それがついさっき、地元のニュースで写真を撮られまくっているキリトちゃんを見て、急に連絡をしてきたのだという。
「で、指定された場所に向かってた筈なんだけど……どこよここ?」
スマホの地図を頼りに、指定された場所まで移動していたはずなのだけれど。
……何故か途中からスマホの電波が入らなくなるわ、キリトちゃん以外の同行者と逸れるわ、なんだか微妙に踏んだり蹴ったりな私である。
そもそも、さっきからキリトちゃんの方が俯いちゃって、会話もできずにちょっと気まずい空気になってるし。
どうしたものかなぁなんて思いつつ、彼女の手を引き進む私。
……なんで引き返したりもせずに進んでるのかって?いやね?
「……鐘の音、ねぇ」
──纏わり付いてくるような、重苦しい鐘の音。
意識と心を
それと、歩き続けた先に姿を見せた、寂れた教会。
「止めなきゃ、鐘を止めなきゃ」
「……うーむ」
傍らのキリトちゃんに耳を近付ければ、明らかに正気ではない状態。
ぶつぶつと同じ事を呟き、息も荒くなっているその状態は、見ようによっては熱に浮かされているようにも思えて。
一つ、頭を掻く。
この寂れた教会が──十字架もマリアも救世主も居ない教会が、私の想像通りのモノだというのなら。
まぁ、こうなった原因がこの中に居るのは間違いないわけで。
だったら突き進む他なし、というやつである。……正直マジでアレが居るの?感が酷いんだけども。
勘違いだと嬉しいなぁなんて呟いて、外観よりもなお寂れた教会内を進む。
──そして、半ば予想通りのものに出会った。
『………お前の……夢は………なんへぶぅっ!?』
「アウトじゃボケェっ!!」
本体であるマントごと「
しかしアンブッシュはオジギ前に一度は認められている行為ゆえ許せ、サスケ……。
で、彼をふっ飛ばした結果。
周囲の寂れた教会も、どう考えても精神汚染してきてた鐘の音も消え、キリトちゃんの方も正気を取り戻したように目をパチクリとさせ、周囲を見渡していた。
「乱暴だなぁ君は」
「……あん?」
とりあえず危険な状態からは脱したかなー、なんて思いつつ周囲を見渡す私の耳朶を震わす、先の老人の声ではない、少年のもののような声。
……なんか、こっちは聞いたことある声だな?なんて風にちょっと悪寒を覚えた私が、地面に落ちたマントに視線を向ければ。
「あんなモノ挨拶みたいなモノだろう?君達人間はいつもそうだ」
「…………なんで?」
そこに居たのは。
魔法少女の契約を迫る
「……キャタピー?」*13
「そうとも。ボクと契約して、ポケモンマスターになってよ!」
トキワの森などに生息している、虫ポケモンのうちの一匹であった。